• ワールドニュース
  • 公開日:2024.12.04
  • 最終更新日: 2025.03.27
将来のリスクは「もう目の前にある問題」――企業は変化に適応し計画的にレジリエンスを高めるべき

Image credit:Babcock Ranch

気候変動や地政学リスクなどによって社会全体の先行きが不透明になる中、企業やコミュニティのレジリエンス(強じん性)を高める取り組みに注目が集まっている。個別のリスクに対応するだけでなく、気候変動が進む世界に適応し、将来の課題に対応できる体制を整えることが、今後の繁栄のために欠かせない。米サステナブル・ブランズが10月に初開催した「レジリエンス・サミット」では、こうした活動の先駆者たちが、ビジネスにおける考え方や取り組み内容を共有した。本記事ではその一部を紹介する。(翻訳・編集=茂木澄花)

SB国際会議2024サンディエゴの最終日、「SBレジリエンス・サミット」が初めて開かれた。世界中の市場が脅威にさらされ、サプライチェーンが混乱し、社会不安が続く現在、将来にわたって事業を続けるためにレジリエンスは欠かせない要素となっている。参加したビジネス・リーダーたちは、未来を見据える必要性を再認識した。

ラファエル・ベンポラッド氏

「今起こっている変化を、人類史の一部として認識する必要があります」。司会を務めたBBMGの創業パートナーであるラファエル・ベンポラッド氏はこう述べた。「愛する人々に思いをはせ、その人たちが将来どうなるのかをよく考えないといけません。そうすれば、自ずと取り組みは次の段階に進むでしょう。それこそが、この仕事の意義であり、私たちがここに集まっている理由です」

ベンポラッド氏と、アース・ガーディアンのエクゼクティブ・ディレクターであるエミー・スコット氏は、以降の講演で扱う内容の背景情報として、最新の調査結果を紹介した。Z世代の80%が、過去1年の間に気候変動の影響をじかに感じたことがあり、30歳未満の44%は、気候危機を理由に子どもを持つことを望まないという。一方で、前向きなデータもある。80%の人が、健康的でサステナブルな暮らし方をしたいと回答したのだ。それにより生活の質が向上すると感じているからだ。

「私たちが扱っている問題は、未来の問題ではありません。もう目の前にある問題なのです」。ベンポラッド氏は声を強める。「みんな、うろたえています。『もう時間がない』『解決策が分からない』『選択肢はないようだ』『どうしたらいいか分からない』と言います。迷い、不安に感じているのです。企業は、魅力的かつ手の届く解決策を提示することで、社会や世界を変革する力になれます」

災害に強い通信サービスのために

午前中のメインステージに登壇した際のジェシカ・フィランテ・ファーリントン氏

気候変動に適応するという役割で先陣を切る企業に、電気通信事業大手のAT&Tがある。最初の登壇者は、同社でグローバル環境サステナビリティ部門のディレクターを務めるジェシカ・フィランテ・ファーリントン氏だ。個別具体的な気候リスク分析の結果をもとに、さまざまな社内機能やオペレーションにまたがる活動の優先順位を見直す取り組みについて説明した。

ファーリントン氏は、AT&Tが「適応」のために取り組んでいることは3つあると言う。気候関連の異常気象が事業に与える影響を考慮し、自社のインフラを守ること。屋外で働くことによる猛暑の影響緩和など、従業員のケア。そして、事業活動を行う地域コミュニティを支援することだ。

「レジリエンスの分野に強く心引かれています。というのも、自分が家族の中で果たしている役割に似ているからです」。ファーリントン氏は語る。「いつも課題を解決し、6歳と9歳の子どもの将来について考えています」。子どもたちにとってこれから必要なものを与え、困難を乗り越える自信を持てるよう準備を整える。これは、AT&Tが適応のために取り組んでいることでもあると彼女は言う。

2016年と2017年のハリケーン、「マリア」と「ハービー」は、AT&Tに大きな被害をもたらした。ネットワークとサービスを復旧するために巨額の費用がかかったのだ。しかしファーリントン氏は、このことが、社内が変わる起爆剤となったと捉えている。「このときやっと、社内の賛同を得ることができました。過去のデータからでは、これから何か起こるかを予想できなかったので、今後どんな変化が起ころうとしているのか把握する必要がありました。そしてレジリエントなネットワークとして独自の地位を築くチャンスを得たのです」

ファーリントン氏は自身の仕事における重要なポイントとして、ソフトウェアによる自動化を担当する部署を巻き込んだことを挙げた。その部署には、すでにシステムを全面的に改修するための資金が投じられていた。

「『ついでに、気候リスクのスコアに関するワイヤーフレームを追加してもらえませんか?』と頼み、彼らを担ぎ上げたのです。最高サステナビリティ責任者(CSO)と対面してもらい、CSOブログの題材として取り上げました。彼らが私たちの代弁者になってくれたのです」

不動産の気候リスクを把握するには

ショーン・ヘッシー氏

続いて登場したショーン・ヘッシー氏は、ファーリントン氏の論点の多くを裏付けるように、企業の不動産に対する運営リスクと財務リスクが高まっている理由、そして取るべき対策について語った。不動産サービス企業のJLLでESG/サステナビリティアドバイザリーの責任者を務める同氏は、行動しないことによって発生するコストなど、現実を示した。気候変動の影響でコストや保険料が上がり、営業活動に混乱が生じる。さらに、エネルギーと水のコストは上がり、規制強化によって企業が責任から逃れることも難しくなっている。

「実際のところ、気候変動の影響を受けない『気候ヘイブン』のような場所は存在しません」とヘッシー氏は言う。ノースカロライナ州のアシュビルなど、ほとんどの人が直感的には気候変動によるリスクが高いとは思わない都市でさえも、安全ではないことが証明されている。「未来を予測するにあたって、経験則や過去のデータに頼ることはできませんし、直感も当てになりません」

代わりにヘッシー氏は、複数の時間枠で複数のリスクを考慮する「インフォームド・気候リスク・アセスメント」を提唱する。この評価方法では、今後何が待ち受けているか、企業の不動産ポートフォリオがどの程度影響を受けるかについて、IPCCのシナリオプランニング(複数のシナリオに基づく計画策定)も利用しながらさらに正確な予想を描き出す。

気候リスクのシナリオプランニングにおいては、ハリケーンによる激甚な影響や、100日連続の猛暑日といった物理的なリスク以外も考慮すべきだと、ヘッシー氏は強調する。つまり、企業は移行リスクも考慮しなければならないということだ。例えば「政策や法規制がどのように営業活動に影響するか」「適切な行動を起こせなければ企業に対する世間の評価はどうなるか」などを検討すべきだという。

「気候リスクは多くの企業にとって死角です。所有する不動産の物理的なリスクに備える計画を整えている企業は、5社中1社しかありません。備えなければ、損をすることになります」

気候変動に適応するためには戦略的展望とバックキャスティングが重要

ジョン・イッツオ氏

続いて、パーパスの重要性を提唱するビジネスコンサルタントであり、経営層へのコーチングも行うジョン・イッツオ博士が登壇した。博士はシナリオプランニングが重要であることに賛成するとともに、バックキャスティングの重要性も強調した。バックキャスティングは、望ましい未来を構想し、そこに至る方法を逆算して取り組むビジネスプランニングの手法で、計画的にレジリエンスを実現するために重要なツールだ。バックキャスティングはビジネスにおいて決して珍しい手法ではない。しかし驚くことに、気候リスクを理解し、それに対応するという文脈においては、ビジネス文脈に比べて未だ十分に活用されていないという。

イッツオ博士は、戦略的展望とシステム思考の重要性を表現豊かに主張した。また、そうした考え方が、特に気候変動という状況において、人類が将来の困難を乗り越えるためにいかに役立つかを説明した。「未来を考えるにあたっては、リスクを回避できれば良いということではなく、望ましいシナリオに向けて積極的に取り組むべきだ」

博士の主張の核となる考え方に「社会システムは最終的に、自分たちが描いている最高のイメージに向かう」というものがある。博士はアメリカ独立宣言を例に挙げた。宣言が書かれた当初、米国はその理想を体現するには程遠い状況だった。奴隷制度がはびこり、女性の権利はなかった。それでも、宣言で述べられた自由と平等というビジョンは長年、米国が目指すべき姿を示す指針となってきた。

博士はその考えを「展望(foresight)」という概念へと展開する。「展望とは、単にリスクを予測することやシナリオプランニングをすることではなく『自分たちが描きたい未来のシナリオの中で、一番納得できるものは何か?』と問うことだ。頭の中に、明確に望ましい未来が描けていなければ、それを達成するための道を進むことも難しい」

博士は自身が携わった「展望」に関する仕事の事例を挙げた。その1つがゴールドマンサックスでの仕事だ。同社は発生可能性の低い事象を予測することで、2012年にマンハッタン南端部を冠水させた巨大ハリケーン「サンディ」に備えた。砂のうを積み上げ、発電機を屋上に運ぶといった対策を取ることでその影響を緩和したのだ。「ハリケーンの間、電力を確保できた数少ない建物のうちの1つとなりました。この事例から分かるのは、展望を持っていれば、比較的コストのかからない些細(ささい)な行動でも、実際に危機が訪れたときには有利に働き得るということです」

続いて博士は、今起こっている気候変動に対して取り得る3種類の対応を概説した。

【修復する】
炭素の排出量を減らし、自然の再生に集中すべきだと信じる。
【適応する】
気候変動は避けられないこととして認め、レジリエンスと適応を提唱する。
【受け入れる】
崩壊は避けられないため、来るべき変化に備えて、丹精を込めてコミュニティに基づいたレジリエンスを築く。

上記3つは、どれも必要なアプローチだという。「修復するための取り組みを続けることは必要ですが、適応もしなければなりません」

**********

企業やコミュニティは、CO2の排出削減や環境保全といった取り組みと並行して、さまざまなシナリオを想定して準備を整えることが必要な段階に来ている。今回のイベントでは「レジリエンスを高めることは単なるリスク対応にとどまらず、サステナブルで公正な未来を描き、計画的に取り組む前向きな活動でもある」という考え方が明確に示された。レジリエンスの意義は、今後の難題を乗り越えることにとどまらず、未来に備えたシステム、ビジネス、そしてコミュニティを築き、繁栄することにある。

SB.com オリジナル記事へ

Related
この記事に関連するニュース

AI時代を生き抜くために必要な「人づくり・組織づくり」とは?『日本橋サステナブルサミット2023』レポート
2023.11.07
  • SBコミュニティニュース
  • #パーパス
  • #人的資本経営

News
SB JAPAN 新着記事

米国の現状から何を学ぶべきか、「リジェネレーション」の可能性とは――米SBの創設者とCEOが語る
2025.04.01
  • ニュース
  • #リジェネレーション
SB-Jの発行元がSincに移行――サイトリニューアルでコンテンツを一層充実へ
2025.04.01
  • ニュース
    本格的に動き始めたエネルギーの「アグリゲーションビジネス」とは何か
    2025.03.31
    • ニュース
    • #再生可能エネルギー
    新たな局面を迎えたESG 投資家がいま求めているものとは
    2025.03.27
    • ワールドニュース
    • #情報開示
    • #ESG投資

    Ranking
    アクセスランキング

    • TOP
    • ニュース
    • 将来のリスクは「もう目の前にある問題」――企業は変化に適応し計画的にレジリエンスを高めるべき