![]() 1月末から共同回収・リサイクルを始めた日本マクドナルド、日本ケンタッキー・フライド・チキン、タリーズコーヒージャパンの紙コップ
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日本マクドナルドと日本ケンタッキー・フライド・チキン、タリーズコーヒージャパンの3社は1月31日から、東京都内の近接する店舗で使用された紙カップを共同回収し、紙タオルとしてリサイクルする取り組みを開始した。紙カップは一般にプラスチックラミネート加工が施されているが、製紙メーカーの王子ホールディングスによる、使用済みカップを破砕・洗浄した上でラミネートフィルムを分離し、繊維分(パルプ)のみを抽出する独自技術によって実現したもので、今後は競合同士が業界を上げ、より効果的で効率的な廃棄物削減とリサイクルを通じて温室効果ガス排出量の削減につなげる考えだ。(廣末智子)
各社によると、今回の取り組みは、マクドナルドの呼びかけに、ケンタッキーとタリーズが応える形で進められ、3社の連携で一定以上の使用済み紙カップの回収量が確保できることから、王子ホールディングスが専用の処理工程を構築した。同社はかねてから古紙の利用拡大に取り組んできたが、近年は、サーキュラーエコノミーの構築に向けた機運の高まりを背景に、古紙回収には適さない、紙カップや牛乳パックなどをマテリアルリサイクルするイノベーションに力を入れてきた経緯がある。
取り組みはマクドナルド浅草店と、ケンタッキーフライドチキン浅草店、タリーズコーヒー浅草新仲見世店など、都内の近隣に位置する店舗同士の26店からスタート。専用のトラックが各店を定期的に巡回し、回収ボックスに入った紙コップを回収して回る形で、順次、共同回収の範囲を広げる。現状でも年間約12トンの紙カップ回収を見込むが、2025年末までには実施店舗を東京のほか、愛知や大阪にも広げ、紙カップリサイクルとしては国内最大級となる年間約60トン規模にまで拡大することを目指す。
![]() 日本マクドナルド、日本ケンタッキー・フライド・チキン、タリーズコーヒーの使用済み紙コップが共同回収され、王子ホールディングスによってリサイクルされる一連の流れ
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紙カップは一般に、耐水性を持たせるため、表面にプラスチックラミネート加工が施されており、このラミネート層の剥離が難しいことがネックとなって、現状では可燃ごみとして大部分が焼却処分されている。しかし今回、王子ホールディングスが、汚れや臭いのついた使用済みカップの破砕・洗浄を施した後にラミネート層を分離し、パルプのみを回収する技術を確立したことによって、大量の使用済みカップのリサイクルが可能になった。回収したパルプは同社によってペーパータオルに生まれ変わり、各店で再び使用される。
環境負荷低減に向け、各社はプラスチックや廃棄物の削減に、それぞれに取り組んできた。日本マクドナルドは「2025年末までに、お客さま提供用容器包装類を、再生可能な素材、リサイクル素材、または認証された素材に変更する」という目標の下に22年に紙ストローと木製カトラリーの提供を始め、23年にはサラダの容器を紙製に切り替えるなど対策を進める中で、紙製のパッケージが増えてきたことから、紙製アイテムのリサイクルについても検討。24年2月からは一部の店舗で紙カップリサイクルのテストを行ってきた。
そうした中、同社の広報担当者によると、紙カップリサイクルを「1社だけの取り組みとして実施するのでなく、取り組みに賛同・参画する企業や団体を積極的に募ることで、さらなる規模の拡大と、低炭素・循環型社会への貢献を目指したいという想い」から、リーダーシップをもって同業他社を含む業界に参画を呼びかけ、今回、日本ケンタッキー・フライド・チキンとタリーズコーヒージャパンが真っ先にそれに応えた形だ。
もっとも真の循環型社会の構築に向けては、使い捨ての紙コップ自体を減らしていく必要性がある。この点において、タリーズコーヒーを含む国内の大手コーヒーチェーン店では、店内でのマグカップやイートイングラスの利用の徹底、マイタンブラーの持ち込みの推奨などに力を入れており、タリーズコーヒージャパンの広報担当者は、取材に対し、「今後は紙コップ自体を減らしていきたいという考えはもちろんあるが、現実的に紙カップやプラカップの利用が多い店舗もあるため、今回のようなリサイクル活動にも積極的に取り組んでいきたい」とする考えを示した。
今後、紙カップ自体を減らし、リユースカップへと移行させていくことについては、日本ケンタッキー・フライド・チキンでも、「検討していく」(広報担当者)という。
環境NGO「リユース分野でも大手チェーンの連携を」
今回の、ファストフードを中心とする外食産業がタッグを組んで紙カップを共同回収し、リサイクルする新たな動きを、環境NGOはどう見ているのか――。
日本のカフェ業界における使い捨てカップの現状を長年調査し、業界の使い捨てカップからの脱却を求めてスターバックスやタリーズなどと対話を続ける(関連記事)、グリーンピース・ジャパンのプラスチック問題担当、大館弘昌氏は、「グリーンピースの調査によれば、大手カフェ3社だけでも毎年約2500トンの紙カップを排出している」とする調査結果と、「ファストフード業界の排出量はさらに多い」とする見方を示した上で、「プラスチック加工がなされた紙カップはリサイクルが難しく、コストがかかる。これらの大量なカップをリサイクルするには、回収段階から企業と消費者が多大な労力を払う必要があり、最終的に償却されるペーパータオルにリサイクルされても、真の循環とは言えない」と厳しい指摘を投げかける。
「使い捨てカップを減らす有効策としては、そもそも資源を使い捨てないリユースシステムの構築が不可欠であり、今回のような大手チェーンの連携をリユース分野でも期待したい」(大館氏)
企業だけでなく、行政や消費者も巻き込んで、この取り組みがどのような広がりを見せるか。循環型社会の構築に向けたそれぞれの本気度が試されている。
廣末 智子(ひろすえ ともこ)
地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。