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独化学・消費財メーカー、ヘンケルの日本法人であるヘンケルジャパンは2008年から、認定NPO法人国境なき子どもたちと共同で、カンボジアの若者の自立支援を目的とした美容職業訓練「未来をつなぐ夢はさみ」を実施している。10年間で277人が職業訓練を受け、3人が美容サロンを開業、40人が美容関係に就職した。今年6月から7月にかけてカンボジアへ派遣される美容師を対象にした事前研修で、同社や参加者に話を聞いた。(オルタナ編集部=中島 洋樹)
ヘンケルジャパンは、「シュワルツコフ」をはじめとするヘアサロン向けヘアケア製品などを展開している。「未来をつなぐ夢はさみ」は、世界で高く評価されている日本の美容技術を生かして海外で社会貢献できないかと考えた同社社員の発案から始まった。2011年は東日本大震災のため中止となったが、同活動は今年で10年目を迎える。
同プロジェクトの対象は、カンボジア・バッタン市にある自立支援施設「若者の家」の若い男女だ。同施設では、貧困家庭出身の子どもたちや人身売買の被害者などに対し、安定した衣食住や教育・職業訓練を提供している。
■全国の美容師がボランティアで参加
「未来をつなぐ夢はさみ」は、現地で講師を務める美容師なくしては継続できなかった。昨年までに47人の美容師がボランティアとして参加した。
5月16日に行われた事前研修では、「ワンレングス」「グラデーション」「レイヤー」などのカットの基本スキルを美容師がそれぞれ披露し、参加者らは意見交換を行った。同プロジェクトの担当責任者である谷水義徳氏は「教える内容、ポイントを美容師同士が共有し、年を重ねても基本を踏襲していくうえで非常に重要」と語る。
谷水氏は「所属するサロンを越えての美容師同士の交流はなかなか難しく、同プロジェクトは有意義な機会となっている。互いの技術を披露することで、技術をより高める効果を生み、美容師同士が協力し合って、プロジェクトを盛り上げていくことで、仲間意識も醸成される」と波及効果について述べた。帰国後も定期的に美容師同士の交流が続いているケースもあると言う。
■「自分のスキルで社会に貢献したい」
6月に行われる第21回に参加予定の根本晋吾さんは、イスラエルに行った際、多くの難民を見て「自分の持つスキルで社会貢献活動をしたい」と思ったことが応募のきっかけだったという。同じく第21回に参加予定の上田七美さんは「子どもの頃にガールスカウトに所属していて、社会の中でそれぞれの役割で貢献するということを学んだ。美容師の仕事を通して、社会貢献したい」と笑顔で語った。
7月に行われる第22回に参加予定の山田陽さんは「幸せの価値観について、自分が思っているものと、世界のものがどう違うかを自分の目で確かめてみたい」と意気込む。同じく第22回に参加予定の望月加奈子さんは「美容師の仕事のやりがいや楽しさを今回のレクチャーでカンボジアの皆さんに伝えられたら」と抱負を述べた。
ヘンケルジャパンは、こうした活動を通し、カンボジアで自立支援を行うだけではなく、美容師の派遣元となるヘアサロンとの関係性も強めている。
昨今、美容師業界は、残念ながら希望者が減少傾向にあり、離職率が高いことが課題となっている。基本的に立ち仕事で、拘束時間が長いこと、また、業務終了後や休憩時間を利用して自主的にカットの練習などを行ってスキルアップをはかっていかなければならないこと、さらにお客様と接している時間が長く、会話を円滑にするため話題や情報収集を随時行っていかなければならないなど、取り巻く環境が厳しいことも事実だ。
しかし、極端な話ではあるが、美容師の仕事は基本的にはさみと身につけたカットスキルがあれば世界中どこでも仕事ができる。本ボランティアに参加した美容師の中には、改めて美容師という仕事の素晴らしさを再認識したとの声も多い。ヘンケルジャパンはカンボジアでの美容職業訓練と並行して、この活動にボランティア参加する美容師らに、活動を通して自身を見つめ直してもらう機会として、また、ボランティアを終了後も美容師として業務に邁進していく一助となることで、通常のビジネス以上の関係を派遣元のサロンとをはかっていき、自社の強みとしていきたい方針だ。
10年目を迎えた美容職業訓練「未来をつなぐ夢はさみ」。最後に谷水氏はこう語った。「今回、次回と派遣される美容師のみなさんがカンボジアの歴史や現状を知り、講師を務めた経験が、帰国して通常業務に戻った際に何らかの役に立てれば嬉しく思う。」
人には2通りのタイプがいる。勇気を持って、思い切って1歩を踏み出せる人とそうでない人だ。人類の歴史の中で、前者の行動が時代を動かし、世の中の発展につながった。「未来をつなぐ夢はさみ」は日本から世界中に広がりを見せている。これからも活動が継続され、日本とカンボジア双方はもとより、世界の課題を解決するモデルケースとなることを期待したい。
中島 洋樹(なかじま ひろき)
株式会社オルタナ オルタナ編集部
2018年4月オルタナ入社。入社1ヵ月弱でCSR検定3級合格。趣味は高校野球観戦、絵画鑑賞、テニス、ビリヤード、サイクリング、ウォーキング、国内旅行など広範囲におよび、特技はカラオケ(レパートリーは50曲以上)。好奇心旺盛で、編集のオールラウンダーを目指す。 「オルタナ」は2007年に創刊したソーシャル・イノベーション・マガジン。主な取材対象は、企業の環境・CSR/CSV活動、第一次産業、自然エネルギー、ESG(環境・社会・ガバナンス)領域、ダイバーシティ、障がい者雇用、LGBTなど。編集長は森 摂(元日本経済新聞ロサンゼルス支局長)。季刊誌を全国の書店で発売するほか、オルタナ・オンライン、オルタナS(若者とソーシャルを結ぶウェブサイト)、CSRtoday(CSR担当者向けCSRサイト)などのウェブサイトを運営。サステナブル・ブランドジャパンのコンテンツ制作を行う。このほかCSR部員塾、CSR検定を運営。