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昨年開催された生物多様性条約第16回締約国会議(以下、CBD COP16)と、国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(以下、UNFCCC COP29)では、それぞれどのような合意が得られ、企業はどのようにビジネスに取り込んでいくべきなのか――? PwC Japanグループが、企業が知っておくべきポイントを「気候変動と生物多様性:ビジネスとしてどう対応するか? 8つのキークエスチョンに答える」と題して、無料のオンラインセミナーをPart 1からPart 3に分けて配信している。
各CBD COP16、UNFCCC COP29に参加したPwCメンバーが現地で感じたそれぞれのCOPの動向を伝えるとともに、「ネイチャー・ベースド・ソリューション(以下、NbS)」や「気候資金」などのキーワードを分かりやすく解説。気候変動と生物多様性が切り離せない課題であり、統合的な検討が求められる中、企業はどういった取り組みができるのかを伝える。
Part 1では、まずCBD COP16のポイントを、現地で参加したPwC Japanグループの小峯慎司シニアマネージャーが解説。COP16では、「自然・生物多様性を定量的に測ること」が明確に示され、これまで個別に語られていた先住民族や気候変動、自然への取り組みに関し「統合的に行う」重要性が強調されたという。
またPart 2で解説するUNFCCC COP29について、藤澤啓明マネージャーは、前回のCOP28で合意された「化石燃料脱却」に向けた資金を途上国に提供する「気候資金」が大きな争点となったと説明した。2035年までに年間3000億ドルを先進国が主導して提供することが合意されたが、具体的な資金使途や取り組み内容が決まっていないことを課題として挙げている。
本記事では、Part 3で配信されたPart 1、2の講師陣の座談会より「気候変動と生物多様性の2つのテーマはどのようなつながりがあるのか?」「企業にとって気候と生物多様性の関連性はどのように捉えて考えていくべきなのか?」といったポイントを、それぞれQ&A方式で要約してお伝えする。
![]() 左上から時計回りに、小峯氏、藤澤氏、相川氏、服部氏、市來氏、白石氏、中尾氏
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Q1:気候変動枠組条約と生物多様性条約はどのように関係しているか?
A:気候変動の問題と生物多様性の問題は密接に絡み合い、気候変動は、生物多様性への取り組みなしでは解決できないと言われている。だが、この2つの課題はこれまで個別に議論されており、必ずしもそのシナジーが発揮されていない。
生物多様性の分野で積み上げられた議論は、気候変動対策にも応用できると考えているが、現状では統一的な国際的な枠組みは存在しない。こうした議論は、現場にいる企業の皆さまがリードしていく領域になっていくのではないか。
また2025年開催のUNFCCC COP30は、“ネイチャーCOP”になると言われている。生物多様性も考慮した上で生物資源をポジティブな形で活用する「バイオエコノミー」といったコンセプトもキーワードになる。
PwCコンサルティング合同会社 相川高信マネージャー
Part 2 脱炭素―UNFCCC COP29より
「7. 気候資金が加速させるエネルギー転換のCOP30に向けた展望は?」を担当
A:生物多様性条約でも、気候変動と生物多様性の関係性というのは非常に大きな議題の1つになっていた。企業は、生物多様性と気候変動の解決策における課題間のつながりをしっかり意識し、関係性を捉えて、どちらかが犠牲になるようなトレードオフの状態ではなく両立できるトレードオンの状態を目指して、シナジーを生み出していくことが必要。今後、法的にもソフトローの側面からも求められてくるだろう。
PwCサステナビリティ合同会社 小峯慎司シニアマネージャー
Part 1 ネイチャーポジティブ―CBD COP16より
「1. 生物多様性条約COP16のポイントとは?」を担当
Q2:企業の生物多様性の取り組みを後押しするものが、UNFCCC COP 29の合意事項にあったか?
A:UNFCCC COP 29 では「気候資金」と「パリ協定6条」が重要な合意事項だった。気候資金は、基本的には気候変動対策のために先進国から途上国へ支援されるものだが、その使い道として、NbSや自然資本の回復が強く意識されていた。
またパリ協定6条の合意により、国家間のクレジットのやり取りが活発になる見込みである。自然資本が豊かな国々において、自然資本を使いながら気候変動対策に取り組み、それがクレジット化していくといった資金の流れや活動を後押しするものと考えられる。今後、6条ルールによるクレジットの活況により、自然資本への取り組みやそれによる気候変動対策が、一層求められてくるだろう。
PwCサステナビリティ合同会社 藤澤啓明マネージャー
Part 2 脱炭素―UNFCCC COP29より
「6. COP29は脱炭素化をどのように加速させるか?」を担当
A:資金の流れについては、生物多様性条約のCOP16でも非常に大きな問題だった。気候と生物多様性の資金問題を解決しつつ、同時に課題解決をしていくためには、経済の在り方そのものを変えていく必要があるのではないか。
PwCサステナビリティ合同会社 小峯慎司シニアマネージャー
Q3:2025年、ビジネスとして注目すべきことは何か?
A:2025年は、気候変動と自然資本・生物多様性を一緒に考え始める年になることが注目点だ。企業においては環境の取り組みが、企業価値向上につながってゆくことをますます意識する必要が出てくる。このため、気候変動対策にとどまらず、循環経済の取り組みや、水や土壌、化学物質、生物多様性など環境問題のリスク全体に視野を広げてサプライチェーンリスクを捉えた上で、同時に機会を考えて、経済を回そうという考え方に広がってくる。例えば、ブラジルが提唱している「バイオエコノミー」は、バイオテクノロジーに加え、バイオ素材の積極活用や、生態系回復などにも配慮するバイオエコロジーも含めた広義の考え方であり、気候変動対策の打ち手としてサーキュラーエコノミーと同様に有効である。今後、ネイチャーポジティブのエコノミー、あるいはバイオエコノミーを作っていくためのソリューションが続々と生まれ使いやすくなってくるだろう。企業にとっては、気候変動のソリューションのその先にネイチャーポジティブエコノミーやバイオエコノミーがあるという状態になるだろう。
PwCコンサルティング合同会社 服部徹シニアマネージャー
Part 1 ネイチャーポジティブ―CBD COP16より
「5. 2025年、ビジネスとして注目すべきことは何か?」を担当
Q4:ネイチャーポジティブエコノミーやバイオエコノミーを実現するために、再生農業が解決策となるか?
A:再生農業は統合的なソリューションであり、気候、人、ネイチャーを解決しつつ、かつ企業の調達のレジリエンスを高めていくことのできる農法として、経済の文脈でも非常に注目されている。気候変動への対応として、GHG の排出を削減することと吸収の両方が必要になる。農業分野からのGHG 排出量は非常に多く、減らしていくことが必要。農法を変えることによって土壌の中に炭素を貯留することが可能であり、そのソリューションとして再生農業が注目されている。
また、再生農業は耕さず、化学肥料や農薬を過剰に投与せず、生態系の本来持つ力を引き出し、土壌を健康にすることで、最適な環境にしていく。水資源やサーキュラリティという観点でも無駄を排除していくことができ、農家の収益改善にもつながる。土壌改善によって収量減少の課題にも対応できる。農家にとっても企業にとっても、調達のレジリエンスを高めるため非常に重要なソリューションになってきている。
PwCサステナビリティ合同会社 市來南海子シニアマネージャー
Part 1 ネイチャーポジティブ―CBD COP16より
「4. ネイチャーポジティブ実現の要所、アグリ・フードシステム変革とは?」を担当
A:再生農業を含むNbSは、自然との関わり方に伝統的な知識を持っている先住民や地域コミュニティが支えていることが多い。彼らの文化的な価値観やアイデンティティが自然に根付いていて、自然が自分たちの生活に不可欠な要素になっている。
一方、気候変動との文脈の中でもう少し広く考えてみると、こうした人々は干ばつや洪水といった気候変動の影響を直接的に受けてしまうことが多いため、気候変動への適応の文脈では優先的に支援が必要な対象である。こうした自然や気候の両面と接点がある先住民や地域コミュニティは、企業が領域横断的な統合施策を打っていく上でも非常に重要なパートナーになり得る。
企業にとっては、サプライチェーン上の人権などのリスク管理の観点だけではなく、事業基盤としての自然資本を維持・強化するためのNbS関連施策を効果的に推進するうえでも、先住民・地域コミュニティの適切な巻き込みが求められる。
PwCサステナビリティ合同会社 白石拓也マネージャー
Part 1 ネイチャーポジティブ―CBD COP16より
「3. ネイチャーポジティブ実現に向けた先住民・地域コミュニティの役割は?」を担当
Q5:今後、気候変動と生物多様性への統合的な取り組みはどのように進めるべきなのか?
A:二大課題と言われる気候変動と生物多様性の統合は、いろいろな観点はあるかと思うが、2つの課題におけるトレードオフとシナジーをどう見ていくかが、まず大きなポイントである。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)の共同レポートでは、気候変動対策が、生物多様性に対してトレードオフになっていると指摘しており、こうしたことを解消することが重要になっている。
シナジーを最大化していくというアプローチでは、 IPBESが「ネクサス評価レポート」で示しているような、気候と生物多様性に加えて、水、健康、食料などの相互連関を見ることが大事。しかし、企業が単体で進めるのは難しく、先ほどの地域コミュニティとの対話や再生農業のようなNbSを取り入れるなど、統合的なアプローチが必要であり、これが企業にとっても効果的かつ効率的な対応になりえる。
PwCサステナビリティ合同会社 中尾圭志マネージャー
Part 1 ネイチャーポジティブ―CBD COP16より
「2. ネイチャーポジティブエコノミーに向けた資金の動向は?」を担当
A:企業が目指すべき基本的なスタンスとしては、やはりシナジーの最大化だ。だが、このまま世界の平均気温が上昇し続けると、たとえ生物の保護区を作ったとしても、生物多様性は維持できないという科学的な根拠が示されている。どちらが重要かという問題ではなく、気候変動の問題の解決は自然なしではできない。逆に気候変動の緩和が行われなければ、生物多様性も維持できないということも理解していただきたい。
企業をはじめ、私たちの対応事項が非常に増えて複雑になってきている。保護区に関しては、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のLEAPアプローチにも共通して、地域特性を重視する姿勢がみられる。原則論的な議論とともに、その現場に沿った具体的な課題解決の積み上げが、ポジティブな変化をもたらす近道になるのではないか。
PwCコンサルティング合同会社 相川高信マネージャー
気候変動と生物多様性:ビジネスとしてどう対応するか?
8つのキークエスチョンに答える
視聴のお申し込みはこちらから
https://www.pwc.com/jp/ja/seminars/p1241216.html
(ご視聴は2025年3月31日までとなります)
文:松島香織