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  • 公開日:2022.07.11
  • 最終更新日: 2025.03.02
ヒトを含む生態系への影響が明らか NPOらネオニコ系農薬に警鐘

松島 香織 (まつしま・かおり)

Aaron Burden

日本で使用されているネオニコチノイド系農薬は近年、科学的知見が積み重ねられ、ヒトを含む生態系への影響が明らかになりつつある。その科学的根拠や日本での規制の脆弱性などを理解した上で使用の即時禁止を求めるNPO主催の勉強会が7月3日に開かれ、日本でネオニコチノイド系農薬がミツバチに与える影響を調べる山田敏郎・金沢大学名誉教授らによる研究結果など最新の知見が報告された。これを受け、医師でネオニコチノイド研究会代表の平久美子氏は、「ネオニコチノイドによる地下水汚染が起きたら人類は逃れられない。今やめないといけない」と警鐘を鳴らしている。(松島香織)

農薬の生態系影響調査やエネルギーシフトなどの研究・助成を行う一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストと、NPO法人アジア太平洋資料センターの共催による「Future Dialogue」と銘打ったイベント。「消費者は『安全』『危険』という結論だけに振り回されないよう、その根拠や論点を理解しておくことが必要。最低限の科学的リテラシーを身につけてほしい」とする目的で、「じっくり知りたい、ネオニコ系農薬問題の重要論点と日本の農薬規制のあり方」をテーマにオンラインで約200人が参加した。

ネオニコチノイドとは、1990年代から使用され始めた殺虫剤の成分で、農薬や家庭用の殺虫剤、ペットのノミ取り剤などに幅広く利用されている。浸透性や残効性があることから、水系汚染の懸念があり、生物多様性を損なう可能性がある。また、生物の神経系に対し毒性が強いことも指摘されており、昨今のトンボやミツバチ減少の原因とされている。

イベントで、山田敏郎・金沢大学名誉教授は、2010~2018年までネオニコチノイド系農薬が与えるミツバチへの影響を長期にわたって調査・研究し、その結果、飼育されているミツバチが突然大量にいなくなってしまう「蜂群崩壊症候群」を起こしたことを発表した。女王蜂やさなぎの幼虫を残して巣から成蜂がいなくなったり、冬の到来を感知する能力が欠損してしまったという。

平氏は数人の研究者らと調査・研究した「有機農産物摂取が尿中ネオニコチノイド排泄に与える影響」について発表した。ネオニコチノイドは体内に入ると細胞膜を自由に通過し、水分子、たんぱく質と結合し保持されやすくなる。つまり人がネオニコチノイド残留農作物を食べ続けると、体内で濃度が上がっていくという。調査では、有機農産物の摂取によりネオニコチノイド摂取を減らす一定の効果があることがわかった。一方で平氏は、「すでにネオニコチノイドを使用し、使用を止めない限り、水や大気、土壌に残留していることから人が摂取するネオニコチノイドをゼロにすることは難しい」と結論づけている。

海外では、因果関係が特定できなくとも疑わしいものは規制したり禁止したりする「予防原則」に則り、フランス、ドイツ、イタリアなどで2000年代に規制が始まっている。2013年には欧州食品安全委員会がミツバチに対する影響を認め、一時使用禁止などの措置を取っている。また米国環境保護庁は、絶滅危惧種の約8割に重大な影響を与える可能性があると公表している。

日本では農薬取締法があり、登録制度となっている。製造者は毒性や作物への残留、環境影響などの試験結果を提出しなければならないが、その基準に用いられているのはOECD(経済協力開発機構)の「OECDテストガイドライン」だ。これについて、星信彦・神戸大学大学院農学研究科教授は、「OECDのガイドラインは、発展途上国なども実施できるようにした簡素な試験方法であり、十分な試験結果としては疑問」だとする見方を示した。

登録されたネオニコチノイド系農薬は年間400トン以上出荷されており、「農薬を使用するにしても規制をしっかりしないと、同じことが繰り返される」と星氏は危機感を募らせる。2020年4月に農薬取締法が改正され、「再評価制度の導入」「農薬原体が含有する成分に関する評価」「蜜蜂への影響評価」等の評価項目が追加されたが、今後どこまで公正な評価がなされるかが焦点となっている。

written by

松島 香織 (まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。

アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。

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