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  • 公開日:2022.09.16
  • 最終更新日: 2025.03.11
パタゴニア創業者、「地球が唯一の株主」 全株4300億円を環境NPOなどに譲渡

小松 遥香(こまつ はるか)

イヴォン・シュイナード氏 ©︎ Campbell Brewer.jpg

21世紀に新たな企業形態が誕生した。パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナード氏は14日(米国時間)、同社の全株式を環境危機対策に取り組むNPOと信託に譲渡すると発表した。ニューヨーク・タイムズによると、株式は30億ドル(約4300億円)に相当する。パタゴニアはこれにより「地球が私たちの唯一の株主」になったとし、事業への再投資にまわさない資金を毎年、配当金として2組織に分配する方針だ。シュイナード氏は「今後50年間の地球の繁栄を望むのならば、事業の成長を大きく抑えてでも、私たち全員が今手にしているリソースでできることを行う必要がある」と語る。(小松遥香)

会社は誰のものかーー。20世紀から続いた株主資本主義の流れのなかで長年繰り返されてきた問いに、近年、全てのステークホルダー(利害関係者)を重視する「ステークホルダー資本主義」の考えが生まれ、世界に浸透しつつある。しかし、それでもなお気候変動や生物多様性の危機は止まることなく進行し、社会・経済の在り方を根本から変える企業活動が求められている。そうした流れに、パタゴニアは一石を投じた。

パタゴニア、次の章へ

シュイナード氏と家族は、パタゴニアの98%の株式を環境NPO「ホールドファスト・コレクティブ(Holdfast Collective)」に、残り2%と議決権を同社のミッション「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」に永続的に取り組むことを目的に設立した信託「パタゴニア・パーパス・トラスト(Patagonia Purpose Trust)」に譲渡した。その年の経営状態にもよるが、ホールドファスト・コレクティブには年間約1億ドル(約140億円)が分配される見込みだと各紙は報じている。

これは同社が非営利企業になるという意味ではない。パタゴニアは営利企業として、資本主義が地球の役に立つことを証明すべく最善を尽くすという方針を改めて示している。

今でこそペットボトルを再利用して作った衣類は珍しくないが、パタゴニアがペットボトルを再利用したフリースを販売したのは1993年。同社は、環境負荷の少ない製品づくりや、売上高の1%を自然環境の保全・回復に寄付する「1% for the Planet」、持続可能な良い会社を認証する「Bコープ認証」の取得にいち早く取り組んできた。

しかし、シュイナード氏は「環境危機への取り組みにベストを尽くしてきたが、十分ではなかった」と述べる。

「私たちはパタゴニアの価値観を維持しつつ、この危機と闘うためにより多くの資金を投入する方法を見つける必要がありました」

現CEOのライアン・ゲラート氏によると、新たな組織形態の構築は2年前から進められてきた。その過程で、パタゴニアを売却してその利益を全額寄付する、もしくは株式を公開する、という2つの選択肢を検討してきたが「優れた選択肢はなかった」という。そこで考え出したのが今回の形態だった。

同社はこれまで貫いてきた自社のパーパス(存在意義)をさらに追求し、「自然から価値あるものを収奪して投資家の富に変えるのではなく、パタゴニアが生み出す富をすべての富の源を守るために使用する」ことを選んだ。

パタゴニアの事業への再投資分を除いた利益は、環境危機との闘い、生物多様性の保全、課題解決に取り組むコミュニティへの支援、助成金の提供、理念・信念のある活動や選挙の立候補者の支援などにまわす意向だ。

1975年に創業したパタゴニア。今回の声明の文末に設けたQ&Aコーナーで「パタゴニアは売上高の最大化を目指すのか」という問いを掲載し、こう回答している。

「いいえ、目指しません。これは、パタゴニアが今後も直面するであろう、企業の成長と事業による環境への影響との間の葛藤を無視する言い訳ではありません。しかし、この斬新な所有形態により、責任ある成長に伴う利益を気候変動と闘う活動に投入する手段が得られます。

パタゴニアは、50年間にわたる実験を経て、次の50年間、さらにその先も、私たちの価値観に沿って収益性の高い事業を継続することを計画しています」

イヴォン・シュイナード氏 ©︎ Campbell Brewer.jpg

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小松 遥香(こまつ はるか)

アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。

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