• ニュース
  • 公開日:2025.03.05
  • 最終更新日: 2025.03.27
持続可能な航空燃料SAFの国内サプライチェーン構築が実現――コスモエネルギーグループなど4月からANA・JALに供給

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

2024年12月25日に完工したSAF製造設備(コスモ石油 堺製油所構内)

持続可能な航空燃料SAFの量産と普及に向けた動きが、ここに来て、日本国内でも見えてきた。2024年12月には、国内で発生する廃食用油のみを原料とした年間約3万キロリットルの供給を目指す製造設備(プラント)が大阪府堺市に完工。このプラントで製造されるSAFは、日本国内で初めて大規模生産される国産SAFとして、航空業界向けの温室効果ガス削減スキームに適合した燃料であることを証明する国際的な認証を取得し、原料調達から、SAFおよびバイオナフサの製造・保管、エアライン等への供給に至るまでを構成するサプライチェーンとしても認証を受けている。プラントは2025年1月に試運転を開始しており、4月からはいよいよ、実際に製造された国内初の国産SAFの、日本航空(JAL)と全日空(ANA)への供給がスタートする。(廣末智子)

2021年からNEDOの助成でサプライチェーン構築

日本初の大規模生産となる国産SAFを製造するのは、コスモエネルギーグループと日揮ホールディングス、レボインターナショナルの3社が2022年に設立した、合同会社サファイア スカイ エナジー。サプライチェーン全体の構築は日揮ホールディングスが担い、2021年からNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成事業として取り組んできた。原料となる廃食用油の調達はレボインターナショナル、航空会社への供給はコスモエネルギーグループが行い、各社の知見とノウハウを結集して、国産SAFの安定供給を目指す。

世界の航空業界は、2050年のCO2排出量実質ゼロに向けた取り組みを加速。民間航空業界を管轄する国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)は2024年以降、国際航空分野におけるCO2排出量を2019年比で15%削減するという厳しい目標を掲げる。そうした中、各国の航空会社がCO2削減の大きな切り札として期待をかけ、世界的に需要拡大が見込まれるのが、廃食油や廃材、微細藻類などを主な原料とするSAFだ。

大規模プラント完工に合わせて国際基準の持続可能性認証を取得

今回、国産SAFの大規模生産を行う堺市のプラントの完工に合わせ、コスモ石油とコスモ石油マーケティング、サファイア スカイ エナジーの3社は2024年12月、国際民間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム(CORSIA:Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)に基づき、ICAOが承認する持続可能性認証スキームである、「ISCC(International Sustainability and Carbon Certification) CORSIA認証」と、欧州連合(EU)の再生可能エネルギー指令(RED Ⅱ)に基づくISCCによる認証である「ISCC EU認証」を取得。これにより、原料調達から供給に至るまでが日本国内で完結する国産SAFの提供体制が国際的な基準で認められ、航空会社への供給が実際に始まるのを待つばかりとなっていた。

日本国内で初めてとなる、国産SAFのサプライチェーンの仕組み

プラントは3月6日に竣工式を行い、4月にはJALとANAへの供給を開始。初年度となる2025年度から年間約3万キロリットルの製造と供給を予定している。

「国内の資源循環の大きなうねりが結実」

この間、サプライチェーン全体の構築を担ってきた日揮ホールディングスによると、同社が2022年3月に設立した、業界を超えて国産SAFの商用化に取り組む有志団体「ACT FOR SKY」の参画企業は当初の16社から46社に拡大(2025年2月6日時点)。また消費者をはじめとする地域社会の幅広いステークホルダーに、家庭や飲食店などから排出される廃食用油がSAFの原料となることを認知し、収集に協力してもらう「Fry to Fly Project」も、2023年4月の開始時には29だった自治体や企業の参画メンバーが、1年で約200にまで増えるなど、その活動は全国に広がっている。

SAFの原料となる廃食用油の受け入れ施設(コスモ石油 堺製油所構内)

そうした流れを踏まえた上で来月から国産SAFのサプライチェーンが始動することを、サファイア スカイ エナジー代表の秋鹿正敬氏は、「政府やNEDOの支援のもと、日揮ホールディングスとコスモ石油、レボインターナショナルと共に事業化を進め、ACT FOR SKYやFry to Fly Projectなどの活動によって、国内の資源循環の大きなうねりを作り出した結果が結実したものだ」とするコメントを発表している。

持続可能な原料の確保へ ATJ技術を活用したSAF製造事業の検討も

今回のような、廃食用油を原料とするSAFの製造技術はHEFA(Hydro processed Esters and Fatty Acids、水素化処理エステル・脂肪酸)と呼ばれ、SAFの製造方法として確立している。しかしながら原料となる廃食用油は世界的な需要の増加などによって供給量が不足し、価格が高騰するなど、持続可能な原料の確保は大きな課題だ。2022年時点の世界のSAFの供給量は約30万キロリットルだが、これは世界全体のジェット燃料供給量のわずか0.1%に過ぎない。

そこで、日本でも国産SAFのさらなる大規模展開に向け、HEFA以外の技術によるSAF製造に向けた検討もなされている。そうした一つが、コスモ石油と三井物産が2022年7月から共同で検討を実施しているAlcohol to Jet(ATJ)技術を活用した国産SAF製造事業だ。

ATJとは、アルコール(エタノール)を原料に触媒反応を通じてSAFを製造する技術で、コスモ石油と三井物産の2社は、コスモ石油の石油精製事業で培ったプラントの安定操業とジェット燃料の品質管理と物流実績、三井物産のエタノール調達機能とを組み合わせることで、安定したSAFのサプライチェーン構築と事業創出を図る。具体的には、世界での安定した原料供給が期待できるバイオエタノールを原料としたランザジェット社(米国)のATJ技術の採用を予定し、2029年以降、香川県坂出市の坂出物流基地において年間約15万キロリットルのSAFおよび、年間約1.7万キロリットルのリニューアブルディーゼルの製造と供給を目指すという。

この事業は2025年2月、経済産業省が行う公募事業である令和6年度「脱炭素成長型経済構造移行推進対策費補助金(持続可能な航空燃料の製造・供給体制構築支援事業)」にも採択され、近い将来の国内での安定的なSAFの供給に期待がかかる。

また国内での大規模SAFの製造に向けては、ここまで見てきた日揮ホールディングスやコスモ石油グループなどのほか、エネオスや出光興産、富士石油、太陽石油などの石油元売り企業によるHEFAやATJのほか、CO2と水素を原料とする合成燃料の商用化といった次世代燃料の技術開発も進行中だ。

国産SAFが着実に社会に実装されていくには

4月以降、国産SAFのサプライチェーンが実現し、JALとANAへの供給がスタートするのを契機に、今後、国産SAFは着実に社会に実装されていくのか――。

国内の航空3社(JALとANA、スカイマーク)は、世界各国の航空会社と同様に、2030年に燃料の10%をSAFに置き換える経営目標をそれぞれ設定している。しかし、2月26日に開かれた政府の「第6回 持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会」で、日本の航空運送事業に関する調査活動などを行う、定期航空協会は、この目標を巡り、「国産SAFの流通価格をジェット燃料の3〜5倍と仮定し、このまま各社が2030年度のSAF導入目標を達成しようとすると、構造的に事業継続が困難となる」と憂慮する資料を示した。それによると、官民協議会が設置された2022年当時から製造コストは高止まりしており、国産SAFの導入促進にはコストの低廉価に向けた国の追加支援や、SAFによるスコープ3削減を公共調達の応札要件とするなど、国や自治体が率先して、企業の行動変容を促し、SAFの環境プレミアムを社会全体で広く負担するための施策が欠かせない、という。

航空分野でのCO2排出量削減に向け、日本のエアラインが2030年に燃料の10%をSAFとする目標を達成するために、まずはその第一歩となる国産SAFのサプライチェーンの動向が注目される。

written by

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。

Related
この記事に関連するニュース

使用済み太陽光パネルを再生する“Panel to Panel” 岡山の企業が実現へ第一歩
2025.03.17
  • ニュース
  • #サーキュラーエコノミー
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
第2回 COP29や各国の事例から探る「カーボンプライシング」
2025.03.17
  • コラム
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
引越しもエシカルに!?――運送各社が脱炭素意識、大手からはCO2排出量オフセットプランも
2025.03.13
  • ニュース
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
水素の可能性は燃料電池車だけではない。業界の変革に向け、ホンダが挑戦するカーボンニュートラルへのアプローチとは
2025.03.06
  • インタビュー
  • #水素
  • #カーボンニュートラル/脱炭素

News
SB JAPAN 新着記事

自社の歴史から学ぶ、人の感動起点の製品開発とサステナビリティ
2025.04.02
  • ニュース
    米国の現状から何を学ぶべきか、「リジェネレーション」の可能性とは――米SBの創設者とCEOが語る
    2025.04.01
    • ニュース
    • #リジェネレーション
    SB-Jの発行元がSincに移行――サイトリニューアルでコンテンツを一層充実へ
    2025.04.01
    • ニュース
      本格的に動き始めたエネルギーの「アグリゲーションビジネス」とは何か
      2025.03.31
      • ニュース
      • #再生可能エネルギー

      Ranking
      アクセスランキング

      • TOP
      • ニュース
      • 持続可能な航空燃料SAFの国内サプライチェーン構築が実現――コスモエネルギーグループなど4月からANA・JALに供給