![]() アシックスとロッテが初のコラボで発売したカカオ豆の皮を有効活用したシューズ。カラーには、ミルクチョコレートらしい温かみのあるブラウンを基調に、ロッテのイメージカラーである赤と、ガーナチョコレートのロゴカラーであるゴールドを取り入れている
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近年、食品製造の過程で発生するが、食品そのものには使われない素材を、さまざまなジャンルの生活用品として生まれ変わらせる動きが見られる。そうした一つとして、このほど、アシックスとロッテの初コラボによる、チョコレート色のシューズが誕生した。通常は飼料や肥料として使われるカカオ豆の皮を染料や素材の一部に採用したもので、大人用と子ども用が併せて発売された。コンセプトは「食べる幸せ、履く幸せ」という商品に、メーカーが込めた思いとは――。(廣末智子)
アシックスがスポーツスタイルカテゴリーで発売した、大人用の「GEL-1130(ゲル1130)」と子ども用の「GEL-1130 PS(ゲル1130ピーエス)」。ロッテがチョコレートの製造過程で発生した、“カカオハスク”と呼ばれるカカオ豆の皮で染め上げた生地や、カカオハスクを混ぜた人工皮革をアッパー素材に採用している。
人材交流きっかけに、互いの社の精神に共感し、コラボが実現
アシックスによると、今回のコラボは、2022年に両社の間で行われた人材交流プログラムがきっかけ。この中で、「一人でも多くの人々に愛される会社、愛される製品づくりを目指して。」というロッテのコーポレートメッセージと、「創業者の鬼塚喜八郎がスポーツによる青少年の育成を通じて社会の発展に貢献することを志した」、アシックスの精神とが双方の社員に共感を呼び起こし、「チョコレートにインスピレーションを得たスニーカーを、大人用に限らず子ども用にも作ろう」という動きにつながったという。
また今回、2社の協業において生地の生産を担当したのは、食品の端材などを染料として再活用するプロジェクト「FOOD TEXTILE(フードテキスタイル)」を展開する、アパレル商社の豊島。同プロジェクトは、ファッション業界から食品ロスの課題にアプローチしようと、食品関連企業や農園などから買い取った素材から独自の技術で染料を製造し、その染料で染め上げた生地などを、今回のようなシューズのほか、衣服やバッグなどさまざまなファッションアイテムに生まれ変わらせている。
アシックスでは、将来世代がスポーツができる環境を守るため、循環型ビジネスを通したCO2排出実質ゼロや、1.5度目標の実現を推進。こうした一環で、“スポーツスタイルカテゴリー”においては、毎シーズン、異なる視点から環境に配慮した商品の提案を行っている。食材に関連したものでは上記のプロジェクトの中で、2023年にルイボスや柿、抹茶やレタスから抽出した色で染めたシューズを発売。さらに同年9月には温室効果ガスの排出量を世界最少に抑えた※スニーカー(GEL-LYTE III CM 1.95)を、今年4月にはシューズに使われている材料を容易に分別しリサイクルできるようにしたランニングシューズ(NIMBUS MIRAI)を発売するなど、デザイン性と共にサステナビリティを追求した商品を次々と発表している。同社によると、これらのいずれもが世代やジェンダーを問わずに好評を博し、計画を上回る販売ペースで推移しているという。
※2023年9月時点の製品ライフサイクルにおける温室効果ガス排出量が開示されている市販シューズを対象としたデータに基づく。
![]() チョコレートの製造過程で出るカカオハスク
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今回のシューズは、今年2月1日に発売60周年を迎えたロッテのチョコレート事業を代表する「ガーナチョコレート」をモチーフにデザイン。アッパーの約49%はカカオハスクで染め上げた生地から作られ、この部分の染料には、約3.0キロのカカオハスクを使用。残り51%のアッパーは、カカオハスクを混ぜた人工皮革で、カカオハスクを約1.3%含有している。さらに大人用シューズの靴底のラバーには1足あたり約5%のカカオハスクを混ぜ込むなど、あたかもカカオハスクで足を包み込むようなつくりとした。細かいところでは、生地の端をほつれさせることで立体感を出し、クリアプリント加工を施すことでチョコレート特有のつや感を表現している。
チョコレートとシューズという新しい掛け合わせは、ワクワク感を演出する。大人用と子ども用のサイズを揃えたことで、「親子で履ける」こともアピールポイントだ。まさにコンセプトである、「食べる幸せ、履く幸せ」を体現したような楽しい商品だが、この特別なシューズを購入する人に対して、メーカーはどのような思いを持っているのか――。最後に、アシックスから寄せられたコメントを紹介したい。
みなさんが普段食べているロッテのチョコレートを製造する際には使われない「カカオハスク」というカカオ豆の皮があります。
今回、このカカオハスクを染料や素材の一部に採用しています。
両社で何かに有効活用できる方法がないかを考えたことで、本コラボレーションシューズが生まれました。
わたしたちが大事にしている多くのお客さまに、よりサステナブルに作られたシューズを履いていただくことで、コンセプトである「食べる幸せ、履く幸せ」をより深く感じていただきたいという思いが詰まっています。
みなさんも、身近な食べ物やモノなどについて、どのように作られているかなどご家族で考えてみてください。
その中の何かが、別のモノへ再利用されることで、食生活だけでなく、私たちの生活自体もより豊かにするような、あっと驚くモノに生まれかわっているかもしれません。
今回のシューズをきっかけに、そうやって親子で楽しみながら発見していくことで、サステナビリティがより身近なものに感じていただけるようになればと思います。
GEL-1130とGEL-1130 PSのメーカー希望小売価格は、15400円と11000円(いずれも税込)。国内では10月10日から、アシックス原宿フラッグシップとアシックス大阪心斎橋、アシックスオンラインショップで販売している。
廣末 智子(ひろすえ ともこ)
地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。