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進学や就職などで、引っ越しの荷物を乗せたトラックが日本全国を走り回る季節がやってきた。昔も今も運送会社がてんてこ舞いなのは変わらないが、近年は、それに伴ってCO2排出量が大幅に増えることがないよう、脱炭素に向けた意識を巡らせる社が多い。大手の中には今シーズン、消費者が通常の料金に1000円プラスして支払うことで、CO2排出量をオフセットできる商品も登場するなど、新しい動きも出ている。Z世代など若い人たちを中心に、“エシカルな引っ越し”は広がりを見せるのか?(眞崎裕史)
サカイ引越センター、追加料金1000円で「エシカル引越」プラン開始
国土交通省によると、2022年度の日本のCO2排出量は10億3700万トンで、そのうち運輸部門からの排出量が1億9180万トン。割合で言えば全体の18.5%を占めており、貨物自動車だけで見ても日本全体の排出量の7.0%となっている。運送業界にとって、CO2排出量の削減は最重要課題の一つだ。
そうした中、引っ越し会社で最大手のサカイ引越センターが2025年1月から始めた新プランが、その名も「エシカル引越」だ。通常の引っ越し料金に1000円を追加することによって、引っ越しに伴うCO2排出量をオフセットできる。
同社は昨年7月、三重県尾鷲市と「ゼロカーボンシティ宣言の推進に関する協定」を締結しており、追加料金の1000円は、同市の森林から創出されるJ–クレジットの購入に充てる。同社の概算では、1回の引っ越しで平均0.056トンのCO2が排出されるが、引越しをする人が、この「エシカル引越」を利用することで、その分を相殺できるとともに、同市の森林保全や生態系の再生活動に貢献することができる。
お客さまと企業が一緒に環境負荷を下げていく
新プラン導入の背景には何があったのか。同社はこれまでにも環境負荷の低減に向けて、電気自動車の導入やリユース事業などに取り組んできたが、新プランの導入に携わったグループ推進室の吉岡学氏によると、「一企業としてコストを負担しながら取り組んでいくのは、スピード面でも経済面でも限界がある」と感じていたという。そうした中、若者を中心とした環境意識の高まりも受け、「お客さまと企業が一緒に環境負荷を下げていく商品」としてリリースを決めたのが、「エシカル引越」だった。
スタートして初めてのシーズンを迎え、利用件数は非公表だが、2月末時点で「想定以上の申込みをいただいている」と吉岡氏は手応えを感じているようだ。プランの利用者には、引っ越し後、「エシカル引越」を行ったことの証明となるデジタルアートが送られる。作品は尾鷲市にちなんだデザインとなっており、利用者が増え、一つ一つのアートが組み合わさっていくことで、「SAISEI」をテーマとしたアート作品が完成していく流れだ。
![]() 「エシカル引越」を行ったことの証明となる、尾鷲市にちなんだデジタルアートの一例(サカイのエシカル引越より)
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順調な滑り出しとも言える「エシカル引越」。同社はさらに企業向け商品の開発を検討しているといい、吉岡氏は商品開発に込める思いを「引越しを含め、私たち一人ひとりが受けるサービスで、CO2が直接的、間接的に排出されているという現実がある。社会全体で環境問題に目を向ける機運の向上につながれば」と話している。
脱炭素社会の実現へ 運送業界全体の取り組み加速
消費者に追加料金を負担して環境配慮に協力してもらう形でのサービスはまだ珍しいものの、脱炭素に向けた取り組みは運送業界全体で加速している。
アート引越センターは、「引っ越しを基軸に、暮らし方を提案する企業」としてごみゼロの引越しを目指し、紙資源を使わずに梱包(こんぽう)できる「エコ楽ボックス」の開発や、段ボールのリユースなど環境に配慮した商品を展開する。
その一方で、昨年10月には、まずは「従業員一人ひとりにCO2排出などの環境問題を理解し、今以上に意識を持ってもらおう」(同社)との思いから、100社以上の民間企業が参画する「脱炭素エキデン365」プロジェクトへの参画を表明。同プロジェクトは、本来、乗り物に乗って移動するところを自転車や歩きに変えたり、マイボトルの活用やリモートワーク、オフィスでの階段利用など、一人ひとりの環境を意識した行動が、どれだけの脱炭素量につながるかをアプリを使って計測するもので、実際に参加した従業員は楽しみながら脱炭素行動に取り組んでいるという。
このほか、大手の中には、サカイ引越センターと同じように、適切な森林管理によるCO2などの吸収量をカーボンクレジットとして国が認証するJ-クレジット制度を活用した取り組みを進めているところもある。
今後は、航空会社や一部の旅行会社が、旅行に伴って排出するCO2をオフセットできる旅行プランの販売を強化しているように、引越し業界でも、引っ越しに伴うCO2をオフセットできるプランは一つの選択肢となっていくのだろうか? まずは“エシカルな引っ越し”の広がりに注目したい。
【参照サイト】
国土交通省
運輸部門における二酸化炭素排出量
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html
サカイのエシカル引越
https://www.hikkoshi-sakai.co.jp/carbon/
アートグループのSDGs
https://www.the0123.com/company/sdgs.html
眞崎裕史 (まっさき・ひろし)
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。2020年からフリーランスのライター・編集者として活動し、ウェブメディアなどに寄稿。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。