![]() 太陽光パネルをリサイクルする熱分解装置と、技術を開発した新見ソーラーカンパニーの佐久本秀行代表
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太陽光発電は再生可能エネルギーとして拡大してきた一方、使用済み太陽光パネルの大量廃棄問題が懸念され、政府もソーラーパネルのリサイクル義務化の検討を進めている。この喫緊の課題に対し、岡山県の「新見ソーラーカンパニー」が使用済み太陽光パネルから新たなソーラーパネルとしてアップサイクルする“Panel to Panel”を目標とし、その第一歩となる技術を開発した。高温の水蒸気を用いることで、太陽電池セルや銅線、ガラスをそれぞれ高純度で回収し、これまで課題となっていたバックシートの有機物を完全に分離できる。さらに、燃焼工程を伴わないためCO2を排出しないのも大きな特徴だ。技術の開発者である同社の佐久本秀行代表に話を聞いた。(環境ライター 箕輪弥生)
太陽光発電は2012年度からのFIT制度導入により、急激に設置数が増え、国内では350万件を超える太陽光パネルが設置されている。しかし、FIT制度による売電期間の終了や太陽光パネルの使用寿命などから2030年代半ばには年間約17~29万トンの使用済みパネルが廃棄され、2040年前後にはそれらが年間80万トンに達すると環境省は試算している。
現在、太陽光パネルのリサイクル技術は、物理的処理や熱処理、科学的処理、レーザー利用などさまざまな方法が開発、実用化されている。その中で多くを占めるのが、ローラーやハンマーを用いてパネルを破砕し、ガラスや金属部品を分離・回収する物理的処理法である。分離されたアルミフレーム、カバーガラスは、素材ごとにマテリアルリサイクルされ、プラスチックやシリコンは燃やされて熱回収される。
シリコン系太陽電池モジュールの構造(有害・資源性物質)
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出典:「太陽光発電開発戦略2020 (NEDO PV Challenges 2020) (NEDO)」
「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第三版) (環境省)」
「この方法では、どうしてもガラスとEVAと呼ばれる有機物が完全には分離できない」と新見ソーラーカンパニー(岡山県新見市)の佐久本代表は話す。
EVAとは、ガラスとバックシートを接着する樹脂やセルを保護する封止材のことで、これを含むガラスは埋め立て処理されることが多いという。
同社では、高温の水蒸気によってEVAを気化・分解し、ガラスや太陽電池セル、銅線を高純度で抽出する技術を開発した。600度以上の過熱水蒸気を用いてソーラーパネルを分解し、有機物を気化させることで、ガラスなどを分離・抽出する。この熱処理によるリサイクルを行う企業は他にも2社あるが、「燃焼工程を経ずに熱分解処理を行うのは世界初で唯一」(佐久本代表)だという。
新見ソーラーカンパニーのリサイクルシステム
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元々、放射線技師だった佐久本代表は、太陽光発電の仕組みを研究し、2009年に起業。ソーラーシステムの販売を行うと共に、約10年前からパネルの廃棄問題に強い関心を持ち、独自に研究を重ねた結果、新しいリサイクル技術を開発した。
同社は、ソーラーパネルが使用済みになる際に買い取りを保証する「還ってくるサステナソーラーパネル」を販売すると共に、使用済みソーラーパネルから抽出した部材を使って新品パネルに再生する“Panel to Panel”を実現するために、一般財団法人「PVリボーン協会」を2022年に設立した。
同協会は、佐久本代表のリサイクル技術によって再生パネルを生産する工業地帯「リボーンパーク」の推進を目的としており、現在180社を超える企業・個人が参加している。
「20年前の200ワットのパネルの材料から300~350ワットのパネルが作れる。さらに、セルのエネルギー変換効率も1.5倍に向上しているため、再生パネルの性能は確実にアップグレードする」と佐久本代表は説明する。価値を下げずに循環するシステムはサーキュラーエコノミーの視点からも重要だ。
佐久本式ソーラーパネルの熱分解装置(フルスペック版)
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フルスペック装置では、破損したガラスも分解可能となる
佐久本氏は「政府も2050年までに約450ギガワット分の太陽光パネルが必要だとしているので、リボーンパークをまず岡山から始めて各地に展開し、地産地消の経済モデルを構築していきたい」と意欲を示している。同社は2030年度までに岡山にリボーンパークを建設することを目指している。
ソーラーパネルの大量廃棄問題に関し、政府は2024年9月に太陽光パネルのリサイクルを義務化する方針を決定し、今年中にも法案を提出する予定だ。現在、委員会ではリサイクル制度の運営にかかる費用やその財源確保や法的枠組みと規制の内容について議論が進められている。
【参照サイト】
・新見ソーラーカンパニー
https://niimi-solar.co.jp/
・「太陽電池パネルの適正処理・リサイクルの推進について」 2024年3月 経産省 資源循環経済小委員会資料
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/pdf/007_04_00.pdf
・「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルに係る現状及び課題について」2023年4月 環境省
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/disposal_recycle/pdf/001_03_00.pdf
箕輪 弥生 (みのわ・やよい)
環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。 著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。 http://gogreen.hippy.jp/