• ワールドニュース
  • 公開日:2025.02.12
  • 最終更新日: 2025.03.29
分断されたかに見える米国市民も「公正な企業」への期待は一致、最も重要なのは「人間第一」のビジネス思考

Image: kjpargeter

分断が深まる米国社会においても、「公正な企業」に対する見方は市民の間でかなり共通していることが分かった。米国の非営利団体が実施した調査によると、支持政党や人種、年収など、どの属性を取っても「公正な企業」に期待することは似通っているという。特に、従業員や顧客といった「人」を大切にする姿勢を重視する傾向が顕著だった。このことから、米国企業は経済的、社会的な課題の解決に大きな影響力を持っていると言える。(翻訳・編集=茂木澄花)

昨年10月、米国の非営利団体ジャスト・キャピタルは、年1回実施している「米国人の企業に対する意見調査(Americans’ Views on Business Survey)」の結果を発表した。今回で8回目となるこの調査で、経営者たちが日々向き合っているステークホルダーの複雑な状況が明らかになった。また、社会でリーダーの役割を担いたいと考える企業がすべきことも示された。

2024年11月に実施された大統領選の結果をもたらした社会機運が、この調査結果にも強く反映されている。米国民の懸念事項は「自らが経済的に健全かどうか」「自分たち消費者がどのように扱われるか」そして「家族を養えるかどうか」だ。さらに、ほぼ共通しているのが、企業に対して「透明性」「説明責任」「リーダーシップ」の向上を求めているという点だ。

この調査結果から、企業のCEOや取締役といったビジネスリーダーは、超分断社会においてステークホルダーが求めていることを理解し、それに応えていくための指針を得られる。また、行動を通じてどのように競争優位を最大化するかという事例も知ることができる。

分断された米国市民も、基本的な課題についての意見では一致

ジャスト・キャピタルは年間ランキングを作成するにあたり、まず多様性と代表性のある米国の成人3000人を集め、少人数グループでのディスカッションを行う。米国の成人が「公正な企業」に期待する行動や態度を把握するためだ。今年のディスカッションから浮かび上がった主要な課題は、下記図1に示した17項目。この多くは毎年一貫して話題に上っている。

図1:ディスカッションで言及された17の主要な課題(翻訳し編集局作成)

どの人口統計学的な属性(人種・民族、ジェンダー、収入水準、年齢、政治的イデオロギー、積極的に投資を行っているかどうかなど)においても、上位3位までの課題は、驚くほど一致している(図2)。このことから、企業に優先してほしいと考える問題は、政治的イデオロギーなどにかかわらず市民の間で共通していると言える。

図2:全体および各属性において言及された上位5位までの課題(翻訳し編集局作成)

米国人は「公正な企業」が取るべき態度について、同じような概念を持っている場合が多いと言える。従業員と顧客に敬意を払い、慈愛と公平性を持って対応することを企業に期待するという点において、市民の考えは一致している。

評価対象となった17の主要な課題のうち上位10位までの課題のほとんどが、従業員と顧客に関わる基本的な要因に対し、企業がどのように振る舞っているかを問うものだ。さらに、経営層の誠実さを求める声は高まっており、順位が大きく上昇した。また「経営層は経営の中核となる営業上、戦略上、財務上の問題に集中すべき」という声も大きくなっている。これは、社会的議論が起こっている話題に対して、経営トップが何かしらの立場を示すことが期待されていた4年前とは対照的な結果だ。

さらに、言葉よりも行動がはるかに重要だということも明らかになった。市民は、企業の取り組みや目標について聞かされるよりも、特に重要な課題に対して企業が有言実行しているかどうかを知りたいと思っている。

調査の主な結果まとめ

昨年に続き、1位は「生活が成り立つ適正な賃金」だった。

・「従業員のウェルビーイング支援」も、全ての属性で高い順位となった。具体的には、安全な労働環境を確保すること、メンタルヘルス問題を支援すること、従業員の声を聞くこと、職場への参画を促すことなどだ。これに関連して「福利厚生とワークライフバランス」も上位に入った。

・「経営層の倫理的な行動」は順位を5つ上げて2位となった。企業と顧客の間の信頼関係を再構築したいという思いが広まっていることが要因だろう。「倫理的かつ正直に事業を行い、間違った行動の責任を取ること」は、ジャスト・キャピタルの2025年ランキングにおいて企業評価の10%を占める。「倫理」は非常に主観的なものにもなり得るが、ビジネス文脈における解釈には一般的な共通認識がある。「企業が事業に関してオープンかつ正直であり、約束を守り、世間に誤解を与えたり不正行為を隠蔽(いんぺい)したりせず、企業の社会的責任と社会の一員としての高い自覚をもって営業すること」だ。

これに関連して「透明性のあるコミュニケーション」は、8つ順位を上げて4位となった。つまり、自社の製品、サービス、事業活動について、正直で透明性があるコミュニケーションが取れているかということだ。これは、グリーンウォッシュを認識する消費者が増えていることを示している。調査対象となった多くの市民が、この問題を、倫理的なリーダーシップの基本的な問題だと述べた。

新型コロナウイルスなどに関連したインフレの影響を反映してか、「適正な価格設定」が今年初めて課題として浮かび上がった。調査に参加した市民は、商品やサービスの価値や品質に見合った価格を設定し、不当な価格設定や過剰な値上げには慎重になるよう求めた。79%の回答者が「原材料費が下がっているのに消費者価格を高いまま維持し、利ざやを増やす企業は不誠実だ」という考えに同意した。このことは、物価高騰が直近18カ月間、米国の消費者の切実な悩みの種だったことを示している。

政治的な考え方などの属性によって意見が分かれる課題についても、驚くほどの一致が見られた。インクルーシブな職場環境の整備や環境問題などについて、言葉選びは属性ごとに異なるものの、基本的な考えは共通している。このことは、大統領選後の米国民が、依然としてDEIやESG(呼び方は何であろうと、対立を防ぐ取り組み)など、重要な社会課題における企業のリーダーシップに期待しているという最近の調査結果とも整合する。

平均的に、環境問題よりも従業員や顧客に関する問題の優先度が高かった。これは環境問題を重視する傾向が強いグループ(若年層、民主党支持者など)でも同様だ。一方、全般的に気候変動という考え方が受け入れられていないグループでも「企業は環境に対して不当なほど大きな影響を与えていて、そのために悪影響を最小化する責任がある」という考えは広く賛同を集めている。

市民が何を重視しているのかに注目することは、長期的な企業価値につながる。ジャスト・キャピタルによれば、この調査を開始してからの8年間、市民が一貫して求めていることは「株主第一主義を脱し、価値観に基づく、ステークホルダー資本主義の事業に移行すること」だという。ここから、CSV(共有価値の創造)と長期的な収益の創出が密接に関連していることが分かる。

今回の調査で、米国民が企業に期待していることが改めて明確になった。これを指針とすることで、企業は持続的な成長とイノベーションの基礎を築くとともに、社会に前向きな影響を及ぼすことができる。

SB.com オリジナル記事へ

Related
この記事に関連するニュース

“感動創造企業”として、自社の歴史から「未財務」な価値のヒントを探る――ヤマハ発動機が今、サステナビリティの社内浸透を進める理由とは
ヤマハ発動機株式会社
2025.03.10
  • インタビュー
  • #ブランド戦略
サステナビリティ推進には「新しいあたりまえ」を意識した共創を
2025.03.05
  • SBコミュニティニュース
  • #ブランド戦略
EUの新経済戦略「競争力コンパス」の中身とその影響――競争力と持続可能性の両立は可能か
2025.02.27
  • ワールドニュース
  • #ブランド戦略
ビール製造にグリーン水素活用へ――2050年ネットゼロに向け、キリンが来年6月実証開始
2025.02.10
  • ニュース
  • #ブランド戦略
  • #カーボンニュートラル/脱炭素

News
SB JAPAN 新着記事

自社の歴史から学ぶ、人の感動起点の製品開発とサステナビリティ
2025.04.02
  • ニュース
    米国の現状から何を学ぶべきか、「リジェネレーション」の可能性とは――米SBの創設者とCEOが語る
    2025.04.01
    • ニュース
    • #リジェネレーション
    SB-Jの発行元がSincに移行――サイトリニューアルでコンテンツを一層充実へ
    2025.04.01
    • ニュース
      本格的に動き始めたエネルギーの「アグリゲーションビジネス」とは何か
      2025.03.31
      • ニュース
      • #再生可能エネルギー

      Ranking
      アクセスランキング

      • TOP
      • ニュース
      • 分断されたかに見える米国市民も「公正な企業」への期待は一致、最も重要なのは「人間第一」のビジネス思考