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日本政府は18日、国の中長期的なエネルギー政策の方向性を示す「第7次エネルギー基本計画(エネ基)」と、2050年ネットゼロに向けた新たな温室効果ガス排出量の削減目標を定めた「地球温暖化対策計画」を閣議決定した。いずれも昨年末に示していた原案をほぼ踏襲し、前者は、2040年度には、発電量全体に占める再生可能エネルギーの割合を「4〜5割」程度に増やすとともに、原子力についても最大限に活用することを、後者は2013年度比で2040年度に73%減とすることを確定。両者を一対としてパリ協定の1.5度目標に整合することを強調している。削減目標については、日本の次期NDC(国別削減目標)として同日、国連に提出した。(廣末智子)
エネ基とNDCは表裏一体
エネ基は、エネルギーの安全性を大前提に、安定供給と経済性の確保、環境負荷低減の観点から、約3年に1度改訂される。今回は昨年5月から経産省の有識者会議を中心に検討がなされ、12月17日に原案が提示されていた。
決定した内容は、「再エネを主力電源として最大限導入するとともに、特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスのとれた電源構成を目指す」もので、具体的には現状の発電量割合が22.9%の再エネを、2040年度には4〜5割(太陽光22〜29%程度、風力4〜8%程度、水力8〜10%、地熱1〜2%、バイオマス5〜6%)程度とする一方、68.6%の火力は3〜4割程度に抑え、8.5%の原子力は2割程度にまで広げる。
計画ではこれによって、現状は15.2%のエネルギー自給率を、2040年度には3〜4割程度にまで拡大し、同年度の温室効果ガス削減割合を、2013年度比で73%減とする見通しを示す。そして、この、「2040年度に2013年度比で73%減」という数字こそが、今回、同じ日に決定した日本の新たな温室効果ガス排出量の削減目標と一致する。つまり、政府は、エネ基とNDCとは表裏一体の関係にあると位置付けていることが分かる。
政府「新NDCは1.5度目標と整合的で、2050 年ネットゼロ実現に向けた直線的な経路にある野心的な目標だ」
そのNDCは、環境省と経済産業省とが、有識者会議の議論をもとに検討を進め、昨年11月25日、エネ基に先立って、「2035年度に13年度比で60%減、40年度に73%減」とする原案を示していた。考え方としては、「日本の排出量削減は、2050年ネットゼロに向けて順調に進捗している」とする政府の見方をベースとしており、2021年4月に策定した現行のNDC(2013年度比で2030年度に46%削減)の延長線上に設定したものだ。
こうした日本政府による2050年に向けた排出量削減の道筋は、エネ基と新NDCの全体を貫く一本の柱であり、今回発表されたNDCに関する資料の中でも、政府は新NDCを、「世界全体での1.5度目標と整合的で、2050 年ネットゼロの実現に向けた直線的な経路にある野心的な目標だ」と強調している。
批判相次ぎ、パブリックコメントも過去最多に
一方、第7次エネルギー基本計画と、新NDCの両方に対して、脱炭素を進める企業グループや環境NGOなどからは、原案の段階から「1.5度目標に整合しているとは言い難い」とする意見が相次いだ。批判を含めた関心の高さを反映し、事務局によると、エネ基には過去最多となる4万超の、地球温暖化対策計画(新NDC)にも3000を超えるパブリックコメント(意見公募)が寄せられた。
両計画に対するパブリックコメントの詳細をみると、エネ基では「気候危機の深刻さを認識し、2030年までが『決定的に重要な10年』であること、また日本が気候変動問題の加害国であることを明記し、そうした認識の下に策定されるべきである」といった考え方に始まり、「原子力発電に関する項目に、能登半島地震のことが一切触れられていないのは、不断の安全性追求にもとる」といった、特に今回のエネ基が、東京電力福島第一原発事故以降、掲げてきた「原発依存度を可能な限り低減する」とする文言をなくし、原発を再エネと同様に最大限活用する方針へと転換したことに対する危惧や批判が目につく。
地球温暖化対策計画では、「政府案は削減目標が低過ぎる。今の経済やコスト優先で、未来世代に環境的な負債を先送りし、挑戦を恐れて緩やかな目標を選ぶことは、後戻りのできない環境破壊を進行させ、将来的にはさらに大きなコストを伴う結果を招く」、「現実問題としては直線経路でも十分野心的ということは理解できるが、国際社会からは消極的な目標、先進国としての責任を果たす気がない目標のように見えてしまう」といったNDCの目標の低さを指摘する声が多い。
両者のパブリックコメントに共通するのは、「計画案を提示し、国民の合意形成努力を行わず、短期間で議論するプロセスは、民主主義国家として問題であり、検討を続けるべき」(地球温暖化対策計画)、「審議会の人選をフェアに見直すべきである。推進派、利害関係者が多数を占める中で行われた議論は偏っている。イタリアのような国民投票や、ドイツのように倫理的な観点の議論もなかった。開かれた場での公正な国民的議論が必要だ」(エネ基)といった、意思決定の過程の見直しを求める声だ。
そのような開かれた議論の要請に対する政府の見解は「合同審議会においては、専門分野・年齢層・性別等のバランスにも留意しつつ、産業界や労働界からの代表者、エネルギー分野や金融、環境問題等に精通する有識者や専門家にも委員として参画いただき、全ての審議を公開している」(地球温暖化対策計画)、「基本政策分科会の議論については、資料や議事録は全て公開されており、当日の審議会はYouTubeで誰もが視聴可能となっているなど、議論の透明性を確保している」(エネ基)といったもので、“審議を公開しているイコール開かれた議論がなされている”という論理が目立つ。
そうして、両計画はこれ以上審議されることなく、GX(グリーントランスフォーメーション)型の産業構造と経済成長の両立を目指す「GX2040ビジョン」とともに閣議決定された流れがある。
2月10日が期限――新NDC、提出は現時点で10数カ国
一方で世界気象機関(WMO)などの報告によると、2024年の世界の平均気温は産業革命前と比較した上昇域が1.5度を初めて超え、「2030年代に1.5度目標が達成できなくなる可能性は高い」とする警告もなされるなど、危機は近づいている。2023年に開かれたCOP28では、1.5度目標の達成には、2019年比で2030年までに43%、2035年までに60%削減する必要性が示されているが、各国の新NDCはそれに見合ったものとなるのかどうか――。
提出は今年2月10日が期限とされたが、国連気候変動枠組条約事務局のウェブサイトによると、19日時点で提出しているのは日本のほか、英国、ブラジル、UAE、カナダ、スイス、米国、ボツワナなど10数カ国にとどまっているのが現状だ。
廣末 智子(ひろすえ ともこ)
地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。