
欧州では2020年に発表された循環型経済行動計画の下、資源循環や持続可能な製品設計などが企業に求められている。日本でも、資源の枯渇や脱炭素の観点からサーキュラーエコノミー(以下、CE)の重要性が明らかになり、政府も法整備を急いでいる。本セッションでは、CEを実践する2社に加え、実際に政策立案を進める経済産業省の担当者が登壇し、CE導入の過程や、そのメリットと課題などを議論した。その中で、経済性の課題やユーザー便益とCEの両立、パートナーシップの重要性などが浮かび上がった。
Day1 ブレイクアウト ファシリテーター 石山アンジュ・一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事 パネリスト 田中将吾・ 経済産業省 GXグループ 資源循環経済課 課長 村岡秀俊・アシックス サーキュラーエコノミー推進部 部長 久保裕丈・クラス 代表取締役社長 |
CE市場を成長させる3つの支援策を発表

「日本は資源小国。資源が入ってこないとモノを作ることも、生活することもできないが、その状況は悪化している」と、経産省の田中将吾氏はまず危機感を強調した。特に金属類は世界的に偏在しており、枯渇が見え始め、価格も急騰している。そのため、日本にとって資源循環はますます重要な課題となっており、脱炭素の視点や世界的な潮流を踏まえると、CEがビジネスチャンスになり得ると指摘。「日本がグローバルにビジネスを展開するためには、この動きに付いていく必要がある」と田中氏は述べた。
この状況を踏まえて田中氏は、CE市場を成長させるための3つの政策支援を計画していることを発表した。ひとつは、産官学の連携、2つ目は予算的な支援、3つ目は法的な整備だ。産官学の連携では、CEに積極的に取り組む企業、自治体、大学などの連携を促進する団体「サーキュラーパートナーズ」を2023年に立ち上げ、ロードマップ作成やDX支援などを議論している。予算的支援では、経産省が今後3年間で総額100億円、環境省が廃棄物の回収・再資源化を担う静脈側に200億円を用意し、合計300億円の支援を計画。法整備では、再生材を供給するサプライチェーンをつくるために、再生材利用の義務化や、再資源化しやすい製品設計の認定、さらには廃棄物処理法の規制緩和などを検討している。
田中氏はこの5年間でCEへの潮流が大きく変化してきたと話し、他の登壇者もそれに同意した。
資源化しやすい製品設計のサーキュラーモデルを開発

再生材の調達競争が始まっているビジネス界では、調達にも知恵や技術が求められている。アシックスは、2023年にトップダウンでサーキュラーエコノミー推進部を設け、戦略的にCEを推進する製品づくりを進めている。CE推進部の村岡秀俊氏は代表的な製品例として、再資源化しやすいシューズ「NIMBUS MIRAI」と、欧州圏内での地産地消を特徴とするサーキュラーモデルのシューズ「NEOCURVE」を紹介した。
現在、世界では年間239億足の靴が生産され、そのほとんどが廃棄されている現実を踏まえ「NIMBUS MIRAI」は、製品設計の段階からリサイクルしやすい構造を目指した。具体的には、アッパーとクッションのソールを熱で分離できるようにし、アッパーの素材を単一素材にすることで高品質なケミカルリサイクルを可能にしている。
一方、「NEOCURVE」は欧州圏内の廃棄シューズを回収し、マテリアルリサイクルを施した上で、オランダの有名デザイナーがデザインし、欧州市場で販売している。最近では米国のトランプ政権の影響からか、「ethically produced」という地産地消の動きが強まっているという。村岡氏は「現在は重量ベースで15%程度の再生材使用にとどまっているが、さらなる研究開発を進めていく」と話した。
ユーザー便益とサステナビリティの両立が不可欠

続いて登壇したクラスの久保裕丈氏は「CE事業には高いユーザー便益とサステナビリティの両立が不可欠だ」と話す。クラスは、家具や家電など高額な耐久消費財を、少ない経済的負担で利用できるレンタルサブスクリプションサービスだ。2018年に事業を開始し、2024年3月時点で約8万5000点の家具・家電を再利用し、廃棄を回避してきた。
ユーザーに対しては、「単純に購入するよりも自由度の高い利便性を提供しつつ、キャッシュの負担も抑える」メリットを提示する。一方で、製品の需要量や季節ごとのニーズを分析し、発注の自動化や倉庫管理のDX化を推進。久保氏は、こうした技術が事業のサステナビリティ向上に寄与していると分析する。
また、ファシリテーターの石山アンジュ氏から、「リユース市場の拡大により新製品の販売が減少する懸念があるが、経済成長とどのように両立するのか」と問われると、久保氏は中古車市場を例に挙げ、循環型エコシステムが新たな商品販売を促進する可能性や、利益のプロフィットシェアを通じて、長期的な利益を確保する仕組みについて説明した。
連携とスケールアップでコストの壁を超える

3氏のプレゼンテーションを受け、石山氏は「企業が具体的にCEの対応を進めていく上でどのような課題があるのか」と問いかけた。
アシックスの村岡氏は「原価が既存の製品に比べて高くなる」点を指摘した。しかし、リサイクルポリエステルの例を挙げ、「スケールアップすることで原料の価格が下がる可能性がある」との見解も合わせて示した。さらに、「さまざまな技術やリソースを持つプレイヤーたちと連携していくことが最適な解決策ではないか」と提案。これに対して経産省の田中氏は、同省が推進する「サーキュラーパートナーズ」で企業間の連携を支援できると説明。加えて、「情報を交換するための信頼性のあるプラットフォームの構築と、それをトレースできる仕組みが必要だ」との考えを述べた。
クラスの久保氏も「一次流通を担う企業と、二次流通を担うシェアリングやサブスクリプション企業との連携が増えている」と指摘。 今後、CEに関わる技術や調達がネットワーク連携や素材のスケールアップによって深化し、コストが下がることで、CEのさらなる拡大につながる可能性が、ディスカッションを通じて明らかになった。
箕輪 弥生 (みのわ・やよい)
環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。 著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。 http://gogreen.hippy.jp/