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<p>ESG投資は企業のアカウンタビリティ(説明責任)のあり方を変革するはずだったが、それどころか後退し続けている。</p>



<p>昨年、ESGファンドは記録的な資金流出を経験した。投資家は、サステナビリティに重点をおいたポートフォリオから数十億ドルを引き揚げ、ESG格付けへの信頼は崩壊した。かつてESGへのコミットメントをうるさく求めていたブラックロックやバンガードは、社会・環境的な株主提案への支援の内容を大きく変えた。さらに、政治的反発によっていくつかの領域でESGは禁句となり、財務規律であるべきESGが文化戦争の戦場となった。(翻訳・編集＝小松はるか)</p>



<p>しかし実際には、投資家はサステナビリティを諦めたというわけではなく、より良いものを求めている。自己申告で一貫性のない情報に依存するESGへの信頼はグリーンウォッシュの懸念を高め、投資家は企業の言葉をもはや信じようとしていない。その代わり、投資家は環境へのインパクトについて証明できるデータを提供する科学的根拠に基づいた枠組み「ライフサイクルアセスメント(LCA)」へシフトしようとしている。</p>



<h2 class="wp-block-heading has-vivid-cyan-blue-color has-text-color has-link-color wp-elements-274212f43dfcfdbe179a8232f242a188">ESGの問題は、説明責任を欠いたデータにある</h2>



<p>根本的に、ESG投資はデータの整合性という問題を抱えている。企業はほとんど標準化しないままサステナビリティの取り組みを自己申告し、さらにESGスコアの算出方法はさまざまだ。例えば、同じ企業でも評価機関によってESGスコアが高いこともあれば低いこともあり、投資家がリスクやインパクトを正確に評価することは難しい。</p>



<p>近年の調査では以下のような矛盾が明らかになっている。</p>



<ul class="wp-block-list">
<li><strong><a href="https://mitsloan.mit.edu/sustainability-initiative/aggregate-confusion-project">マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院の2023年の研究</a>によると、主要な6つの評価機関のESG評価の相違は大きく、相違の要因の56％は測定方法(指標)の違いによるものだった。</strong></li>



<li><strong><a href="https://www.lseg.com/content/dam/ftse-russell/en_us/documents/reports/global-asset-owner/sustainable-investment-2022-global-survey-findings-from-asset-owners.pdf">ロンドン証券取引所の2022年の調査</a>によると、資産運用会社の50%が、今日のサステナブル投資の最大の障壁は「ESGデータの有用性」と「推定データの利用」と回答した。</strong></li>



<li><strong><a href="https://kpmg.com/us/en/articles/2023/sustainability-due-diligence/us-sustainability-due-diligence-study.html">KPMGの2023年の調査</a>では、米国の投資家の59%が「堅固かつ信頼できるデータの不足」がサステナビリティ・デューデリジェンスを行う際の課題として挙げた。</strong></li>
</ul>



<p></p>



<p>この一貫性のなさが懐疑的な見方に拍車をかけている。<a href="https://www.capitalgroup.com/eacg/esg/en/esg/capital-group-esg-global-study-2023.html">キャピタル・グループの2023年の調査</a>によると、グリーンウォッシュが資産運用にまん延していると約半数の投資家が考えているという。さらに、<a href="https://www.reprisk.com/research-insights/reports/on-the-rise-navigating-the-wave-of-greenwashing-and-social-washing/20adb3d8">レプリスクの2022年の報告書</a>によると、銀行や金融部門でのグリーンウォッシュの事例は1年の間に70%急増した。</p>



<p>投資家はサステナビリティに背を向けているわけではない。投資家が背を向けているのは信頼性のないデータに対してだ。</p>



<h2 class="wp-block-heading has-vivid-cyan-blue-color has-text-color has-link-color wp-elements-691d396e49f553fc95d7e43b4f54b951">ライフサイクルアセスメント重視へ</h2>



<p>ESGが不十分なら、次の手段はなにか。投資家は、製品や企業の環境フットプリントについて“ゆりかごから墓場まで”分析するライフサイクルアセスメントを、ますます頼りにするようになっている。</p>



<p>環境、社会、ガバンナスという広い分類を一つの評価に集約したESGスコアと違い、ライフサイクルアセスメント(LCA)はサプライチェーンの各段階で生まれる実際のインパクトを追跡するものだ。ライフサイクルアセスメントでは、原料調達から製造、流通、使用、廃棄にいたるまでのCO2排出量、水の使用量、エネルギー消費量、廃棄物の排出量を測定する。</p>



<p>ハードデータ(確かなデータ)へのシフトはすでに始まっている。</p>



<p></p>



<ul class="wp-block-list">
<li><strong>欧州連合(EU)やカナダ、オーストラリア、カリフォルニアを含む先進的な政府はいま、企業に対してより実情を反映した環境情報の開示を求めている。例えば、EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)は、5万社以上にライフサイクルアセスメントに基づく手法を用いた詳細な環境インパクトの開示を求める。</strong></li>



<li><strong>未公開株式投資会社や政府系ファンドなどの多くの投資家は、投資を行う前にサステナビリティの主張の正当性を立証するため、ライフサイクルアセスメントをデューデリジェンスの過程に統合している。</strong></li>
</ul>



<p></p>



<p>つまり、ESG投資は消滅しているのではなく、進化しているのだ。</p>



<h2 class="wp-block-heading has-vivid-cyan-blue-color has-text-color has-link-color wp-elements-36ec151fca3f5345b7e147b6eecc94bf">企業への影響</h2>



<p>投資家の信頼を維持したい企業へのメッセージは明確だ。あいまいなESGコミットメントや、もっともらしいサステナビリティ報告書はもはや十分ではない。投資家が求めているのは数字であって物語ではないのだ。</p>



<p>環境への影響について厳密なデータを提供できない企業は、以下のことに直面する可能性がある。</p>



<p></p>



<ul class="wp-block-list">
<li><strong>報告要件が厳しくなり、規制機関の審査も厳密になる</strong></li>



<li><strong>投資家が検証可能なサステナビリティ指標を持つ企業へシフトし、資本コストが高まる</strong></li>



<li><strong>グリーンウォッシュへの懸念が株主アクティビズムや法的な異議申し立てにつながり、レピュテーションリスク(企業の評判を低下させるリスク)が発生する</strong></li>
</ul>



<p></p>



<p>一方で、ライフサイクルアセスメントを取り入れ、科学的根拠に基づいたデータを提供する企業は以下のような利益を得ることができる。</p>



<ul class="wp-block-list">
<li><strong>資産運用組織が透明性やリスクの低いサステナビリティ投資を優先するなか、投資資本を手に入れやすくなる</strong></li>



<li><strong>購買者や企業パートナーがサプライチェーンの透明性をより一層求めるようになり、市場での差別化が強化される</strong></li>



<li><strong>政策立案者がESGの主張を厳しく取り締まり、規制に対するレジリエンスが高まる</strong></li>
</ul>



<p></p>



<h2 class="wp-block-heading has-vivid-cyan-blue-color has-text-color has-link-color wp-elements-31dfce49961c993bbb1d5887f9c2b3e9">サステナブル投資の未来　ESGの先へ</h2>



<p>ESGは完全になくなろうとしているわけではなく、再定義されようとしているのだ。ESGスコアをサステナビリティのあらゆる状況に対応するものとして頼りにする時代は終わった。投資家、規制機関、企業経営者は明確で科学的根拠に基づいた情報を必要としており、ライフサイクルアセスメントが新しいスタンダードになりつつある。</p>



<p>企業と投資家にとってこの転換は、適応のための重要な局面だ。時代遅れのESGモデルに固執する企業は、新たな期待に応えることに苦労するかもしれない。測定可能で検証可能なインパクト指標を取り入れる企業は、長期的な成功を手にするだろう。</p>



<p>サステナブル投資は新たなフェーズに入った。説明責任と透明性のあるハードデータに注目が集まっている。いまこのことを認識する企業は今後も繁栄するだろう。</p>


ワールドニュース

経済 economy

ESG投資

新たな局面を迎えたESG　投資家がいま求めているものとは


<figure class="wp-block-image size-full"><img loading="lazy" decoding="async" width="800" height="504" src="https://cms.sustainablebrands.jp/wp-content/uploads/2025/03/g1_1.jpg" alt="" class="wp-image-1300325" srcset="https://cms.sustainablebrands.jp/wp-content/uploads/2025/03/g1_1.jpg 800w, https://cms.sustainablebrands.jp/wp-content/uploads/2025/03/g1_1-300x189.jpg 300w, https://cms.sustainablebrands.jp/wp-content/uploads/2025/03/g1_1-768x484.jpg 768w" sizes="auto, (max-width: 800px) 100vw, 800px" /></figure>



<p class="has-small-font-size">Image: Christian Lue</p>



<p>欧州委員会が発表した「オムニバス法案」には、サステナビリティ開示義務の適用縮小や適用延期などが盛り込まれている。現行規則の簡素版と言われているが、そうした緩和の方向に甘んじていると企業は足をすくわれかねない。傍観することのリスクや中国が新たに発表した開示義務などを踏まえ、同法案を機にレジリエンスを高める上で企業がなすべきことを改めて考察しておこう。(翻訳・編集＝遠藤康子)</p>



<p>欧州委員会は2025年2月26日、欧州連合(EU)の持続可能性に関する複数の規則を簡素化したオムニバス法案(通称Omnibus proposal)を公表した。これを受け、企業の持続可能性部門には不安が広がっている。簡素版と謳われてはいるものの、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)や企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)、タクソノミー規則(TR)といった持続可能性に関する重要規則が大幅に変更されている。適用範囲の縮小や適用時期の延期などが記されている内容を見ると、規制の重荷が緩和されたと感じるかもしれないが、実際には複雑さが増している。企業は、これを機にESG対策のペースを落とそうなどと考えていると、のちのち取り残されてしまう恐れがある。</p>



<p>たとえ規則が変わっても、先を見据えて行動し、着実なデータ収集業務の手を緩めず、ポジティブ・インパクトの実現に本気で取り組もうとする企業は、世界経済がますます複雑化してもレジリエンスと競争力を強化できるだろう。また、中核戦略に持続可能性を組み込めば、多面的なリスクに対応できる準備がさらに整い、グリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ローン(借入企業のSDGs・ESG戦略や目標によって融資条件が変わるローン)といったサステナブルファイナンスを介した価値創造の機会を生かせるようになる。</p>



<p>重要なのは、多種多様なステークホルダーが企業に対して、意義ある行動やインパクト測定、ESGパフォーマンスの開示を求めていっそう圧力をかけていることだけではない。そうした圧力がいまや、安定した財務状態やレジリエンス、長期的な競争力にとっても必要不可欠なものになっていることだ。</p>



<h2 class="wp-block-heading has-vivid-cyan-blue-color has-text-color has-link-color has-large-font-size wp-elements-93c8d62e4d0dd10126c438f88d20b9af">「様子見」に伴うリスクとは</h2>



<p>オムニバス法案は、新たな基準値や適用時期の延期、要件の変化が混在する状態を招いた。報告義務の適用範囲を縮小し、これまで適用対象だった企業の約８割を除外して報告義務を最も大規模な企業に集約したほか、一定企業への適用開始時期を2年延期している。だからと言って、サステナビリティ報告の影が薄くなるわけではない。それどころか、オムニバス法案を受けて対策の手を緩める企業は、<a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/us/detail/1226102_1532.html">ゆくゆく手痛い報いを受ける可能性がある。</a></p>



<p>よく言われることだが、EUの立法手続きは緩慢で予測が難しい。公表に至ったとはいえ、オムニバス法案が最終的に採択されて各国で実施されるまでには何年もかかる可能性がある。その一方で、EU加盟国18カ国ではすでに現行のCSRD に準じて国内法制化され、施行が進んでいる。自分たちは適用を免れたとみなしていると、のちに要件が変わって慌てる羽目になりかねない。おまけに、投資家や金融機関、サプライチェーンの提携先は規制の変更に関係なく、今後も企業に対してESGパフォーマンスに関する透明性を求め続けるだろう。</p>



<p>CSRDの違反取り締まりは国ごとに行われ、刑罰はEU加盟各国が独自に定めている。例えば、フランスでCSRDに違反すると、罰金刑や公的調達入札手続きからの除外のほか、監査妨害に対しては刑事罰として最高5年の懲役刑が科せられる。ドイツでの罰金最大額は1000万ユーロだ。また、違反企業に年間売上高の最大5%相当の罰金が科せられる国もある。</p>



<h2 class="wp-block-heading has-vivid-cyan-blue-color has-text-color has-link-color has-large-font-size wp-elements-1b3044723c94fc40a687c4f09cc24f4e">中国政府のサステナ開示基準は要注目</h2>



<p>興味深いことに、欧米では規制の後退や開示要件の縮小が検討されている一方で、中国はその逆をいっている。中国政府は2024年12月に企業向けサステナビリティ開示基準(CSDS)試行版を発表し、ESG透明性に向けた本気度を示した。中国のCSDSで示されたのは、セクター別の開示要件と、大企業向け開示義務の段階的な導入だ。中国の制度は、明確に定められた一連の環境的・社会的な定量的指標に重点を置いている。また、国際的な枠組みと足並みを揃え、<a href="https://www.ifrs.org/groups/international-sustainability-standards-board/">国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)</a>、ならびに持続可能性に関する報告基準を策定するグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)と緊密に連携している。現行の財務報告とサステナブル報告との統合も進められている。</p>



<p>業務や販売を世界展開している企業にとって、中国政府によるCSDSの発表はESGを取り巻く状況が転換したことを意味する。従って、測定と開示が求められる文化を受け入れれば、将来的なリスクを回避して国際的な競争力を向上できることになる。中国は世界有数の消費国ならびに市場という地位を固めつつある。そうした中で、企業がESGパフォーマンスの開示に向けて準備を整えていけば、より有利に経済大国・中国と関係を築くことができるだろう。</p>



<p>CSDSの遵守に当たっては、データ収集とデータ検証の強化が必要であり、サステナビリティ報告が中国の規制当局から承認を得て市場に参入する上での大きな要素となる。適応しなければ、市場参入が阻まれたり、投資家を呼び込めなくなったり、規制当局から監視の目を向けられたりする事態を招きかねない。その上、サプライチェーンの透明性がいっそう不可欠となるだろう。中国で原材料の調達や製造を行っている企業は、自社サプライヤーがCSDS要件を確実に満たすようにし、世界的サプライチェーン全域でESGへの期待値を上げなくてはならないからだ。</p>



<h2 class="wp-block-heading has-vivid-cyan-blue-color has-text-color has-link-color has-large-font-size wp-elements-21550bcb6196c45358053e4d27460b58">今後のサステナ対策で企業が注意すべきこと</h2>



<p>規制の変化に応じてESGデータ管理の手を緩めることは、企業が犯し得る最大の過ちの1つだろう。オムニバス法案で開示義務の適用が延期されたとはいえ、リスク管理やステークホルダーとの情報交換、長期戦略の面では、確かなサステナビリティ測定基準が依然として不可欠だ。企業は今後も、ダブルマテリアリティ分析に磨きをかけて、財務リスクと環境インパクトの両方を確実に把握しなくてはならない。また、スプレッドシートを使った旧式の方法を止め、体系化された高品質のデータ管理と報告を継続できるESG管理用ソフトウェアシステムを導入すべきだ。</p>



<p>オムニバス法案では、監査法人などによる第三者保証について要件が変更され、限定的保証から合理的保証への義務的移行が見送られた。そう聞くと猶予が与えられたと思うかもしれない。しかし、企業は監査法人との契約を見直し、ESG報告で今後も重要となるのはどういった点であるかを監査役と協議して見極めるべきだろう。監査の対象範囲と変化する要件とを事前に照らし合わせ、土壇場で契約見直しを迫られることのないようにしたい。また、ESGに関する主張については、投資家や金融機関による精査が今後も続くため、サステナビリティ報告の信頼性を確保しなくてはならない。</p>



<p>オムニバス法案はEU加盟各国がランダムに施行していくことから、規制シナリオは各国によってさまざまだ。透明性を最大限に高めるために、企業の持続可能性部門は外部専門家、社内の法務部ならびに財務部と密に連携し、複数の規制環境で整合性を図って差異が生じないよう努めなくてはならない。それと同時に、企業はこの機会を生かして市場における自社の地位を強化すべきだ。透明性と一貫性のある情報開示が、投資家の信頼獲得と<a href="https://www.sustainablebrands.jp/news/us/detail/1224303_1532.html">サプライチェーン</a>との関係性に不可欠であることに変わりはない。</p>



<h2 class="wp-block-heading has-vivid-cyan-blue-color has-text-color has-link-color has-large-font-size wp-elements-2316dce697726656913e5179f0368329">先を見据えて：ESGを味方に付けて競争力を高める</h2>



<p>オムニバス法案は、持続可能性の取り組みを後退させてもいいという青信号ではない。それどころか、企業のESG戦略にとっての試練だ。持続可能性の実現に向けて引き続き力強く歩んでいく企業は、長い目で見ればより強くなる。一方、後ろ向きの姿勢を持つ企業は取り残されていく。</p>



<p>結局、オムニバス法案を前に企業が取るべき最善策は、様子見ではなくESG戦略の先頭に立って動くことである。ESG関連データの収集や評価を安定的に実施し、部門を超えた協力体制を確立し、規制変更を先回りすることが必要だ。そうすれば、企業はコンプライアンスを順守できるだけでなく、持続可能性の重要度が増す経済において自社の市場ポジションを強化することができるだろう。</p>


欧州委の「オムニバス法案」を持続可能性の後退と捉えてはいけない――生き残りと競争力アップのために企業が今すぐなすべきことは

川村 雅彦

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第30回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</strong></a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>株式会社Sinc 統合思考研究所 所長・首席研究員　</strong><strong>川村雅彦</strong></a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/03/13/kawamurasantop_1_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/1225855_2675.html">前回(第29回)</a>は、日本企業が昭和的な雇用・人事慣行に基づく同質性集団から脱して、いかに多様性集団に転換するか、という問題意識の下、「人材ポートフォリオ」を考える雇用慣行3軸の1つである<strong>「人材属性(採用慣行)」</strong>を取り上げました。<br />今回は、2つ目の軸<strong>「キァリア形成(人事制度)」</strong>において、最近話題の「メンバーシップ型」と「ジョブ型」に着目し、日本企業の<strong>「ジョブ型人事」</strong>への転換の現状と課題を踏まえ、その方向性を論じます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>大きく変容する日本企業の人事制度</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>日本企業の人事制度が大きく変わろうとしています。</strong>背景には人口減少に伴う質量両面の「人手不足」の深刻化があります。しかし、本当に同質性の強い組織集団に風穴を開け、日本企業の競争力強化と復権につながるのでしょうか。本当に社員のキャリア形成に実効性のある人事制度は実現するのでしょうか。<br />本稿では、<strong>「時代に合わなくなった日本企業の人事制度をどうするか」</strong>の問題意識のもと、メンバーシップ型とジョブ型に着目し(図表1)、それぞれの特徴を確認したうえで、<strong>「ジョブ型人事」</strong>の先進事例から現状と方向性を考えます。なお、キャリア形成のための社内転職、副業、リスキリングなどは、次回論じます。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1：「人材ポートフォリオ」を考える雇用慣行3軸</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/03/13/g1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>資料：筆者作成(本図は、本コラムシリーズ第28回の図表2に加筆のうえ再掲)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「入社年次」や「同期」は死語に？</strong><br />いま、日本企業がいかに日本的人事制度を壊すかに腐心しています。これまでの人事制度が日本企業の再浮上の足かせになっている、と気付いたからです。最近の動きをみると、<strong>新卒一括採用・終身雇用・年功序列の象徴であった、「入社年次」や「同期」という言葉が死語</strong>になりつつあるのです。</p>
<p><strong>■もはや、メガバンクでも新卒一括採用・年功序列は限界！</strong><br />2024年度のメガバンク3行の採用計画では、キャリア採用が5割に迫り、地銀でも2020年度の1割から3割に増えています。つまり、新卒一括採用でさまざまな部署を経験させて人材を育成してきた、<strong>OJT手法が転機</strong>を迎えているのです。三井住友銀行は、<strong>入行年次を給与に反映する「階層」を廃止</strong>しました。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換が始まった !？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「ジョブ型の導入」は「メンバーシップ型の廃止」と認識しているか？</strong><br />2021年のパーソル総合研究所の調査によれば、ジョブ型人事制度について、既に2割以上の企業が導入し、約4割が導入予定であり、今後も大企業を中心に増加すると予想されています。しかし、<u>本当に欧米流ジョブ型人事への転換が進んだ場合、日本流メンバーシップ型人事はなくなることをほとんど認識されていません。</u></p>
<p><strong>メンバーシップ型人事</strong>は、多くの日本企業に浸透している<strong>「人材起点」による、「就社型」の人事制度</strong>です(解雇は困難)。これに対し<strong>ジョブ型人事</strong>は、欧米企業を中心に海外で広く普及しており、特定職務(ジョブ)をあらかじめ明示して社員を募集する<strong>「職務起点」による、「就職型」の人事制度</strong>です(解雇は容易)。</p>
<p><strong>■何のために、ジョブ型人事を導入するのか？</strong><br />ジョブ型の先進事例と言われる企業の共通点は、海外拠点が多いこと、中途採用者が多い、そして<strong>ジョブ・ディスクリプションに基づく世界共通の「ジョブ型人事制度」の制定と運用</strong>です。これらの企業は、何のためにジョブ型人事を導入したのでしょうか。ジョブ型人事への転換で、何を変えようとしているのでしょうか。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>日立とNTTは「ジョブ型人事」で何をめざすのか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■日立の大改造と連動する「ジョブ型人財マネジメント」</strong><br />日立製作所は10年以上にわたり、<strong>「ジョブ型人財マネジメント」</strong>の基盤造りを段階的に進めてきました。これは、歴代社長が進めてきた日立の大改造と期を一にするものです。その要点は、デジタル人財とキャリア人材の採用強化、新卒者とキャリア人材の同時採用、通年入社・通年採用、職種別採用の拡大です。根底にある人材戦略の基本は、<strong>「適所適財」</strong>と<strong>「組織目標と個人目標の同期化」</strong>です。</p>
<p><strong>■日立におけるジョブ型人事への転換の必然性</strong><br />日立製作所(売上高9兆円、社員27万人)のジョブ型人事制度への転換は、全体の制度設計が終わり、社内実装が始まった段階と言えますが、その背景は4点に整理できます。実はここに、<strong>日立のメンバーシップ型からジョブ型への転換の必然性(Why)がある</strong>と考えられます。</p>
<p>(1)<strong>売上高と社員数の国内・海外比率</strong>は逆転し、現在はいずれも海外が6割を占め、今後も増える。<br />(2)<strong>事業環境</strong>が、製品中心・国内中心からサービス中心・グローバル市場に変化した。<br />(3)<strong>顧客と社員</strong>も、日本人・男性中心から外国人・多様な人々へと広がり、価値観も多様化した。<br />(4)従来は、製品を同質性集団で開発・提供し、売上高(利益)は労働時間や生産量に比例していたため、<strong>時間管理</strong>が必要だった。しかし、今後は、多様で斬新な発想で事業モデルを拡張・転換し、売上高(利益)は労働時間とは直接比例しないため、<strong>職務の明確化と成果管理</strong>が求められる。</p>
<p><strong>■社長が主導するNTTのジョブ型人事(年次主義の廃止、管理職の格付)</strong><br />NTTグループでジョブ型人事を主導する社長の信念は、<strong>「年功序列のままでは、世界で戦えない」</strong>と<strong>「社員のキャリア自律を促す」</strong>です。同社は、民営化後にグローバル展開を積極的に行い、グループ全体で売上高13兆円(海外比率6割)・社員数34万人となり、<strong>事業ポートフォリオも大きく変わり</strong>ました。</p>
<p>ジョブ型人事で強調されるのが、<strong>世界で通用する人材戦略への変革</strong>です。外部からキャリア人材の採用拡大だけでなく、社内での若返り・抜てき人事<strong>(年次主義の廃止、管理職の格付)</strong>にも注力しています。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>メンバーシップ型を残したままで、「ジョブ型」と言えるのか？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■日本企業が導入した多くの「ジョブ型人事」への疑問</strong><br />・そもそも、<strong>ジョブ・ディスクリプションさえ作れば、</strong>「ジョブ型」と言えるのか？<br /><strong>・専門職を獲得したいだけ</strong>なら、メンバーシップ型でも可能ではないか？<br /><strong>・新しい賃金体系を導入したいだけ</strong>なら、メンバーシップ型でも可能ではないか？<br />・「ジョブ型」と言うが、<strong>メンバーシップ型を残したままなら、「名ばかりジョブ型」</strong>ではないか？<br />・無期労働契約では解雇が難しいので、<strong>終身雇用をすぐに廃止することは無理</strong>ではないか？<br />・職務限定の雇用契約なら、<strong>会社都合の配置転換はできない</strong>のではないか？</p>
<p>「ジョブ型」という言葉が安易に使われているように感じます。<u>メンバーシップ型雇用は日本の社会通念となっており、真逆の欧米流ジョブ型に一気に転換することはできない、と考えられます</u>。そこで、いくつかの論点です。</p>
<p><strong>■「就社型」とは、まず会社のメンバー(社員)になること</strong><br />メンバーシップ型は「就社型」という日本特有の雇用慣行で、<strong>「会社のメンバー(社員)になること」を優先する考え方で、職務は後付け</strong>です。戦後の高度成長期に、新卒一括採用・終身雇用・定年退職という<strong>“三位一体構造”</strong>が形成され、その運用の仕組みが年功序列・定期異動・内部昇進です。</p>
<p>これを<strong>「雇用の入口-出口の収支バランス」</strong>として表現したのが図表2です。この三位一体構造が、バブル崩壊後も維持され、現在に至っています。今になってさまざまな問題(ミスマッチ)が顕在化してきたのです。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2：メンバーシップ型雇用の“三位一体構造”</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/03/13/g2.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■実態は、「ジョブ型導入」と称して、メンバーシップ型の部分修正</strong><br />このような雇用・人事問題を解決すべく、救世主(？)のように「ジョブ型人事」が導入されたのです。しかし、多くは「名ばかりジョブ型」で、<strong>メンバーシップ型の“三位一体構造”は保持したままで、各段階でジョブ型風の部分修正を行っているにすぎない</strong>のです。</p>
<p>もはやメンバーシップ型(就社型)は時代に合わず、あちこちで致命的な綻びが生じていることは間違いありません。<strong>その根本的解決には、その“三位一体構造”を崩すしかありません</strong>が、そうかと言って、すべての日本企業にとって欧米流ジョブ型への完全な転換が最善である、とは断言できません。</p>
<p><strong>■波紋を呼ぶ「最高裁の令和6年4月26日判決」：解雇か配置転換か？</strong><br />職務限定社員の配置転換は可能か。2024年4月の最高裁判決は、<strong>職務限定で働く従業員に対して、会社は本人同意のない職務変更を命じる権利はない(労働契約法違反)、</strong>と初判断を示しました。</p>
<p>波紋を呼んだ理由は、<strong>最高裁が企業と従業員の労働合意を最優先</strong>としたからです。店舗の統廃合が多い業種では、職務や勤務地を限定合意した場合、<strong>事業の拡大や縮小に際して、その合意条件を変更できるのか</strong>という問題が出てきたのです。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「日本流ハイブリッド型雇用」の模索</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■メンバーシップ型とジョブ型の「折衷案」と「併存案」を試行する</strong><br />日本特有のメンバーシップ型雇用は、“時代の遺物”になりかけています。それでは、日本企業はどうしたら良いのでしょうか。結論から言えば、<u><strong>「日本流ハイブリッド型雇用」</strong>を模索しましょう</u>。<strong>メンバーシップ型とジョブ型の「折衷案」ならびに「併存案」</strong>の試行です。ただし、必ずしも特定の「〇〇型」を選ぶ訳ではありません。</p>
<p><strong>【日本流ハイブリッド型雇用(折衷案)】</strong><br /><strong>・国境を越えて人材マネジメントを戦略的に一元化したいグローバル企業</strong>を想定したもので、世界共通のジョブ・ディスクリプションと評価・賃金体系を核に、社内人材と社外人材の垣根を低くする。<br />・なお、国内事業中心の企業、欧米流ジョブ型に困難を感じる企業には、メンバーシップ型をベースにしつつも、ジョブ型の特徴を併せ持つ<strong>「ロール(役割)型」</strong>がある。</p>
<p><strong>【日本流ハイブリッド型雇用(併存案)】</strong><br />・ジョブ型人事では就業規則との整合性が課題である。そこでメンバーシップ型を残したまま、ジョブ型対応の新制度を追加して<strong>「1社2制度」</strong>とする。人材争奪戦のテクノロジー企業や金融機関に多い。</p>
<p><strong>■戦略変革には「社外の血」が必要、内部昇進者や新卒者だけではムリ</strong><br />日本流ハイブリッド型雇用の模索と言っても、人材戦略の構造改革の観点から、<strong>「雇用の入口-出口革命」</strong>と<strong>「人材戦略のインフラ整備」</strong>を心掛けるべきです。そのためには、自社とは異なる価値観や業務センスをもつ外部キャリア人材の採用による「社外の血」が必要です。</p>
<p><strong>・雇用の入口-出口革命：</strong>新卒一括採用の縮減、キャリア人材の通年採用の拡大、定年制の廃止<br /><strong>・人材戦略のインフラ整備：</strong>グループ内で共通の新しい職務等級体系、評価体系、賃金体系の構築</p>
<p>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br />今回は、日本企業の脱同質性に向けて、メンバーシップ型とジョブ型に焦点を当てた人事制度を考えてきました。日本では欧米と異なり、企業横断の労働市場は形成されていません。そこで、日本流の新しい雇用形態を企業だけが考えるのではなく、教育界や経済界をはじめ社会全体で議論することが必要です。</p>
<p>次回(第31回)は、今回の続きで、<strong>社員のキャリア形成に資する人事施策の現状と課題</strong>を論じます。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>本コラム30のフルレポートは、株式会社Sinc 統合思考研究所の下記サイトを参照ください。</strong><br /><a href="https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2025031101.html">https://www.sri-sinc.jp/knowledge/2025031101.html</a></p>
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</div>
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<p></p>

コラム

【統合思考経営30】人材多様性と人材ポートフォリオ(その3) ～もはや、新卒一括採用・終身雇用・年功序列では戦えない！！～

【欧州の今を届ける】ベッティーナ・メレンデスのサステナビリティ戦略

ベッティーナ・メレンデス

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/02/07/a800.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>本連載では欧州、カリブ諸島、そして日本での就業経験を通じて培った視点をもとに、現在はオランダ・アムステルダムを拠点に活動している私のサステナビリティに関する欧州のトピックスをお届けします。そして、多様な観点からサステナビリティを捉え、企業が環境への責任を果たしながら、イノベーションと成長をどのように両立させられるかを探っていきます。</p>
<p>2015年、ベルリンに住んでいた私は、企業不祥事のなかでも最大級の事件を目の当たりにました。フォルクスワーゲンの「ディーゼルゲート事件」です。同社は、米国の法律で決められた基準を最大40倍も上回る排気ガスを排出する車両を販売するため、規制試験で不正を行っていました。フォルクスワーゲンに300億ドル以上の罰金や損害賠償をもたらしたこの事件は、業界全体に大きな衝撃を与え、自動車業界で最も巨額の損失を招いた不祥事としても知られています。80年の歴史を持ち、業界を先導してきた同社にとって、その影響は壊滅的でした。ブランドイメージは失墜し、多額の罰金が経営を圧迫し、最終的にはCEOのマルティン・ヴィンターコルン氏が辞任する事態となりました。</p>
<p>私はこの不祥事を受けて、世界的に有名な日本の自動車メーカーであるトヨタやホンダが、もしこのような危機に直面した場合、どのように対応するのだろうかと考えずにはいられませんでした。これまで、日本の自動車メーカーは排出ガスに関する不祥事を回避してきたものの、2016年に発覚した三菱自動車の燃費不正問題は、どんな企業体制でも、不透明な組織運営が引き起こすリスクからは免れないことを示した事例となりました。この問題は、企業が激しい競争が繰り広げられるグローバル市場で長期的な信頼を築くために、アカウンタビリティ(説明責任)の枠組みがいかに重要であるかを改めて問い直すきっかけともなりました。</p>
<p>この出来事によって、私は、自動車産業が国のアイデンティティにどれほど重要な役割を果たしているかを実感しました。車は単なる移動手段ではなく、国の誇りであり、経済をけん引する原動力であり、多くの人々にとって文化的なシンボルでもあります。</p>
<p>自動車税が大幅に高い私の母国オランダと比較して、ドイツで車を所有することは、はるかに手頃でした。この“手頃さ”は、部分的にはドイツの自動車業界の強力なロビー活動によって形作られてきたもので、実はその裏には深刻な問題が隠れていました。こういったシステムが、フォルクスワーゲンのような企業が責任よりも利益を優先することを可能にし、悲惨な結果をもたらしたのです。私にとって、ディーゼルゲート事件は単なる排出ガス試験の不正ではなく、失われた信頼と私たち全員に影響を与える環境への害についての問題でした。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>企業を前進させる透明性の役割</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/01/30/g1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Image credit: Wutzkoh</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ディーゼルゲート事件のような不祥事は、企業が短期的な利益よりも人や地球環境を優先するには、どうすればよいかという疑問を投げかけます。そこで登場するのが、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)です。</p>
<p>CSRDとは、2023年1月に発効された欧州の枠組みであり、企業のサステナビリティ情報開示を求めるものです。その影響は世界全体に及びます。電子機器、自動車、重工業など、欧州とつながるサプライチェーンを持つ日本企業は、これからその波及効果をますます感じることになるでしょう。例えば、欧州企業のサプライヤーは、より厳格なESG(環境、社会、ガバナンス)基準を満たさなければならず、透明性は付加価値ではなくビジネスの必須要件となるのです。</p>
<p>EU(欧州連合)が導入したCSRDは、企業のサステナビリティ報告の標準化と義務化を目的としています。企業にESGの影響を開示させることにより、不祥事を防ぐだけでなく、企業の運営を変革させようとしています。</p>
<p>もしCSRDが2015年以前に存在していたなら、ディーゼルゲート事件は起こったでしょうか？　思わずそんなことを考えてしまいます。透明性の要件があれば、排出ガスの不正操作を隠すのはもっと難しかったのではないでしょうか。過去を変えることはできませんが、同じことが繰り返されないような枠組みをつくることはできます。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>進歩を目指す「ロッテルダム・モデル」が示す可能性</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/__icsFiles/afieldfile/2025/01/30/g2.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Image credit: Frans　オランダ、ロッテルダム地区の水上住宅</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>「niet lullen maar poetsen(話すな、行動しろ)」という精神に形作られたオランダ・ロッテルダムという街で育った私は、行動とイノベーションが生み出す素晴らしい結果を目の当たりにしてきました。ロッテルダムは、エネルギーを自給自足する水上住宅や、普段は子どもの遊び場などのスペースとして活用され大雨時には貯水地となるウォータープラザ、ビルの屋上や家の屋根に植物などを植え緑化したグリーンルーフ、貯水機能を持った地下駐車場などがあります。こうした先進的な適応策を取り入れた都市開発が世界中から注目を集め、気候変動適応の分野で世界をリードする都市となっています。</p>
<p>ロッテルダムが示したソリューションは、決して単独で生まれたものではなく、サステナビリティ目標や指標における透明性を土台に、政府、地域社会、そして企業が連携することで実現しました。プロジェクトに関わった企業は、都市の長期的なビジョンに沿いながら、炭素排出量や水使用量などを報告することが求められています。</p>
<p>こうしたロッテルダムの取り組みは、日本の都市部のように、頻繁に発生する台風やヒートアイランド現象による気温上昇といった特有の課題を抱える都市にとって、大きなインスピレーションとなるでしょう。もし日本の都市や企業が、透明性とアカウンタビリティのあるサステナビリティ報告を基盤に、同様の革新的なソリューションを共創したとしたら、想像を超えるような成果を生み出すことができるのではないでしょうか。<br />CSRDに基づくサステナビリティ報告には、このようなイノベーションを促進する力があるのです。データを公開することで責任が明確になり、変革を促す投資を促進することができるからです。もしすべての欧州の都市がロッテルダムのモデルを採用したなら、地球にとって計り知れない良い影響を与えることができるでしょう。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>アクションへの呼びかけ</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ディーゼルゲート事件とロッテルダム・モデルを振り返ると、同じ課題に対する2つの視点が見えてきます。1つは不透明性により発生するコストを示し、もう1つは透明性のもつ力を示しています。CSRDは、リスクを回避する助けとなってくれるだけでなく、ビジネスと社会の両方に利益をもたらす機会を提供してくれます。</p>
<p>日本がGX(グリーントランスフォーメーション)や改訂されたコーポレートガバナンス・コードなどを通じてESGへのコミットメントを深めるなかで、CSRDは、信頼とイノベーションを生み出す透明性の青写真となります。日本の企業は、これらの原則を遵守するためだけではなく、競争優位性を築くため経営に組み込むことで、世界をリードできるでしょう。<br />透明性は単なるリスクヘッジではなく変化を促すものです。それを規制という負担として見るのではなく、信頼を築きイノベーションを促進し、欧州、日本、さらにはその先の持続可能な未来を創造するための機会として、捉えることができるのではないでしょうか。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

話題のキーワード

カーボンニュートラル/脱炭素

第1回 リスクをチャンスへ　CSRDから学ぶ説明責任とイノベーション

【統合思考経営29】人材多様性と人材ポートフォリオ(その2) ～人材属性(採用慣行)の多様性は進んでいるか？～

コミュニティ・ニュース

<p></p>
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<div class="elem_paragraph right">
<p>Sponsored by SUSCOM</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/community/column/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/11/29/ESG02800_1.jpg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Image credit: shutterstock</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>かつて、企業にとってのサプライチェーンとは、高品質で安価な素材を調達し、製品・サービスをより早く配送・提供し、適切に在庫を管理するなど、効率性や経済性の文脈で語られるものだった。<br />しかし現代におけるサプライチェーンは、その意味を変え、重要性を増しつつある。企業にとっては取引上のリスクや機会を把握するために、また消費者や取引先にとっては製品やサービスが適切なプロセスで生み出されたものなのかどうかを判断し選択するための基準であり、適正なサプライチェーンを確立し、その情報を広く開示して透明性を担保することは、企業や製品・サービスのブランディングの根幹を成すものとなったのだ。</p>
<p>2022年に製品・サービス単位でのESG分析を可能にする世界初の評価サービスをスタートした、aiESG(アイエスジー)の取り組みに迫るシリーズの2回目は、同社が2024年10月に発表したクラウドソフトウェアを紹介する。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>aiESG　<a href="https://aiesg.co.jp/">https://aiesg.co.jp/</a><br />aiESG Flow(アイエスジーフロー)  <a href="https://lp.aiesg.co.jp/flow">https://lp.aiesg.co.jp/flow</a></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>最新テクノロジーによる補完で、サプライチェーンの可視化を可能に</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>上述のように、サプライチェーンに関する網羅的な把握が重要であることが明白になる中、多くの企業にとって、一次取引先よりも上流にさかのぼって情報を収集することは困難を伴う。リスク分析を行う場合も、高リスクの国・地域や一部の原材料に絞り込んで実施するケースが多い。製品・サービスのリスクを総合的に把握するためには金銭面、労力面で多大なコストが生じるからだ。現状ではそのような理由から、サプライチェーンの一部の情報しか把握できないためにその場しのぎの対応となり、継続的な管理・改善が難しいという課題がある。</p>
<p>こうした状況を打開するために、AIとビッグデータを活用しようとする動きが広まっている。その一つが、aiESGが2024年10月に発表したクラウドソフトウェア『<a href="https://lp.aiesg.co.jp/flow">aiESG Flow(アイエスジーフロー）</a>』だ。</p>
<p>『aiESG Flow』が目指すのは、サプライチェーン全体のESGスコアの可視化だ。これまでの手法では把握が難しかったサプライチェーン上流の取引を、AIとビッグデータを用いた産業平均データで補完し定量化する点に特徴がある。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/community/column/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/11/29/dekirukoto.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>aiESG社では、従来難しいとされてきた人権デューデリジェンスのESG指標を世界で初めて定量化しており、『aiESG Flow』ではそのリスクレベルが分かりやすいUIと数値データで把握できるようになっている。近年開示要請が高まっている自然資本のインパクトや社会的リスクなども同様に可視化でき、高リスクの項目を一目で確認することができる。</p>
<p>また、企業が把握できている取引先を入力すると、そこを起点としてビッグデータとAIを用いた推計による両流情報を自動的に補完する。これにより、サプライチェーン上流の調査にかかる作業負担を削減でき、リスクやポジティブインパクトの的確な把握にもつながる。</p>
<p>そのほか、ダッシュボード画面は企業ごとにカスタマイズが可能で、製品ごとにサプライチェーンの管理・登録ができ、個々の製品のESG評価を行うことができる。サプライチェーン情報のツリー表示による管理や、ネイチャーポジティブ、SDGsなどの指標に対して全産業平均と比較したスコアを表示する機能などもあり、分析結果を企業が発行する統合報告書やTCFD/TNFDレポート等の開示情報として活用することも可能だ。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>学術研究の成果を、持続可能なビジネスの実現に向けて活用</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>同社は九州大学発のスタートアップ企業であり、長年にわたる国際的・学術的なESG研究成果をベースに、ESG評価プラットフォーム「aiESG」を提供してきた。その成果をより使いやすい形で企業に提供するサービスが、『aiESG Flow』なのだ。</p>
<p>同社のCEO(最高経営責任者)である関大吉氏は、「ESGリスクをAIで迅速に把握することで、企業はコンプライアンス強化や関連する業務コストの削減を実現できる」と述べ、同社が、『aiESG Flow』の活用によって企業のESG開示やサステナブルな事業開発を支援していく姿勢を強調する。<br />同社によると、『aiESG Flow』はベータ版の提供をスタートしており、今後はアカデミックなバックグラウンドを持ったESGの専門家と、ESG分析サービスのコンサルタントによるフォローアップサービス等も行っていく考えだ。</p>
<p>学術機関の研究成果と最新のテクノロジーを組み合わせることで企業のサプライチェーン課題を解決し、持続可能な社会の構築を支えるaiESG社の今後が期待される。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

ニュース

スポンサー記事

世界初の評価サービス展開、aiESGに迫る〈2〉――AIとビッグデータの活用で、サプライチェーンの定量的な可視化を実現

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
<p>Sponsored by SUSCOM</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/community/column/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/12/06/aiesgsashikae800.jpg.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>Image credit: shutterstock</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>企業は今、ESGスコアによる分析・評価の大波にさらされている。評価結果は、投資家の投資判断や企業のブランディングにも影響を及ぼすことから、企業にとっては無視できない流れだ。一方で指標が乱立し、それぞれの要求事項を把握し対応していく困難にも企業は直面している。<br />そうした中、2022年に製品・サービス単位でのESG分析を可能にする世界初の評価サービスをスタートしたのが、aiESG(アイエスジー)だ。同社による分析は、他のESG分析とどのような違いがあり、今後の企業のESG対応にどのような影響を及ぼしうるのか――。2回にわたって、その取り組みに迫る。</p>
<p>初回は、同社の代表取締役でもある九州大学大学院工学研究院 都市システム工学講座 教授、九州大学都市研究センター長の馬奈木俊介氏に話を聞いた。</p>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>aiESG　<a href="https://aiesg.co.jp/">https://aiesg.co.jp/</a></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>AIの活用で、包括的かつ効率的なESG分析を実現</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_various img_right">
<div class="elem_pik_box">
<table class="elem_pik_box">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/community/column/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/10/31/hito.jpg"/></div>
<div class="elem_paragraph"><sup>馬奈木俊介氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>現代の企業は、商品・サービスについてサプライチェーンの末端まで把握し、ESGの各分野でトータルに問題がないと証明することを求められるようになった。そのため、大手企業では人員を配置してチェック体制を整えているが、継続的に情報を収集し更新するには膨大な経費がかかるため、チェック機能を維持できないケースも生じる。</p>
<p>「現状では『仕方がない』という思いでESGへの対応を継続している企業も少なくないはずです。しかし、こうした動きの中でも先んじて自らルールを定め、活動を進めた企業は競争優位になります。そのための現実的な解として重要となるのが、予測やシミュレーションです」</p>
<p>aiESG社が提供するESG分析サービスの最大の特徴は、製品・サービス単位で、ESGに関する網羅的・包括的な評価をサプライチェーン末端まで実施することができる点にある。九州大学の研究チームがハーバード大学等の学術機関と共同開発したデータベースに独自開発のAIを組み合わせ、精緻かつ多様な観点からの分析を可能としたのだ。</p>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>「企業のサプライチェーンは世界中のさまざまな国・地域とつながっています。調達に際して特定の国で発生しやすいリスクがある場合、それを別の地域に変更したらどう改善するかなどは、AIを使って洗い出すことが可能です。その際、サプライチェーンの膨大な仕組み全体を対象とせず、特定の製品やプロセスを抽出し、そこからリスクの高いものを洗い出してチェックをしていく。そうすることで、早い段階での改善や活動の継続が可能になると考えています」</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>製品・サービスレベルでサプライチェーン全体まで評価する、世界初の分析手法</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/community/column/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/12/06/SASHIKAE01800.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>具体的には、製品・サービスに使用している材料のコストや使用量データを入力するだけで、aiESGが保有するサプライチェーンのビッグデータに基づき、調査したい製品・サービス単位で各項目の状況の可視化・数値化を実行することが可能だ。測定可能なESG負荷量は、温室効果ガス排出量、生物多様性、大気汚染、鉱物資源、強制労働、児童労働、ジェンダー平等など約3200項目に及び、企業独自の評価指標をカスタマイズすることもできる。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/community/column/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/12/06/SASHIKAE02800.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>「製品・サービスレベルでこのような包括的ESG評価が可能なサービスは、世界でaiESGのみです。競合他社と比較して自社の強み・弱みが可視化できるため、強みをさらに伸ばすのか、弱みを改善するのか、今すぐの解決が難しいから現状維持するのか、といった戦略を相対的に検討できるようになります。例えば、多くの企業が注目しているウェルビーイングは比較が難しい目標ですが、どのようなインフラや組織、活動があれば改善できるかを定量的に把握し、その改善度を企業が発信していくことにも貢献できると考えています」</p>
<p>また同社は、世界約60カ国のニュースを日々AIで読み込み、最新のトレンドや評価の動向もキャッチした上で、さまざまな提言にもつなげている。</p>
<p>「さまざまな調査や大手金融機関、研究者から『ESG項目は企業の利益や株価に多少の影響がある』という見解が示されてきましたが、もっと深掘りが必要だと考えていました。そこでaiESGで分析を試みたところ、ESG項目で株価変動の約1割が説明できるという結果が表れました。つまり、包括的なデータを活用して分析していけば、何を改善すべきかが明らかになり、各企業にとっても大きなメリットを生むはずです」</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
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<h2>社会全体にサステナビリティを浸透させるために</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>馬奈木氏はこれまでも、国連の新国富指標に関する活動で代表を務めるなど国際的に活動する一方で、日本国内の企業や自治体と共同研究を行うなど、多様なアプローチでサステナビリティやESGを社会に浸透させようと取り組んできた。その中で「推進する組織がない限り進まない」という考えに至り、aiESG社を通じて、企業とともによりサステナブルな社会の構築を実現しようとしているのだ。</p>
<p>「サービスを開始してから2年が経過し、大企業だけでなくスタートアップ企業にも導入いただくなど、順調に進んでいます。今後は、自治体でも活用を広げていきたいと考えています。地域の課題や需要に対して、企業が有する製品・サービス・技術やスキルをマッチさせて取り組めば、両者にとってプラスとなります。優れた改善事例が生まれれば、他の地域や海外でも取り組めるようになるはずです。そのような場をどんどん作っていくことが本当の地方創生だと思いますし、独自の強みにより早く特化することで企業の生き残りにもつながると考えています」</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

世界初の評価サービス展開、aiESGに迫る〈1〉――製品・サービス単位でのESG分析を可能に

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>なぜ今、『統合思考経営』なのか？<br />～ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために～<br />第28回</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph right">
<p><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>SBJ Lab Senior Practitioner of Integrated Thinking</strong></a><br /><a href="https://www.sustainablebrands.jp/sbjlab/index.html"><strong>株式会社Sinc 統合思考研究所 所長・首席研究員　</strong><strong>川村雅彦</strong></a></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/27/kawamurasantop_1_1_1_1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>前回(第27回)は、「失われた30年」の原因として、日本人男性中心の同質性集団(昭和のおじさんシステム)の特徴をあぶり出しました。それを制度として支えたのが、<strong>メンバーシップ型の雇用慣行(新卒一括採用・終身雇用・年功序列人事・定年退職)</strong>です。今、日本企業に問われているのは、新しい時代の価値創造のために、<strong>ここから脱却して、いかに人材多様性を確保した多様性集団に転換できるか</strong>です。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人材多様性は、思ったほど簡単ではない！？</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>上記の問いを考えるために、人材多様性やDE&amp;I、働き方改革や人事制度・労働法制、非正規社員あるいはジョブ型やリスキリング、人的資本経営などの関連する領域を調べてみました。その過程で、<strong>筆者なりの発見(驚き・疑問・課題)</strong>がありましたので、それを提示したうえで、本論に入ります。</p>
<p><strong>(1)</strong><strong>　人材多様性は非効率で面倒くさい！？</strong><br /><strong>(2)</strong><strong>　個人属性の多様性を「人材多様性」と誤解している！？</strong><br /><strong>(3)</strong><strong>　若手社員にとって、終身雇用・年功序列は無意味である！？</strong><br /><strong>(4)</strong><strong>　ジョブディスクリプションを作れば、「ジョブ型雇用」である！？</strong><br /><strong>(5)</strong><strong>　人材多様性はダブル・マテリアリティで考えるべきである！？</strong></p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>「人材多様性」の意味すること</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「失われた30年」の出口で立ちはだかる、「人材多様性」という構造問題</strong><br />「失われた30年は終わった」との見方があるものの、<strong>日本企業の人手不足が深刻化</strong>しています。これは単に人口減少だけの影響ではありません。つまり、<strong>日本人男性中心の同質性集団が、バブル崩壊後も漫然と温存された結果、「人材多様化」が進まなかった</strong>ことの帰結です。</p>
<p>日本企業は現在、金融業を含め業種を問わず、<strong>質・量両面で人材多様性という新しい構造問題に直面している</strong>ことを認識しなければなりません。産業構造と働き方が大きく変化する中で、<strong>多様で優秀な人材を確保できるかが会社の将来を左右しかねない</strong>、と危機感を抱く日本企業が増えています。</p>
<p><strong>■</strong><strong>何のために、「人材多様性」を高めるのか？企業課題と社会課題として</strong><br />それでは、何のために人材多様性を高めるのでしょうか。ここでは企業と社会の両方のインパクトを考える、ダブル・マテリアリティの発想が必要です。つまり、<strong>企業目線では経営戦略と人材戦略を連動させるため、同時に社会目線ではDE&amp;I(多様性、公平性、包摂性)と「ビジネスと人権」を推進するため</strong>です。</p>
<p><strong>企業課題としての「人的資本経営」</strong>の狙いは、人材を管理対象としてではなく、人材への投資により人的価値を高めて、それによる企業価値を向上させることです。そのためには「人材ポートフォリオ」が必須です。他方、<strong>社会課題としての「社会のサステナビリティ」</strong>の狙いは、多様な人材が安心して働ける就業環境の整備、健康経営を含むウェルビーイングの向上、また人権デューデリジェンスによる人権尊重の確保です。</p>
<p><strong>■「人材多様性」には2つの型</strong><br />さて、一口に人材多様性と言っても、実は2つの型があります。まず、このことを確認しておきます。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>・デモグラフィー型：</strong>人種・国籍、性別、年齢など人口統計的な属性に基づく<strong>外面的な人材多様性</strong><br /><strong>・タスク型：</strong>個人の外見や属性にはよらない、知識・能力・経験・知見など<strong>内面的な人材多様性</strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>日本ではデモグラフィー型をイメージすることが多いようですが、女性活躍やシニア雇用など企業には取り組みやすい反面、<strong>個人属性の多様化が目的になってしまっては本末転倒</strong>です。よく考えてみれば、人材とは外見や属性で決まるものではなく、当然、その人の“もっているもの”が問われます。したがい、<strong>「人材ポートフォリオ (human resources portfolio) 」の基本はタスク型の人材多様性</strong>、となります。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人材多様性を実現する「人材ポートフォリオ」</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■「事業ポートフォリオ」と連動する「人材ポートフォリオ」</strong><br />人的資本の情報開示が2023年3月期から有価証券報告への記載が義務化されましたが、<strong>人的資本経営(人材への投資)の可視化には、人材ポートフォリオが役に立ちます</strong>。「人材版伊藤レポート2.0」でも、事業ポートフォリオが変われば、人材ポートフォリオも動的に連動して変わる、とされています。</p>
<p><strong>人材ポートフォリオとは、人材要件による適材適所のツール</strong>です。つまり、自社事業に必要な人材像を明確にして、現在「どんな人材が」「どこに」「どれくらい」在籍するかを分析し、そこから見えてきた過不足を基に、人材の再配置や採用・育成を行うものです。</p>
<p>さらにバックキャストの発想で、<strong>長期視点から経営戦略や事業戦略の実現に不可欠な「人材タイプ」を特定する枠組</strong>でもあります。つまり、将来どのような人材が必須かを可視化するものです。なぜならば、人材戦略を経営戦略にどのように結び付けていくかが、経営課題の中核にあるからです。</p>
<p><strong>■</strong><strong>四象限図で類型化する</strong><strong>「人材ポートフォリオ」の</strong><strong>人材タイプ</strong><br />人材ポートフォリオを構成する「人材タイプ」には、いくつかの考え方があります。例えば、経営戦略に基づく<strong>事業ポートフォリオを念頭に、自社の企業特性に応じた縦軸と横軸で作られる四象限図で類型化する</strong>ことができます。図表1に、その典型的な人材タイプを示します。</p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表1　四象限図による「人材ポートフォリオ」の人材タイプ(例示)</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/27/g1.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(資料)諸資料を基に筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>横軸は、人材の適性として<strong>「組織牽引力」と「個人自律力」のどちらの能力が秀でているか</strong>を示します。縦軸は、人材の個性として<strong>「創造力」と「運用力」のどちらの職種に向いているか</strong>を示します。この2軸の組み合わせにより、<strong>人材タイプ4種が類型化</strong>できます(ただし、人材の優劣を示すものではない)。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p>①組織×創造：<strong>マネジメント人材：</strong>業務を効率的に管理し、組織の成果をめざす(<strong>経営層人材</strong>を含む)<br />②組織×運用：<strong>オペレーション人材：</strong>規定の業務を円滑かつ確実に進める<br />③個人×創造：<strong>クリエイティブ人材：</strong>新規の技術・商品・事業を考案する<br />④個人×運用：<strong>エキスパート人材：</strong>特定業務の熟達者として経験値を活かす(<strong>スペシャリスト人材</strong>を含む)</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■人材ポートフォリオの先進企業事例</strong><br />過去の成功体験にとらわれず、経営戦略と人材戦略を連動させて、<strong>人材ポートフォリオを再構築する企業</strong>が増えつつあります。上述の人材タイプとは必ずしも同じではありませんが、人材ポートフォリオの構築に取り組む先進事例を以下に示します。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>・旭化成</strong>：経営戦略と連動した人材ポートフォリオを作成。毎年、全社全事業部で必要となる人材要件・人数を洗い出す。<br /><strong>・協和キリングループ：</strong>「人材はイノベーションの源泉」と認識。2017年に「人材マネジメント基本方針」を策定し、人材ポートフォリオの考え方を明確にした。<br /><strong>・KDDI：</strong>2030年に向けた「人財ファースト企業」を標榜。KDDIフィロソフィーを核にしたサステナブルな人財ポートフォリオを活用する。<br /><strong>・丸井グループ：</strong>2022年に人材ポートフォリオの構築などを任務とする「人材戦略委員会」(取締役会の諮問機関)を設置した。<br /><strong>・三井情報：</strong>2019年に「人材基本方針」と「人材像」を策定。各事業部の「人事企画」が3コースの人材ポートフォリオをもとに、個々人の教育を進める。</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>人材戦略の覚醒と革新</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>■人材ポートフォリオを実現するための雇用慣行の見直し</strong><br />人材戦略としての人材ポートフォリオの策定には3つのステップがあります。まずは<strong>人材戦略の基本方針を策定</strong>したうえで、自社の特性に応じた<strong>人材タイプ(適性と個性)を類型化</strong>し、それを基に<strong>人材要件を決定</strong>します。そして、目標と現状のギャップを確認して、社内外での人材獲得の段階に移ります。</p>
<p>人材ポートフォリオに基づく人材獲得で考えるべきは、<strong>「採用慣行」「人事慣行」「雇用形態」</strong>の3つの雇用慣行です。それぞれの内容は、<strong>「人材属性」「キャリア形成」「正規度」</strong>に対応しています。これらの組み合わせにより、実際の雇用慣行が形成されます。このことを模式的に表現すると、以下のようになります。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/27/g2.png"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>図表2は、上記の雇用慣行を3軸図で表し、各軸にはそれぞれ日本企業が導入している新しい取り組みを記載しています。この3軸図で自社にふさわしい新しい採用・人事・雇用制度を考えることができます。なお、昭和的体質をもつ日本企業を上記の模式に当てはめると、次のようになります。<br /><strong>「昭和のおじさんシステム」の同質性集団における、典型的な雇用慣行</strong><br /><strong>＝〔日本人・男性・新卒者〕×〔メンバーシップ型人事〕×〔正社員〕</strong></p>
</div>
<div class="elem_paragraph center">
<p><strong>図表2　「人材ポートフォリオ」を実現するための雇用慣行の3軸</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/sbjlab/newscolumn/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/09/27/g3.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>(注1)各軸の要素は排他的ではない選択肢である。これら以外にも多様な要素が考えられ、それを「・」で示す。<br />(注2)3軸の要素の多様な組み合わせにより、さまざまな雇用慣行を形成する。<br />(注3)各軸の★は、「昭和のおじさんシステム」における雇用慣行の典型的な要素を示す。<br />(資料)筆者作成</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br /><strong>「人は石垣、人は城、人は堀」</strong>は武田信玄の格言の一節です。また<strong>「企業は人なり」</strong>とも言います。日本企業が従業員とともに発展していくためには、人材多様性の本質を押さえて、昭和的な雇用慣行の抜本的な変革が不可欠です。次回からは雇用慣行の3軸について、変革方策の考え方や取り組み状況、課題を論じます。</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>本コラム28のフルレポートは、株式会社Sinc 統合思考研究所の下記サイトを参照ください。</strong><br /><a href="https://sri-sinc.jp/knowledge/2024091901.html">https://sri-sinc.jp/knowledge/2024091901.html</a></p>
</div></div>
</div>
<p></div>
<p></p>

【統合思考経営28】人材多様性と人材ポートフォリオ(その1) ～人材多様性はとても非効率で面倒くさい！？～

茂木澄花

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/os/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/07/19/porio800.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>アフリカ南東部のマラウイで、経口ポリオワクチンを接種する子ども。目標3「すべての人に健康と福祉を」に関する指標は全世界的に改善傾向にあるが、2030年目標の達成には不十分だ(写真と図表はいずれも国連の<a href="https://unstats.un.org/sdgs/report/2024/The-Sustainable-Development-Goals-Report-2024.pdf">「持続可能な開発目標報告2024(The Sustainable Development Goals Report 2024)」</a>より)</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>国連は6月下旬、「<a href="https://www.unic.or.jp/news_press/info/50468/">持続可能な開発目標報告2024</a>(<a href="https://unstats.un.org/sdgs/report/2024/">The Sustainable Development Goals Report 2024</a>)」を発表した。それによると、SDGsの全てのターゲットのうち、達成に向けた軌道に乗っているのはわずか17%だという。また、SDGsに関連するデータ収集や公開については大幅な進展が見られるが、国の経済レベルによる格差など、いまだに課題が多いことも分かった。今後の重要テーマの1つとして示された「国際金融アーキテクチャの改革」は、今年9月下旬に開催予定の国連未来サミットに向けて注目の論点だ。(茂木澄花)</p>
<p>報告書は、SDGsの17の目標について、全世界的な進捗をデータとともに示した。目標年度である2030年まで残すところ6年となる中、SDGsの進捗は2030年の達成見込みには遠く及ばず、国連はあらためて世界各国に取り組みの加速を強く求めている。</p>
<p>SDGsについては、かねてより進捗の遅れが指摘され、期間の延長や目標・ターゲットの見直しを求める声もある。しかし、現時点で国連は、あくまで2030年に向けた取り組みを進める姿勢を崩していない。アントニオ・グテーレス国連事務総長はこう述べる。</p>
<p>「6年余りを残す中で、私たちは、貧困に終止符を打ち、地球を守り、誰一人取り残さない、という2030年の約束に対して手を緩めてはなりません」</p>
<p>報告書は、進展が見られた分野についても強調する。公正なエネルギーへの移行や、教育の平等化、インターネットへのアクセス増、HIV/AIDSの減少などだ。李軍華(リ・ジュンファ)国連経済社会問題担当事務次長は前向きな見方も示す。</p>
<p>「人類は、力を合わせて意見をまとめることができれば、困難に思える問題でも解決策を見出だせるのだということを、これまで幾度となく証明してきたのです」</p>
<div>
<div>
<div> </div>
</div>
</div>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>軌道に乗っているのは17%、半数近くは最低限かわずかに進捗</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>報告書によれば、SDGsの17の目標にわたる169のターゲットのうち、現時点で達成に向けた軌道に乗っているのはわずか17%だ。半数近くは最低限かわずかに進捗、3分の1超は停滞または後退しているという。新型コロナウイルスの影響、紛争の悪化、地政学的緊張、気候変動に伴う異常気象の多発などが進展を妨げている。</p>
<p>目標ごとに見ると、達成に向けた軌道に乗っているターゲットが比較的多いのは、目標7「エネルギーをみんなに　そしてクリーンに」や、目標12「つくる責任　つかう責任」だ。しかし、その中には後退や停滞しているターゲットや、データ不足により評価できないターゲットもあるため、目標全体として進捗が芳しいとは言えない。</p>
<p>一方、目標2「飢餓をゼロに」や目標14「海の豊かさを守ろう」などでは、状況が悪化したターゲットが目立つ。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/os/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/07/20/01sashikae.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>ターゲットの評価に基づく、17の目標ごとの進捗分析(%)<br />緑…達成に向けた軌道に乗っている、黄…十分ではないが進展している、クリーム色…わずかに進展している、ピンク…停滞している、赤…後退している</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>データの収集力や公開状況に国の経済レベルによる格差も</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>報告書によると、全体としてデータの入手可能性や適時性には大幅な改善が見られる。SDGsに関する世界的な指標枠組みが導入された2016年の時点では、半数以上の国のデータが得られる指標は全体の約3分の1しかなかった。また約4割の指標については国際的に確立された方法論や基準が存在しなかった。しかし今日では、7割近くの指標で半数以上の国のデータが得られ、全ての指標について、国際的な方法論の合意が確立されている。</p>
<p>しかし、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標16「平和と公正をすべての人に」などで、いまだにデータ不足が深刻だ。また、比較対象となる過去のデータが不足していることで、政策立案者がタイムリーに意思決定することが困難だという問題もある。</p>
<p>国の経済レベルによるデータ収集力の格差も課題だ。国レベルの調査資金が十分確保され、調査が実施されている国は65%にとどまり、特に低所得国と下位中所得国で資金不足が目立つ。また収集したデータの公開状況についても、全体では改善しているが、国の経済レベルによる格差が見られる。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/os/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/07/20/02sashikae.jpeg"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>国レベルの調査資金が十分確保され、調査が実施されている国の割合(2023年、%)<br />縦軸上から、低所得国および下位中所得国、上位中所得国、高所得国、全世界</sup> </div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>こうした課題に対し、報告書は、国の統計機関による力強いかじ取りが必要だとしながらも、地方自治体や民間組織などの幅広い関係者を巻き込み、連携することを推奨する。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>国際金融アーキテクチャの改革は、9月下旬の未来サミットのテーマに</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>グテーレス氏は同報告書内で、「平和」「連帯」「実行の急拡大」を今後の重要テーマとして挙げる。特に「連帯」においては、開発途上国で財源や財政的な余裕が不足している状況に言及し、「時代遅れで、機能不全で、不公平な国際金融アーキテクチャを刷新し、SDGsへの更なる投資を促進する必要があります」と述べた。</p>
<p>国際金融アーキテクチャの改革は、今年9月下旬にニューヨークの国連本部で開催される「未来サミット(Summit of the Future)」でも、主要なテーマの1つとなる予定だ。昨年10月に国連が公表した<a href="https://www.unic.or.jp/files/our-common-agenda-summit-of-the-future-what-would-it-deliver_J.pdf">「未来サミット：それは何をもたらすのか」</a>と題するリリースには次のように書かれている。「国際金融アーキテクチャを変革することにより、目的に適合した、より包摂的で、公正、かつ代表性があり、効果的で、レジリエンス(強じん性)のある、第二次世界大戦後の世界の様相ではなく今日の世界に対応するものにします」。具体的には、国際金融機関の意思決定における開発途上国の発言力強化や、新たな機関の設立、債務救済、国際的な公的融資の促進などが挙げられている。</p>
<p>李氏は同報告書の前文をこう締めくくっている。</p>
<p>「言葉で語る時期は過ぎました。政治宣言を直ちに行動につなげなければなりません。私たちは今すぐ、大胆に行動しなければならないのです」</p>
<p>今後は、SDGsをどのように達成していくか、より具体的な方法についての議論を重視する流れが強まりそうだ。その中でも国際的な連帯が重要なことは確実であり、9月の未来サミットでどのような実行策に合意できるかが注目される。</p>
</div>
<p></div>
<p></p>

SDGsの進捗は2030年の達成に遠く及ばない――国連の2024年報告と「未来サミット」への課題

松島香織

<p></p>
<div class="blockTemplateArea"></p>
<div class="elem_paragraph right">
<p><strong>SB国際会議2024東京・丸の内</strong></p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/07/04/00_0908.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_block color">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>Day1 ブレイクアウト</strong></p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>ESGや企業理念、人的資本など「非財務価値」を可視化し、さまざまな概念やフレームワークに従って開示することが、ますます重要になってきている。さらに投資家との対話では、非財務情報の発信だけでなく、そうした価値をいかにROE(株主資本利益率)などの資本指標で表すかに踏み込む必要がある。本セッションでは、非財務指標と企業価値の関連性を定量的に示す概念フレームワーク「柳モデル」を用いた、KDDIと日清食品ホールディングスの取り組みを紹介。企業の資本収益性と成長期待を高めるために非財務価値をいかに顕在化し、活用するべきかを議論した。(松島香織)</p>
</div>
<div class="elem_block">
<div class="inner">
<div class="elem_paragraph">
<p><strong>ファシリテーター</strong><br />今野愛美・アビームコンサルティング ダイレクター Digital ESGサービス責任者、早稲田大学ESG講座 招聘講師<br /><strong>パネリスト</strong><br />柳 良平・アビームコンサルティング エグゼクティブアドバイザー、早稲田大学大学院 会計研究科 客員教授<br />矢野絹子・KDDI サステナビリティ経営推進本部 本部長<br />横山之雄・日清食品ホールディングス 経営企画部 取締役・CSO 兼 常務執行役員</p>
</div></div>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>2015年から2022年までエーザイのCFOを務めていた柳 良平氏は、同社の企業理念や患者へ貢献している価値を、ファイナンス理論を用いて数字で示すことに長年をかけて取り組んできた。そして2018年に、非財務情報を可視化するための概念フレームワーク「非財務資本とエクイティ・スプレッドの同期化モデル」(通称「柳モデル」)を完成させた。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/07/04/zu_yanagi.png"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>講演資料より</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>柳氏は、「このモデルの成立要件は、ロングターム(長期)が前提となる」とし、「見えない価値を見える化し、ESGの価値を顕在化できれば、PBR(株価純資産倍率)が向上するという蓋然(がいぜん)性もあることを示すモデル」と説明した。</p>
<p>ハーバードビジネススクールのジョージ・セラフェイム教授や、元ブラックロックのエリック・ライス氏などが「柳モデル」を評価しているが、「“絶対的な解”はないとご理解いただきたい」と柳氏は付け足した。また柳氏は、日本の経営者が訴求する社会貢献やパーパスなどと、外国人投資家や東証が要求するROEや資本コストの意識は「二律背反ではない」と強調する。そして「柳モデル」は、「(企業の資産が付加価値を生んでいる)PBR1倍以上につながっていくというWin-Winのモデル。すなわち社会的価値と経済的価値の両立が可能であり、(渋沢栄一の)『論語と算盤』だ」と述べた。</p>
<p>「柳モデル」で分析したエーザイのESGのKPIとPBRの関係では、「1割人件費を増やすと5年後のPBRが13.8%上がる」「研究開発投資を1割増やすと10年超でPBRが8.2%拡大する」などの結果が出た。柳氏は「企業価値を高めることを95%の統計確率で証明した」としつつ、同時に「サンプル数が少ないこと」「相関であって因果でないこと」を課題に挙げた。</p>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/07/04/01_0994.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>柳氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
<div class="elem_paragraph">
<p>柳氏はさらに「数字で示す」ことの重要性を説き、事例として、エーザイジャパン単体の雇用インパクト会計を説明した。同社の給与合計人件費は、約360億円であり柳氏は「360億は費用でなく“価値”だと言って来た」としつつ、加減算して賃金の指数で限界効用と男女の賃金差を調整し、雇用インパクト会計として、投資効率は75%という数字が出たという。</p>
<p>「この比率は米国平均を上回っている。人材の投資効率があると示された。これを人事や組合にも共有することで、弱点である女性管理職を2030年に30%にするという目標設定の、数字的エビデンスとして活用してきた」と柳氏。</p>
<p>さらにエーザイが2014年から2018年の5年間で、25カ国に無償配布した薬の社会的インパクトを算出。薬を摂取した人たちの労働時間と平均余命と最低賃金を考慮して出した社会的インパクトは、7兆円だった。柳氏は「これを平均余命で割り返すと、年間1600億円の価値をこの薬の無償提供によって生んだ」と説明する。</p>
<p>「これはパーパスの証明であり、『柳モデル』とインパクト加重会計の数字で社会的価値と経済的価値の両立が可能であることを示した。この数字は、従業員のモチベーションやお客さまへの貢献を高め、そして長期投資家に訴求する」と柳氏はまとめた。</p>
</div>
<div class="elem_heading_lv2">
<div>
<h2>積極的に情報開示、企業価値につなげていく――KDDI</h2>
</div>
</div>
<div class="elem_pik_box full">
<table class="elem_pik_box" summary="">
<tbody>
<tr>
<td class="elem_pik_box">
<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/07/04/02_0909.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>矢野氏</sup></div>
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
</div>
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<p>KDDIが取り組んでいる「中期経営戦略 (2022-2024年度)」では、パートナーとともに社会の持続的成長と企業価値の向上を目指す、サステナビリティ経営を軸としている。5G通信を核としながら、その周辺にある注力領域を広げていく「サテライトグロース戦略」を基に、非財務による経営基盤強化から環境・社会・企業の価値向上を目指す。なぜ、同社が非財務価値の可視化に取り組むのかについて、矢野絹子氏は「積極的に情報開示をして、あらゆるステークホルダーの皆さまに理解・評価していただき、企業価値につなげていく必要がある」と説明した。</p>
<p>同社は2020年度に「柳モデル」を用いて、215項目の非財務データとPBRとの相関関係を分析した。「女性社員の割合を1割増やすと13年後のPBRが3.4%向上する」「企業フィロソフィーなどの勉強会の回数を1割増やすと、1年後のPBRが0.2%向上する」といった結果が得られたという。「こうした内容は決算発表で公表したり、統合レポートに記載したりした。投資家からもこの取り組みは評価していただいている」と矢野氏は話す。</p>
<p>だが、「相関は見えたが、因果はどうなんだろうという疑問が出てきた」と矢野氏は続ける。さらに分析を進めて、スコープ1・2で温室効果ガスの排出量を削減したり、男性の育休取得率を向上すれば、企業価値が上がるなどの関係性が見えてきた。現在、インパクト加重会計による算出にも取り組んでいるという。</p>
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<h2>3つの手法でESGを定量化――日清食品ホールディングス</h2>
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<div class="pik"><img decoding="async" alt="" src="https://cms.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/__icsFiles/afieldfile/2024/07/04/03_0939.JPG"/></div>
<div class="m_paragraph"><sup>横山氏</sup></div>
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<p>日清食品ホールディングスは、創業者の「戦後の食糧難の中、誰でも簡単に作れるラーメンを提供したい」という思いから設立された。現在、即席めんでは世界17カ国、36工場で展開している。常に新しい食の文化を創造し続ける「EARTH FOOD CREATOR」というビジョンを掲げて、環境・社会課題を解決しながら持続的な企業の成長を果たすことを目指す。</p>
<p>ESGの定量化の取り組みとしては、3つの方法を取っているという。1つ目は「柳モデル」を用いてESG指標とPBRの直接の相関を分析する「俯瞰(ふかん)型分析」。2つ目はESG指標とEPS(1株当たりの純利益)、PER(株価収益率)の関係性に加えESG指標同士も分析する「価値関連性分析」。3つ目は施策と従業員エンゲージメント要素の相関を分析する「VTA(Value Tree Analytics)分析」だ。</p>
<p>「俯瞰型分析」では、「研究開発費が1%増加すると、7年後のPBRが1.4%増加する」という結果が表れた。同社の横山之雄氏は、「こうした結果は、長年培ってきた加工技術に基づく『フードテックカンパニー』としての取り組みを加速させていく上で大きな意味を持つ」と力を込める。</p>
<p>さらに、アビームコンサルティングが「柳モデル」を使用して日本企業を分析し、2022年6月に公表した「企業価値を向上させるESG指標TOP30」を活用。他社平均値と自社の数値を比較し、「原材料使用量」や「育児短時間勤務利用者数」など30の指標のうち、15指標で望ましい相関が見えた。多くは人的資本に関わる指標だったという。</p>
<p>横山氏は「さらにインパクト加重会計という形で、どのようにインパクトを会計上出していけるかにもチャレンジしていきたい」と抱負を語った。</p>
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<h2>「ESGを低いROEの言い訳にしていないか」海外からの厳しい声</h2>
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<p>ファシリテーターを務めたアビームコンサルティングの今野愛美氏は、両社に「どのような必要性を感じて、『柳モデル』やインパクト加重会計という手法の採用に至ったのか」と質問。矢野氏、横山氏とも、まず投資家などの外部からの要請があったと回答した。2人の話を受けて柳氏は、「海外の投資家から、『ESGのためのESGでは駄目。日本企業のESGやサステナビリティは、低いROEやPBRの言い訳にしていないか』と、厳しく言われることがある」と話した。</p>
<p>柳氏の調査では、世界の過半数の投資家は、良いESGの価値を証明して説明すれば、日本企業のESGの価値をPBRに織り込みたいと答えているという。「ここに光がある。日本企業の潜在的なESGのポテンシャルはすごい。それが謙虚過ぎたり数値化されていないことで十分伝わっていないだけ」と柳氏は強調する。そして「私はESGの定量化が日本を救うと思っている。皆さん一緒に頑張りましょう」と会場に呼びかけた。</p>
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「非財務価値」をいかに可視化しROEにつなげるか――KDDIと日清食品ホールディングスの取り組み

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