![]() 日本に一時帰国し、インタビューを受ける鳥居氏(東京・渋谷のCLOUDYオフィス)
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国内でファンが急増しているファッションブランド「CLOUDY」。アフリカ・ガーナに生産拠点を置き、民族柄や伝統の織り、特産品などを活用したバスケットや雑貨などの商品を展開している。目指すのは「営利と非営利の循環」によるアフリカの継続的かつ包括的な支援で、ブランド運営を通したビジネスを手掛けるのは株式会社DOYA、ガーナでの雇用・福祉・健康などの支援活動を手掛けるのはNPO法人CLOUDYと、ハイブリッドな法人格を横断する。
前編に続き、NPO法人CLOUDYの副理事・鳥居優美子さんへのインタビューの模様を届ける。今回は、鳥居氏が見た支援現場の実情と、それでも「ガーナの若者の人生を好転させたい」と前を向く原動力に迫る。(横田伸治)
柔軟かつ慎重な判断で、西アフリカ最大のごみ山に学校を
一度の食事を提供するだけで、相手の人生は良くならない。学校だけを作っても、働いて生きていくことはできない。どんなに喜ばれる取り組みでも、経済的メリットがなければ支援は続かない――。
取り組みの幅を広げ続けるCLOUDYで鳥居氏が常に重視するのは、社会課題と経済的持続性、事業の柔軟性と慎重な経営判断といった「両輪」の視点だ。
2025年の開校を目指して現在注力する新たな学校建設プロジェクトも、簡単な道のりではなかった。ガーナ首都・アクラ近郊に位置し、世界最大の電子ごみ山とも呼ばれるアグボグブロシーに、初となる学校を立ち上げる計画だ。
きっかけは、CLOUDYがコロナ禍での食料支援で同所を訪れた際、シングルマザーの女性から「学校が欲しい」と切実な訴えを受けたことだった。アグボグブロシーでは20万人以上が生活する一方で学校が一つもなく、子どもを預けられないために母親たちが思うように働くこともできない。深刻な課題を目にし、CLOUDYは学校建設に向けて動き出すことを決めた。
しかし、候補地の土壌の強固さが不十分だった上に、アグボグブロシーに暮らす13の部族からは「自分たちのコミュニティの土地に立ち上げてほしい」とそれぞれ要望され、約2年半もの間、建設場所の意見が一向にまとまらなかったという。
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「正直、2024年の初め頃には諦めそうになりました。でも、(CLOUDY創業者の)銅冶から『もう一度取り組んで。政府を巻き込んで』と指示を受けて、アクラ市長(エリザベス・K・T・サッキー氏、2021年に女性として初めてアクラ市長として就任)と会ってみたんです」(鳥居氏)
以前の市長は計画に乗り気でなかったというが、エリザベス市長は積極的に候補地の提案も出してくれた。これが奏功し、部族の土地ではなく政府管理の土地を使用できることになり、2025年の開校のめどがついた。
今後はさらに「毎年1校ずつ、計4校の公立学校を建設し、3000人を超える子どもたちへ教育の機会を届けること」を目標に掲げる。あくまで公立にこだわるのは、中長期的にこの地に学校が残ることを第一に考えているからだ。限られたリソースで現地社会に最大限のインパクトを残すために、CLOUDYが課題を可視化し、仲間を増やし、行政を動かしていく。
![]() (写真提供:CLOUDY)
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「(アフリカの人々とCLOUDYの)お互いのためになることなら、どんどんやる。ただ、必ず1年程度は熟考します。日々たくさんの声がかかる中で、全ては取り組めないし、途中まで進んでいたのに突然話が切れてしまったプロジェクトも数え切れません。だからこそ、どんなインパクトに向けて、どんなアクションを誰とやっていくかを、慎重に判断してから実行するんです」(鳥居氏)
「裏切り」は日常茶飯事。それでも続ける理由
単身でガーナに移り、CLOUDYの各種事業を立ち上げ、現地法人も構築してきた鳥居氏。その歩みを振り返り、「最初は奉仕の気持ちでやっていたんですが、裏切られて傷つくことは日常茶飯事で。私たちにも利益がある形じゃないと続かないと痛感しました」と明かす。
アパレルブランドCLOUDYで得た利益を現地に送金し、ワーカーに分配する際にも、「感謝もされず、平気で『もっとお金をくれ』と言われてイライラすることもあった」。学校建設など大規模プロジェクトの際には、多額の資金や購入したての自動車を持ち逃げされたこともあり、「もう日本に帰りたいと考えた日も多かった」。
信頼していたはずの仲間からの「裏切り」を経ながら、鳥居氏を支えたのもまた、現地の人々との交流だった。
![]() CLOUDY現地スタッフメンバーと鳥居氏・銅治氏(写真提供:CLOUDY)
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「私自身がやりがいを感じているから続けられたんだと思います。目の前で一緒に生活している人の人生が好転していくのを見て、心から感謝されたり感情を伝え合ったりするのは、何事にも代えがたい経験です。それまでの私の人生には全くなかったものでした。
私が与えていることよりも、ガーナの人々から受け取っていること・学んでいることのほうが圧倒的に多いことも、続けてきた理由の一つです。
良くも悪くもガーナ人は喜怒哀楽が素直で、家族を大切にしながらとても豊かな人生を送っています。ガーナ人と日本に来たときには、『日本は(経済的には)豊かな国のはずなのに、みんな下を向いている。お金持ちにならなくていいから、僕はずっとガーナ人でいたい』と言われて、すごくショックを受けたこともあります。人との付き合い方や物事の捉え方について、いろんなことを彼らから教わっています」(鳥居氏)
![]() (写真提供:CLOUDY)
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鳥居氏は「一方的に与える『支援』では精神的に疲弊して続かなくなる。信頼して一緒に歩める仲間を見つけ、自走できる仕組みを見据えながら、一緒に利益を見出す必要がある」と訴える。そして、ガーナの人々にも、経済的な循環の重要性を日頃から伝える努力を続けている。
「自分たちが作ったものが海外の人に手にとってもらえていることは、彼ら彼女らにとっても嬉しいんです。ガーナでは、商品がガラスケースに入っていることなんてありませんから、定期的に実店舗の様子も見せています。この売り上げが、自分たちの寮生活や研修にかかる予算につながっていることは、何度も何度も伝えています」(鳥居氏)
アフリカ人の能力、価値をもっと深堀りたい
今後の活動について、鳥居氏は「新たな課題に手を広げる前に、今ある事業をもっと深堀りしたい」と考えている。例えばクリエイティブアカデミーの活動の延長には、世界の企業から、写真や映像編集やデザインなど、遠隔でも可能なクリエイティブ業務の依頼がアフリカに集まるような状況を見据える。
テキスタイルデザインも、日本で販売するだけでなく、ガーナ国内でも適正な価値を伴って購買されることを目指して、サプライチェーンの構築を進めていく。
「現状、(欧米企業からの)デザインや編集の海外発注は中国やインドで止まってしまっているけど、アフリカ人にもすごい才能がある。もっと活躍できるはずなんです。まずは少人数でもいいから、『こうやって働けるんだ』『こうやって生きていけるんだ』というロールモデルを出したいです」(鳥居氏)
![]() (写真提供:CLOUDY)
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鳥居氏は最後に、CLOUDYがガーナやアフリカと、持続可能な関係性を保ちながら活動を続けていく意義を強調した。
「NPOも企業も、ついつい数字にとらわれてしまいがち。でも、いくら儲かった、何万人に授業をした、何十万食を配布した、と言っても『本当の意味で、この人たちのためになっているのか?』という結果は見えてきません。
やたらに学校を作るのではなく、その生徒たちがしっかり生きていくところまでサポートしていかないといけないんです。関わった人の人生をいかに幸せにできるか。ともに歩んでいく未来をつくれるのか。私たちがやるべき支援は、そうやって社会全体を変えていくことだと考えています」(鳥居氏)
株式会社DOYA/NPO法人CLOUDY 副理事
2008年慶應義塾大学経済学部卒業後、旅行代理店、広告代理店を経て2015年株式会社DOYA・NPO法人CLOUDY入社。
ガーナ在住。現地にてCLOUDY商品の生産管理、NPO活動全般を統括している。
“自走できる社会を共に創る。”をモットーに、ガーナの仲間たちと共に歩み、彼らが自身で切り開いていく未来を創造する。
横田 伸治(よこた・しんじ)
東京都練馬区出身。東京大学文学部卒業後、毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバを経てフリーライター。若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりの領域でも活動中。