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2025年3月18日から21日までの4日間、東京ミッドタウン日比谷にあるEY Japan 東京オフィスで、30年後の未来の地球が垣間見える没入型体験イベント「Four Futures」が開催される。科学的根拠をベースとした複数のシナリオで気候問題を描いた未来の様子を、映像で見て、聞いて感じ取るというものだ。イベントの狙いを、主催者であるEY Japan 東京オフィス 気候変動・サステナビリティサービス 日本地域リーダー (CCaSS Japan Leader) / プリンシパルの牛島慶一氏に聞いた。(廣石健悟)
30年後の地球環境はどうなっているか
イベント「Four Futures」はこれまでにも、COP28が開催されたドバイ、生物多様性条約COP16が開催されたカリや、Climate Week NYCが開催されたニューヨークなど15カ国以上で実施されてきた。
内容としては、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が出しているシナリオに基づき、「BUSINESS AS USUAL(追加対策なし)」「COLLAPSE(崩壊)」「CONSTRAIN(制約)」「TRANSFORM(転換)」という4つの30年後(2053年)の未来を、その時代の地球に住む人が私たちに語りかけてくるという趣向。BUSINESS AS USUALは、現在の取り組みを追加対策がないまま続けた場合、COLLAPSEは人類が気候変動対策に失敗した場合、CONSTRAINは急激かつ高圧的な政策変更によって新たな仕組みには移行しつつも物事が同期せず、我慢を強いられる場合、そしてTRANSFORMは1.5度目標に向かって政策、ビジネス、市民社会が協力しながら新しい仕組みへの移行を成功させた場合のシナリオである。
部屋では、気温変化、世界人口、経済状態、社会構造といった情報をパネルで展示しながら、映像でシンガポールやアムステルダムといった世界各地の生活の様子を、そこに住む未来の人が映像で直感的に分かりやすく語りかけてくる。このように、映像を使ったり、世界の具体的な場所を示したりするのは「気候変動問題をより自分事と捉えてほしい、つまり左脳(インフォメーション)ではなく右脳(エモーション)で感じてもらいたいから」と牛島氏は言う。
30年後といえば生まれたばかりの赤ん坊も30歳になり、社会で活躍している年齢である。つまり、いまの子ども達が生きる未来をエモーショナルに体感できるということだ。実際、子どもや孫がいる世代を中心に多くの共感を呼び、中には涙を流しながら見ていた参加者もいたという。
目先の利益だけを追わず、子や孫の世代にも目を向ける
米国では、再び地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱することを決めた。こうした超大国の動向に歩調を合わせようという国や企業も見られる。世界では、環境問題と自国の経済発展の両立に苦しんでいる。そうした昨今の経済活動と環境問題のバランスについて牛島氏は問いを投げかける。
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「環境問題よりも目先の利益を優先して経営判断するのも理解できます。ただ、自分の子どもや孫の世代にどのような地球環境を残したいか?と聞かれて、今以上に自然環境や社会システムを崩壊させたいと言う人はいないでしょう」
グローバルな動きに右往左往することなく、自らの良心に沿った経営判断を忘れないでほしいということだ。
なお、牛島氏が訴えかけたい相手は経営者だけではない。雇用されて働く従業員にも「自分事」として考えてもらいたいと熱を込める。
「気候変動問題を他人事だと思っている人にこそ参加してもらいたいんです。Four Futuresによって衝撃を受け、将来の地球環境を守るために自らの生活スタイルを改善する行動を起こしてほしい。内心、世の中のために役に立ちたいと思う人は多いはずで、そうした参加者の心に火をつけたいですね」
次世代を担う学生たちにパーパスの種をまきたい
牛島氏は次の世代を担っていく学生に対しても「思うことがある」と言う。というのも、これから社会に出る学生にとって、気候問題はなおさら深刻だからだ。ただし、牛島氏の感覚では、これまで関わってきた学生の多くが「環境問題を真剣に考えており、経済性と気候変動問題の両立を自分事として考えている人が多い」というのは喜ぶべきことである。
「ぜひ学生の方にもFour Futuresを体験してもらい、共感して、一緒に働く仲間になってほしい。そうならなくても、これから社会に出て気候問題に関する仕事をしたり、研究してくれたらうれしい。そのきっかけがFour Futuresだったということであれば文句なしです」
パーパスの種は社会に広くまかれ、あちこちで芽を出して、葉になればいい──この利他的な考え方は、にわかにではなく長年気候問題に取り組んできたEY Japanならではである。
日本の環境対策への期待
最後に牛島氏は日本の環境対策についても触れた。日本は温室効果ガス削減の努力を続けており、2050年のカーボンニュートラルに向けて着実に歩みを進めている。それ自体は素晴らしいが、牛島氏はやや異なる視点から日本の可能性に期待している。
「努力しているとアピールするだけでは正直物足りません。それよりも、気候変動という世界共通の課題解決に向けたソリューションを生み出してほしい。日本は資源制約があり、他方で世界中の多様な文化を受け入れる寛容性もある。まさにイノベーションの実験場で、課題解決のポテンシャルがあるはず。そういった発信を、世界に向けてどんどんしてほしいと切に願っています」
牛島氏は3月18日、19日に東京国際フォーラムで開催される「第9回 サステナブル・ブランド国際会議 2025 東京・丸の内」初日午後のブレイクアウトセッション、「AIが可視化するサステナビリティのリアル」にも登壇する。
廣石 健悟 (ひろいし・けんご)
1985年生まれ、長野県長野市在住。学生時代の専攻は機械工学。新卒で鉄鋼系物流会社に入社して大型物流設備の導入を担当した後、半導体パッケージメーカーに転職して生産設備・治具の設計を担当。フリーライターとして独立後は、インタビュー記事を中心にイベントレポートやニュース記事などを執筆。執筆分野は工学を中心としてビジネス、採用、地域活動など幅広い。 x アカウント@k_hiroishi