
漁獲量が大きく減少し、各地で「磯焼け」が広がるなど、漁業を取り巻く状況は年々厳しさを増している。その背景にあるとされるのが、海の環境変化だ。MizLinx代表取締役CEOで、海の観測システムの開発を手掛ける野城菜帆氏が「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」のプレナリーに登壇。持続可能な海洋利用に向けて奔走するZ世代らしく、「海を守り、地球の未来を守りたい」と熱く語った。
Day1 プレナリー 野城菜帆・MizLinx 代表取締役CEO |
紺色の作業着姿で登壇した野城氏は、大学院在学中のコロナ禍でMizLinxを設立した。そのミッションを「海の課題を人と技術の力で解決すること」と説明。そして「こんなに問題が山積みなのか、と衝撃を受けた」という水産業との出会いを紹介し、映像や画像を見せながら海の課題を挙げていった。
40年間で3分の1まで減少した漁獲量、養殖魚の大量死、さらには沿岸で海藻が育たなくなる磯焼け――。これらの現象の原因として、海水温の上昇や人間の活動による環境変化が指摘されている。しかし野城氏は「何がどのぐらい起こっているのか、本当のところは誰も分かっていない」と強調し、「大事なのは、まず海を正しく把握することではないか」と考えて活動を始めたという。
そこで開発したのが、海の観測システム「MizLinx Monitor」だ。カメラやセンサーを搭載した観測装置を設置することで、海中の映像や水温、溶存酸素、塩分などの環境情報を得ることができる。これらの情報はウェブアプリに表示され、海中のデータがいつでも確認可能となる。

漁業の現場でどのような効果が期待できるのか。野城氏がまず示したのは、養殖の餌問題だ。養殖では餌代がコストの大半を占め、餌の高騰が経営を圧迫。また、魚に食べ残された餌は放置され、環境負荷になっているという。そこで観測システムを活用することで、餌やりを最適化し、「効率的で環境負荷が小さい操業」を目指す。
観測システムの効果は、天然の漁業においても期待が大きい。定置網漁では、漁に出て網を上げても、魚が入っていなければ赤字操業になってしまうが、観測システムを使うと、陸上にいながら、網の中にどのくらいの魚が入っているかを把握することができる。「行っても空振り」の赤字操業を減らすとともに、どこにどれほどの魚が存在しているかという情報は、「水産政策にとっても非常に重要。資源管理という側面からも貢献できる」と野城氏は力説した。
漁業者や行政と連携し、藻場の再生などに向けて全国を駆け回る野城氏。「海の課題は日本だけでなく、世界各国で起こっている」と視線はグローバルに向けられている。最後に「この事業を通して持続可能な海洋利用を実現することが私たちの目標。海の未来は地球の未来そのもの」と力を込め、会場の参加者に共創を呼びかけた。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。