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インドネシアの首都ジャカルタでは2012年から、毎週日曜を「カーフリーデー」に定め、都心の一部で車の乗り入れを規制し、大気汚染の緩和に取り組んでいる |
住民は自分が暮らす都市の気候変動への備えをどう評価しているのだろうか。英組織が発表した世界主要都市の気候レジリエンス(強じん性)に関する最新調査結果によると、気候変動の悪化と都市の備えに対する住民の不安が浮き彫りになっている。今こそ行政と民間が手を取り合って、共に行動を起こしていくことが喫緊の対策として指摘されている。 (翻訳・編集=遠藤康子)
2024年の夏は、8月が月別気温で史上最高を記録し、1880年に観測が始まって以来の最悪の猛暑となった。世界保健機関(WHO)によれば、全世界の気候関連死因ナンバーワンは今や熱中症だ。都市はとりわけ緑地が少なく、熱を吸収するコンクリート製の建築物や道路に覆われた「コンクリートジャングル」であるため、過大な影響を受けている。
こうした問題をどうにかするべく、世界の多くの組織が続々と対策に乗り出し、樹木を植えて木陰を増やしたり、地域社会の緑地利用を促進したり、建物や舗装部分に太陽光を反射する遮熱塗料を施したりして、ヒートアイランド現象の緩和に努めている。とはいえ、そうした対策は依然として統一性に欠け、都市で暮らす人々は不安を覚えている。
エコノミスト・グループが立ち上げた社会変革事業「エコノミスト・インパクト」が2024年10月、チューリッヒ・インシュアランス・グループの協賛で、「Resilience from the Ground Up: Assessing City-Level Approaches to Climate Risk and Adaptation(ゼロからの気候レジリエンス:気候危機と気候変動適応策を巡る都市の取り組み評価)」と題した最新報告書を発表した。その中で浮き彫りになったのは、自分たちが暮らす町の気候変動への備えと将来的に起こり得る事態について、住民が不安を感じていることだ。報告書の作成にあたっては、先行研究レビューや気候専門家15人への聞き取り、世界の主要10都市(アムステルダム、カイロ、ケープタウン、ドバイ、ジャカルタ、マドリード、ムンバイ、ニューヨーク、サンパウロ、東京)で暮らす一般市民5000人を対象に調査が行われた。
一般市民を対象にした調査では、住民が気候変動をどう受け止めているのか、自分の暮らす都市は気候にどう適応すべきか、気候問題に対して個人的にどの程度の責任を感じているのか、が深く掘り下げられた。得られた結果をもとに、激しさを増す気候変動の影響に耐え得る強じんな都市環境を構築する上で実行可能な戦略とは何かを提案するのが狙いだ。
主な調査結果:気候関連リスクへの備えが遅れるサンパウロ、東京、NY
調査では予想に違わず、都市による気候リスクへの備えは万全ではなく、住民の安全や健康、生活が脅かされていることが明らかになった。気候変動への適応に向けたパートナーシップ「Climate Adaptation Partners(CAP)」の創設者ジャニス・バーンズ氏が指摘するように、気候レジリエンスとは、次の洪水や干ばつ、熱波を生き延びるだけではなく、気候リスクが加速する中で地域社会や都市、経済活動が順調に発展できる状態を指す。「投資は一つ残らず、気候を念頭において検討しなければなりません」とバーンズ氏は話す。
都市システムに対する信頼性が総じて低く、悪化する気候変動の影響に耐えられないと住民が思っているということは、都市計画とインフラの備えの間には“ずれ”があるわけだ。都市で暮らす人は当然のことながら、公共交通機関や飲料水、電力供給網といった生活の基盤であるシステムが、加速する気候変動の影響に対応できないと不安を抱いている。
持続可能な社会の実現を目指す自治体協議会イクレイ(ICLEI)のグローバル展開部門責任者スナンダン・ティワーリー氏は、災害が起きてから行動する受動的姿勢から、気候レジリアンスを立案する能動的姿勢へと転換を図るための時間は残り少ないと断言する(能動的な都市づくりの一例には、米フロリダ州のバブコック・ランチや、持続可能な社会実現を掲げるコンサルティング会社ランボルのネイバーフッド・フューチャーズなどがある)。「都市は、現在の許容範囲を上回る気候ショックに耐えられるシステムを開発しなければなりません」
自分が暮らす都市の気候変動への備えについて、住民の答えは大きく割れた。調査対象10都市のうち、気候関連リスクへの備えが最も遅れていると住民が見なした都市は、サンパウロ、東京、ニューヨークだった。自分が住む都市は気候変動に向けた「備えが万全だ」と回答した住民は、サンパウロと東京はわずか3%、ニューヨークは6%にすぎない。これに対し、カイロは気候リスクへの対応策が最も整っているとみなされ、「備えが万全だ」と回答した市民は3分の1を超える37%に上った。カイロ市民が他の都市住民よりも自分の住む町の備えに大きな信頼を寄せているのは、水不足といった主要な気候問題に長く取り組んできたことが背景にあるのかもしれない。カイロは水資源の未来を確保する上で大きな進歩を遂げ、住民すべてが飲料水と衛生設備を利用できるようになった。こうした問題に長く取り組んできたことも一因となって、起こり得る気候変動の影響に対する住民の不安が和らいだ可能性がある。
報告書ではさらに、強度と頻度が増す世界的な異常気象への耐久性を向上する対策を講じた都市(ロンドン、マドリード、リオデジャネイロ、シドニー、米ノースカロライナ州ケーリーなど)の取り組みを考察したケーススタディも取り上げられている。
「こうした調査結果から、高まる気候変動の影響を緩和するために地域社会は何をどうすればいいのか、その重要な機会が見えてきます」と話すのは、チューリッヒ・インシュアランス・グループのZurich Resilience Solutions(ZRS)北米責任者アルーラン・シヴァスブラマニアム氏だ。ZRSは、深刻化する自然災害から従業員、資産、事業を守れるよう企業を支援するリスク研究機関だ。「私たちは、組織が自然災害に対する自社の弱点を理解し、潜在的な影響を評価し、効果的なレジリエンス強化プランを策定できるよう、全力で支援しています」とシヴァスブラマニアム氏は話す。
都市の気候レジリエンス向上に欠かせない官民連携
気候レジリエンスの対策として、官民の重要なポイントを挙げておこう。まず、気候レジリエンスは環境担当部署のみが担うことではなく、個別に運営されることの多い交通や住宅、健康、財務など数多くのセクターにまたがる課題である。ただし、地方自治体が独力で気候レジリエンスを強化することはできない。しかも、行政と民間が十分に連携しているとは言い難く、「連携不足が自分の暮らす都市の効果的な気候適応を阻んでいる」と答えた調査回答者は57%に上った。報告書では、イノベーション、責任、そして政府や企業、個人による集団行動の必要性を強く訴えている。
企業は今こそ積極的に乗り出して異常気象に適応し、より意義深い変化を起こせるよう個人を支援すべきだと、報告書は指摘する。都市の経済活動ならびに雇用の最大創出源である企業には、果たすべき大きな役割がある。企業なら、そのリソースと技術的な専門知識で、地元のニーズに見合った手頃な解決策の構築を後押しし、国の政策と地方の実装の間にあるギャップを埋めることが可能だ。
行政と民間がタッグを組み、透明で包括的なガバナンスを推進すれば、気候変動に直面しても発展することが可能な都市として備えを固めることができるだろう。
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