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  • 公開日:2020.12.21
  • 最終更新日: 2025.03.02
2050年に自然エネルギー社会100%は実現できる:WWF発表

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

2050年に100%自然エネルギー社会は無理なく実現できるーー。WWFジャパンはこのほど、2030年には石炭火力を全廃する一方、風力や太陽光による自然エネルギーを引き上げることでCO2排出量を49%削減、2050年には実質ゼロにできるという道筋を示した報告書を発表した。人口減少や産業構造の変化などを背景にエネルギー需要も減ることで、現実味を持ったシナリオを示すことができるという。これを基に、日本政府が今年3月にパリ協定に再提出した国別削減目標(NDC)である「2030年26%削減」を約50%削減へと引き上げるとともに、現在、見直しが行われている2030年エネルギーミックスについても、それが可能な電源構成とするよう強力に求めている。(廣末智子)

現状の電力インフラ内で可能 実証済み

報告書によると、最もCO2排出量の多い石炭火力は、2030年までに全廃止することが可能だ。その穴埋めとしては、現状は35〜50%の既設ガス火力の稼動率を60〜70%程度に上げることを提示。一方で、風力・太陽光中心の自然エネルギーの電力に対する比率は47.7%に引き上げが可能、としている。原発についても稼働中および再稼働が見込まれている原発のみを想定に入れた結果、2040年までには全廃する、としている。これらの数値は、全国842地点のAMEDAS2000標準気象データを用いて1時間ごとの太陽光と風力の発電量のダイナミックシミュレーションを通年で行い、現状の電力システムのインフラ内で実現が可能である(沖縄のみバイオマス発電等の増強が必要)ことを実証済みという。

一方、「最もコスト効率的な経済&温暖化対策」として省エネルギーを位置付け。人口減少のため産業活動が2050年にかけて80%縮小し、途上国と競合する原材料の輸出がなくなる代わりにIoTやAI情報機器などの輸出が150%に増大することで「人口減にもかかわらず、日本の経済成長率は維持され、GDPは増大する」との想定の下、2050年には最終エネルギー需要が2015年比で約58%、その途上である2030年には同21.5%減少すると予測した。これに対して、これまでに政府が示している最終エネルギー需要に関する長期見通しは、10%減(2013年比)であり、考え方によっては、省エネの枠を約2倍に広げる可能性があることを示唆している。

各部門の最終エネルギー需要グラフ

グリーン水素が脱炭素社会の切り札となる

さらに脱炭素社会を推進する上で、可能な限りの燃料や熱のエネルギー需要を電気自動車の普及などを通じて電力に置き換えるとともに、現状、化石燃料を利用している運輸部門や産業用の高熱用途は水素で代替していくことを提案。その際は余剰電力を使った水の電気分解で作成したグリーン水素を活用して賄うことが重要であり、グリーン水素はすでに普及段階にある技術で、電力料金さえ低くなれば採算が合うという観点から、「グリーン水素が化石燃料脱却への道筋となる」「グリーン水素は理にかなうエネルギーで、脱炭素社会の切り札となる」とし、あらためてグリーン水素に着目すべきことを強調している。

もっともWWFは、この2050年に自然エネルギー100%を実現するエネルギーシナリオを2011年から6回にわたって提言しているが、これまでは日本のCO2排出量の15%を占める鉄鋼業からの排出削減について「将来の技術革新に委ねざるを得ない部分が5%ほど残ってきた」。それが今回、産業構造の変化を背景に、鉄鋼産業の活動度が国内で低下するとともに、高炉から電炉へと移行し、電炉由来の製鉄の割合を現状の3割弱から欧米並みの7割へと引き上げていくことで、製鉄プロセスからのCO2排出量を4分の1に抑える道筋を示すことにつながった。つまり、鉄鋼生産由来の排出量の脱炭素化についても、以前のシナリオに比べて「より現実味を持って示すことができた」としている。

CO2は2030年49%減→2040年70%減→2050年ゼロへ

こうしたエネミックスを実現させることにより、シナリオでは、エネルギー起源のCO2排出量は2030年に2013年比で49%削減、2040年に70%削減、そして2050年にはゼロが可能となる(温室効果ガスの排出量では、2030年45%削減、2040年68%削減、2050年ゼロ)と説明。その上で、日本政府が今年3月にパリ協定に再提出した2030年26%削減は、「2050年にゼロを目指す道筋とは整合しない。速やかに50%レベルに上げるべきである」と言及。そのためには「2030年のエネルギーミックスをパリ協定の国別削減目標の改定と一緒に議論していかねばならない」とした。その上で、2030年のエネルギー供給構成について政府が現在示している長期見通しと、今回の報告書による数値を並列で示した図表を提示し、「すなわち省庁の縦割りを打破し、経済成長と環境政策を一体で議論できる体制を整え、社会的な既得権益や前例主義などを排除していくことこそが今最も求められていることだ」としめくくっている。

WWFが提言する「2030年のエネミックスとパリ協定国別目標」

政府は現在、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする目標を法制化する方針。今年3月にパリ協定に再提出したNDCと同水準で、2016年に策定した「温室効果ガスを30年度に13年度比で26%削減」とする現行計画についても見直すと同時に、2018年7月に閣議決定し、2030年時点の電源構成を、再エネ22〜24%程度、石炭火力26%、原子力20〜22%と定めた「第5次エネルギー基本計画」についても見直しを行っている。

written by

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局  デスク・記者

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。

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