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  • 公開日:2024.02.28
  • 最終更新日: 2025.03.28
見えない価値を可視化する「インパクト加重会計」が企業価値を創造する未来に向けて

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

SB国際会議2024東京・丸の内

Day2 プレナリー

企業活動が社会や環境に対して生み出す影響を効果的に測定し、それらを投資家にうまく伝えるにはどうすればよいのか――。今、この命題に対処するための強力な手段として、ハーバード・ビジネス・スクールで開発された「インパクト加重会計」のツールが世界で注目を集めている。企業価値の創造、そしてレジリエンスな社会、経済の基盤を確かなものにすることにもつながる、このツールの秘める可能性を専門家が議論した。(廣末智子)

ファシリテーター
牛島慶一・EY Japan 気候変動・サステナビリティサービス(CCaSS) プリンシパル
パネリスト
デビッド・フライバーグ・同 シニアマネージャー
渋澤 健・シブサワ・アンド・カンパニー 代表取締役

牛島氏

グローバルコンサルファーム、EY Japanの気候変動・サステナビリティサービスでプリンシパルを務める牛島慶一氏は冒頭、インパクト加重会計について、「ハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフィム教授が、企業活動が社会や環境に対して与える影響を貨幣換算して可視化する手法として提唱している」と説明。ツールを活用して、自社のインパクトを財務的な視点で判断できるようになることで、「企業価値創造のメカニズムを管理し、投資家に訴求することも可能になる」と解説した。

いろいろなKPIが、さまざまなステークホルダーに対してどんな意味を持つのか

フライバーグ氏

EY Japanの牛島氏と同じ部署からパネリストとして登壇したシニアマネージャーのデビッド・フライバーグ氏は、今、世界の企業がインパクト加重会計に興味を持つようになった前提に、「既存のESGに対する開示は、本当に私たちが気にしている答えになっているのかという疑問があった」とする見方を示した。フライバーグ氏は来日前、ハーバード・ビジネス・スクールで、このインパクト加重会計に最初に携わったメンバーの1人だ。

「そもそもの目的は、会社が社会に対して及ぼしているインパクトをプラスもマイナスも含めて計測し、可視化することによって、ビジネス上の意思決定がもっと効果的にできると考えたこと。いろいろなKPIがさまざまなステークホルダーに対してどんな意味を持つのかを見ようということだ」(フライバーグ氏)

『ポストESGが始まった』主体性を持って、見えない価値の可視化を

渋澤氏

一方、投資家の側から登壇したシブサワ・アンド・カンパニー代表取締役の渋澤健氏は、米国の大手ヘッジファンドに勤務していた2001年に同時多発テロが起こり、米国ではすぐに民間による基金が立ち上がったのを目の当たりにして「日本でも社会課題の解決と民間セクターがダイナミックにつながる必要性がある」と痛感したことがきっかけで、長期投資を行うコモンズ投信を2008年に設立した経緯を話した。

「世代を超える投資を考える時に重要なのは『持続可能な成長とは何か』。財務的な価値は絶対必要だが、あくまで氷山の一角であり、その下で10年、20年、30年と隠れている見えない価値、いわゆる非財務価値を可視化することこそが大事だ」(渋澤氏)

2019年からは国連開発計画(UNDP)が民間資金をSDGsの達成に向けて特に途上国に還流させることを目的に立ち上げた「SDGインパクト」の運営委員を務める。渋澤氏は、その中で、“インパクト投資の父”と言われる英国の投資家から聞いた「ポストESGが始まった」とする言葉をヒントに、「これからは、企業が主体性を持って投資家と対話すること。スタートアップであろうが、大企業であろうが、『我々はこういう課題解決をしていることによって価値を生んでいる。それは短期的な財務価値では表現できないけれども、10年、20年、30年かければこのような企業価値が生まれる』と」と語り、見えない価値を可視化する手段としてのインパクト加重会計の有用性を強調した。

では今、どのような企業がこのインパクト加重会計の活用を始めているのか。企業戦略を支援する側から、フライバーグ氏は、一例として、「セメントを扱う企業」を挙げた。「現状ではマイナスのインパクトが大きいが、ポジティブなソーシャルインパクトも生み出している。まさに私たちの社会の部品部品を作っている業界であり、それをどう集約的に測定するか」という観点から、業界全体にツールの活用を広げることが期待されるという。

最後に牛島氏は「これからの経営者は、企業活動が生み出すポジティブとネガティブなインパクトの両方を、会社単体ではなく、バリューチェーン全体でどこまで把握できているかが問われる」とした上で、「それをどう主体的に管理し、投資家と対話していくか。日本企業においては特に、この、『主体的』というところが重要なキーワードになると感じた」と総括。インパクト加重会計について、「まだ緒に就いたばかりの取り組みだが、これからの秩序は、今実践している企業やリーダーがつくっていく。サステナブルな資本社会の構築に向け、ぜひリーダーシップを発揮していただきたい」と述べ、セッションを終えた。

written by

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。

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