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  • 公開日:2025.04.09
  • 最終更新日: 2025.04.10
政治情勢が変化しても持続可能性に向けた歩みは止めない――米国の3つのサステナビリティ調査から明らかになったCFOの責務

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Image: Sergei Tokmakov

米国の政権交代によりESGや持続可能性イニシアチブへの風当たりが強くなっている。しかし、米国の大手コンサルティング会社3社が企業幹部を対象に実施した調査結果によれば、逆風の中でも企業経営や財務戦略に関与するCFOは持続可能性への取り組みにまい進する姿勢を崩していないようだ。(翻訳・編集=遠藤康子)

米国のトランプ新政権は、ESGや気候関連アクションに言及することすら許さないという姿勢を見せている。にもかかわらず、多種多様な業界や地域の最高財務責任者(CFO)ら企業経営幹部を対象にした新たな調査では、企業が少なくとも当面の間は、適切な経営を断固推進していこうとしていることが明らかになった。

BDO調査:サステナビリティ経営は業績にプラスである

BDOの調査結果を日本語に訳し、編集局が作成

大手コンサルティング会社BDOは、米国に拠点を置くライフサイエンス、ヘルスケア、製造、小売り、テクノロジー企業のCFO500人を対象に、持続可能性に向けた見通しについて調査を実施した。その結果をまとめた「2025 CFO Sustainability Outlook Survey」では、持続可能性を中核戦略に組み込んでいる企業は、同業他社よりも増収と採算性の向上を見込んでいる確率が高いことが明らかになった。

調査に応じたCFOによると、企業として持続可能性に取り組むことで、増収や資金調達機会の拡大といった測定可能な成果が得られているようだ。このような目に見えるメリットがあることで、持続可能性に向けた投資を巡る企業の見方が改められ、議論の中身が「投資すべきか否か」ではなく「いくら投資すべきか」へと変わりつつある。

注目すべき結果は、2025年に増収を見込んでいる割合が、持続可能性をビジネス戦略に組み込んでいる企業は91%だったのに対して、組み込んでいない企業は74%にとどまっていたことだ。

「持続可能なビジネスの方がよりたくましく、ステークホルダーの期待に素早く応じ、経済的な逆風にも屈しません」。BDOグローバルのSustainability Services & Solutionsに所属するカレン・ボーム氏はそう話す。「持続可能性を二の次にせず中核戦略に組み込んだ企業は、強力な武器を手にします。革新的な成長に向けた道が開かれると同時に、市場環境の変化への守りを固められるようになるのです」

サステナビリティ戦略立案時にCFOが考慮すべきポイント

持続可能性への取り組みで多くのメリットを得られることを、組織は理解している。とはいえ、価値をフルに享受するためには、焦点を絞り込んだサステナビリティ戦略を立て、それを長期的かつ大局的な視点に立って組み込んでいかなくてはならない。持続可能性への投資で十分な見返りを得るためにCFOが考慮すべき事柄として、BDOは次の点を挙げている。

業界特有の機会を特定する。持続可能性への取り組みで得られるメリットはセクターによって実にさまざまである。CFOは同業他社との比較基準を設け、自社に最も関連性があり達成可能な価値を見極めてそれを獲得できるよう、焦点を絞り込んだ取り組みを策定しなくてはならない。

短期的/長期的な優先事項のバランスを図る。的確な目標を定めたサステナビリティ戦略であれば、業務が直ちに改善されると同時に、より広範の変革に向けた土台が築かれる。短期的成果に加え、長期的な財務目標と非財務目標の達成を目指して体系的に進んでいくためのロードマップを作成すべきである。

リスクの中に機会を見出す。ESG関連のリスクは他のビジネスリスクと相互に結びついており、効率性の悪さや欠陥を洗い出し、イノベーションにつなげられる可能性がある。マテリアリティ評価を活用して、優先すべき主要なリスクはもちろんのこと、戦略的な成長機会を突き止めるべきである。

「2025年に入って明らかになったように、CFOは変化に順応しているのはもちろん、変化を積極的に受け入れて自社の対応を変えています」と話すのは、BDO米国の最高経営責任者(CEO)ウェイン・バーソン氏だ。「人工知能(AI)や人材開発、持続可能な事業運営の分野では大胆な動きが見られますが、それは市場圧力への単なる反応ではなく、リーダーの経営手法を改良し再定義する戦略的な動きです。成長に向けた新たな道筋を描くために、イノベーションを受け入れ、何よりもレジリエンスを追求しているのです」

A.T.カーニー調査:従来の投資より持続可能性に向けた取り組みの方が成果大

Image credit: Vitaly Gariev

BDOと同様の結果は、A.T.カーニーが2025年2月に発表した調査でも示された。500人を超えるCFOを対象にしたこの調査では、69%が「従来の投資より持続可能性イニシアチブの方が大きな成果を見込める」と回答している。

A.T.カーニーは気候メディアプラットフォーム「We Don’t Have Time」と共同で、インド、アラブ首長国連邦(UAE)、英国、米国の企業500社のCFOを対象に、持続可能性を自社戦略にどう組み込んでいるのかをたずねる調査を実施。報告書「Staying the Course: Chief Financial Officers and the Green Transition」では、地政学的な不安定さと経済的圧力が増しているにもかかわらず、CFOは持続可能性への取り組みで長期的価値と収益性が見込めると自信を持っていることが明らかになった。こうした楽観的な見方に加え、持続可能性への純投資額を2025年に大幅に増やすつもりだと回答したCFOは92%に上っている。

リスクと機会の両方に対する意識が向上

A.T.カーニーの調査では、CFOの93%が「持続可能性ならびに気候変動に投資するのは妥当だ」と答えている。もっとも、こうした投資の裏に隠されたさまざまな動機も浮き彫りになっており、CFOの61%が、持続可能性への投資についてはいまだに潜在的な長期的価値ではなくコスト重視のレンズを通して見ていることがわかった。

一方で明るい面もあり、何も行動を起こさなければ損失が生じることを認め、その度合いを測定していると回答したCFOは65%を占めた。つまり、気候変動と規制による罰則が招く長期的リスクはもちろん、グリーン移行に関連した機会についても、意識が高まっているというわけだ。

同調査ではまた、排出削減への取り組みで明確かつ短期的メリットをもたらす持続可能性に向けた投資をCFOが重視していることが明らかになった。投資目的トップ3は以下のとおりだ。

1.持続可能な原材料の使用量を増やす。

2.持続可能なイノベーションとパートナーシップを推進する。

3.エネルギー管理と廃棄物削減を強化する。

従業員と投資家の意見を尊重

CFOは、自社の財務戦略と持続可能な慣行の足並みをそろえるよう求める従業員からのプレッシャーが強くなっていることを実感しているようだ。従業員向け退職基金の運用先選定時には持続可能性を考慮すると答えたCFOは71%を超えた。

調査結果によれば、CFOもまた、地球に恩恵があると同時に、価値主導型の投資家と従業員の共感を呼ぶ持続可能性への投資が重要であることを認識している。幅広い投資判断を行う際に持続可能性を考慮するようになったと答えたCFOは94%と、圧倒的な割合に上った。

A.T.カーニーのグローバル・サステナビリティ部門を率いるベス・ボビス氏はこう指摘する。「企業が持続可能性について検討する際、CFOの観点は見落とされがちですが、CFOの役割は極めて重要です。財務関連の権限を持つCFOは、ビジネス戦略に長期的インパクトを及ぼす特殊な立場にあります。実際、CFOが持続可能性に関与する方向へと踏み出していることが、当社の調査ではわかっています」

持続可能性への取り組みを担うCFOが増加

「ESG情報開示がCFOの責務となるケースが次第に増えています。しかし、CFOの役目は規制を確実に順守させることだけではありません。排出削減だけでなく、具体的な商業的価値を得られる投資を主導することもできます」

「財務責任者が組織内で持続可能性への取り組みを担うことが増えています。私たちの調査によれば、CFOにはそうした業務を担う意思が十分にあるようです」と話すのは、We Don’t Have Time の創設者でCEOのイングマ・レンズホッグ氏だ。「今年は英国政府がサステナビリティ開示基準(UK SRS)を発表する予定もあり、組織は自らの気候イニシアチブをどう測定しどう伝えるか、見直しを迫られるでしょう。そうした変化を乗り越えていく上で欠かせないのがCFOです。自社の環境インパクトを評価して開示し、財務報告にそれを追加していかなくてはなりませんから」

Workiva調査:統合報告書は競争上の強みになる

Image credit: Antoni Shkraba

一方、企業向けクラウドのプラットフォーム企業Workivaが広範な企業幹部を対象に調査を実施した結果、財務データと持続可能性データを統合する企業は競争力を強化できると考えている幹部が多いことがわかった。

Workivaは、世界各地の経営幹部と、財務、会計、持続可能性、内部監査、法務部門を担う副社長、機関投資家1600人を対象に調査を実施し、報告書「2025 Executive Benchmark」を取りまとめた。この報告書によると、サステナビリティ開示は2年以内にビジネスの強みとなると答えた企業幹部は97%に上った。また、サステナビリティ開示が財務業績を強化すると答えた機関投資家は96%だった。統合報告書は企業のレジリエンスと成長に不可欠だとみなされているのだ。

「今日のCEOが下す選択が未来のビジネスを形成していきます」。WorkivaのCEOジュリア・イスコウ氏はこう力説する。「確かな財務報告とサステナビリティ開示は、法令順守のためだけに行うわけではありません。リスクと費用対効果を改善し、投資家からの信頼感を強化するための戦略的アプローチなのです」

投資家も反応している。「市場を見ればわかります。それに、将来を見据えた企業はただ待たずに行動を起こし、科学的根拠のある目標を打ち立ててより確かな情報を開示すると約束しています」と話すのは、ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスのサステナブル・ビジネスセンター(CSB)創設者でセンター長のテンシー・ウィーラン氏だ。「そうした企業は、サステナビリティ開示と統合報告書が単なるリスク管理のためでなく競争上の強みであり、資本を引き寄せて長期的成功を推進できるということを理解しています」

Workivaの主な調査結果

・経営幹部の97%が「財務データと持続可能性データを盛り込んだ統合報告書は業績ギャップを見極めるのに役立ち、財務的な成長の機会を高める」と回答した。

85%が「政治情勢が変化しても気候関連の情報開示を進めていく」と回答した。

・投資家の92%が組織を効果的に評価するための基本要件としてデータの正確性を挙げた。一方、経営幹部の4分の1近くが「自社の財務データを全面的に信用することはできない」と回答した。

・機関投資家の93%が「財務と非財務の情報を統合した報告書を発表する企業に投資する可能性が高い」と回答した。

メキシコのセメント会社セメックスのCFOマーヘル・アルハファール氏は、「私が話をしたほかのCFOやCEOは、持続可能性はもはや無視できないものだと捉えています」と話す。「持続可能性の重要性が極めて高いのは、ビジネスの収益性に結びついているからです。私はCFOとして、データをどのように提供すれば投資家がそれを数値化・モデル化できるのか、模索しています」

これら3つの調査結果と、世界的リーダーの最近の動きを見る限り、市場が複雑化しているにもかかわらず、戦略的かつ財務的な価値が明らかであることから、意義ある持続可能性アクションに向けた企業幹部の真剣な取り組みはますます加速しているようだ。

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