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  • 公開日:2025.04.01
  • 最終更新日: 2025.04.02
SB国際会議2025東京・丸の内
米国の現状から何を学ぶべきか、「リジェネレーション」の可能性とは――米SBの創設者とCEOが語る

茂木 澄花 (もぎ・すみか)

Day1 プレナリ―
コーアン・スカジニア サステナブル・ブランド創設者
マイク・デュピー サステナブル・ブランドCEO

SBの世界的なコミュニティは、2006年に米国で発足して以来、ビジネスの成長と持続可能な社会を両立するための歩みを進めてきた。しかし現在、米国内の取り組みは逆風にさらされている。「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」に登壇した創設者のコーアン・スカジニア氏は、現状に対する見方を率直に語り、前向きに学びを共有した。昨年CEOに就任したマイク・デュピー氏はビデオメッセージを寄せ、データや事例を示しながら「リジェネレーション」の可能性を改めて強調した。(茂木澄花)

全ての人が居場所を見つけられるストーリーを――スカジニア氏

冒頭スカジニア氏は、日本企業の取り組みからいつも刺激を受けているとして感謝を述べ「米国人として、謙虚な気持ちでここにいる」と語った。その背景には、米国でサステナビリティを推進する人々が置かれている厳しい状況がある。ごく少数の「権力を持った個人」が、社会の変化に取り残されることへの恐怖をあおることで一定の支持を得た結果だとスカジニア氏は説明する。

このように、未来のための取り組みを覆そうとする動きがある中でも「ビジネスリーダーたちは進路を変えていない」という。米SBはこの数カ月間、多国籍企業のリーダーたちと対話を重ねてきた。対外的な発信を控える動きはあるものの「長期的なゴールや取り組みは変わっていない」と、スカジニア氏は力を込める。

同氏は、米国の現状から学ぶべきこととして「全ての人が居場所を見つけられるストーリーを語ることが重要」だと主張する。誰かを「敵」として設定してしまうと、その人々は脅威を感じ、うそをついてでも「自分たちは脅威に立ち向かうヒーローである」という新たなストーリーを作り上げる。これがまさに米国で今起こっていることだ。スカジニア氏は「自分がどう言うかではなく、相手にどう聞こえるかが重要」と注意を促した。

また「誰もが理解できる言葉で語ること」の重要性も指摘する。同じ言葉でも、人によって捉え方が違うことにも注意が必要だ。実際に米SBでは、言葉の使い方を見直す取り組みを進めており、相手によってメッセージを変えることもあるという。

さらに「市民、経営者、投資家、教育者、自治体などに対し、利益一辺倒の仕組みによってもたらされるリスクと、持続可能な繁栄のために考え得る解決策をもっと伝えていかなければならない」とも語る。また、再生型経済への移行が全ての人に恩恵をもたらすことを示すために、引き続き経済的な価値を強調していくことも必要だという。

スカジニア氏は「世界中で、米国内においても、同志の輪は広がっている」とし、「今は諦める時ではない」と力強く語った。

同氏は昨年、CEOの役割を、初期から企業メンバーとして関わってきた元COOのデュピー氏に引き継いだ。今後はパートナーシップを築く活動に注力し、新たなワーキンググループも作っていく予定だ。

生物的代謝と同じように資源も循環させる――デュピー氏

続いてスクリーン上には、新CEOデュピー氏からのビデオメッセージが映し出された。同氏はまず、SBがグローバルのテーマとして掲げる「リジェネレーション」の意味を改めて次のように説明した。「リジェネレーションとは、枯渇したものや劣化したものを、元に戻したり修復したり回復させたりすること。そして再生する能力を育み維持することでもある」

リジェネレーションの取り組みは大きな可能性を持っているとデュピー氏は主張する。複数の研究機関の試算で、再生型農業の採用が広がれば莫大な量のCO2を減らせることが示されている。実際に、再生型農業の手法である不耕起または節減耕起を採用している農家は、2024年時点で世界全体の56%にまで増えたという。さらに再生型農業への移行を進めるため、ウォルマートとペプシコなど、大企業同士が協働する例も見られる。

デュピー氏は、再生型の取り組みが農業分野以外にも広がっていると語る。例として、米化学メーカー イーストマン・ケミカルの、プラスチックを分子レベルに分解するリサイクル技術を挙げた。開発段階での電力消費など課題はあるものの、生物的代謝と同じように、資源を無限に循環させられる可能性があると見る。ウィリアム・マクダナーの著書『サステイナブルなものづくり: ゆりかごからゆりかごへ』で論じられているところの「プラスチックの技術的代謝」だ。

また、日本企業がリードする水素技術にも言及した。トヨタ、スズキ、川崎重工、岩谷産業の実績を挙げ、「燃料の技術的代謝の未来がある」として、大規模な水素経済の発展に期待を寄せた。

デュピー氏は最後に「未来は現状を単に維持するのではなく、事業のやり方を積極的に修復・補足・再考できる人にかかっている。それがリジェネレーションの力だ」と思考の転換を呼びかけた。

written by

茂木 澄花 (もぎ・すみか)

フリーランス翻訳者(英⇔日)、ライター。 ビジネスとサステナビリティ分野が専門で、ビジネス文書やウェブ記事、出版物などの翻訳やその周辺業務を手掛ける。

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