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  • 公開日:2024.12.16
  • 最終更新日: 2025.03.29
日本企業はSNSマーケティングの成功がカギ、生活者コミュニケーションでサステナビリティを加速

企業が「サステナビリティ」を事業として持続させるためには、生活者をサステナブルなライフスタイルへと導く商品やサービスを提供することが不可欠だ。その実現に向けて、SNSを活用した生活者とのコミュニケーションが重要な戦略となる。今回のSB-Japanフォーラムには、デンマーク出身でソーシャル・メディア・マーケティングが専門の、Karoline M. Madsen(以下、カオリン)氏が登壇。企業によるSNS活用の基本的な考え方などを披露した。(松島香織)

青木氏

冒頭、サステナブル・ブランド国際会議 アカデミック・プロデューサーで、駒澤大学経営学部 市場戦略学科教授の青木茂樹氏が「サステナブル・マーケティングの展開とSNS活用」と題して講演した。青木氏はまず、米国のマーケティング志向や欧州の基準認証によるビジネスモデルを例に挙げる一方で、日本はサステナビリティの発信力が弱いと指摘。

そして、デンマークの町中にある廃棄物発電所「コペンヒル」などを紹介しながら、「マーケティングとは、ストーリーテリングしながら世界を巻き込んでいくこと。ロジック(論理)を用いつつマジック(魔法)をかけること。マーケティング的な発想でサステナビリティをどうデザインするかが大事だ」と力を込める。そしてP&Gのインスタグラムによる取り組みを紹介した。

青木氏によると、同社は多くのクリエイターを抱え、生活者とSNSで直接コミュニケーションを取っているという。同社のSNSでは、さまざまな人が商品について語っており、短い動画がたくさん投稿されている。「日本はどちらかというと、代理店を通して広告だけを作っている。海外企業とは、生活者との関係構築やコミュニケーションの仕方が全然違う」と青木氏は話した。

なぜ日本企業が、そういったSNSを活用したコミュニケーションを上手く取れないのか。その原因の一つとして青木氏は「SNSを使った、生活者からのさまざまな誹謗(ひぼう)中傷などに耐えうる体制が整っていないため」と考えている。そして「どうしたらSNSマーケティングを成功させることができるかを、ぜひ聞きたい」とカオリン氏を紹介した。

企業の価値観が優れていても、人々の関心を引かなければ意味がない

カオリン氏

カオリン氏は、国際セールスとマーケティングを学び、韓国やデンマークなどでマーケティング業務に従事した。現在、日本と海外で飲食店を展開するKEEP WILL GROUP(東京・町田)でソーシャル・メディア・マーケティングを担当している。

まずカオリン氏は、デンマークで育ったことが、サステナビリティに対する考え方に大きな影響を与えたと話した。「サステナビリティは、デンマーク人にとって日常的な価値観であり、幼い頃からサステナビリティを重視するように教育されてきた」と言う。同国では、サステナビリティは必要不可欠なものであり、「クールなもの」と見られている。

そうした風土のため、企業もサステナビリティの面でリードすることが期待されている。「こうした視点を持っていない企業は成功するのに苦労するだろう。サステナビリティの観点から考えることがとても重要だ」とカオリン氏は強調した。そして「その企業の価値観やメッセージがどんなに優れていても、それが人々の関心を引くような形で提示されていなければ意味がない」と言い切る。

そこで活用できるツールがSNSだ。カオリン氏は、人間の脳はテキストよりも画像の方が6万倍速く処理することができ、視覚的にブランドを伝えることで大きな効果が得られると説明した。

例えば、自身が関わったあるレストランのSNSでは、当初、いい写真が掲載されていたが文章の多さが目立っていた。レストランの狙いは、「食を通して海外にいるような感覚を呼び起こすこと」と考えたカオリン氏は、写真と色使いを工夫し投稿することで、エンゲージメントを大幅に向上させた。その結果、再生回数やフォロワー数などが増加したという。

参加者から積極的に質問が出ていた

カオリン氏は効果的なコミュニケーション戦略として、「サステナビリティに関するメッセージを明確にすること」をまず挙げた。続けて「生活者を知り、誰と話しているのか、彼らが何に関心を持っているのかを理解すること」「一貫性のある自社のストーリーを語り、生活者に関連したコンテンツを作ること」と話した。

例として、カオリン氏はデンマークの物流企業、Maersk(マースク)を紹介した。同社は配送にCO2を排出することなどから、そのビジネスモデルはサステナビリティとは程遠い。「しかし、マースクはサステナビリティとイノベーションへの積極的な投資をしており、それは彼らのインスタグラムを見れば一目瞭然だ」とカオリン氏は言う。同社のSNSは、非常に認識しやすい青色をベースとした統一感のあるデザインだけではなく、グローバルな責任、クリーンエネルギーへの取り組み、未来へのコミットメントも強調していると分析した。

こうしたSNS戦略により、マースクは生活者とつながり、信頼関係を築き、ブランド価値を向上させている。カオリン氏は、「SNSによって、コミュニティ感覚が生まれ、人々は自分たちが、より大きな何かの一部であるかのように感じられ、誇りに思えるようになる。また、エンゲージメントの高い生活者は、あなたのブランドをシェアする可能性が高く、より多くの生活者にリーチすることができる」と話す。さらに、生活者と関わることで、彼らの嗜好を知ることができ、サービス内容の指針にすることができるというメリットもある。

そして「オンラインでのコミュニティ構築は、SNSの成功に不可欠だ」とカオリン氏は話す。その成功例としてLEGOを挙げた。同社のUGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)は従来の広告では得られなかったものであり、ファンが自発的にブランドを拡散するため、通常では届かない生活者に情報を届けることができる。また生活者自身によってシェアされるので、従来の広告では得られない信頼と好感を得ることができる。

また、カオリン氏は「グリーンウォッシュ」を警戒するべきリスクとして挙げた。「人々はオンラインで目にしたものを素早く批評する。グリーンウォッシュを避けることは不可欠であり、でなければ、生活者からの信頼を失う危険性がある」と指摘する。そして「情報に透明性があり正直であること」「実績と、改善の余地がある分野の両方を共有すること」「可能な限り証拠と事実を示すこと」「メッセージ、コミュニケーション・スタイルがすべてのプラットフォームで一貫していること」などを対策として挙げた。

チームごとのワークショップの様子

カオリン氏の講演後、ワークショップでは、SNSでコミュニケーションを取るための「シンプルなサステナブルメッセージ」や「エンゲージメントアイデア」をチームで考え議論した。参加者からは、未来の女性リーダーを育てることをテーマに「未来の自分に期待しよう。未来の私がサステナブルな社会をつくる」をメッセージにするなど、具体的かつ解像度の高い発表が数々あり、その都度、会場から拍手が沸き起こっていた。

AIを活用したトレンド分析を、どうサステナビリティに応用できるか

今回のフォーラムでは、10月14日から4日間にわたり米国で開催された「SB国際会議2024サンディエゴ」に参加した青木氏からカンファレンスの報告もあった。テーマは「ブレークスルー・イノベーション」だ。青木氏はまず、SBのCEOに、バイオミミクリーの専門家でもあるマイク・デュピー氏が就任したと紹介した。

また、病理学が専門である、ニューヨーク大学グロスマン医科大学院教授のニール・シース氏のセッションに参加し、非常に感銘を受けたという。

青木氏によると、シース氏は、人間が捉える世界の「境界」は相対的であり、その捉え方は各自のスケールに依存するという考え方を講演したという。青木氏は「つまり、人間は肉眼の世界でしか見てこなかった。顕微鏡で物事を見るように複雑なものを複雑に捉え直し、企業の在り方を再考するテーマだった」と説明した。

またカンファレンス全体では、「AIとサステナビリティ」「自然にやさしい設計パラダイムの実践」「マーケティングを深化する」の3つのテーマがあったと報告した。「AIとサステナビリティ」では、「ネットワーク化されたITやAIの進化が、リジェネレーションの時代を切り開くと話していた」と青木氏。

その前提として、「自分の健康とその生活システムはどうなるのかを考えること」「クオリティを担保する公平な関係性が必要であり、その中にリジェネラティブな関係性を構築すること」「コミュニティと共に、グローバルな視点でコミットすること」などのポイントがあったという。そして、「AIを活用したトレンド分析を、どうサステナビリティに応用できるか」が議論の中心になっていたと、青木氏はまとめた。

次回のSB-Jフォーラムは、1月21日に人的資本をテーマにした「Regenerative on Organizational Culture」を開催する。

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