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  • 公開日:2023.06.27
  • 最終更新日: 2025.03.28
「炭素排出ゼロ、富の集中ゼロ、失業ゼロの世界の実現を」 ユヌス博士が若い世代に託す思い

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

SB国際会議2023東京・丸の内

Day1 プレナリ―

ムハマド・ユヌス博士・第14回ノーベル平和賞受賞者

バングラデシュで貧困から抜け出そうとする人たちのために少額融資を行うグラミン銀行を創設し、「ソーシャルビジネス」の概念を世界に広げたムハマド・ユヌス博士が、いま、新たに3つのゼロを掲げた世界の実現を目指して活動している。3つのゼロとは、炭素排出ゼロ、富の集中ゼロ、失業ゼロを指し、博士は、特に若い人たちが、世界経済のシステムを再構築していくことを強く願う。日本でも賛同の輪を広げようと、2月に行われたSB国際会議2023東京・丸の内のプレナリ―にビデオ登壇した博士の言葉を届ける。(廣末智子)

「大きなことが初めからできるとは思っていませんでした。しかし、たった一人のためにでも何かができると思ったのです」
そう、自らの活動の原点を振り返ることから語り始めた博士。ノーベル平和賞受賞につながった、その最初の一歩は決して大きなインパクトを求めて踏み出したわけではなかった。そこにあったのは、小さな村で高利貸しに金を借りたことがきっかけで生活が極度に困窮し、何一つ所有することができなくなってしまっている人々をどうにかして救いたい、その思いだけだったという。

そこから「私が彼らにお金を提供すれば、彼らは高利貸しのところに行かずに済む」という発想が生まれ、行動に移した。それが1983年に創設したグラミン銀行の始まりだ。生活困窮者に無担保で起業や就労のための少額融資(マイクロクレジット)を行う制度は全く新しい銀行のシステムとして評価され、バングラデシュはもとより、世界に影響を与えることとなった。

貧困は押し付けられたものだ

この経験を通じて博士が導き出した結論は、「貧困は貧しい人々が自ら生み出したものではなく、押し付けられたものである」というものだ。

「ではそれを押し付けたのはだれか? それは長年をかけて築きあげられた今の社会全体の経済システムです。もし人々が貧困から抜け出すのを助けたいのなら、このシステムを見直さなくてはいけない。これまでとは異なる、さまざまなビジネスをつくる必要がある。私はそう言い続けました」

その結果、バングラデシュでは、グラミン銀行から少額融資を受けた女性たちによって、住宅や衛生設備の整備、再生可能エネルギー、栄養の改善などさまざまな分野の新規事業が立ち上がった。これらを博士は「ソーシャルビジネス」と名付け、「人々の問題を解決することに専念するビジネス」と定義した。そしてさらに「人々が起業家になる手助けをする銀行こそがソーシャルビジネスになるべきだ」と訴え続けてきた。

「なぜなら、人間は求職者としてではなく、起業家として生まれてくるからです。私はバングラデシュの若者たちに、自分は起業家だと自らに言い聞かせるよう伝え続けています」

システムを再設計するのは若い人たちであるべき

その博士がいま、力を入れるのが、炭素排出ゼロと貧困者ゼロ、失業者ゼロの3つのゼロを掲げ、12歳〜35歳までの若者を主体に、彼らの創造的な力でこれを実現していこうとする「3 Zero Club(スリーゼロクラブ)」の活動の推進だ。

「世界経済が利益の最大化を目的としてきた結果、私たちは地球温暖化という巨大な問題に直面している。そしてすべての富は少数の超富裕層に流れ、底辺にいる人たちには共有されない。さらにAIの台頭などにより、大規模な失業が進んでいる。これらの大きな問題に対処し、システムを再設計するのは若い人たちであるべきだと私は考えます」

クラブは5人の若者が一つのグループをつくってサポートし合い、さらにそれぞれのグループが他のグループとつながってセンターをつくる仕組み。今年2月現在、40カ国で525のクラブがあり、日本でも龍谷大学が2019年に「龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター」を立ち上げるなど、活動の輪は広がり始めている。

「まずはクラブの一人ひとりが『3ゼロの人』となり、次は『3ゼロの家族』をつくる。そして『3ゼロの村』や『3ゼロの都市』を広げる。それができれば『3ゼロの世界』が可能になります。地球温暖化をはじめとする問題は結局のところ、すべて人間がつくりだしたもの。ですから若い人たちが3ゼロクラブをつくることはとても大事なのです」

最後はそう力強くしめくくった。

written by

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。

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