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人工知能(AI)の技術を活用する動きが、サステナビリティの分野でも広がっている。10月に開催されたSB国際会議2024サンディエゴでも、複数のセッションでAIが話題に上った。その内容を2回にわたって見ていこう。
AIはさまざまな恩恵をもたらすが、環境への悪影響も懸念される。専門家らは、電力消費と水使用の問題を考慮し、効率的に利用することを呼びかけた。一方で、サステナビリティに資する活用事例も増えている。米スタートアップのノーブルAIは、化学物質のリスクを評価するAIツールを提供し、人体と環境にとって安全な製品開発を支援する。(翻訳・編集=茂木澄花)
AIは環境に良いものか、悪いものか
さまざまな事例を通じて、企業がAIを活用するメリットが明らかになっている。例えば、AIを使ってデータ入力、カスタマーサービス、在庫管理といった繰り返しの多い業務を自動化することで、従業員をそうした作業から解放し、高付加価値の作業に集中させることができる。膨大な量のデータを即座に処理できるため、企業はより多くの情報に基づいた意思決定ができ、サプライチェーンを最適化し、市場のトレンドを予測できる。AIを使えば、行動や好みを分析して個人に合わせた“おすすめ”をし、顧客に合わせてカスタマーエクスペリエンス(顧客体験価値)を変えることも可能だ。
AIがイノベーションを加速する可能性もある。企業が新製品を開発し、既存のプロセスを最適化し、新規市場に参入するのに役立つからだ。
その一方で、AIが地球環境に及ぼす影響はあまり知られておらず、議論されることも定量的に把握されることも少ない。ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)でチーフ・テクノロジストを務めるジョン・フライ氏は「サステナビリティの専門家たちは、企業の情報システムに関する経験が乏しい」と指摘した。テクノロジーの悪影響に対処するには、そうした状況を変える必要があるという。
フライ氏は、AIの歴史を概説した。AIは約60年以上前から研究されており、現在ではクレジットカードの不正利用検知や、臨床医の診断支援など、あらゆることに使われている。中でも最もよく活用されている「生成AI」は、大規模言語モデルを使い、画像情報やテキストベースの情報を出力する。しかし、こうした情報は全てコストを伴う。情報を生成するためにはエネルギーが必要で、全ての処理を担うデータセンターを冷却するために水が使われている。
フライ氏が示したスライドは、驚くべき内容だった。AI技術の成熟度、妥当性、採用率などを示した最新のレポート「ガートナー ハイプ・サイクル」では、2026年までに75%の企業が生成AIを使って合成データを生み出すと予想されている。2023年の時点で、この数字は5%未満だ。AIの使用によって、世界中のデータセンター使用率は今年の2.3%から来年には7.3%に跳ね上がる見込みだ。また心配なことに、AIモデルをトレーニングするために必要な電力は、3カ月から4カ月ごとに倍増している。AIの正味ピーク負荷は2025年までに2000MWになるという予測だ。ChatGPTなどに新規クエリが1件入力されるごとに、0.5Whの電力が使われる。
また、水使用の影響もある。水を使うのは、冷却、発電、そしてチップの製造段階だ。使用する水の量は、生成AIに入力された質問1つにつき16オンス(約470ミリリットル)で、AIモデルの開発企業と提供企業が使用する水の量は、全工程を通して2桁増で進んでいる。
HPEなどは長年、企業がこうした環境への影響に対策を講じられるよう、力を注いできた。企業に対し、データやソフトウェアの効率性を見直すだけでなく、設備、エネルギー、資源の効率性も検証する総合的なアプローチを取り入れるよう促してきたのだ。
「企業は大量のデータを保存しています」とフライ氏は言う。「その中で使われるのはたった3分の1で、ほとんどが約1週間後には価値を失っています。データのあり方を見直し、自社のAI利用にかかる電力量と設備を抑制することも1つの方法です。自分から変化を起こしましょう」
アンセシス・グループで脱炭素とエネルギートランジションを担当する一時取締役であるカイル・ワード氏も、フライ氏に賛同した。そして、AIの影響に対策を講じることを模索している企業に対し「4Mフレームワーク」という代替的な枠組みを提案した。
「必要なときだけAIを使い、AIモデルのアーキテクチャとプロセスは効率的なものを選択しましょう」とワード氏は言う。「また、デジタルなサービスと製品を開発する際には、サステナビリティの基準を必ず組み込んでください」
フライ氏もワード氏も「AIは発展の途中であり、簡単に語れる問題ではない」と認めている。フライ氏は、今後AIが環境に与える影響が減ったとしても、企業はその影響を最小限に抑える努力を続けるべきだと強く訴えた。データセンターで発生した熱を再利用・売却するといった新たな選択肢があることを指摘しつつ、「効率が一番の燃料です」とも語った。
AIにはさまざまなメリットがあるが、電力消費や水使用の問題は依然として大きい。対策を講じなければ、制御できないほど大きな問題になってしまうかもしれない。今こそ、しっかり向き合うべき時だ。
化学物質の安全な利用のためにAIを活用する
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規制強化によってPFASなどの有害物質を排除する圧力が高まり、消費者がサステナビリティを重視する度合いも高まっている。そうした中、企業に求められるのは、自社が使用する化学物質に対して一層きめ細かな注意を払い、規制を遵守しながらも製品の品質や効果を維持することだ。しかし、そうした要求に応えるために製品の成分を見直すことは、かなりの困難を伴う。特に難しいのは、リスクのある成分を特定し、代わりとなる適切な物質を見つけることだ。
企業が使用している化学物質の膨大な数を考えれば、健康や環境に悪影響をもたらす恐れのある成分を特定する作業は複雑なはずだ。規制強化が進む中で、メーカー各社は規制を先取りしようと時間に追われている。製品の成分を変更するには、1年から3年かかることが普通だからだ。そうした難しさに加えて、代替成分も元の成分と同じようにリスクがある場合が多く、将来的には規制の対象となり、メーカーは同じ工程を繰り返さざるを得ないという現実もある。
こうした課題に対応するサービスを展開しているのが、SB国際会議2024のイノベーションエキスポ(ブース展示・発表)でも自社のサービスを紹介した、米国のノーブルAIだ。同社は、企業が製品の見直しという複雑な工程を素早く効率的に進めるのに役立つ、リスク評価と成分変更のためのプラットフォームを提供している。このサービスは、AIモデルによってリスクを特定して優先順位を付け、適切な代替物質を見つけ、調合を最適化できるよう設計されている。これにより、確実に規制を遵守しながら、発売までの時間を短縮することができるという。
カスタマイズも可能なノーブルAIのリスク評価ツールでは、事前に訓練されたAIモデルを使い、急性毒性や発がん性などの要素を評価する。また、正確なリスク評価のために、米国環境保護庁(US EPA)や米国国立がん研究所といった情報源から得た毒物学的データや環境データを整理して使用する。この方法により、メーカーは科学に基づいて潜在的なリスクを予測することができ、「置き換え後の成分が元の成分と同じように有害だった」と後から分かって後悔することを防げる。
使い方は次の通りだ。まず、ノーブルAIのリスク評価ツールに製品の名称と化学組成とCAS番号(化学物質の識別番号)を入力する。すると成分がグラフや図表に分解して表示され、リスクレベルごとに分類される。個別の成分をクリックすると、代替物質として適切なものが検索でき、製品ポートフォリオ全体でどこにリスクがあるか、ハザードマップにして見ることもできる。
リスクを特定したら、比較的リスクの少ない代替物質を探す段階に入る。AIを活用したこのシステムは、特定の性質に合わせて最適化できる。そのため、健康や環境に対するリスクを減らしながら、新たな調合で期待する製品の効果を維持できるかどうかの確認が可能だ。また、旧製品と新製品の違いを強調した成分比較も見ることができるため、工程の透明性と効率性が担保される。
AIの力により、メーカーは将来起こる法規制の変更を事前に予測し、発売までの期間を短縮し、サステナビリティを高めて競争優位を築けるようになった。製品の効果と安全性を最適化することで、メーカーは既存の製品ラインを維持しつつ、サステナビリティ目標も達成できる。このように先を見越したアプローチによって、サステナビリティの優先順位は上がり、企業は急速に変化する市場で先手を取れるのだ。
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地球環境の側面から考えると、AIにはメリットもデメリットもある。電力消費や水使用といったデメリットを最小限に抑える取り組みと、有益な活用方法を模索する取り組みを並行して進めることが求められる。次回「AIとサステナビリティ(2)」では、サステナビリティに資する活用事例と、AIに対して懐疑的な消費者に対するコミュニケーションの工夫を紹介する。
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