![]() Image credit: Harry Gillen
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IBMと世界大都市気候先導グループ(C40)は、猛暑やヒートアイランド現象によって発生する可能性のある、潜在的なリスクを分析するためのデータ駆動型でAIを用いた解決策を共同で開発する。両者は、C40の都市がエネルギー資源のひっ迫、死亡率の増加、社会経済格差などのリスクを分析し、国民の健康リスクや経済的負担を緩和するのに役立つ適応戦略を立てられるようにすることを目指している。(翻訳・編集=小松はるか)
C40は、世界の約100の主要都市の首長が気候危機に立ち向かうために団結する国際ネットワーク。IBMとC40は、IBMの社会貢献プログラム「IBMサステナビリティー・アクセラレーター」を通じて、世界の都市で革新的な気候変動対策を拡大するために連携する。
今回のプロジェクトでは、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」に沿って、都市のレジリエンスを高め、都市コミュニティが直面する特定の気候関連の課題に取り組むためのAIソリューションを生み出す計画だ。
2024年8月は観測史上最も暑い月となり、1880年に世界規模での観測が始まって以来最も暑い夏だった。WHO(世界保健機関)によると、熱中症は世界の気候関連死の主な要因であり、都市に暮らす人々は特に影響を受けている。典型的なコンクリート・ジャングルは緑地が少なく、熱を吸収するコンクリートの構造物や道路に覆われているためだ。
一方で、ヒートアイランド現象の緩和を促すために、都市の木陰を増やし、都市の人々が緑地を利用できるよう支援し、建物や舗装エリアに太陽熱を反射する塗装を施すなどして、都市の課題に取り組む組織は増えている。また、都市の気候レジリエンス(気候変動に対する強じん性)や健康の公平性を向上するのに役立つ新たな研究やフレームワークが生まれているものの、断片的な取り組みにとどまっている。
「都市は酷暑危機の最前線にいます」とC40事務局長のマーク・ワッツ氏は主張する。
「私たちは、IBMサステナビリティー・アクセラレーターとの連携により、AIを使ったソリューションを利用して、リスクを分析し、レジリエンスを強化し、最も脆弱(ぜいじゃく)なコミュニティの保護を支援する、かつてない機会を手にしています。
C40では、首長が十分な情報を得たうえで意思決定を行い、有意義な気候変動対策を促進するために、最適なデータとツールを手に入れられるよう尽力しています。世界の都市が気温上昇に適応し、より持続可能な未来を構築できるよう支援する、革新的な戦略を策定するべくIBMと連携することを楽しみにしています」
2024年の初め、IBMは都市のレジリエンスを向上させるためのテクノロジー事業の提案を、非営利組織や政府組織から募集した。100を超える応募があったなか、C40はIBMサステナビリティー・アクセラレーターに新たに仲間入りする5つの組織の一つに選ばれた。
5つの組織は、それぞれの組織がAIを活用して都市のレジリエンスを高めるために計画している革新的な方法や、コミュニティへの支援のレベルの重要さに応じて選ばれた。各組織は最大300万ドル(約4億4800万円)の現金と、テクノロジーやサービスといった金銭以外の寄付を受け取る。
最近、米国が直面している連邦レベルの気候変動関連の政策と優先順位の完全な転換にもかかわらず、C40に参加する首長らは、多くの政府や企業のリーダーとともに意義のある気候変動対策への誓約を再確認した。
米国のClimate Mayors(クライメート・メイヤーズ:気候変動を推進する超党派の首長ネットワーク)の議長で、C40の副議長をつとめるアリゾナ州フェニックス市の市長ケイト・ガレゴ氏が話すとおり、「連邦政府の動きに関わらず、首長はパリ協定への制約を撤回することはない。何もしないことによる代償があまりに大きい」のだ。
「ロサンゼルスの壊滅的な山火事、フェニックス市の夏の極端な温度、そしてノースカロライナ州やフロリダ州を直撃した大型ハリケーンを考えると、気候変動の影響は目の前に迫っています。有権者は、首長が現状に必要な対策を講じ、意義のある解決策を取ることを期待しています。だからこそ、私たちは、慈善活動家や企業経営者、議会や政府の一員に至るまで、全米でパートナーとの連携を拡大しているのです。現在、パリ協定の下で目標を達成し、各都市がレジリエントで将来世代にとって豊かな場所であり続けられるよう、実行計画を立てているところです」
IBMサステナビリティー・アクセラレーターは、ハイブリッドクラウドやAIなど、IBMの技術と専門家の連携によって、非営利組織や政府組織の取り組みを拡大する社会イノベーション事業で、気候変動がもたらす悪影響に脆弱なコミュニティへの経済的効果を加速させるものだ。これまでに「持続可能な農業」「クリーンエネルギー」「水管理」「レジリエントな都市」の4領域にまたがる20件のグローバルプロジェクトを支援してきている。
IBMのバイス・プレジデント兼チーフ・インパクト・オフィサーのジャスティナ・ニクソン・サンティル氏は「AIは、世界中のコミュニティに新たな経済とイノベーションの時代をもたらす可能性を秘めており、人々が今日と明日の課題に立ち向かう手助けをします。私たちは、人々の生活を向上させるこうした可能性の多くが転換する都市のなかに存在していると考えており、これこそが私たちのAI技術と専門知識を用いて実現を目指しているものです」と言う。
IBMとC40は2年にわたり協働する。第1段階では、デジタルトランスフォーメーションを加速させ、有意義で測定可能な成果を出すためのIBMのプログラム「IBM Garage」を活用する。次の開発・実装の段階では、IBMの専門家らが、目標を達成するのに役立ち、地域社会への試験的な展開を支援し、さらなる拡大を促進するためにIBMのリソースやテクノロジーを構成する計画だ。