
企業のサプライチェーンが複雑化する中、材料調達時のESGをどのように担保するかが大きな課題となっている。AIスタートアップのaiESG(アイエスジー)はビッグデータとAIを活用し、企業のサプライチェーンのESG評価を実施している。創業者のひとりで最高経営責任者の関大吉氏が「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」のプレナリーに登壇。「しわ寄せのない幸せな世界」をテーマに、AIの力で公正な社会を目指す取り組みを報告した。
Day2 プレナリー 関大吉・aiESG 最高経営責任者(CEO) |
aiESGは九州大学のアカデミア発スタートアップで、ESGの分析・評価に特化したサービスを展開している。創業者4人全員に開発途上国での生活経験があり、低賃金労働など「不公正があふれた」世界を目の当たりにしてきたという。そして関氏は「生成AIの時代、さらに貧富の差が拡大するのではないか」と懸念を示し、次のような数字をスクリーンに投影した。
10.1時間、9.8時間――。これはTシャツ1枚の製造に関わる労働時間を、aiESGが算出した結果だ。それぞれ「不公正かつ基準の守られていない環境」「安全と健康が危険にさらされた環境」で行われた労働時間を示している。関氏は、このような人権侵害だけでなく、環境や生物多様性の観点でも不公正や「しわ寄せ」が起きている、と指摘。そこで自分たちに何ができるかを考えた結果、導き出した答えは「見える化で人の豊かさを問い続ける」ことだったという。

関氏はここで、スクリーンに世界地図を映した。そこにはおびただしい数の放射線が描かれ、所々に大小の赤い丸印がある。この図はTシャツ1枚を作った際のサプライチェーンを示しており、丸印はサプライチェーンに伴うリスクを表しているという。複雑で見えづらいリスクの所在を「ビッグデータとAIの力で可視化」(関氏)したのが、まさにこの図だ。
aiESGの強みは、ハーバード大学や九州大などの共同研究で培われた「世界で最も信頼度の高い社会・環境データベース」(関氏)を持つことだ。400本以上の統計・貿易データ、国連やNGOの人権・環境レポートなどをスーパーコンピューターを活用してAI分析。製品の末端製造地域までのサプライチェーン全体における、3000以上のESG指標を可視化したという。原材料の調達場所や量が分かれば、「サプライチェーンにどのような環境・人権リスクがあるのか、正確に可視化することが可能」と関氏は言う。
こうしたデータベースを土台に、aiESGは ESG評価・改善の伴走支援だけでなく、クライアントの社内自走を支える世界初のAIクラウドサービス「aiESG Flow」をリリースするなど、大学発のスタートアップという特長を生かし、産官学の枠を超えて事業を拡大中だ。講演の最後に関氏は「真にサステナブルな商品や取り組みが、きちんと評価される世界にしていかなければならない」と力説し、データとAIを活用したサプライチェーンの可視化をさらに推し進める覚悟を示した。穏やかな語り口の中に、「幸せが連鎖し、しわ寄せのない社会」に向けた使命感を強くにじませた。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。