経営 management

人的資本経営

情報開示

パートナーシップ

イノベーション

グリーンウォッシュ

パーパス

ステークホルダー

ブランド戦略

ガバナンス

マーケティング

川村 雅彦

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第30回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</strong></a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>株式会社Sinc 統合思考研究所 所長・首席研究員　</strong><strong>川村雅彦</strong></a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/03/13/kawamurasantop_1_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1225855_2675.html">前回(第29回)</a>は、日本企業が昭和的な雇用・人事慣行に基づく同質性集団から脱して、いかに多様性集団に転換するか、という問題意識の下、「人材ポートフォリオ」を考える雇用慣行3軸の1つである<strong>「人材属性(採用慣行)」</strong>を取り上げました。<br />今回は、2つ目の軸<strong>「キァリア形成(人事制度)」</strong>において、最近話題の「メンバーシップ型」と「ジョブ型」に着目し、日本企業の<strong>「ジョブ型人事」</strong>への転換の現状と課題を踏まえ、その方向性を論じます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>大きく変容する日本企業の人事制度</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>日本企業の人事制度が大きく変わろうとしています。</strong>背景には人口減少に伴う質量両面の「人手不足」の深刻化があります。しかし、本当に同質性の強い組織集団に風穴を開け、日本企業の競争力強化と復権につながるのでしょうか。本当に社員のキャリア形成に実効性のある人事制度は実現するのでしょうか。<br />本稿では、<strong>「時代に合わなくなった日本企業の人事制度をどうするか」</strong>の問題意識のもと、メンバーシップ型とジョブ型に着目し(図表1)、それぞれの特徴を確認したうえで、<strong>「ジョブ型人事」</strong>の先進事例から現状と方向性を考えます。なお、キャリア形成のための社内転職、副業、リスキリングなどは、次回論じます。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1：「人材ポートフォリオ」を考える雇用慣行3軸</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/03/13/g1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>資料：筆者作成(本図は、本コラムシリーズ第28回の図表2に加筆のうえ再掲)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「入社年次」や「同期」は死語に？</strong><br />いま、日本企業がいかに日本的人事制度を壊すかに腐心しています。これまでの人事制度が日本企業の再浮上の足かせになっている、と気付いたからです。最近の動きをみると、<strong>新卒一括採用・終身雇用・年功序列の象徴であった、「入社年次」や「同期」という言葉が死語</strong>になりつつあるのです。</p>
<p><strong>■もはや、メガバンクでも新卒一括採用・年功序列は限界！</strong><br />2024年度のメガバンク3行の採用計画では、キャリア採用が5割に迫り、地銀でも2020年度の1割から3割に増えています。つまり、新卒一括採用でさまざまな部署を経験させて人材を育成してきた、<strong>OJT手法が転機</strong>を迎えているのです。三井住友銀行は、<strong>入行年次を給与に反映する「階層」を廃止</strong>しました。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換が始まった !？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「ジョブ型の導入」は「メンバーシップ型の廃止」と認識しているか？</strong><br />2021年のパーソル総合研究所の調査によれば、ジョブ型人事制度について、既に2割以上の企業が導入し、約4割が導入予定であり、今後も大企業を中心に増加すると予想されています。しかし、<u>本当に欧米流ジョブ型人事への転換が進んだ場合、日本流メンバーシップ型人事はなくなることをほとんど認識されていません。</u></p>
<p><strong>メンバーシップ型人事</strong>は、多くの日本企業に浸透している<strong>「人材起点」による、「就社型」の人事制度</strong>です(解雇は困難)。これに対し<strong>ジョブ型人事</strong>は、欧米企業を中心に海外で広く普及しており、特定職務(ジョブ)をあらかじめ明示して社員を募集する<strong>「職務起点」による、「就職型」の人事制度</strong>です(解雇は容易)。</p>
<p><strong>■何のために、ジョブ型人事を導入するのか？</strong><br />ジョブ型の先進事例と言われる企業の共通点は、海外拠点が多いこと、中途採用者が多い、そして<strong>ジョブ・ディスクリプションに基づく世界共通の「ジョブ型人事制度」の制定と運用</strong>です。これらの企業は、何のためにジョブ型人事を導入したのでしょうか。ジョブ型人事への転換で、何を変えようとしているのでしょうか。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>日立とNTTは「ジョブ型人事」で何をめざすのか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■日立の大改造と連動する「ジョブ型人財マネジメント」</strong><br />日立製作所は10年以上にわたり、<strong>「ジョブ型人財マネジメント」</strong>の基盤造りを段階的に進めてきました。これは、歴代社長が進めてきた日立の大改造と期を一にするものです。その要点は、デジタル人財とキャリア人材の採用強化、新卒者とキャリア人材の同時採用、通年入社・通年採用、職種別採用の拡大です。根底にある人材戦略の基本は、<strong>「適所適財」</strong>と<strong>「組織目標と個人目標の同期化」</strong>です。</p>
<p><strong>■日立におけるジョブ型人事への転換の必然性</strong><br />日立製作所(売上高9兆円、社員27万人)のジョブ型人事制度への転換は、全体の制度設計が終わり、社内実装が始まった段階と言えますが、その背景は4点に整理できます。実はここに、<strong>日立のメンバーシップ型からジョブ型への転換の必然性(Why)がある</strong>と考えられます。</p>
<p>(1)<strong>売上高と社員数の国内・海外比率</strong>は逆転し、現在はいずれも海外が6割を占め、今後も増える。<br />(2)<strong>事業環境</strong>が、製品中心・国内中心からサービス中心・グローバル市場に変化した。<br />(3)<strong>顧客と社員</strong>も、日本人・男性中心から外国人・多様な人々へと広がり、価値観も多様化した。<br />(4)従来は、製品を同質性集団で開発・提供し、売上高(利益)は労働時間や生産量に比例していたため、<strong>時間管理</strong>が必要だった。しかし、今後は、多様で斬新な発想で事業モデルを拡張・転換し、売上高(利益)は労働時間とは直接比例しないため、<strong>職務の明確化と成果管理</strong>が求められる。</p>
<p><strong>■社長が主導するNTTのジョブ型人事(年次主義の廃止、管理職の格付)</strong><br />NTTグループでジョブ型人事を主導する社長の信念は、<strong>「年功序列のままでは、世界で戦えない」</strong>と<strong>「社員のキャリア自律を促す」</strong>です。同社は、民営化後にグローバル展開を積極的に行い、グループ全体で売上高13兆円(海外比率6割)・社員数34万人となり、<strong>事業ポートフォリオも大きく変わり</strong>ました。</p>
<p>ジョブ型人事で強調されるのが、<strong>世界で通用する人材戦略への変革</strong>です。外部からキャリア人材の採用拡大だけでなく、社内での若返り・抜てき人事<strong>(年次主義の廃止、管理職の格付)</strong>にも注力しています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>メンバーシップ型を残したままで、「ジョブ型」と言えるのか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■日本企業が導入した多くの「ジョブ型人事」への疑問</strong><br />・そもそも、<strong>ジョブ・ディスクリプションさえ作れば、</strong>「ジョブ型」と言えるのか？<br /><strong>・専門職を獲得したいだけ</strong>なら、メンバーシップ型でも可能ではないか？<br /><strong>・新しい賃金体系を導入したいだけ</strong>なら、メンバーシップ型でも可能ではないか？<br />・「ジョブ型」と言うが、<strong>メンバーシップ型を残したままなら、「名ばかりジョブ型」</strong>ではないか？<br />・無期労働契約では解雇が難しいので、<strong>終身雇用をすぐに廃止することは無理</strong>ではないか？<br />・職務限定の雇用契約なら、<strong>会社都合の配置転換はできない</strong>のではないか？</p>
<p>「ジョブ型」という言葉が安易に使われているように感じます。<u>メンバーシップ型雇用は日本の社会通念となっており、真逆の欧米流ジョブ型に一気に転換することはできない、と考えられます</u>。そこで、いくつかの論点です。</p>
<p><strong>■「就社型」とは、まず会社のメンバー(社員)になること</strong><br />メンバーシップ型は「就社型」という日本特有の雇用慣行で、<strong>「会社のメンバー(社員)になること」を優先する考え方で、職務は後付け</strong>です。戦後の高度成長期に、新卒一括採用・終身雇用・定年退職という<strong>“三位一体構造”</strong>が形成され、その運用の仕組みが年功序列・定期異動・内部昇進です。</p>
<p>これを<strong>「雇用の入口-出口の収支バランス」</strong>として表現したのが図表2です。この三位一体構造が、バブル崩壊後も維持され、現在に至っています。今になってさまざまな問題(ミスマッチ)が顕在化してきたのです。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2：メンバーシップ型雇用の“三位一体構造”</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/03/13/g2.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■実態は、「ジョブ型導入」と称して、メンバーシップ型の部分修正</strong><br />このような雇用・人事問題を解決すべく、救世主(？)のように「ジョブ型人事」が導入されたのです。しかし、多くは「名ばかりジョブ型」で、<strong>メンバーシップ型の“三位一体構造”は保持したままで、各段階でジョブ型風の部分修正を行っているにすぎない</strong>のです。</p>
<p>もはやメンバーシップ型(就社型)は時代に合わず、あちこちで致命的な綻びが生じていることは間違いありません。<strong>その根本的解決には、その“三位一体構造”を崩すしかありません</strong>が、そうかと言って、すべての日本企業にとって欧米流ジョブ型への完全な転換が最善である、とは断言できません。</p>
<p><strong>■波紋を呼ぶ「最高裁の令和6年4月26日判決」：解雇か配置転換か？</strong><br />職務限定社員の配置転換は可能か。2024年4月の最高裁判決は、<strong>職務限定で働く従業員に対して、会社は本人同意のない職務変更を命じる権利はない(労働契約法違反)、</strong>と初判断を示しました。</p>
<p>波紋を呼んだ理由は、<strong>最高裁が企業と従業員の労働合意を最優先</strong>としたからです。店舗の統廃合が多い業種では、職務や勤務地を限定合意した場合、<strong>事業の拡大や縮小に際して、その合意条件を変更できるのか</strong>という問題が出てきたのです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「日本流ハイブリッド型雇用」の模索</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■メンバーシップ型とジョブ型の「折衷案」と「併存案」を試行する</strong><br />日本特有のメンバーシップ型雇用は、“時代の遺物”になりかけています。それでは、日本企業はどうしたら良いのでしょうか。結論から言えば、<u><strong>「日本流ハイブリッド型雇用」</strong>を模索しましょう</u>。<strong>メンバーシップ型とジョブ型の「折衷案」ならびに「併存案」</strong>の試行です。ただし、必ずしも特定の「〇〇型」を選ぶ訳ではありません。</p>
<p><strong>【日本流ハイブリッド型雇用(折衷案)】</strong><br /><strong>・国境を越えて人材マネジメントを戦略的に一元化したいグローバル企業</strong>を想定したもので、世界共通のジョブ・ディスクリプションと評価・賃金体系を核に、社内人材と社外人材の垣根を低くする。<br />・なお、国内事業中心の企業、欧米流ジョブ型に困難を感じる企業には、メンバーシップ型をベースにしつつも、ジョブ型の特徴を併せ持つ<strong>「ロール(役割)型」</strong>がある。</p>
<p><strong>【日本流ハイブリッド型雇用(併存案)】</strong><br />・ジョブ型人事では就業規則との整合性が課題である。そこでメンバーシップ型を残したまま、ジョブ型対応の新制度を追加して<strong>「1社2制度」</strong>とする。人材争奪戦のテクノロジー企業や金融機関に多い。</p>
<p><strong>■戦略変革には「社外の血」が必要、内部昇進者や新卒者だけではムリ</strong><br />日本流ハイブリッド型雇用の模索と言っても、人材戦略の構造改革の観点から、<strong>「雇用の入口-出口革命」</strong>と<strong>「人材戦略のインフラ整備」</strong>を心掛けるべきです。そのためには、自社とは異なる価値観や業務センスをもつ外部キャリア人材の採用による「社外の血」が必要です。</p>
<p><strong>・雇用の入口-出口革命：</strong>新卒一括採用の縮減、キャリア人材の通年採用の拡大、定年制の廃止<br /><strong>・人材戦略のインフラ整備：</strong>グループ内で共通の新しい職務等級体系、評価体系、賃金体系の構築</p>
<p>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br />今回は、日本企業の脱同質性に向けて、メンバーシップ型とジョブ型に焦点を当てた人事制度を考えてきました。日本では欧米と異なり、企業横断の労働市場は形成されていません。そこで、日本流の新しい雇用形態を企業だけが考えるのではなく、教育界や経済界をはじめ社会全体で議論することが必要です。</p>
<p>次回(第31回)は、今回の続きで、<strong>社員のキャリア形成に資する人事施策の現状と課題</strong>を論じます。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>本コラム30のフルレポートは、株式会社Sinc 統合思考研究所の下記サイトを参照ください。</strong><br /><a href="https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2025031101.html">https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2025031101.html</a></p>
</div></div>
</div>
<p></div>
<p></p>

コラム

【統合思考経営30】人材多様性と人材ポートフォリオ(その3) ～もはや、新卒一括採用・終身雇用・年功序列では戦えない！！～

サステナブル・ブランド ジャパン編集局

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/community/column/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/02/14/g00_1.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>企業の成長と革新には社員の積極的な関与が不可欠だが、組織はどのように人を生かすべきなのか――？　第4回SB-Japanフォーラムでは「Regenerative on Organizational Culture」をテーマに、人を生かすための本質的な考え方や取り組みが議論された。ゲストスピーカーとして登壇したのは、障がい者や高齢者を積極的に雇用し、昇給を随時行うなど型破りな経営を実践する中央シャッター・横引シャッターの市川慎次郎社長。同社が取り組む社内コミュニケーションに、参加者は熱心に耳を傾け、ワークショップでは活発な議論が交わされた。(松島香織)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>なぜ「本質的な」組織文化の醸成が必要なのか</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>本フォーラムはこれまで「リジェネレーション」を大きなテーマに掲げ、持続可能性を追求する企業のあり方を模索してきた。今回登壇したサステナブル・ブランド国際会議D&amp;Iプロデューサーの山岡仁美氏は、まず改めて「リジェネレーション」の概念について説明。山岡氏は、リジェネレーションとは単なる再生や復元にとどまらず、社会全体をより良くしていくことだとし、「目指すべきは環境や社会の持続可能性を確保することに加え、個人や組織が活力を取り戻し、成長し続けること」だと話した。</p>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/community/column/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/02/14/g01_04049_1.JPG"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>山岡氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>その実現には、「人間らしさ」を大切にする視点が不可欠だと山岡氏は強調する。特に、DEIB(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン、ビロンギング)の観点が重要であり、企業には「人が活躍できる環境を整え、ワークライフバランスやウェルビーイング、エンゲージメントを促進すること」が求められていると述べた。</p>
<p>また山岡氏は、社員一人ひとりの人間らしさを尊重し、柔軟な組織文化を構築している2社を紹介した。1つ目のスターバックスでは「OUR VALUES 私たちの行動指針」として「私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます」という理念が掲げられており、社員の個性や価値観を尊重する文化が根付いているという。また2つ目のNETFLIXでは、社員に自由に判断を下す権限を与えることで、創造性と自主性を高めている。山岡氏はこうした企業の取り組みが、業務プロセスを増やし過ぎて創造性を失うことを防ぎ、組織が環境の変化に適応できる力を養うのだと説明した。</p>
<p>企業の成長にはこうした「本質的な」リジェネラティブが必要であるが、「現実には、企業において、リジェネラティブは表層的なものになっている場合が多い」と山岡氏は指摘する。そして参加者に対して、「皆さんのDEIB推進や組織文化醸成は本質を突いていますか？ 施策、制度、ツール、テクノロジーなどに終始しがちではありませんか？」と問いかけ、真の変革を促した。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>多様な人材活用と企業経営の新しい形 ― 中央シャッター・横引シャッターの取り組み</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/community/column/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/02/14/g02_4075_1.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>市川氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>続いて、「好きな仲間と楽しく働きみんなで豊かになる！～ダイヤの原石たちと創り上げる会社創り～」と題して、中央シャッター・横引シャッター(東京・足立)の市川慎次郎社長が講演した。同社は、20～80代までの社員が在籍し活躍しているという。市川社長は、年齢、性別、国籍、障害の有無に関係なく、さまざまな人々を積極的に雇用しており、その方針は採用にとどまらず社内の文化として根付いているという。その結果、「社員一人ひとりがその強みを生かし、チームとして成果を上げている」と話した。</p>
<p>こうした同社の根底にある理念が、「社員一人ひとりの自己成長や自己実現を中心に据えた会社経営」だ。その中でも特に、年齢で区切った定年制を「人手不足の中小企業だということもあるが、年齢で区切るのはおかしい」と市川社長は一刀両断する。同社では定年制を厳密に運用しておらず、これまでに92歳の社員が昇給するなど、年齢を重ねても成長するチャンスが与えられている。同社は積極的に社員の働きやすさを意識した設備や環境づくりをしており、例えば、腰の高さにコンセントを設置し、床の配線を天井に回すなど、細部にわたる配慮がなされているという。</p>
<p>また、社員に対し市川社長は「利益を追求しつつも、顧客からの“ありがとう”という感謝の言葉を大切にすること。社員が互いに助け合う“お互いさま精神”を大事すること」を特に伝えていると話す。社是・社訓以外のこうした考え方の他、市川社長が考えた独自のキャッチコピーがいくつもあるという。「社長戦力外通告」「好きな仲間と楽しく働き、みんなで豊かになる」などがそれだ。社長自らこうした言葉を考え、意味を伝えることを「社是・社訓を一人ひとりに落とし込むのは難しい。キャッチ―な言葉で印象付けて意味を発信し続けて、社員に浸透させている」と市川社長は説明した。</p>
<p>市川社長が目指すのは、単純な利益追求ではなく、「社員とともに成長し、共に豊かになる」ことだ。社員全員が自分の役割を理解し、共に会社を支えるという意識を持って働くことで、会社の持続的成長を実現できると力を込める。</p>
<p>先代から事業を引き継いだ2代目である市川社長は、自身のことを「(徳川家康から三代・家光につなぐ)秀忠の役割」だと言う。そして「社員みんなが社長の右腕であり、不安や心配ごとは、みんなに相談しているので“社長は孤独”ではない。次の代に上手にバトンタッチしたい」と語った。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「できること」を考え、実行すること</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ワークショップで参加者は最初に、市川社長の講演から「参考になったこと・印象に残ったこと」を考え、チームで共有し発表した。あるチームでは、「社員が増えて規模が大きくなると、自分がいる会社を自分でつくる感覚を共有するのが、どんどん難しくなる」と話し合ったという。それに対し市川社長は「大きくなると、やりにくいことはいっぱいあると思う。できないことを考えるのではなく、できることしか考えないようにしている」とコメントした。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box col2">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/community/column/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/02/14/g03_04196.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
<td class="separator"></td>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/community/column/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/02/14/g04_04183.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>また次の「自社の課題と現状」をテーマにしたワークショップでは、社員同士のコミュニケーションが各チームの共通課題となり、参加者から「小さなところから会話を重ねていくことや、相手がどんな人か興味を持つこと。そういう時間をきちんと作ることが重要なんじゃないか」と意見が出た。それに対し、市川社長は挨拶を例に挙げ、「若手社員には、挨拶しても素っ気ない先輩がいたら、自分から感じのいい挨拶をして、相手が変わるまでゲーム感覚で続けなさいと言っている」と話した。そして「もちろん、私も裏に回って挨拶をしない社員をフォローしている」と付け足した。</p>
<p>最後のワークショップでは「実現すべき“本質を突いた”アイデアやアクション」がテーマだ。参加者からは「基本的に人は変われない。変われるのは自分で、相手との共通点を見つけ、自分からアクションを起こしてゆっくり進めればいい」「一方的にこちらが伝えたいことを言っても伝わらないので、相手が知りたいことをキーワードにすることが重要」「言語化や視覚化が大事」など、活発な意見が出ていた。</p>
<p>参加者からの発表を終えて、山岡氏は「コミュニケーションでは“聞く力”がポイントになる。聞くと、相手が考えていることや状況などがキャッチできる。聞かないと共感もできず、表面的で断定的な共感になってしまう。今日は非常に本質に近いところが議論できた」と総括した。</p>
<p>次回のSB-Jフォーラムは、2月18日に開催。1年間の総まとめと3月18～19日に開催する「サステナブル・ブランド国際会議 2025 東京・丸の内」に向けた予習を行う。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

SB-Jフォーラム

SBコミュニティニュース

話題のキーワード

成長し続けるリジェネラティブな企業であるために、DEIBの視点が欠かせない

SUSTAINABLE BRANDS

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/us/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/01/09/g1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Image credit: Diva Plavalaguna</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>サステナビリティ人材の需要と供給、課題について調べた2つの国際調査によると、現在の世界の労働者は、サステナビリティを実現するのに必要なハードスキルとソフトスキルの両方が不足している。(翻訳・編集＝小松はるか)</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>気候変動に対処できる人材の需要は供給を上回る</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/us/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/01/09/g2.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Image credit: Kindel Media</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>気候変動問題は、行政や企業の上層部が行う政策・方針の決定の多くに関わるようになっており、サステナビリティに関する目標や公約、指令も増えている。しかし、2024年9月にLinkedInが発表した、気候変動に対処できるスキルを持つ人材の需要と供給に関する報告書<a href="https://economicgraph.linkedin.com/content/dam/me/economicgraph/en-us/PDF/linkedIn-global-climate-talent-stocktake-sept-2024.pdf" target="_blank">「グローバル・クライメート・タレント・ストックテイク2024　(Global Climate Talent Stocktake 2024)」</a>によると、現状の世界の労働力は、気候変動目標やサステナビリティ目標を達成するには不十分だ。</p>
<p>調査によると、グリーンスキル(気候変動の影響に対して直接対策をとれる技能)の需要は、2050年までに倍増すると予想されるものの、現在は供給が追いついておらず、重大なスキル不足が生じていることが明らかになった。</p>
<p>こうした傾向は、2023年に行われたEYの<a href="https://www.ey.com/en_uk/newsroom/2023/06/uk-sustainability-leaders-warn-lack-of-climate-talent">調査</a>において、一部の世界最大手企業のCSO(最高サステナビリティ責任者)らが表明した懸念とも一致する。CSOらは、従業員と役員のどちらにおいても気候変動問題に対処できるよう訓練された人材が不足していることが、ネットゼロ目標を達成する上で最大の障壁の一つになると危惧する。</p>
<p>LinkedInは、世界のグリーンタレント(LinkedInの会員でプロフィールにグリーンスキルを1つ以上記載している人、もしくは、事業の根幹にサステナビリティを据え、グリーンスキルに関して幅広い知識を必要とする仕事「グリーンジョブ」に就いている人)の需要が2023年から2024年までに11.6%増加した一方、供給はわずか5.6%にとどまっていると指摘する。このままの状況が続くと、この乖離は2050年までに101.5%に広がることが予測されるという。</p>
<p>同社のグローバル・パブリック・ポリシー兼エコノミック・グラフ部門でバイスプレジデントを務めるスー・デューク氏は「人類が早急に必要としている変化をもたらすことのできる人材がいなければ、世界中のあらゆる気候変動目標、公約は危機にさらされます。ビジネスチャンスはそこにあり、スキルを基盤にした未来につながる道筋もそこに存在するのです。2024年は地球にとっても、働く人にとっても転換点です。国や企業は気候変動に関する新しい目標を設定しています。そして、そうした目標・公約にはグリーン人材への明確な投資が含まれていなければなりません」と語る。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>サステナビリティに精通した人材の需要</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>報告書によると、サステナビリティ人材の需要は英国で最多だという。英国では、業務上の役割の13%に少なくとも1つのサステナビリティに関連するスキルが求められ、その後にアイルランド(12.4%)やサウジアラビア(11.7%)、ノルウェー(11.6%)、スイス(11.5%)が続く。</p>
<p>さらに、サステナビリティや気候変動に取り組むスキルを持っている人材の採用率は、平均よりもはるかに高いという。世界全体では、サステナビリティ人材の採用率が、すべての人材の採用率を54.6%上回っている。</p>
<p>米国では、サステナビリティ人材の需要が9.8%、供給は3.1%増加した。気候変動関連のスキルを有する人材の採用率は全体の採用率よりも80.3%高いという。</p>
<p>英国では2023年から2024年の間にサステナビリティ人材の需要が驚異的に46%増えた(供給は5.3%増だった)。サステナビリティ人材の採用率は全体の採用率より72%高かった。</p>
<p>サステナビリティ人材の需要が低下している国でさえも、サステナビリティ人材の採用率は平均を継続的に上回っている。フィンランドとオランダは2023年から2024年の間に、少なくとも1つのグリーンスキルを必要とする求人票の割合が、フィンランドは43.8%減少、オランダは20.1%減少したものの、サステナビリティ人材の採用率はその他の人材の2倍以上となっている。求人票に気候変動関連のスキルが必要と明確に書かれていなくても、雇用主はこれらのスキルを好ましく捉えていると話す。</p>
<p>LinkedInの報告書は、気候変動問題に対応できるスキルを備えた人材の確保を世界的に拡大し、スキル不足を補うための早急な対策がすぐさま必要だと指摘する。同プラットフォームは、米国の<a href="https://www.acc.gov/">アメリカン・クライメート・コープス</a>のように、政府が国の気候変動戦略にスキル開発のための計画やプログラムを取り入れることを推奨する。</p>
<p>さらに、LinkedInは、労働者が気候変動対策の成功のカギを握る存在だと捉えている。同社は、2024年11月に開催されたCOP29において、世界規模の気候変動対策に取り組む人材の開発を加速させ、温室効果ガスの削減目標と人材の増員計画とが確実に整合する(例えば、EYとマイクロソフトが立ち上げた<a href="https://www.ey.com/en_gl/green-skills-passport">「グリーン・スキルズ・パスポート・プログラム」</a>のような)宣言を行うよう求めた。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>気候危機に取り組む難しさが、サステナビリティ人材を精神的に疲弊させている</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/us/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/01/09/g3.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Image credit: Mizuno K</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>オックスフォード・ブルックス大学のビジネススクールが、社員教育事業を展開する<a href="https://climatechangecoaches.com/">「クライメート・チェンジ・コーチズ(Climate Change Coaches)」</a>と共同で行った調査は、サステナビリティの実践者が直面している別の問題を指摘する。それは、精神的ストレスや燃え尽き症候群の多さだ。</p>
<p>報告書<a href="https://climatechangecoaches.com/sustainabilitys-new-skills-research/">『気候変動対策の進展を阻む、サステナビリティに関する重大なスキル不足(<u>Holding Back Climate Progress: Sustainability’s Critical Skills Gap</u>)』</a>によると、サステナビリティに携わる人たちは孤立したり、独自に課題に取り組む自らの役割のなかで深刻な精神的ストレスを経験したりすることが多い。さらに、そうした人材を支援する体制も限られていることが分かった。</p>
<p>また報告書は、従業員エンゲージメントやより深い協力関係を結ぶといったソフトスキルの開発を企業が優先することで、従業員を支援し、組織が気候変動目標やサステナビリティ目標を達成できるようにすることが非常に重要だと指摘している。</p>
<p>この調査は、さまざまな企業規模や地域の159人のサステナビリティの実践者・専門家を対象に行ったもので、およそ半数は気候変動目標を掲げる企業に属している。</p>
<p>主な調査結果は以下の通り。</p>
<p>・回答者の62%が過去1年以内にサステナビリティに関する業務への責任が原因で燃え尽き症候群を経験している。<br />・回答者の69%は課題の規模が理由でモチベーションを保ち続けるのが難しいと答えた。<br />・サステナビリティの実践者として十分な福利厚生を受けていると感じているのはわずか53%だった。<br />・回答者の60％が「持続可能な未来を実現するためのソフトスキルを身につけるトレーニングの優先度が低い」と答えた。</p>
<p>「こうした調査結果は警鐘です」と、調査を行ったオックスフォード・ブルックス大学ビジネススクールで「責任あるマネジメントとリーダーシップ」の上級講師を務めるカレン・クリップス博士は言う。</p>
<p>「サステナビリティに携わる人たちは、複雑な技術的問題に取り組んでいるだけでなく精神的なストレスにも対処しています。精神的レジリエンス(回復力)が必要とされるなか、組織によるサポートは明らかに不足しています」</p>
<p>調査者らは、気候危機に取り組むことは「人々の行動を変える挑戦」だと捉えている。さらに、サステナビリティの実践者が効果的に連携し、チームを鼓舞し、複雑さに対処し、利害関係のバランスをとり、個人のレジリエンスを維持するための解決策として、コーチングスキルの研修を実施するよう勧める。</p>
<p>Climate Change Coachesの共同設立者で、開発部門のディレクターのゾーイ・グリーンウッド氏は「気候不安症(気候変動やその影響によってもたらされる不安)の存在を認識し、それに対応することは、気候変動に取り組むことと並ぶ、指導者の資質が試される新たな課題です。この重要な調査は、効果的な気候変動対策がとれるようにするため、また、この分野で働く人たちが直面する精神的困難に対処するために、組織がサステナビリティに関するスキルを持っている人たちの支援を優先する必要があることを示しています。サステナビリティに関する役割が進化するにつれ、気候変動対策において21世紀型のリーダーシップを発揮できる人材を供給する仕組みを発展させ、支援することが急務なことは明らかです」と話した。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

ワールドニュース

LinkedInなどの調査から見えてきた、サステナビリティ人材不足の深刻さ

【統合思考経営29】人材多様性と人材ポートフォリオ(その2) ～人材属性(採用慣行)の多様性は進んでいるか？～

Tom Idle

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/us/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/12/02/g00.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Image credit：Babcock Ranch</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>気候変動や地政学リスクなどによって社会全体の先行きが不透明になる中、企業やコミュニティのレジリエンス(強じん性)を高める取り組みに注目が集まっている。個別のリスクに対応するだけでなく、気候変動が進む世界に適応し、将来の課題に対応できる体制を整えることが、今後の繁栄のために欠かせない。米サステナブル・ブランズが10月に初開催した「レジリエンス・サミット」では、こうした活動の先駆者たちが、ビジネスにおける考え方や取り組み内容を共有した。本記事ではその一部を紹介する。(翻訳・編集＝茂木澄花)</p>
<p><a href="https://events.sustainablebrands.com/conferences/sustainablebrands?_gl=1*17y2r7d*_gcl_aw*R0NMLjE3MzAyNzQ4MTkuQ2owS0NRandzb2U1QmhEaUFSSXNBT1hWb1VzT2V4YVNiNFJYcm82ZkptLW9pS1ZLYVUxM0VxOHFLZlRKUW9iLTc4SHdQSUZvS2tmV3UyOGFBdU1YRUFMd193Y0I.*_gcl_au*MjU4MTEwMTY0LjE3MjQ3MjUyMjQ.*_ga*OTA0NzIzMjI0LjE2OTEzOTk5OTg.*_ga_4GBPGV9S84*MTczMjM0OTYzNS4yOTcuMS4xNzMyMzQ5OTExLjYwLjAuNjg5MDQ0Njk5">SB国際会議2024サンディエゴ</a>の最終日、<a href="https://events.sustainablebrands.com/conferences/sustainablebrands/resilience-summit/?_gl=1*qxfzsr*_gcl_aw*R0NMLjE3MzAyNzQ4MTkuQ2owS0NRandzb2U1QmhEaUFSSXNBT1hWb1VzT2V4YVNiNFJYcm82ZkptLW9pS1ZLYVUxM0VxOHFLZlRKUW9iLTc4SHdQSUZvS2tmV3UyOGFBdU1YRUFMd193Y0I.*_gcl_au*MjU4MTEwMTY0LjE3MjQ3MjUyMjQ.*_ga*OTA0NzIzMjI0LjE2OTEzOTk5OTg.*_ga_4GBPGV9S84*MTczMjM0OTYzNS4yOTcuMS4xNzMyMzQ5OTExLjYwLjAuNjg5MDQ0Njk5">「SBレジリエンス・サミット」</a>が初めて開かれた。世界中の市場が脅威にさらされ、サプライチェーンが混乱し、社会不安が続く現在、<a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/us/detail/1224402_1532.html">将来にわたって事業を続けるためにレジリエンスは欠かせない要素</a>となっている。参加したビジネス・リーダーたちは、未来を見据える必要性を再認識した。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/us/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/12/02/g01_sb24sd-raphael.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>ラファエル・ベンポラッド氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>「今起こっている変化を、人類史の一部として認識する必要があります」。司会を務めた<a href="https://bbmg.com/">BBMG</a>の創業パートナーであるラファエル・ベンポラッド氏はこう述べた。「愛する人々に思いをはせ、その人たちが将来どうなるのかをよく考えないといけません。そうすれば、自ずと取り組みは次の段階に進むでしょう。それこそが、この仕事の意義であり、私たちがここに集まっている理由です」</p>
<p>ベンポラッド氏と、アース・ガーディアンのエクゼクティブ・ディレクターであるエミー・スコット氏は、以降の講演で扱う内容の背景情報として、最新の調査結果を紹介した。Z世代の80%が、過去1年の間に気候変動の影響をじかに感じたことがあり、30歳未満の44%は、気候危機を理由に子どもを持つことを望まないという。一方で、前向きなデータもある。80%の人が、健康的でサステナブルな暮らし方をしたいと回答したのだ。それにより生活の質が向上すると感じているからだ。</p>
<p>「私たちが扱っている問題は、未来の問題ではありません。もう目の前にある問題なのです」。ベンポラッド氏は声を強める。「みんな、うろたえています。『もう時間がない』『解決策が分からない』『選択肢はないようだ』『どうしたらいいか分からない』と言います。迷い、不安に感じているのです。企業は、魅力的かつ手の届く解決策を提示することで、社会や世界を変革する力になれます」</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>災害に強い通信サービスのために</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/us/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/12/02/g02_sb24sd-farrington.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>午前中のメインステージに登壇した際のジェシカ・フィランテ・ファーリントン氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>気候変動に適応するという役割で先陣を切る企業に、電気通信事業大手の<a href="https://www.att.com/">AT&amp;T</a>がある。最初の登壇者は、同社でグローバル環境サステナビリティ部門のディレクターを務めるジェシカ・フィランテ・ファーリントン氏だ。個別具体的な気候リスク分析の結果をもとに、さまざまな社内機能やオペレーションにまたがる活動の優先順位を見直す取り組みについて説明した。</p>
<p>ファーリントン氏は、AT&amp;Tが「適応」のために取り組んでいることは3つあると言う。気候関連の異常気象が事業に与える影響を考慮し、自社のインフラを守ること。屋外で働くことによる猛暑の影響緩和など、従業員のケア。そして、事業活動を行う地域コミュニティを支援することだ。</p>
<p>「レジリエンスの分野に強く心引かれています。というのも、自分が家族の中で果たしている役割に似ているからです」。ファーリントン氏は語る。「いつも課題を解決し、6歳と9歳の子どもの将来について考えています」。子どもたちにとってこれから必要なものを与え、困難を乗り越える自信を持てるよう準備を整える。これは、AT&amp;Tが適応のために取り組んでいることでもあると彼女は言う。</p>
<p>2016年と2017年のハリケーン、「マリア」と「ハービー」は、AT&amp;Tに大きな被害をもたらした。ネットワークとサービスを復旧するために巨額の費用がかかったのだ。しかしファーリントン氏は、このことが、社内が変わる起爆剤となったと捉えている。「このときやっと、社内の賛同を得ることができました。過去のデータからでは、これから何か起こるかを予想できなかったので、今後どんな変化が起ころうとしているのか把握する必要がありました。そしてレジリエントなネットワークとして独自の地位を築くチャンスを得たのです」</p>
<p>ファーリントン氏は自身の仕事における重要なポイントとして、ソフトウェアによる自動化を担当する部署を巻き込んだことを挙げた。その部署には、すでにシステムを全面的に改修するための資金が投じられていた。</p>
<p>「『ついでに、気候リスクのスコアに関するワイヤーフレームを追加してもらえませんか？』と頼み、彼らを担ぎ上げたのです。最高サステナビリティ責任者(CSO)と対面してもらい、CSOブログの題材として取り上げました。彼らが私たちの代弁者になってくれたのです」</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>不動産の気候リスクを把握するには</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/us/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/12/02/g03_sb24sd-hesse.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>ショーン・ヘッシー氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>続いて登場したショーン・ヘッシー氏は、ファーリントン氏の論点の多くを裏付けるように、企業の不動産に対する運営リスクと財務リスクが高まっている理由、そして取るべき対策について語った。不動産サービス企業の<a href="https://www.us.jll.com/">JLL</a>でESG/サステナビリティアドバイザリーの責任者を務める同氏は、行動しないことによって発生するコストなど、現実を示した。気候変動の影響でコストや保険料が上がり、営業活動に混乱が生じる。さらに、エネルギーと水のコストは上がり、規制強化によって企業が責任から逃れることも難しくなっている。</p>
<p>「実際のところ、気候変動の影響を受けない『気候ヘイブン』のような場所は存在しません」とヘッシー氏は言う。ノースカロライナ州のアシュビルなど、ほとんどの人が直感的には気候変動によるリスクが高いとは思わない都市でさえも、安全ではないことが証明されている。「未来を予測するにあたって、経験則や過去のデータに頼ることはできませんし、直感も当てになりません」</p>
<p>代わりにヘッシー氏は、複数の時間枠で複数のリスクを考慮する<a href="https://sustainablebrands.com/read/org-governance/scenario-analysis-determine-your-business-resilience-to-climate-change">「インフォームド・気候リスク・アセスメント」</a>を提唱する。この評価方法では、今後何が待ち受けているか、企業の不動産ポートフォリオがどの程度影響を受けるかについて、IPCCのシナリオプランニング(複数のシナリオに基づく計画策定)も利用しながらさらに正確な予想を描き出す。</p>
<p>気候リスクのシナリオプランニングにおいては、ハリケーンによる激甚な影響や、100日連続の猛暑日といった物理的なリスク以外も考慮すべきだと、ヘッシー氏は強調する。つまり、企業は移行リスクも考慮しなければならないということだ。例えば「政策や法規制がどのように営業活動に影響するか」「適切な行動を起こせなければ企業に対する世間の評価はどうなるか」などを検討すべきだという。</p>
<p>「気候リスクは多くの企業にとって死角です。所有する不動産の物理的なリスクに備える計画を整えている企業は、5社中1社しかありません。備えなければ、損をすることになります」</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>気候変動に適応するためには戦略的展望とバックキャスティングが重要</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/us/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/12/02/g04_sb24sd-izzo.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>ジョン・イッツオ氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>続いて、パーパスの重要性を提唱するビジネスコンサルタントであり、経営層へのコーチングも行うジョン・イッツオ博士が登壇した。博士はシナリオプランニングが重要であることに賛成するとともに、バックキャスティングの重要性も強調した。バックキャスティングは、望ましい未来を構想し、そこに至る方法を逆算して取り組むビジネスプランニングの手法で、計画的にレジリエンスを実現するために重要なツールだ。バックキャスティングはビジネスにおいて決して珍しい手法ではない。しかし驚くことに、気候リスクを理解し、それに対応するという文脈においては、ビジネス文脈に比べて未だ十分に活用されていないという。</p>
<p>イッツオ博士は、戦略的展望とシステム思考の重要性を表現豊かに主張した。また、そうした考え方が、特に気候変動という状況において、人類が将来の困難を乗り越えるためにいかに役立つかを説明した。「未来を考えるにあたっては、リスクを回避できれば良いということではなく、望ましいシナリオに向けて積極的に取り組むべきだ」</p>
<p>博士の主張の核となる考え方に「社会システムは最終的に、自分たちが描いている最高のイメージに向かう」というものがある。博士はアメリカ独立宣言を例に挙げた。宣言が書かれた当初、米国はその理想を体現するには程遠い状況だった。奴隷制度がはびこり、女性の権利はなかった。それでも、宣言で述べられた自由と平等というビジョンは長年、米国が目指すべき姿を示す指針となってきた。</p>
<p>博士はその考えを「展望(foresight)」という概念へと展開する。「展望とは、単にリスクを予測することやシナリオプランニングをすることではなく『自分たちが描きたい未来のシナリオの中で、一番納得できるものは何か？』と問うことだ。頭の中に、明確に望ましい未来が描けていなければ、それを達成するための道を進むことも難しい」</p>
<p>博士は自身が携わった「展望」に関する仕事の事例を挙げた。その1つがゴールドマンサックスでの仕事だ。同社は発生可能性の低い事象を予測することで、2012年にマンハッタン南端部を冠水させた巨大ハリケーン「サンディ」に備えた。砂のうを積み上げ、発電機を屋上に運ぶといった対策を取ることでその影響を緩和したのだ。「ハリケーンの間、電力を確保できた数少ない建物のうちの1つとなりました。この事例から分かるのは、展望を持っていれば、比較的コストのかからない些細(ささい)な行動でも、実際に危機が訪れたときには有利に働き得るということです」</p>
<p>続いて博士は、今起こっている気候変動に対して取り得る3種類の対応を概説した。</p>
<p><strong>【修復する】</strong><br />炭素の排出量を減らし、自然の再生に集中すべきだと信じる。<br /><strong>【適応する】</strong><br />気候変動は避けられないこととして認め、レジリエンスと適応を提唱する。<br /><strong>【受け入れる】</strong><br />崩壊は避けられないため、来るべき変化に備えて、丹精を込めてコミュニティに基づいたレジリエンスを築く。</p>
<p>上記3つは、どれも必要なアプローチだという。「修復するための取り組みを続けることは必要ですが、適応もしなければなりません」</p>
<p>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊</p>
<p>企業やコミュニティは、CO2の排出削減や環境保全といった取り組みと並行して、さまざまなシナリオを想定して準備を整えることが必要な段階に来ている。今回のイベントでは「レジリエンスを高めることは単なるリスク対応にとどまらず、サステナブルで公正な未来を描き、計画的に取り組む前向きな活動でもある」という考え方が明確に示された。レジリエンスの意義は、今後の難題を乗り越えることにとどまらず、未来に備えたシステム、ビジネス、そしてコミュニティを築き、繁栄することにある。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

将来のリスクは「もう目の前にある問題」――企業は変化に適応し計画的にレジリエンスを高めるべき

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第28回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</strong></a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>株式会社Sinc 統合思考研究所 所長・首席研究員　</strong><strong>川村雅彦</strong></a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/27/kawamurasantop_1_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(第27回)は、「失われた30年」の原因として、日本人男性中心の同質性集団(昭和のおじさんシステム)の特徴をあぶり出しました。それを制度として支えたのが、<strong>メンバーシップ型の雇用慣行(新卒一括採用・終身雇用・年功序列人事・定年退職)</strong>です。今、日本企業に問われているのは、新しい時代の価値創造のために、<strong>ここから脱却して、いかに人材多様性を確保した多様性集団に転換できるか</strong>です。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人材多様性は、思ったほど簡単ではない！？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>上記の問いを考えるために、人材多様性やDE&amp;I、働き方改革や人事制度・労働法制、非正規社員あるいはジョブ型やリスキリング、人的資本経営などの関連する領域を調べてみました。その過程で、<strong>筆者なりの発見(驚き・疑問・課題)</strong>がありましたので、それを提示したうえで、本論に入ります。</p>
<p><strong>(1)</strong><strong>　人材多様性は非効率で面倒くさい！？</strong><br /><strong>(2)</strong><strong>　個人属性の多様性を「人材多様性」と誤解している！？</strong><br /><strong>(3)</strong><strong>　若手社員にとって、終身雇用・年功序列は無意味である！？</strong><br /><strong>(4)</strong><strong>　ジョブディスクリプションを作れば、「ジョブ型雇用」である！？</strong><br /><strong>(5)</strong><strong>　人材多様性はダブル・マテリアリティで考えるべきである！？</strong></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「人材多様性」の意味すること</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「失われた30年」の出口で立ちはだかる、「人材多様性」という構造問題</strong><br />「失われた30年は終わった」との見方があるものの、<strong>日本企業の人手不足が深刻化</strong>しています。これは単に人口減少だけの影響ではありません。つまり、<strong>日本人男性中心の同質性集団が、バブル崩壊後も漫然と温存された結果、「人材多様化」が進まなかった</strong>ことの帰結です。</p>
<p>日本企業は現在、金融業を含め業種を問わず、<strong>質・量両面で人材多様性という新しい構造問題に直面している</strong>ことを認識しなければなりません。産業構造と働き方が大きく変化する中で、<strong>多様で優秀な人材を確保できるかが会社の将来を左右しかねない</strong>、と危機感を抱く日本企業が増えています。</p>
<p><strong>■</strong><strong>何のために、「人材多様性」を高めるのか？企業課題と社会課題として</strong><br />それでは、何のために人材多様性を高めるのでしょうか。ここでは企業と社会の両方のインパクトを考える、ダブル・マテリアリティの発想が必要です。つまり、<strong>企業目線では経営戦略と人材戦略を連動させるため、同時に社会目線ではDE&amp;I(多様性、公平性、包摂性)と「ビジネスと人権」を推進するため</strong>です。</p>
<p><strong>企業課題としての「人的資本経営」</strong>の狙いは、人材を管理対象としてではなく、人材への投資により人的価値を高めて、それによる企業価値を向上させることです。そのためには「人材ポートフォリオ」が必須です。他方、<strong>社会課題としての「社会のサステナビリティ」</strong>の狙いは、多様な人材が安心して働ける就業環境の整備、健康経営を含むウェルビーイングの向上、また人権デューデリジェンスによる人権尊重の確保です。</p>
<p><strong>■「人材多様性」には2つの型</strong><br />さて、一口に人材多様性と言っても、実は2つの型があります。まず、このことを確認しておきます。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>・デモグラフィー型：</strong>人種・国籍、性別、年齢など人口統計的な属性に基づく<strong>外面的な人材多様性</strong><br /><strong>・タスク型：</strong>個人の外見や属性にはよらない、知識・能力・経験・知見など<strong>内面的な人材多様性</strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本ではデモグラフィー型をイメージすることが多いようですが、女性活躍やシニア雇用など企業には取り組みやすい反面、<strong>個人属性の多様化が目的になってしまっては本末転倒</strong>です。よく考えてみれば、人材とは外見や属性で決まるものではなく、当然、その人の“もっているもの”が問われます。したがい、<strong>「人材ポートフォリオ (human resources portfolio) 」の基本はタスク型の人材多様性</strong>、となります。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人材多様性を実現する「人材ポートフォリオ」</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「事業ポートフォリオ」と連動する「人材ポートフォリオ」</strong><br />人的資本の情報開示が2023年3月期から有価証券報告への記載が義務化されましたが、<strong>人的資本経営(人材への投資)の可視化には、人材ポートフォリオが役に立ちます</strong>。「人材版伊藤レポート2.0」でも、事業ポートフォリオが変われば、人材ポートフォリオも動的に連動して変わる、とされています。</p>
<p><strong>人材ポートフォリオとは、人材要件による適材適所のツール</strong>です。つまり、自社事業に必要な人材像を明確にして、現在「どんな人材が」「どこに」「どれくらい」在籍するかを分析し、そこから見えてきた過不足を基に、人材の再配置や採用・育成を行うものです。</p>
<p>さらにバックキャストの発想で、<strong>長期視点から経営戦略や事業戦略の実現に不可欠な「人材タイプ」を特定する枠組</strong>でもあります。つまり、将来どのような人材が必須かを可視化するものです。なぜならば、人材戦略を経営戦略にどのように結び付けていくかが、経営課題の中核にあるからです。</p>
<p><strong>■</strong><strong>四象限図で類型化する</strong><strong>「人材ポートフォリオ」の</strong><strong>人材タイプ</strong><br />人材ポートフォリオを構成する「人材タイプ」には、いくつかの考え方があります。例えば、経営戦略に基づく<strong>事業ポートフォリオを念頭に、自社の企業特性に応じた縦軸と横軸で作られる四象限図で類型化する</strong>ことができます。図表1に、その典型的な人材タイプを示します。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1　四象限図による「人材ポートフォリオ」の人材タイプ(例示)</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/27/g1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)諸資料を基に筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>横軸は、人材の適性として<strong>「組織牽引力」と「個人自律力」のどちらの能力が秀でているか</strong>を示します。縦軸は、人材の個性として<strong>「創造力」と「運用力」のどちらの職種に向いているか</strong>を示します。この2軸の組み合わせにより、<strong>人材タイプ4種が類型化</strong>できます(ただし、人材の優劣を示すものではない)。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>①組織×創造：<strong>マネジメント人材：</strong>業務を効率的に管理し、組織の成果をめざす(<strong>経営層人材</strong>を含む)<br />②組織×運用：<strong>オペレーション人材：</strong>規定の業務を円滑かつ確実に進める<br />③個人×創造：<strong>クリエイティブ人材：</strong>新規の技術・商品・事業を考案する<br />④個人×運用：<strong>エキスパート人材：</strong>特定業務の熟達者として経験値を活かす(<strong>スペシャリスト人材</strong>を含む)</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■人材ポートフォリオの先進企業事例</strong><br />過去の成功体験にとらわれず、経営戦略と人材戦略を連動させて、<strong>人材ポートフォリオを再構築する企業</strong>が増えつつあります。上述の人材タイプとは必ずしも同じではありませんが、人材ポートフォリオの構築に取り組む先進事例を以下に示します。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>・旭化成</strong>：経営戦略と連動した人材ポートフォリオを作成。毎年、全社全事業部で必要となる人材要件・人数を洗い出す。<br /><strong>・協和キリングループ：</strong>「人材はイノベーションの源泉」と認識。2017年に「人材マネジメント基本方針」を策定し、人材ポートフォリオの考え方を明確にした。<br /><strong>・KDDI：</strong>2030年に向けた「人財ファースト企業」を標榜。KDDIフィロソフィーを核にしたサステナブルな人財ポートフォリオを活用する。<br /><strong>・丸井グループ：</strong>2022年に人材ポートフォリオの構築などを任務とする「人材戦略委員会」(取締役会の諮問機関)を設置した。<br /><strong>・三井情報：</strong>2019年に「人材基本方針」と「人材像」を策定。各事業部の「人事企画」が3コースの人材ポートフォリオをもとに、個々人の教育を進める。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人材戦略の覚醒と革新</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■人材ポートフォリオを実現するための雇用慣行の見直し</strong><br />人材戦略としての人材ポートフォリオの策定には3つのステップがあります。まずは<strong>人材戦略の基本方針を策定</strong>したうえで、自社の特性に応じた<strong>人材タイプ(適性と個性)を類型化</strong>し、それを基に<strong>人材要件を決定</strong>します。そして、目標と現状のギャップを確認して、社内外での人材獲得の段階に移ります。</p>
<p>人材ポートフォリオに基づく人材獲得で考えるべきは、<strong>「採用慣行」「人事慣行」「雇用形態」</strong>の3つの雇用慣行です。それぞれの内容は、<strong>「人材属性」「キャリア形成」「正規度」</strong>に対応しています。これらの組み合わせにより、実際の雇用慣行が形成されます。このことを模式的に表現すると、以下のようになります。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/27/g2.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>図表2は、上記の雇用慣行を3軸図で表し、各軸にはそれぞれ日本企業が導入している新しい取り組みを記載しています。この3軸図で自社にふさわしい新しい採用・人事・雇用制度を考えることができます。なお、昭和的体質をもつ日本企業を上記の模式に当てはめると、次のようになります。<br /><strong>「昭和のおじさんシステム」の同質性集団における、典型的な雇用慣行</strong><br /><strong>＝〔日本人・男性・新卒者〕×〔メンバーシップ型人事〕×〔正社員〕</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2　「人材ポートフォリオ」を実現するための雇用慣行の3軸</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/27/g3.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(注1)各軸の要素は排他的ではない選択肢である。これら以外にも多様な要素が考えられ、それを「・」で示す。<br />(注2)3軸の要素の多様な組み合わせにより、さまざまな雇用慣行を形成する。<br />(注3)各軸の★は、「昭和のおじさんシステム」における雇用慣行の典型的な要素を示す。<br />(資料)筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br /><strong>「人は石垣、人は城、人は堀」</strong>は武田信玄の格言の一節です。また<strong>「企業は人なり」</strong>とも言います。日本企業が従業員とともに発展していくためには、人材多様性の本質を押さえて、昭和的な雇用慣行の抜本的な変革が不可欠です。次回からは雇用慣行の3軸について、変革方策の考え方や取り組み状況、課題を論じます。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>本コラム28のフルレポートは、株式会社Sinc 統合思考研究所の下記サイトを参照ください。</strong><br /><a href="https://sri-sinc.jp/knowledge/2024091901.html">https://sri-sinc.jp/knowledge/2024091901.html</a></p>
</div></div>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営28】人材多様性と人材ポートフォリオ(その1) ～人材多様性はとても非効率で面倒くさい！？～

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
<p><strong>SB国際会議2024東京・丸の内</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/10/g00_all.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>Day1　ブレイクアウト</strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>企業経営における「DE＆I」を中心に、人的資本の最大化に取り組む企業が昨今、増加し続けている。それは「多様な個性を最大限に生かすことこそが、組織の価値創出につながる」という認識が、主流になりつつあるからだ。企業や組織は、いかにして社会の生命線ともいえる人的資源を生かすことができるのか――。さまざまな業界から3人のパネリストたちが、企業側の取り組み事例などを交えた議論した。(清家直子)</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>ファシリテーター</strong><br />山岡仁美・サステナブル・ブランド国際会議D&amp;Iプロデューサー<br /><strong>パネリスト</strong><br />伊東祐司・LIFULL代表取締役社長執行役員　LIFULL HOME’S事業本部長<br />髙﨑邦子・JTB 執行役員 DEIB推進担当 コーポレートコミュニケーション・広報担当(CCO)<br />増渕颯音・Emunitas 取締役</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/10/g01_masu.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>増渕氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>冒頭、SB国際会議D&amp;Iプロデューサーの山岡仁美氏は、企業経営のキーワードは、「DE＆I(Diversity多様性、Equity公平性、Inclusion包括性)」から、ここに帰属を意味するBelongingの「B」を加えた「DEIB」に変容してきたと強調した。「DE&amp;Iに加え、組織や国に属している安心感や自己肯定感を持つことで、人はパフォーマンス力を上げられる。日本における唯一の資源と言える人的資本を生かしながら、未来に貢献したいと思える社会を描いていこう」とセッションを開始した。</p>
<p>「すべての人の可能性を証明する」というポリシーの下、外国人留学生と日本企業の協業事業などを行っているEmunitasの取締役を務める増渕颯音氏は、現役の大学生だ。増渕氏はまず、人材を単なる足し算にしないため、「1つ目は無駄かもしれない部分を含めて喜びを共有すること。2つ目は信頼するために自己開示をすること、3つ目は組織や国と自分を照らし合わせて、ステークホルダーとしての自覚を持つこと」の3つのポイントを挙げた。さらに価値の相対性にも着目し、「定量化できず必然性もないところにこそ、面白いことが生まれる余地があり、そこを大事にしたい」と述べた。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/10/g03_ito.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>伊東氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>続いて「あらゆるLIFEを、FULLに」という理念を掲げるLIFULL代表取締役社長執行役員の伊東祐司氏が登壇。同社は創業以来、「人がすべて」と人への投資を続け、企業文化をアップデートしてきた。D&amp;Iに取り組む企業を認定・表彰するD&amp;l AWARDの「D&amp;l AWARD賞」を2023年に獲得するなど、人を中心に据えた事業展開を強みとしている。</p>
<p>伊東氏は人的資源を守り生かすために、企業文化の設計や浸透に注力するほか、社員の内発的動機を大切にし、キャリア選択制度や社内副業制度を実施していると説明。健康診断やストレスチェックなど独自のスコアを導入し、社員のウェルビーイングにも目を配っているという。伊東氏は「社員のLIFEをFULLにすることは、顧客サービス向上につながると確信している」と語った。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/10/g02_taka.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>髙﨑氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>JTBは、「つなぐ、つなげる」をミッションに掲げている。同社、執行役員の髙﨑邦子氏は「旅行者と企業、地域と企業、地域と旅行者など、さまざまなステークホルダーをつなげることが、私たちの事業の礎」と強調する。</p>
<p>JTBグループがDEIBにおいて重視していることの1つが、事業の「可視化」だ。テーマ設定や指標、評価などについて緻密なKPIマネジメントを実施しており、「目指す先を明確にし、やること自体が目的とならないよう、整理して共有することを大切にしている。そのためにもKPIマネジメントによる可視化は不可欠。進捗を把握、見直しすることでこそ、次のステップに飛躍できる」と語った。</p>
<p>2社の話を受け、増渕氏は、「若者世代は大企業などの既得権益層に、漠然とした嫌悪感を持っている人が多い。この要因はおそらく、お二人が報告されたような活動が、各企業に浸透していないからだと思う。今後は世代間での対立構造を作らないよう、対話し、喜びを共有しながら社会を変えていくことが、僕たちの世代に任せられているのではないか」と話した。</p>
<p>伊東氏、髙﨑氏共に、対話やコミュニケーションの重要性に強く共感したようだ。加えて両氏は、「挑戦を阻害する雰囲気を取り払い、後押しするような心理的安全を確保したい。鍵になるのはやはりコミュニケーションだ」などと語り、若者や社員が挑戦できるための心理的安全性にも言及した。</p>
<p>こうしたやり取りを踏まえ、最後に山岡氏は「日本で唯一の強力な資源である人的資源を生かすためには、制度や施策を整えるだけでなく、日頃の慣習を見直したり、新たな文化を構築したりすることが必要だ。日常的なコミュニケーションを通じてお互いをリスペクトしつつ、多様なアプローチをしていこう」と締めくくった。</p>
</div>
</div>
</div>
<p></div>
<p></p>

SB国際会議

ニュース

サステナブル・ブランド国際会議2024

人を生かせずして企業は成り立たない――LIFULL、JTBらの取り組み

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～</strong><br /><strong>第27回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</strong></a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員　川村雅彦</strong></a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/07/kawamurasantop_1_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(第23-26回)は、ISSBとCSRDについてマテリアリティの観点から考察しました。今回は、<strong>「日本企業のかたち」である男性中心の同質性集団</strong>を取り上げます。日本企業の風土や体質には以前から違和感があったのですが、2冊の本<sup>※1、2</sup>(いずれも著者は女性)を読んだことで、自分なりの論点整理ができたからです。具体的には以下の3点です。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/07/zu01.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><sup>(※1)<strong>ルディー和子著『男子系企業の失敗』</strong>：日経BP、日本経済新聞出版、日経プレミアシリーズ、2023年11月刊<br />男子系企業の同質性と経営者資質に焦点。帯は、<strong>「役員には選ばれた。しかし、経営はできない」</strong><br />(※2)<strong>浜田敬子著『男性中心企業の終焉』</strong>：文芸春秋、文春新書、2022年10月刊<br />ジェンダー格差、働き方、組織に焦点。帯は、<strong>「経済停滞にあえぐジェンダー後進国からの脱却」</strong></sup></p>
<p>それにしても、<strong>「失われた30年」</strong>あるいは<strong>「停滞の30年」<sup>※3</sup></strong>を経た現在でも、その真因である<strong>「昭和のおじさんシステム」</strong>に依存している(ことに気づかない)日本企業の多さに驚きます。一方で、そこから脱却し、人材多様性を重んじる仕組みを構築し、新しい戦略を展開する企業が登場してきたことも事実です。</p>
<p><sup>(※3)バブル経済崩壊後の1990年代初頭から2020年代初頭までの30年間をさす。</sup></p>
<p>実は、<strong>筆者はどっぷり「昭和のおじさん」</strong>です。昭和51年(1976年)に修士修了、同時に就職し、「失われた30年」も体験しました。またエンジニアリング会社からシンクタンクに転職したことで、会社によって企業風土や価値観が異なることを実感しています。本稿は筆者自らの感覚もたどりながら筆を進めます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>見えてきた「日本企業のかたち」</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■「男子系企業の失敗」とは、どういうことか？</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>『男子系企業の失敗』(以下、同書)は、行動経済学や社会心理学あるいは脳科学の知見を踏まえた、日本企業の体質や経営者の資質に関する示唆に富む批判の書です。<strong>「失われた30年」をもたらした真因は同質性の男子系企業にある</strong>、悪いことに<strong>メンバーの多くはそれに気づいていない</strong>、と明言しています。</p>
<p>同書の言う<strong>「男子系企業」とは、経歴や考え方が似通った同質性の高い中高年男性が経営の主導権を握る企業</strong>のことです。それでは、日本企業における「男子系企業の失敗」とは、具体的にはどのようなことでしょうか。筆者の理解では、以下の連鎖する4事象です。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/07/zu02.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■同質性の高い男性中心の日本企業の特徴</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>同質性の高い男性中心の日本企業の典型的な特徴は、<strong>「内向きの集団思考」</strong>です。それゆえ、自己集団の属性や暗黙知に属さない<strong>「はずれ者」を意図的に排除する傾向</strong>があります。図表1は、筆者の経験も踏まえて、日本企業の特徴を〔思考パターン〕と〔行動パターン〕に分けて模式的に示したものです。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1：日本企業に特徴的な男性中心の同質性集団の思考と行動</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/07/zu03.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(注)各事象は必ずしも意図的なものではなく、<strong>「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」</strong>のことが多い。<br />(資料)『男子系企業の失敗』と『男性中心企業の終焉』に触発されて筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>〔同質性集団の思考パターン〕</strong><br /><strong>・現状維持志向</strong>：変化や未知なるものへの抵抗感から、現在の事業や慣行に固執する心理的傾向<br /><strong>・前例主義</strong>：現状変更や説明責任を避けるために、合理的な検証をせずに前例を踏襲する考え方<br /><strong>・減点主義</strong>：失敗すると評価が下がるため、いかに失敗をしないかを重視して挑戦を避ける考え方<br /><strong>・リスク回避主義</strong>：将来の不確実性回避を優先し、機会を犠牲にしてでもリスクを選択しない考え方</p>
<p><strong>〔同質性集団の行動パターン〕</strong><br /><strong>・同質性競争(横並び)</strong>：同業他社は広義の「内者」であり、互いに他社の動きに同調することを是とする<br /><strong>・「戦略」でなく「反応」</strong>：近視眼的な他社模倣は「戦略」ではなく、リスク回避の安易な「反応」にすぎない<br /><strong>・「改革」でなく「改善」</strong>：現状維持志向の強さゆえ、「構造改革」と称して単なる「改善型経営」に徹する<br /><strong>・説明無責任の連鎖</strong>：同質性集団で内部昇格した歴代経営者は、「前例と同調」以外の説明をしない</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■この30年、日本企業は何もしなかった訳ではないが・・・・・・</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本企業は改善型経営に徹しましたが、バブル崩壊後30年間に何もしなかった訳ではありません。バブル崩壊直後の対処は間違っていませんでした。3つの過剰(債務・設備・雇用)が喫緊の課題であり、<strong>研究開発を含む設備投資や人件費の削減は急務</strong>だったのです。<strong>問題は、それを長く続け過ぎたこと</strong>です。</p>
<p>財務省「法人企業統計調査」から過去30年間を概観すると、売上高が微増する中で経常利益は2倍弱となり、内部留保(利益剰余金)は増え続けて4倍を超えました。これは、<strong>日本企業が長期にわたりコスト削減のみを是として、未来のための投資もせず社員の賃金も上げずに、儲けをため込んだことの証左</strong>です。</p>
<p>実態は、<strong>新入社員から内部昇進で上り詰めた同質性の高い男性の社長や経営者には、革新的な製品・サービスの開発や新しいビジネスモデルへの挑戦は考えるべくもなかった、</strong>ということになります。その意味で、最近の株価上昇は、株主還元(高配当と自社株買い)を増やした結果にすぎないという指摘があります。</p>
<p><sup>(参考資料)伊丹敬之「人件費と設備投資 増やす時」日本経済新聞、経済教室、2024年4月1日</sup></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「昭和のおじさんシステム」は、いかに形成されたのか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■いまなお根強く残る「昭和のおじさんシステム」</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>本稿では、<strong>「失われた30年」の原因となった「日本企業のかたち」の実相を「昭和のおじさんシステム」</strong>と呼ぶことにします。実際、それはどのようなもので、いつ、どのように形成されたのでしょうか。図表2は、高度成長期に定着した<strong>雇用・人事制度</strong>を土台にして、<strong>事業現場の常識</strong>、さらに<strong>監督と執行の曖昧さ</strong>の3階層に分けて表現したものです。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2：いまなお日本企業に残る「昭和のおじさんシステム」</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/06/07/zu04.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)『男子系企業の失敗』と『男性中心企業の終焉』に触発されて筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■雇用・人事制度が作った男性中心の同質性集団</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>同書では日本企業の同質性は、戦後に始まった<strong>終身雇用制</strong>と高度成長期に本格化した男子学生の<strong>新卒大量一括採用制</strong>が組み合わさって強固になったとしています。そして、<strong>年功序列の人事制度</strong>が定着し、1970年代後半には<strong>「男性＝総合職＋世帯主」</strong>を前提に、男性中心の同質性集団が形成されたようです。</p>
<p>事業現場では<strong>「男は仕事、女は家庭」</strong>を是とする諸制度ができ上がりました。転職は一般的でなく、<strong>男性社員(多くは総合職)</strong>は「家族を守る」ために、満足できない職場であっても辞めることができず、長時間を厭わず働きました。社員教育はOJTが基本で、<strong>中間管理職</strong>は現場オペレーション上がりの男性社員から選ばれました。</p>
<p><strong>女性社員の多くは一般職</strong>(総合職の補助で、管理職候補にあらず)として採用され、数年以内の<strong>「寿退社</strong>(結婚を機に退職)<strong>」</strong>が当たり前でした。1985年に男女雇用機会均等法が成立したものの、日本企業には女性社員の能力開発やキャリア向上に努める意欲は乏しかったようです。詳しくは、『男性中心企業の終焉』に書かれています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「素人の経営者」は、いかに生み出されたのか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■男性のサラリーマン社長と社内取締役</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本企業の経営トップは、今でも多くが<strong>内部昇進の男性サラリーマン社長</strong>です。「彼」を支えるのは、同世代で考え方が似通った、<strong>現場オペレーションで成功した男性執行役(員)から成る経営会議</strong>です。この同質で視野の狭い経営態勢では、大胆な戦略目標を掲げて事業変革を断行するなど考えたこともなかったと思います。</p>
<p>一方、<strong>執行を監督すべき取締役会も、その大半を内向き思考の男性社内取締役</strong>が占めてきました。それゆえ、上程案件の形式的承認に主眼があり、企業価値に関する議論は皆無に近いものでした。つまり、長期戦略とリスクマネジメントを含めて、長らく日本企業のコーポレート・ガバナンスは機能してきませんでした。</p>
<p>このように考えると、<strong>「素人の経営者」を生み出したのは「昭和のおじさんシステム」そのもの</strong>です。ここで密接に関連する、日本企業特有の経営上の慣習(ガラパゴス化現象)を2つ取り上げます。どちらも筆者がサステナビリティと統合報告書の国際比較をしていた時に気づいたことです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■中期経営計画(中計)は日本企業だけ</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>海外企業に「中計」はありません。</strong>任意ながら、日本企業の多くは3年程度の中計を誇らしげに開示しますが、当面の施策と売上高などの達成目標の説明にすぎません。味の素は2023年に社長主導で、<strong>数値目標のみを追う「中計病」から脱却すべく中計を廃止</strong>し、「中期ASV経営2030ロードマップ」を公表しました。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv3">
<div>
<h3>■ミドルアップ型経営は「待ちの経営」</h3>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>トップダウン型の欧米企業とは異なり、日本企業では業界横並びで既存路線を踏襲することが多く、新企画には<strong>中間層が提案し判断を仰ぐ「ミドルアップ型経営」</strong>が定着しています。社長から承諾を得る時の決めセリフは、<strong>「A社もやってます」</strong>です。これではVUCA時代に戦略的に適応することはできません。</p>
<p><strong>日本企業の「常識」ともいえる「昭和のおじさんシステム」は、1970年代後半には完成</strong>したとみられます。高度成長が終焉した1980年代、1990年代初頭のバブル崩壊を経てもなお、それが温存された結果、<strong>「変えられないサラリーマン社長」と「監督できない社内取締役」の再生産が30年も続く</strong>ことになったのです。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>「JTC(Japanese Traditional Company：伝統的日本企業)」</strong>という言葉があります。これは、「昭和のおじさんシステム」を抱え込んだままの日本企業そのものゆえ、今まさに問われているのは変革への本気度です。次回は<strong>「人材多様性と人材ポートフォリオ(その1)～人材多様性はとても非効率で面倒くさい!？～」</strong>として<strong>人材多様性の意味</strong>を論じます。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p>(つづく)</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>本コラム27</strong><strong>(</strong><strong>前編</strong><strong>)</strong><strong>のフルレポートは、サンメッセ総合研究所</strong><strong>(</strong><strong>Sinc</strong><strong>)</strong><strong>の下記サイトを参照ください。</strong><br /><a href="https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2024052701.html">https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2024052701.html</a></p>
</div></div>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営27】「失われた30年」と「昭和のおじさんシステム」～日本企業は同質性集団が最大の経営リスク！！～

依光隆明

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
<p><strong>SB国際会議2024東京・丸の内</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/23/jinteki800_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_block color">
<p class="heading">Day2　ブレイクアウト</p>
<div class="inner"> </div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>2030年や2050年の中長期的なビジョンに向けて、企業が新たな価値を創出していく上で、いかに「人」を育成し、そこに投資していくかが問われている。本セッションでは、先進企業2社の試みと、経営コンサルの知見をもとに真の「人的資本経営」のヒントを探った。そこから見えてきたのは、事業変革を成し遂げるには、どんなスキルを持った人がどれだけ必要なのかという、人財の“未来予想”をまずは描き、社員一人一人との対話を強化していくことの重要性だ。(依光隆明)</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>ファシリテーター</strong><br />田中信康・SB国際会議ESGプロデューサー<br /><strong>パネリスト</strong><br />川田辰己・住友林業 代表取締役 執行役員副社長<br />久保田勇輝・アビームコンサルティング 戦略ビジネスユニット 執行役員 プリンシパル<br />村上久乃・ベネッセホールディングス 執行役員 CHRO(Chief Human Resource Officer) 人財・総務本部長</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>初めに、ファシリテーターの田中信康氏が「2023年3月期から開示が義務化されてはや1年がたった。人的資本経営は次の時代を担う重要課題の一つだ。ビジョンあるいはパーパスに人的資本をどう連動させるのか」と問題を整理。先進的に取り組む2社から事例を聞いた。</p>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/23/murakami.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>村上氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>ベネッセホールディングスの村上久乃氏は、2022年時点で事業収入の98%を教育と介護が占める同社が、大学生や社会人を対象とする事業などによる「新領域」に力を入れ、その収入割合を2028年に向けて30%にまで伸ばす目標を掲げていることを報告。「今はたった2%に過ぎないこの新領域を5年で3割に持っていくのは大きな挑戦。一歩一歩積み上げても到達できず、バックキャストで考えなければならない」と説明し、そのために「マネジメントのすべてを大きく変えよう」としていることを明らかにした。</p>
<p>事業ポートフォリオを変革するには、人財のポートフォリオも大きく変えなくてはいけない。村上氏は、「一番変えようとしているのは社員と会社の関係」として、「社員一人一人が伸びていきたい方向と会社の方向が合うポイントをすり合わせながら、互いが選び、選ばれる関係に変えていく。社員の成長が事業の成長につながる未来をつくる」と強調し、具体的には職種の分類やスキルの可視化などに取り組んでいることに言及した。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/23/kawada.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>川田氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>次に、住友林業の川田辰己氏は、同社の2030年を見据えた長期ビジョン「Mission TREEING 2030」の中心となる「ウッドサイクル」を紹介。「森林の保有面積を2030年には国内外で50万ヘクタールにまで増やし、そこから国産材100万立方メートルを伐採・加工、年間5万戸の住宅を建築し、供給する。さらにバイオリファイナリーや再エネにつなげる」という循環型森林ビジネスを加速させているという。</p>
<p>その上で川田氏は、「このウッドサイクルを回すエンジンは人材以外にない」と力を込め、「事業の変革と創造を担う人材の確保・育成」と「社員のパフォーマンスを最大化する仕組みと自由闊達(かったつ)な企業風土」、そしてそれらのベースになる「健康経営の推進」の3つを柱に取り組み、今年1月には高度専門人材を採用するための特別加給制度やプロフェッショナル制度の導入に踏み切ったことを報告した。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>そうした取り組みを進める中では、「上司のマネジメントスキルをどう上げるか」「皆が自由に意見を出し、イノベーションにつながっていくような組織風土をどうつくるか」といったところに大きな課題を感じているようだ。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>“DX人材”を1000人雇ったところで、DXができるわけではない</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/04/23/kubota.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>久保田氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>一方、アビームコンサルティングの久保田勇輝氏は、最初に、20年以上、“人事コンサルティング”に携わってきた立場から、ここ数年の人材確保を巡る変化を「人事コンサルの枠を超えていかないと、クライアントの支援ができないほど、複雑化してきた」と指摘。</p>
<p>世界のCEOの考える優先課題は、「成長が49%、テクノロジーが34%、従業員が32%」とする数字を示した上で、「DXの推進によって生産性を高めるとともに、人材に対して投資をし、その人たちの力を最大限に発揮しないと、事業ポートフォリオの変革はできないという認識が(世界のCEOの考えの)中核にある」と述べた。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>さらに久保田氏は、「“DX人材”を1000人雇ったところで、DXができるわけではない。どういった人材が何人必要なのかといったところまで議論をしないと、価値向上には至らない」と強調。いま、人材確保に必要な視点は、「事業戦略が5年後、10年後どうなるか、どんな人がどれだけ必要か」という“未来予想”の解像度を高め、「人材を量ではなく、質で捉えることだ」という。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ここで田中氏が会社の事業戦略と社員一人一人の方向性をいわば、すり合わせていくことの難しさに触れ、「浸透させていくにはすごく時間もかかる。悩みもあるのでは？」と2社に問いかけた。</p>
<p>これに対し、川田氏は「社員満足度調査の結果、8割が満足しているという結果が出ても、一人一人が満足しているかどうかは分からない。マネジャー層が丁寧にコミュニケーションを取っていくしかない」、村上氏も「組織の変革には管理職層の変革が肝」とした上で「一人一人がやってみたいこととできること、周囲から見たその人の特性、そして会社の目指す方向性を対話しながら、認識を合わせていく。人事としてもそこをサポートする仕組みを喫緊に強化していかねばならない」と答えた。</p>
<p>人的資本の強化を図りながらパーパスの実現を目指す、ベネッセの試みは、始まったばかりだ。村上氏は「(社の期待と自分の希望が)ドンピシャではないという社員も会社にとってはとても重要なメンバー。本当にミクロで向き合い、それを繰り返して方向転換していく」と語り、田中氏は「非常にチャレンジングな目標だ。期待している」とエールを送った。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

事業変革を成し遂げる人的資本経営とは――人財の “未来予想”が鍵に

眞崎裕史

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
<p><strong>SB国際会議2024東京・丸の内</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/03/31/sx800_1.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>左から大谷氏、吉川氏、牧氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_block color">
<p class="heading">Day2　プレナリー</p>
<div class="inner"> </div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>サステナビリティの推進は今や企業、ブランドにとって当然だが、「真のサステナビリティ経営」を実現するのはそう容易ではない。トップダウンで浸透させるだけでなく、組織横断型のコミュニケーションを進め、サステナビリティと経営をしっかりと統合させるには、どのような課題やジレンマ、試行錯誤があるのか――。グローバル企業3社の取り組みに、そのヒントを見る。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>ファシリテーター</strong><br />田中信康・SB国際会議ESGプロデューサー<br /><strong>パネリスト</strong><br />大谷純子・花王 ESG部門 ESG戦略部 部長<br />牧陽子・日本マクドナルド サステナビリティ&amp;ESG部 部長<br />吉川美奈子・アシックス エグゼクティブアドバイザー</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>セッションは冒頭、ファシリテーターの田中信康氏が「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の時代と言われるようになって数年が経ち、企業は変革の一途にある」と前置き。その上で、登壇者に対し、各社が「今、どんなふうに変わってきているか」と質問を投げかけ、スタートした。</p>
<p>これに対して、花王の大谷純子氏はストラッグル(葛藤)、試行錯誤という言葉を何度も重ねつつ、花王がミッションとする「豊かな共生世界の実現」に根差した活動を大事にしてきたことを語った。同社の商品はライフスタイルのさまざまな場面に関係しており、「事業活動そのものがサステナブルな社会の実現につながる」との思いがあるからだ。昨年公表した中期経営計画「K27」では「持続可能な社会に欠かせない企業になる」を基本方針として掲げ、長谷部佳宏社長の旗振りのもと、現場が奮闘しているところだという。</p>
<p>アシックスの吉川美奈子氏は「12年前はサステナビリティの方針自体もなかったが、ここ3年でガガガッと音がするぐらい経営に統合されてきた」とし、長期ビジョンや中期経営計画の中にサステナビリティ推進が位置付けられたことが大きい、と分析。具体的には、経営会議の常連トピックにサステナビリティの議題を入れ、経営計画の作成時にはサステナビリティの目標を盛り込むよう徹底してきたと言い、この間の流れを、「経営戦略に落とし込んだ後に、仕組み化し、企業文化にしてきた」と説明。このサイクルが回り続けることで「真の経営統合につながるのではないか」と続けた。</p>
<p>サステナビリティの浸透については、日本マクドナルドの牧陽子氏も「ここ数年かなり加速している印象」と述べる一方、変わらない「短期的な利益志向」を課題として指摘した。牧氏自身は職場を移しながらも、サステナビリティやCSRに20年以上関わってきた経験があり、「社会や環境への配慮なくして企業価値の向上はあり得ない」と強く信じる。その上でサステナビリティへの取り組みのキーワードとして、「長期的」「マイノリティ」「自分事」の3つを挙げ、経営層や他部署などに対して真摯(しんし)なコミュニケーションを重ねる重要性を強調した。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>サステナビリティを推進する上で、グローバルとローカルの関係は</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>次に話題は、サステナビリティを推進する上で、グローバルとローカルの関係はどのように考えれば良いかというテーマに移り、大谷氏は「サステナビリティ戦略はグローバル共通であるべきだ」とする一方、「社会課題への対応はローカルで」と強調。具体例として、蚊を寄せつけない商品はマラリアやデング熱の被害の大きい国で展開しているとし、「気候変動で温暖化が進むと、蚊が生息するエリアも変わるだろう。ビジネスチャンスとしても広がりが出てくる」との見方も示した。</p>
<p>一方、アシックスは売上高の8割を海外が占め、吉川氏によると、「欧州のグリーン成長戦略に合った世界戦略を立てていくことを基本にしている」という。それは決して欧州を中心に考えているのではなく、サステナビリティを巡るさまざまな規制など、「欧州の経営環境を世界の先端と捉え、そこに合わせた戦略を本社としてしっかりと出し、それをローカルへと広げていくのがうちのやり方だ」と吉川氏は強調した。</p>
<p>また、言うまでもなく巨大なグローバル企業のマクドナルドの経営戦略について、牧氏は、「環境のイシューは本国からトップダウンで、社会のイシューはローカル主体で取り組むのが基本方針」と説明。環境面では「2030年までに2018年比で温室効果ガスを50.4%削減」というグローバルの中間目標を発表したばかりだが、一時期、日本で話題となった「レジ袋有料化」は、日本のローカルルールとして認められたものだという。そこには、グローバルで進める手提げ紙袋への移行が日本ではすぐには困難との判断があったといい、牧氏は「各マーケットのローカルな事情をデータや慣習とともに熱心に伝え、認めてもらう」ことも、サステナビリティを前に進める一つの方策ではないかと力説した。</p>
<p>セッション後半では、田中氏が「多様な人財」の重要性を指摘し、「お客さまの多様性が増す中で、クルー自体が多様性に富んでいることは、われわれのビジネスの強みだ」(牧氏)、「現場から上がったアイデアを不確実性の高いものであっても潰さず、実現化するまで経営としてコミットし、CO2排出量が世界最少のスニーカーの発売につなげた」(吉川氏)、「多様な社員がそれぞれの持ち場で挑戦している。みなさんが手に取る商品は、実は社員一人一人の熱い思いで作られている」(大谷氏)と、それぞれが「人にかける思い」を熱く述べる場面も。「真のサステナビリティ経営」への道は確かに平坦ではないが、さまざまな葛藤や失敗、試行錯誤の積み重ねがあって初めて、それは実現するに違いない。そう実感したセッションとなった。(眞崎裕史)</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

KEYWORDS

#人的資本経営

KEYWORDS キーワードから探す