![]() |
アサヒビール、キリンビール、サッポロビール、サントリーの4社はこのほど、2025年2月以降、缶ビールの蓋(ふた)に、製造時に発生する温室効果ガス(GHG)排出量が現行品に比べて約4割少ない蓋を採用すると発表した。各社はそれぞれにアルミ缶の軽量化を進め、リサイクル率を上げるなど環境負荷低減に力を入れているが、4社が同じ素材を採り入れるのは初めてで、脱炭素社会の実現に向けた飲料業界の決意が表れた動きと言える。(廣末智子)
メーカー2社が共同開発、缶蓋のリサイクル原料を大幅に増やす
4社が缶ビールの蓋に採り入れるのは、アルミ缶の胴と蓋部分を加工する総合容器メーカーの東洋製罐(東京・品川)と、アルミニウム総合メーカーのUACJ(東京・千代田)が、2023年12月に“次世代飲料缶用蓋”として共同開発した、「EcoEnd(エコエンド)」。東洋製罐とUACJは、アルミ缶水平リサイクルの促進と、飲料容器サプライチェーン全体のGHG排出量の削減を目指して協業している。
両社などによると、現行の缶の蓋は、材料の加工性や強度を確保するために多くの「アルミニウム新地金(じがね)※」を使用することが通例となっている。しかしそれでは、製造時に大量の電力を使用するため、多くのGHGを排出することが問題とされていた。
これに対しEcoEndは、UACJによる材料製造技術と、東洋製罐による蓋の成形技術とを組み合わせることで、現行の蓋と同等の品質を担保しつつ、新地金の使用量を41%減らし、リサイクル原料を75%と大幅に増やすことに成功。アルミの製造はリサイクル原料を使用した場合、新地金に比べて排出量が約3%で済むことから、現行の缶蓋と比較して、製造時に排出するGHGの約4割削減を実現した。
![]() 「EcoEnd」の開発による、新たなアルミ材の循環フローを表した図(東洋製罐グループホールディングスのリリースより)
|
東洋製罐の調べによると、EcoEndの蓋10億枚当たりの排出量は現行の蓋に比べて約1.3万トン削減され、同社が国内で販売する現行の飲料缶の蓋がすべてEcoEndに置き換わった場合、排出量は年間約14万トン削減される見込み(2019年度製造実績を基に算定)という。
※原料鉱石のボーキサイトから精製したアルミナを電気分解により製錬し、アルミニウムの純度を99.70%以上に高めたアルミ製品用の原材料のこと
飲料業界、流通量の多いビール類から新蓋に切り替え、今後、ビール以外にも
一方、飲料メーカー各社もそれぞれにアルミ缶製品のライフサイクルにおけるスコープ3の排出量削減に向け、缶の軽量化やリサイクル素材の採用に取り組んできた経緯がある(関連記事=サントリー、スコープ3削減へ 世界初の100%リサイクルアルミ缶ビールを実現)。そうした中、今回のように共通の素材を一斉に採り入れるのは初めてで、業界全体で2050年ネットゼロを見据え、新たな一歩を踏み出したかたちだ。
各社によると、持続可能な社会の実現に向けて業界を挙げて取り組むべく、2025年2月以降、流通量の多いビール類から順次、一部の商品の蓋をEcoEndに切り替え、今後、「ビール類以外の商品への採用も各社ごとに検討していく」という。
次世代の飲料缶用の蓋として国際的にも高い評価
EcoEndは、金属包装業界における技術の開発や革新を称える国際的な賞として、英国の専門誌「The Canmaker Magazine」が主催する「The Canmaker Cans of the Year Awards2024」で、蓋部門の金賞を受賞。さらに持続可能な社会の実現に資する製品に贈られるサステナビリティ部門の賞にノミネートされた全部門の製品の中から唯一選ばれるなど、次世代の飲料缶用の蓋として、世界の中でも高い評価を得ている。
今回、ビールメーカー4社が揃って蓋の採用を決めたことについて、東洋製罐 テクニカルセンター 主幹の高橋成也氏は、「これまでの缶蓋の常識を覆す挑戦にUACJ社と共に取り組み、リサイクル原料を缶蓋に循環させることを実現した。この蓋を4社が共同で採用してくれるというメッセージはとてもうれしく、同時に身の引き締まる思いだ。今後も、さらに多くのお客さまに採用いただけるよう、ビール類以外の蓋技術の確立を進め、GHG排出量削減と、持続可能な循環型社会の実現に貢献していきたい」と話す。
国内の飲料業界において、使用済みペットボトルを再度ペットボトルへと再生する、「ボトルtoボトル」が進むのと同じように、「アルミ缶toアルミ缶」の水平リサイクルが可能になるかどうか――。日本発、飲料業界のサプライチェーン全体の連携による、“次世代蓋”の広がりが注目される。
廣末 智子(ひろすえ ともこ)
地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。