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  • 公開日:2025.01.21
  • 最終更新日: 2025.03.27
企業はカーボンクレジットをどう利用すべきか――認証機関ディレクターが示す3つの指針と5つの戦略

Image credit: Scott Webb

企業がカーボンクレジットを利用することへの世間の目は厳しさを増している。クレジットの信頼性に対する疑念や、グリーンウォッシュと見なされるリスクがあることから、利用や開示に消極的になる企業も多い。しかし、正しく利用すれば、気候目標の達成につながる重要な力になることも確かだ。本記事では、企業のカーボンクレジット利用について、今後の指針と取るべき戦略を示す。(翻訳・編集=茂木澄花)

米国の民間カーボンクレジット認証機関であるACRが、10月に開催されたSB国際会議2024サンディエゴで、炭素市場の専門家たちをパネリストに招いて対話形式のワークショップを開いた。企業幹部ら40人が参加し、うち55%が気候変動対策やサステナビリティの担当者、残りの大半は営業担当または経営層だった。その場で行われたアンケートでは、炭素市場にまつわる混乱が、取り組みを妨げているという現状が明らかになった。

ワークショップ参加者から「今後に向けた何らかの指針を示してほしい」という要望が上がったため、本記事でそれに応える。

まず簡単に背景をお伝えしよう。気候変動問題においては、時間がものを言う。つまり、いつかではなく今すぐに行動することが求められている。現在大気中にある炭素1トンが与える影響は、来年1トンの炭素を除去することで得られる効果よりも大きい。だからこそ、混乱によって企業が行動を起こせないでいるのは問題だ。

とはいえ、スコープ3排出量の計測と報告、カーボンインセット、バリューチェーンを超えた緩和、貢献主張や補償主張など、注目すべきことが非常に多い中で、多くの企業が今後の方向性に迷うことは十分理解できる。

とりあえず様子を見るのが安全策のように思われるかもしれないが、多くの企業が行動を起こさない現状こそ、気候目標を達成できていない原因だ。企業は、事業の価値を明確にし、将来性を高めるためにも、あらゆる面から行動を起こす姿勢を持たなければならない。とはいえ多くの場合、行動を起こすかどうかは各企業の判断に任されているため、今後に向けては現実的な指針が必要だ。

カーボンクレジットについて考える際の単純な指針として「焦点を1つに絞らないこと」が挙げられる。サプライチェーン(スコープ1、2、3)の直接的な脱炭素に加え、できる限りの対策をしても残る排出の責任を年単位で取る方法として、カーボンクレジットへの投資も必要だ。それにより、他の方法では実現しなかっただろう気候アクションに資金が供給される。

ここからは、ワークショップで上がった3つの質問に答えていく。

1. カーボンクレジットに関して、今どのような対応が効果的か?

次の3つの指針が挙げられる。

【1】 カーボンクレジットの購入よりも、直接的な脱炭素を優先する
緩和措置の優先順位(ミティゲーション・ヒエラルキー)に従い、大気への炭素排出を予防・削減することを最優先とし、直接的な脱炭素に注力する必要がある。気候戦略を立てて年単位で可能な限り直接排出を削減した上で、残った排出量の責任を取るためにカーボンクレジットを利用すべきで、排出削減の代わりに利用すべきではない。企業がカーボンクレジットを購入する際にも、炭素除去より排出削減のプロジェクトを優先するのがよい。ただし、多くの炭素除去プロジェクトや炭素除去技術の開発期間が長いことを考慮し、炭素除去プロジェクトと排出削減プロジェクトの両方に投資するという判断もあり得る。

【2】 多様なクレジットに投資を分散する
株式や債券への投資と同じように、多様なカーボンクレジットを購入することで、リスクを軽減し、バランスよくメリットを享受できる。大量のメタンや冷媒ガスといった温室効果ガスを即座に大気から除去できるプロジェクトもあれば、植林や森林再生など、排出削減や炭素除去に比較的時間がかかるものもある。カーボンクレジットのポートフォリオを多様化することで、リスクや機会を分散することができる。

【3】 透明性を高める
カーボンクレジットを利用している企業が、その事実をあまり打ち出さない方針を取ることがある。しかしこの対応には、実際の市場の動きとは異なる印象を世間に与えるという悪影響がある。気候戦略や気候目標、排出削減、カーボンクレジットの利用について、企業は透明性を高めていくべきだ。実際、気候目標を達成するためのカーボンクレジット利用について、積極的に公表する企業が増えている。アール・イー・アイ、モントレーベイ水族館、デューク大学、Aベイスンなどがそうだ。

全ての企業に同じ方法が適しているわけではない。重要なのは行動を起こすこと、そして上手くいく方法を模索し、経験から学ぶことだ。

2. 企業はどのようにカーボンクレジットを評価し、高品質なものを見分ければよいか?

高品質なカーボンクレジットの条件は、すでに市場全体で広く共有されており、追加性、永続性、二重計上がないことなどが挙げられる。こうした特徴は、米国連邦政府が最近発表した「Voluntary Carbon Markets Joint Policy Statement and Principles(ボランタリー炭素市場に関する共同政策声明および原則)」にも記載されている。高品質なクレジットの条件については、ほとんど議論し尽くされていると言える。

しかし、いざそうしたクレジットを特定するとなると、難しいこともある。高品質なクレジットを見分ける戦略は次の5つだ。

【1】 信頼性の高いレジストリ(登録機関)に登録されているクレジットから選ぶこと。信頼性の高いレジストリとは、カーボンプロジェクト(カーボンクレジットを生成する活動)に関する情報をインターネット上で提供していて、科学に基づいた(理想は専門家によるレビューを受けた)方法論を採用しており、良い影響を与えた実績を持つレジストリ。

【2】「国際航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム(CORSIA)」に準拠しているかどうかを確認すること。CORSIAは、国際航空における炭素排出を削減することを目指す、市場原理に基づいた世界的な取り組みだ。

【3】 プロジェクトとプロジェクトリーダーについてよく知ること。質問を投げかけ、プロジェクトの現場を訪問し、実際に行われている仕事を理解すること。

【4】 先駆的企業を参考にすること。成熟した戦略を持ち、実際にカーボンクレジットを購入し、それについて世間に公表した経験を持つ企業がよい。カーボンクレジットを購入している企業は数多くあるが、自社の手法について有用な情報を公開しているのは、メタ、マイクロソフト、セールスフォース、ワークデイ(米財務・人事管理ソフトフェアベンダー)など。

【5】 特に、新たにクレジットの利用を始める企業は、経験豊かなクレジット購入企業(アドバイザリーサービス提供企業など)と協業すること。あるいは、クレジット購入企業連携に参画して専門家から学ぶこと。1T.org(世界経済フォーラムの植林プラットフォーム)We Mean Business Coalition(気候変動対策の企業連合)Nature4Climate(自然を生かした気候変動対策に取り組む団体ネットワーク)が、有用な手引きを提供している。

3. 炭素市場を拡大するためには何が必要か?

この質問の背景には、ボランタリー炭素市場を重視するという前提があるだろう。コンプライアンス市場も、国や州といった法域で新たな政策が施行されるにつれ拡大を続けているが、現時点で、世界の炭素排出量の約25%しかカバーしていない。現在、炭素排出の削減を義務付ける法律はないため、大部分の排出対策がボランタリー市場に頼っている。

ボランタリー市場を拡大するためには、カーボンクレジットの品質に対する信頼と、購入企業からの需要増加が必要だ。多くの主要なイニシアチブが「品質」の定義を統一させており、信頼度は増しつつある。市民社会、行政機関、民間企業の全体で「高い信頼性」の定義が広く共有され、炭素市場に織り込まれている。

需要側に最も大きな影響を与え得るのは、カーボンプライシングだ。これほど効率的かつ効果的にインセンティブを与えられることは他にないが、かなりの検討を要する可能性が高い。炭素市場を拡大するために2番目に重要なことは、企業がカーボンクレジットを購入し続けることだ。

**********

サプライチェーンで炭素排出を減らす取り組みを行った上で、残った排出の責任を取る方法として、カーボンクレジット購入は有効だ。社内の脱炭素インセンティブを高めながら、カーボンプロジェクトに資金を提供して貢献することができる。信頼性の高いクレジットを選び、多様なクレジットに分散投資し、透明性の高い報告を行うことが重要だ。

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