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社会課題への関心をより深く長く“サステナブル”なものにする鍵は「自ら出会い、心が動くこと」。そんな「出会える機会」や「心のひだに触れるもの」になるような映画や書籍等を紹介する本コラム。
映画にはさまざまな楽しみ方や味わい方がありますが、その一つとして自分が知らない時代、世界を追体験できることがあります。3月8日は国際女性デーですが、私自身、「女性の権利」の歴史を映画から多く教わってきました。今回はそんな作品の一部をご紹介します。
男性と対等な賃金をもらえること
日本でもちょうど春闘の時期ですが、映画『ファクトリー・ウーマン』は1968年の英国が舞台。自動車メーカー・フォード社のある工場で、女性たちが男女の賃金格差に抗議してストライキを起こした実話に基づく作品です。
同工場では5万5000人の男性が働いているのに対し、女性はたったの187人。女性たちは経験やスキルが求められる車のシートの縫製を担っていますが、会社からは「非熟練労働者」に分類され、男性工員の半分にも満たない賃金しか支払われていません。そこで女性たち全員でストライキを行うことに。
とはいえ、人生で初めてのストライキ。最初はワクワクそわそわ。ちょっとしたお祭り気分です。夫や同じ工場の男性たちも応援の声を寄せてくれます。しかし当然ながら、簡単には会社は応じてくれません。女性たちは全面ストライキを継続することを決意します。
しかしシートの在庫が切れ、男性たちの仕事もままならなくなると、反応も変わってきます。「女は気楽に闘争できるもんな。一家の大黒柱は困るんだよ」などと嫌味や怒りの言葉をぶつけられるように……。男性側だけではありません。ストライキ中は給料も支払われないため、生活が苦しくなっていき、女性たちの間にも焦りや不安から分裂と衝突が生まれ始めます。
「性別は関係ない。区別は1つだけ。不公平を受け入れる人と正義のために闘える人」
そう主人公が語るシーンがありますが、本作に登場するさまざまな立場と事情の人を見ていると「不公平を飲み込む理由」はあちこちに存在していて、そちらに心が再び傾いてしまうのもうなずけます。ひとり、またひとりと離れていき、孤独が深まる主人公に、権利を手にするための闘いが容易なものでないことを、ひしと感じます。
それでもなお声を上げ続け、闘い続けてくれた人がいて、初めて、今という未来が生まれているのです。彼女たちの闘いは、英国で1970年に同一賃金法が成立する後押しにもなりました。
ちなみに同じ頃の1973年、米国では、女子テニスの世界チャンピオンが男女の賞金格差の是正を求めて(女性の優勝賞金が男性の8分の1だったのです……!)、元男子世界チャンピオンと性差を超えた試合を行っています。全世界で9000万人が観戦したと言われる世紀の試合の裏側を描いた映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』も合わせてご覧いただくと、この時代の男女賃金格差の実情が、より立体的に見えてくると思います。
また、日本の職場におけるジェンダーギャップの事情は今どうなの? と気になる方は、浜田敬子著『男性中心企業の終焉』(文春新書)を手にしてみてください。今ある課題に触れているのに加え、ポジティブな変化を生み出している企業の事例も多く紹介されています。
▼映画『ファクトリー・ウーマン』
(2010年製作/113分/英国/R18+)
▼映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
(2017年製作/122分/米国/R18+)
合法に中絶できること
日本では中絶は合法だと思いますか? 実は日本における「中絶の権利」は少し複雑な構造で成り立っています。まずベースには、1907年に刑法に規定された「堕胎罪」が今も存在しています。当時はアジア・太平洋戦争が激しくなり、兵力や労働力として子どもが求められた「産めよ殖やせよ」の時代。その時代に中絶を罪とした法が、現在も「原則」として存在します。
そのうえで、いわば「例外的」に、1996年にできた母体保護法(正確には、戦後に定められた「優生保護法」から改正された法律)によって、1)「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのある」場合と、2)「暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠した」場合は、中絶が認められています。今日本で中絶を望めば、1)を当てはめる形で、基本的には合法的に中絶できます。
ただ、積極的に「女性の権利」として中絶の権利が認められているわけではありません。2022年に米国が国家としては中絶の権利を保障しなくなった状況などを見ると、日本の中絶の権利も、盤石とは言えないのではないかと感じます。
そんな中、一度は観ておきたい映画『あのこと』。中絶が違法だった1960年代のフランスを舞台に、望まない妊娠をしてしまったある大学生の苦悩を描いた劇映画です。小説をもとにした物語ですが、当時実際にこういう女性たちがいたであろうと感じる内容です。
中絶が違法な社会においては「産みたくない」と口にすること自体が犯罪を宣言するようなもの。望まない妊娠をしてしまったことを、友達にも家族にも医師にさえも簡単には相談できません。決死の思いで医師に中絶の手助けを頼んでも、協力すると見せかけて、嘘の治療をされてしまうことも……。こうなったら自分で処置するしかないと、針金のようなものを使い……。
合法的な選択肢がないがゆえに味わわざるを得ない、孤独さ、焦り、恐怖、痛み、怒り、絶望。そうしたものを見ているこちらまで苦しくなるほどに追体験させられる作品です。
世界保健機関(WHO)によれば、現在も世界中で行われる中絶のうち、安全な医療環境で行われるのは約半数のみ。安全でない中絶によって、毎年4万人近い人が死亡していると言います。その中には医療環境の不整備によるものではなく、中絶が法的に認められていないために、危ない方法を選ばざるを得ない人もいます。
中絶という選択肢を必要な時に選べること。それも「当たり前」ではないのです。
米国でフェミニズム運動のパイオニアとして知られ、今年90歳になるグロリア・スタイネムは、ある演説でこう言っていました。
「長生きの使い道の1つは暗い時代を忘れないことです」
とはいえ、私たちの人生には限りがあります。その時代を直接知る人だけでなく、次の世代、そのまた次の世代も、暗い時代のことを知っておくことが、「当たり前」にあるわけではない権利を守り続ける力になるのではないかと思います。映画を通じて「過去」を知ることから現在を考える時間を、「国際女性デー」の過ごし方の一つとしてぜひ。
▼映画『あのこと』
(2021年製作/100分/フランス/R15+)

アーヤ 藍(あーや あい)
1990年生。慶応義塾大学総合政策学部卒業。
在学中、農業、討論型世論調査、アラブイスラーム圏の地域研究など、計5つのゼミに所属しながら学ぶ。在学中に訪れたシリアが帰国直後に内戦状態になったことをきっかけに、社会問題をテーマにした映画の配給宣伝を手がけるユナイテッドピープル会社に入社。約3年間、環境問題や人権問題など、社会的イシューをテーマとした映画の配給・宣伝に携わる。同社取締役副社長も務める。2018年より独立し、社会問題に関わる映画イベントの企画運営や記事執筆等で活動中。2020年より大丸有SDGs映画祭アンバサダーも務める。