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地球を脅かす危機は激しさを増し、気候変動による取り返しのつかない事態は目前だと科学者は危惧する。前途多難なさなか、世界経済フォーラムが希望を見出せる報告書を発表した。対応の遅れは多額の損失につながると断言する一方で、企業の取り組み次第では気候レジリエンスを構築して長期的な経済価値を得るための道は残されていると述べ、その青写真を描いている。(翻訳・編集=遠藤康子)
気候変動に起因する社会的、健康的、経済的な危機が私たちを待ち受けている。そうした問題を浮き彫りにする研究結果や報告書が2024年の年末2カ月間だけでも相次いで発表された。しかし、その危機をうまく生かせば企業が膨大な経済的チャンスを手にできることも、明らかにされている。
・国際NGOで世界の企業の気候変動や森林保全などにおける取り組みを分析・評価する英CDPによると、世界のトップ500社が気候変動への取り組みで入手し得る潜在的利益は、推定でおよそ5兆ドル(約719兆円)だという。この額は2018年からの6年で2倍以上に増えた。
・生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)は2024年12月に報告書を発表し、「生物多様性の喪失」「水の安全保障」「食料の安全保障」「健康危機」「気候変動」という喫緊の5大危機への対応策を戦略的かつ並行的に進めていけば、膨大な経済的恩恵が得られると同時に人類の長期的な生存確率も上昇すると主張した。その一方で、5大危機に対して別々に対策を講じたり、対応が10年でも遅れたりすれば、年間5000億ドル(約79兆円)もの損失が追加で生じるだろうと警告した。
世界経済フォーラムも報告書を発表
世界経済フォーラム(WEF)も12月に2つの最新報告書を発表し、企業が直ちに行動を起こして高まる気候リスクに立ち向かわなければ、膨大な財務的損失が生じると断言している(対策が遅れれば、2035年までに年間収益が最大7%減少する恐れがある。これは、コロナ禍と同水準の混乱が2年に1度発生した場合と同等の影響規模だ)。WEFの最新報告書はまた、企業向けの青写真として、気候リスクを乗り越え、脱炭素、自然保護、気候適応、気候レジリエンスの構築を通じた長期的な経済価値の獲得への道筋を示している。
WEFが発表した1つ目の報告書は、アクセンチュアの協力を得て作成された「Business on the Edge: Building Industry Resilience to Climate Hazards(絶体絶命のビジネス:産業における気候災害レジリエンスの構築)」だ。この報告書によれば、異常気象をはじめとした気候災害によって上場企業が失う固定資産の損失額は、2035年までに年間5600億~6100億ドル(約88兆~96兆円)に上る見込みだ。最大の打撃を受けるのは電気通信事業、公益事業、エネルギー企業だという。また、世界では気候規制の強化が進んでいるため、炭素集約型セクターの企業が脱炭素に失敗した場合は移行リスクが山積し、2030年までにカーボンプライシングだけで収益の最大50%が失われる可能性があるとしている。
こうしたリスクと、それによってサプライチェーンと地域社会が被るマイナスの波及効果を考えると、気候レジリエンスの戦略がいかに不可欠であるかは歴然としている。
その半面、気候適応、気候レジリエンス、脱炭素に投資している企業はすでに具体的な見返りを手にしている。WEFが発表した2つ目の報告書「The Cost of Inaction: A CEO Guide to Navigating Climate Risk(無行動のコスト:気候リスクをナビゲートするCEOのためのガイド)」では、気候適応と気候レジリエンスに1ドルを投資するたびに回避できる損失額は19ドルである(CDPのデータに基づいて算出)ことが示された。
この報告書は、世界のCEO131人が参加するWEFの「CEO気候リーダー・アライアンス」がボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の協力を得て作成したものだ。その土台になっているのは、気候アクション戦略に積極的に取り組む企業は脱炭素によって年間収益の7%以上に相当する利益を得ており、年間で平均2億ドル(約316億円)の純利益を得ているとする、BCGが2024年に発表した研究結果だ。この報告書には、CEOとその企業がこうした気候変動を巡る機会を生かす上で参考にできる青写真が盛り込まれている。
厳しい現実の中にも希望の光が
ポツダム気候影響研究所のヨハン・ロックストローム氏を含む一流科学者らは、氷床や永久凍土などを含む気候ティッピングポイント(転換点)の5項目は、一刻の猶予も許されない状態だと警鐘を鳴らしている。確かに、これらのティッピングポイントと気候災害を裏付ける科学的根拠は憂慮すべき内容だが、これを実利的なビジネスリスクに置き換えることは容易ではない。その隔たりを埋める目的で発表されたのがWEFの2つの最新報告書であり、ビジネスリーダーにとっては、ステークホルダー価値の保護と強じんな社会の構築を推進するための基礎となるものだ。研究結果の土台となった方法論、情報源、データセットについての詳細も両報告書で示されている。
数々のリスクがあるとはいえ、将来を見据えてビジネスに臨めば、大きく成長できる機会が秘められている。グリーン市場の世界規模は、2024年の5兆ドル(約791兆円)から2030年には14兆ドル(約2215兆円)と成長する見込みだ。早期に市場参入すれば、クリーンテックの解決策と適応策を通じて競争的優位に立てるだろう。グリーン市場は幅広いセクターとバリューチェーンにまたがっており、最大を誇るのは代替エネルギー(49%)だ。持続可能な輸送(16%)と持続可能な消費財(13%)がそれに続き、いずれもGDPをはるかに上回る勢いで成長している。
世界経済フォーラム取締役のギム・フエイ・ネオ氏は、「先頭に立ってネットゼロ移行とネイチャーポジティブに向けた解決策に取り組む先駆者らを見れば、企業が環境を改善して地域社会を支援しながら、価値を創造することが可能であると分かります」と話す。「気候関連のリスクと機会に全体的かつ体系的に取り組めば、企業はより強く持続可能な事業を構築し、生態系を保存・回復することが可能ですし、世界がいっそう複雑で不透明となりつつあっても、長期にわたって経済的・社会的強じんさを育むことができるでしょう」