SB国際会議2024サンディエゴ
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10月14日から4日間にわたり開かれたサステナブル・ブランド国際会議2024サンディエゴ。2日目の基調講演では、リニアエコノミー(直線型経済)からサーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行を目指すなか、ビジネスをとりまく複雑な課題を解決するために企業がどう動き始めているかが紹介された。モデレーターを務めたのは4月にサステナブル・ブランドの新CEOに就任したマイク・デュピー氏だ。
デュピー氏が歌手ジョン・メイヤー氏の言葉を引用し、さらに自身の息子が所属するリトルリーグの野球チームで、コーチをしているという心温まる話をしたのには、ちゃんとした理由があった。デュピー氏は会場の参加者らに、消費者がより持続可能な暮らしを簡単に実践できるように取り組みながら、希望を持ち続けることの大切さを語りかけた。(翻訳・編集=小松はるか)
「価値のマネージメント」が新たなビジネスモデル設計の重要なカギに
![]() アダム・ラスビー氏
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英コンサルティング企業リジェノベイト(Regenovate)の共同創設者アダム・ラスビー氏は、既存のビジネスモデルを本気で改革するよう熱く呼びかけ、自身の考えについて語った。
戦略家のラスビー氏は、悲観的な見通し(私たちが赤字経済を運営し、世界の平均気温が産業革命前に比べて2度以上高くなる道をたどっていること。生きている間に生物多様性が70%失われ、米国の5人中1人は心の病を抱えていること。私たちがかつてなく自然から切り離されていることなど)を払拭する別の見方を示した。
「子どもというのは素晴らしいですよね。子どもたちは懐疑心を一時停止し、大人にはつながりが見えないところにつながりを見つけます。私は皆さん自身の中に眠る5歳児の視点を利用し、新しいつながりを見つけ出し、懐疑心を一時停止してもらいたいと思っています」
ラスビー氏は、ビジネスによって企業が生み出す「価値」と、システムの健全性を高めることで組織にもたらされる「利益」や、「レジリエンス」とがつながることを期待している。
金融資本が衰退を促進するのなら、企業は社会資本や自然資本、製造資本などの異なる形の資本に重点的に取り組むときだ。こうした資本は結びついて価値の流動を生み出し、さらにラスビー氏の言う余剰経済(活動)、価値のスピルオーバー(波及)も生み出すことができるのだ。
キューリグ・ドクター・ペッパーに学ぶ、循環型ビジネスを成功させる「戦略的忍耐」
![]() キューリグ・ドクター・ペッパーのモニーク・オキセンダーCCOと、米サステナブル・ブランド新CEOに就任したマイク・デュピー氏
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米飲料大手キューリグ・ドクター・ペッパーは、コーヒーマシーンを使った一杯のコーヒーを提供するための、持続可能で効果的かつ手軽に使える方法を開発するまでに20年かかった。壇上で同社のチーフ・コーポレート アフェアーズ オフィサー(CCO)であるモニーク・オキセンダー氏がデュピー氏に語った通り、彼女のチームは最後の最後にようやく成功した。
同社は消費者が責任を持ってコーヒーポッド(コーヒーカプセル)を捨てられるようにするために、リサイクル性を向上させ、さらにポリプロピレンに移行するという大々的な投資を行った。その後ようやく植物由来のコーティングを施した、プラスチックとアルミニウムを使わないコーヒーポッドを生み出した。商品はKーラウンド(K-Round)と名付けられ、オキセンダー氏は開発成功の喜びを隠せない様子だった。
「消費者はサステナビリティ以上のものを求めています――。品質や種類、価値です。消費者のニーズを満たすものを生み出すことが鍵になります」
![]() Image: Keurig Dr Pepper
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同社は紙製のコーヒーポッドを試した後(ドロドロのゴミが残った)、ポリプロピレンのカプセルにたどり着いた。しかし問題があった。ポリプロピレンのカプセルを使う場合、消費者に新しいコーヒーマシーンを買いに行ってもらわなければならなかった。
「そのコーヒーマシーンはアップグレードを促すのに、十分な機能が備わっていませんでした。消費者はサステナビリティを理由に新しい機械を買うことはありませんでした」(オキセンダー氏)
では、同社が最終的に成功させられたのはどうしてか。彼女は、社内からのプレッシャーや批判を受けることなく、結果を出す時間や場所が与えられたからだと答えた。彼女のチームは、植物由来の素材を使ったコーティングをすでに実装していたスイス企業と提携し、北米での技術の使用許可を得てコーヒー豆の粉末を固めたのだった。
「消費者はただサステナビリティを求めているわけではありません。消費者はどんどん妥協できなくなっています。そして製品に対してほかにも求めていることがあります。より小さなカプセルにしたり、より冷たいコーヒーを抽出したりすることなどです。何よりも嬉しいのは、Kーラウンドをつくる努力は、単にプラスチックやアルミニウムを使わない選択肢を見つけるだけにとどまらないことです。新たな消費者の需要も満たします。消費者の需要に応えるだけでなく、需要をけん引するのです」
オキセンダー氏は参加者らに「解決策を生み出すには時間がかかります。私たちの場合は20年かかりました。必要なのは戦略的忍耐です」と話して締めくくった。
循環型ビジネスの第1法則は「循環について話さない」
![]() スザンナ・シェルトン氏
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続いて登壇したのは、広告・調査・コンサル事業を展開するシェルトングループ創設者でERM社シニアパートナーのスザンナ・シェルトン氏。シェルトン氏は、米サステナブル・ブランドの会員企業が参加するワーキンググループSB Go Circular Collaborativeと連携し、循環型の製品やサービスの認知・使用を促すのに役立つプレイブック(戦略集)を制作しているところで、その成果の一部を紹介した。
プレイブックはSBの会員企業にもう間もなく公開される予定のもので、シェルトン氏の経験や現在のメンタルモデル(価値観や思考の枠組み)についての知見を基にしている。
「サーキュラーエコノミーを促進する上で朗報なのは、調査した75%の人が環境に配慮した暮らしをしたいと思っていることです。また、44%の人は企業の環境や社会への取り組みを理由に製品を購入した、あるいは購入しなかった経験があると答えています」
良い兆しはほかにもあり、97%の人がリサイクルは環境保全に役立つと考えているという。「私たちは過去40年間、『環境に配慮し、リサイクルをしよう』と言われてきました。89%の人はリサイクルすると気分がいいと答えます」。
シェルトン氏はこうしたメンタルモデルが既にあるため、企業は「循環」について話し始めるためにさらに踏み込む必要はなく、「循環」という言葉を使うべきではないと話した。
「それは私たちがつくってきたメンタルモデルですが、そのメンタルモデルを広げる必要があります。私たちには別の言葉が必要なのです」。気候変動や生物多様性よりも海洋プラスチックに関心を持つ人が多い状況下(シェルトン氏の調査によると)では、「リユース」「リデュース」が人々が積極的に取り組もうと思う言葉だ。
「プレイブックをぜひ確認してみてください。素晴らしいツールです」。プレイブックでは、企業・ブランドがどうコミュニケーションをとり、循環型のビジネスにどう取り組むべきかを示した10の原則と、企業が使用すべき・使用すべきでない言葉や画像について多くの事例が紹介されている。
「重要なのは、企業が協力しあうことです。どの企業も消費者に循環型の製品・サービスを使ってもらおうとして困難な立場に置かれるべきではありません。コラボレーションが必須なのです」
水素事業に力を入れるホンダ 2050年とその先を見据えた戦略とは
![]() デビッド・ペルジンスキー氏
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デビッド・ペルジンスキー氏はホンダで働いていることを非常に誇りに思っている。同社の水素ソリューション事業開発部でアシスタントマネージャーとして働くペルジンスキー氏は、大手自動車メーカーが脱炭素ビジネスを巡ってしのぎを削るなか、大きな変化を生み出す分野で働けることに喜びを感じている。
ホンダの燃料電池車と技術開発の物語は、今回のSB国際会議の会場でも大々的に展示されていた。同社の取り組みの中核にあるのは、2050年までにCO2排出量実質ゼロ(と交通事故死者ゼロ)という目標だ。また、水素燃料電池車やトラックの開発を拡大するためにホンダの技術者たちを後押しする要因は多くあるが、特に大きな力となっているのが「技術は人のために」という創業者・本田宗一郎のビジョンだという。
ペルジンスキー氏は、1970年代に厳しい排出ガス規制に直面した際、多くの企業が実現不可能と考えていたなかで、ホンダがどう対応したかを参加者らに思い出させた。(ホンダは低公害エンジン「CVCC」の開発に成功し、それを搭載した車シビックは米国でも大ヒットした。)
「当社のエンジニアたちは『私たちにはできる。やり遂げなければならないのだ』と言いました。それは規制に従うことではなく、子どもたちにより良い世界を残すためでした。その言葉は従業員を鼓舞する掛け声でした」
ホンダは今、ゼロエミッション技術を消費者やブランドにとって、可能な限り魅力的なものにするために、同じその掛け声に応えるべく取り組んでいる。SB国際会議のイノベーションゾーンに展示されたホンダのクラス8水素燃料電池トラックは、CO2を排出することなく400マイル(約644キロメートル)走行できる。
ホンダの水素燃料電池技術は、新しいものではない(同社は40年前から取り組んできている)。今後数年のうちに、同社はハイブリット車を生み出し、クリーンエネルギー貯蔵の活用を促進することで新たな市場を開拓していきたいと考えている。
「ディーゼル車をなくすために一緒に取り組んでいきましょう(カリフォルニア州では、2035年までに州内で販売する新車の乗用車・小型トラックをゼロエミッション車にすることが義務付けられており、ディーゼル車の新車販売も禁止される)。私たちが協力し合うことで生み出せるインパクトをぜひ考えてみてください」とペルジンスキー氏は呼びかけた。