![]() グランドキャニオンを流れるコロラド川 Image credit: David Ilécio
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10月開催のSB国際会議2024サンディエゴでは、人工知能(AI)とサステナビリティの関係について多彩な議論がなされた。第1回記事に続き、本記事ではAIを活用して水資源の保全に取り組む事例を紹介する。また企業に対し、AIに関する明快な説明を求める提案もあった。この背景には、消費者の間でAIに対する戸惑いや不信感が根強いという現状があり、AIに関する適切なコミュニケーションが求められている。(翻訳・編集=茂木澄花)
水資源の保全にAIを活用する
世界的な水不足は、もはや単なる環境問題ではない。差し迫った社会問題であり、事業の継続にも関わる問題だ。いくら水保全への投資を増やしても、それだけでは問題の解決にならないという現状の中で、どうすれば企業は事業成長に必要な水資源を確保できるだろうか。
水資源に関するデータは、差し迫った状況を浮き彫りにする。世界銀行の予測によれば、2030年までに水の需要が供給を40%上回る見込みだ。十分な水が得られないことによる争いは、2010年以降500%増えている。
事態をさらに悪くしているのが、漏水だ。全体の60%の水は水道管から漏れて失われている。チリでは70%の水が無駄になっており、国民が使える残り30%のうち65%はリチウム採掘に使われている。
ファイド・テックの創業者でCEOのビクトリア・エドワーズ氏は、かけがえのない水資源を守るために推進している取り組みを紹介した。同社は、AIを活用した漏水検知テクノロジーを提供する。漏水の「音」を検知し、設備の修繕が必要な箇所をピンポイントで特定できる技術だ。
「水漏れしている水道管は、Fシャープのような特有のノイズを発します。しかし、決して地上からは見えません」とエドワーズ氏は言う。「AIを使って、水漏れが発生している場所、その規模、修繕のために掘削することがビジネス上妥当かどうかを判定できます」
「確かにAI、特に生成AIは環境に影響があります。とはいえ、AIは問題を解決する手段の1つでもあるのです」
エドワーズ氏は「水に関するほとんどの設備は資金不足で、操業慣行を変えることは難しく、従業員は変化に抵抗する」ということを認識していた。そうした中でも、水漏れの検知と修繕は必要とされており、そのための資金を調達する新たな方法を考えなければならなかった。幸運にも、そのときすでにマイクロソフトが「2030年までに水の消費量を上回る水を補給する企業になる」と宣言していた。そして、実績を示すための、透明性があって検証可能な方法を探していたのだ。
ファイド・テックとマイクロソフトは、ロンドンを皮切りに協働事業を発足することになった。設備事業者のテムズ・ウォーターとも連携して、この巨大な水道網全体で積極的に水漏れの発見を促すネットワークを作った。
「私たちの取り組みによって、テムズ川の約179億リットルの水が無駄にならずに済みました。この数字はブロックチェーンの技術でしっかりと検証し、透明性を確保しています」とエドワード氏は言う。
現在、同社はコロラド川流域にも取り組みを展開している。コロラド川は米国の7つの州、約4000万人に水を供給しており、1.4兆ドル規模の経済を支えている。世界的に見ても、特に過度に依存されている水源の1つだ。
「ロンドンの後、取り組みをさらに大きく、すばやく広めたいと考え、コロラド川流域という大きな問題を引き受けました。そして、持続的に影響を与えられる『何か』を作るため、マイクロソフト、ペプシコ、メタといった企業や設備事業者など、他社にも参加を呼びかけました」
その“何か”は「ウォーター・ユナイテッド」として知られる。水漏れ検知にとどまらずAIを活用する企業連携の取り組みだ。都市計画担当者、設備事業者、そして地域社会が意思決定に必要な情報を得るために活用している。河川から取水することによる影響を把握し、新たなデータセンターを建設するかどうかといった意思決定に生かすことが可能だ。
「連携して取り組んだことを地域社会に提供し、水不足に負けない将来を築くのに役立ててもらうという取り組みです」とエドワーズ氏は説明する。「全ての関係者が、このつながりから必要なものを得られます。企業は事業を継続することができ、テクノロジーには長期的な資金が確保され、公益事業は設備網を強化できます」
エドワーズ氏は、彼女が話していた1時間の間にも18億7500万立方メートルの水が無駄に失われたと伝え、講演を締めくくった。「これは到底受け入れられない状況です」
透明性のある明快なコミュニケーションで、AIに対する消費者の不信感を和らげる
![]() Image credit: Amazon
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テクノロジーが世界をけん引する中、大きな問題となっているのが、AIなどの新興テクノロジーに対する消費者のためらいや不信感だ。イノベーションの説明に、複雑で混乱を招く言葉が使われていることや、倫理的な影響に関する説明が十分でないことが、こうした心配を招いていることが多い。
こうした障壁を、企業はどのように乗り越えればよいのか。社会に向けたテクノロジーの伝え方を見直し、人間を中心とした分かりやすい言葉を使いながら、プライバシー、倫理、社会的な影響についての懸念に応える方法が話し合われた。
戦略とデザインのコンサルティング会社シルベインで共同最高戦略責任者を務めるクリス・コンヤ氏は、アマゾンのアレクサの事例を使って、言語がイメージ形成に及ぼす力について知見を共有した。「アレクサ」は、もともと英米では一般的な女性の名前だった。しかし、その親しみやすさと独特の響きによってデバイスの名前に採用されると、赤ちゃんの名前として「アレクサ」が選ばれることはほとんどなくなった。また、アレクサ、シリ、コルタナなど、女性の名前が付けられたAIアシスタントが多いという現状から、テクノロジーにおいても男女の役割に対する偏見が根強いという懸念も浮かび上がる。
このことから分かるのは、言葉がいかに消費者の気持ちを引き付けたり離れさせたりし得るかということ、そしてテクノロジーを生かすも殺すも言葉次第だということだ。
「全ての言葉の裏には、ほんの少しの含意が隠れています。私たちの脳内にあるちょっとした考えが、社会全体に流れているのです」とコンヤ氏は言う。「そうした考えが、私たちの思考方法や信念、そして行動を形作ります」
AIツールの説明に「Generative Pre-trained Transformer (GPT)」といった複雑な技術用語を使うことは、疎外感や不信感を生み、一般のユーザーを遠ざける恐れがある。サピア・ウォーフの仮説によれば、言語は思考を形作る。明快で誰もが理解できるような言葉遣いをしなければ、人々がAIをしっかりと理解して受け入れることは難しく、恐怖感さえ生まれる。AIが親しみにくく、怖くて制御不可能なもののように感じられるためだ。
この問題に対応するため、企業はシンプルな言葉を選び、AIを分かりやすいものにする必要がある。社会的インパクトに関するコンサルティング会社テック・メイクス・ヒストリーの創業者であるミシャ・クーゼー氏は、世界の消費者の75%がAIのリスクを懸念していることを指摘した。
「サステナビリティとAIはどちらも複雑なテーマです」とクーゼー氏は言う。「これらのテーマを簡潔にまとめ、人類の進歩にAIが貢献できることを消費者に伝える方法について考える必要があります」
倫理に関する懸念、特にプライバシーやデータ使用に関する懸念は、不信感につながる。これを防ぐためには、明快で率直なコミュニケーション、そして専門用語や流行語を使わないことが極めて重要だ。例えば、IBMは通常「人工知能(Artificial Intelligence)」と呼ぶAIを「拡張知能(Augmented Intelligence)」と名付け直した。これによって「手に負えないもの」というAIのイメージはいくぶん和らぎ、協力的でそれほど恐ろしいものではないように聞こえる。
この方法は、自動運転車や金融に関わるAIツールなど、消費者向けの分野で不可欠だ。テクノロジーが人間に取って代わるのではなく、いかに人間の能力を「拡張」するかを強調することで、消費者の「AIはコントロールできるものだ」という感覚を高められる。データ利用や倫理基準に透明性があることも、信頼を育むために欠かせない。例えばアップルは、AIを活用した製品においてプライバシーを重視することで消費者の信頼を得てきた。
AIなどの新興テクノロジーに対する消費者のためらいと不信感を取り除くために、企業はコミュニケーションのやり方を改める必要がある。人間を中心に据えた言葉を選び、透明性や倫理面での明快さを重視することで、信頼を築き、消費者にそうしたイノベーションの恩恵を受けるよう促すことができる。専門的な技術用語ではなく、ストーリーを伝えることをコミュニケーション戦略の核とし、複雑なテクノロジーと日々のユーザー体験を結び付けるべきだ。
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AIの電力消費や水使用といった環境への影響は無視できないほど大きい。そうした中でも、製品開発や資源の保全といった分野で、AIを活用してサステナビリティを高めている事例が増えている。しかし、特に消費者向けのサービスでは、AIに対する不信感が導入の障壁となることがある。企業には、親しみやすく明快なコミュニケーションで消費者の不安を取り除くことが求められている。
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