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  • サステナブル・ブランド国際会議2025
  • 公開日:2025.04.22
  • 最終更新日: 2025.04.21
GXを通し、官民一体で経済成長につながるイノベーションを
  • 廣末 智子

エネルギーの安定供給と脱炭素社会、そして経済成長の同時実現を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)の推進に向け、国がいよいよ、その重点投資に力を入れ始めている。「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」のプレナリーでは、「GX2040ビジョンが描く未来の社会 実現に向けたイノベーション」と題したセッションが行われ、GXをきっかけに、官民が一体となってさまざまな分野でイノベーションを起こしていくために、今どんな視点が求められているのかを、政府と企業、双方の登壇者と会場が共有した。

Day2 プレナリー

ファシリテーター
田中信康・SB国際会議ESGプロデューサー

パネリスト
植田一全・経済産業省 資源エネルギー庁 総務課 需給政策室長
金子幸広・パナソニックホールディングス GX本部 グリーンイノベーションセンター ペロブスカイトPV開発部 部長
舘野剛介・花王 ESG活動推進部 環境推進マネジメント担当部長

セッションは田中信康・SB国際会議ESGプロデューサーがファシリテーターを務め、政府の考えを説明する立場から経済産業省 資源エネルギー庁 総務課 需給政策室長の植田一全氏が、企業の最前線で対応を進める立場から、パナソニックホールディングス GX本部 グリーンイノベーションセンター ペロブスカイトPV開発部 部長の金子幸広氏と、花王ESG活動推進部 環境推進マネジメント担当部長の舘野剛介氏の3氏が登壇した。

タイトルにある「GX2040ビジョン」は、日本政府が今年2月、GX型の産業構造と経済成長の両立を目指して閣議決定した。国際情勢の緊迫化やDXの進展による電力需要の増加などを背景に、将来の見通しに対する不確実性が高まる中、GXに向けた投資の予見可能性を高めることを目的に、官民が一緒になって取り組むべき、中長期的な方向性を示したものだ。

社会変革には不可逆的なイノベーションが必須

植田一全氏

経産省の植田氏は、このGX2040ビジョンについて、政府が2050年のネットゼロ達成に向けて同時に打ち出した「第7次エネルギー基本計画」と「地球温暖化対策計画」の方針を踏まえ、「各産業ごとのアプローチを明確に示したアクションプランだ」と説明。具体的に国はこのGX2040ビジョンを通して、今後10年間で20兆円規模の「GX経済移行債」を発行する形で先行投資を行い、脱炭素や循環型社会の構築に向けたさまざまな技術開発を促し、官民合わせて150兆円規模の投資を呼び込むことを思い描く。2026年度からは脱炭素を前進させるための制度上の切り札といわれる「排出量取引制度」も本格稼働させ、GX投資の前倒しを促進するための支援と制度を一体型で推進していく構えだ。

植田氏は、こうした国の制度や予算措置を「先例のない仕組みだ」とした上で、「不可逆的なイノベーションがないことには、社会全体を変革していくことにはつながらない。そうしたイノベーションを起こすための、種となるお金を一部、国費として出していく」と述べ、「分野を超えて、イノベーションが実装されていくこと、そして、その新しい技術が社会に浸透していくことの両方が非常に重要だ」と自身の思いを語った。

窓や壁を使って発電できる世界をつくりたい

金子幸広氏

一方、GXを加速させていく流れの中で、再エネの観点から大きな期待がかかるのが、ペロブスカイト太陽電池だ。パナソニックホールディングスではそのガラス型タイプの開発に力を入れており、金子氏は「窓や壁を使って発電できる世界をつくりたい。エネルギーの需要地である都市部でいかにエネルギーをつくっていくかがポイントだ」と狙いを話す。

金子氏によると、ペロブスカイト太陽電池は有機材料と無機材料が合わさったもので、液体から原料をつくることができる、つまりは「何にでも塗れる」特徴がある。これを生かし、同社が開発するガラス型は、「窓ガラスという建材そのものを太陽電池化してほしい」という取引先からの要望を形にしたもので、「建築物と調和しながら、美しくオンサイト発電ができる」という。

金子氏は、「ガラスの建造物が増えている中で、ガラス全部を太陽電池化すれば、どのぐらいの創エネ、省エネにつなげられるだろうか」と、同社のイノベーションによって起こる少し先の未来に思いをはせながら、「企業の責任として、国の野心的な目標に寄与していきたい」と述べ、カーボンニュートラル社会の実現に向けた企業の責任を強調した。

ステークホルダーと共にGXの達成を

舘野剛介氏

次に、花王の舘野氏は、同社が、一般によく知られる台所用洗剤や洗濯用洗剤、シャンプーや化粧品などの商品に加え、産業界のニーズに対応した原料をBtoBで供給するケミカル事業も展開していることを紹介。その上で、同社の製品のライフサイクルでGHGの排出が最も多いのは「原材料調達」と「使用」の39%であるのに対し、スコープ1、2に当たる「開発/生産/販売」は7%、「輸送」は2%と、少なくなってきていることを説明した。

スコープ1、2の排出量削減に関しては、国内の工場の電力を全て再エネに切り替えるなど購入電力の再エネ化や低炭素設備の早期導入によるほか、「草の根活動」と位置付ける、社員一人ひとりの、もったいない、ほっとけないという精神による取り組みの力が大きいという。

さらに、現状ではGHGの排出が多い「原材料調達」と「使用」に関しても、ステークホルダーと共に、削減に向けた努力を進める。原材料に関しては、サプライヤーとも協働しながらよりサステナブルな洗剤を自社で開発する姿勢を重視。使用に関しては、節水や節電の効果を実感できる商品開発に力を入れているといい、舘野氏は、その実例として、より泡切れの良い洗剤と、従来品との違いを動画で示しながら、「泡切れが良いとすすぎのお湯が少なくて済む。これがGXにつながることを、生活者の皆さんに商品を使っていただきながら実感していただけたら。商品開発を通じて一緒にGXを達成していきたい」と力を込めた。

セッションは、そもそもこの約30年間というもの、GDPも停滞を続けている日本で、「GX2040ビジョン」が企業にとっても国にとっても「大きなチャレンジングの場」となるのではないか、という期待を込めて進められた。ファシリテーターの田中氏は、「野心的な目標を掲げる政府に、われわれ企業は、人の育成も含めて、乗っかっていくほかはない。そうでないと、強い日本をつくっていくということが不可能になってしまう危機感も感じる」とした上で、「政府と一体となって、日本で新しいエネルギー産業をつくっていけるところまでもっていかなければ」と力強く決意を語り、セッションを締めくくった。

written by

廣末 智子(ひろすえ・ともこ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局  デスク・記者

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。

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