|
長崎県雲仙市で、カタクチイワシのまき網漁を行う水産加工会社「天洋丸」は、劣化して漁具として使えなくなったまき網を再利用した“網エコたわし”を製造・販売する。ナイロン製の網を加工して作るたわしは、汚れがよく落ち、丈夫で長持ちすると評判だ。
製品化のきっかけは、水産加工品の購入者におまけとして渡した網たわしを「購入したい」という人が現れたこと。昔から漁師たちは使い古した網で道具を洗っていたという。
網エコたわしに使う網は全長450メートルのまき網の劣化・破損した一部。約10年間使った網を洗浄し、約30センチ×40センチサイズに切り、殺菌をして、手のひらほどのサイズに折りたたむと、網エコたわしは完成する。作業は、月の光が明るく、漁獲量が減る満月の前後やしけの日に漁師が行う。パッケージは紙の使用量をできるだけ減らしながら、漁網からできた製品だというストーリーを明確に伝えるデザインを選んだ。
事業がもたらした効果
・網エコたわし(発売当初は税込300円ほど※)は年間1万個以上売り上げる。
※資材価格の変動により価格は変わる
・2020度長崎県特産品新作展の工芸・日用品・その他部門で最優秀賞、長崎デザインアワード2021で大賞を受賞した。
天洋丸代表の竹下千代太さん
|
「この土地で漁業を続ける」強い覚悟が豊かなアイデアの源泉に
天洋丸は、雲仙市の橘湾でカタクチイワシの中型まき網漁業を行い、煮干しやその加工品などを製造・販売している。和食に欠かせない煮干しだしのうまみは、合わせる食材の味を引き立て、料理に深みや複雑な味わいを生みだす。
天洋丸では、ほかにコウイカやヌタウナギのかご漁、タコ壺(つぼ)漁、サバや岩ガキの養殖などを手掛ける。また、煮干しの製造過程で発生する粉末や規格外の煮干しをサバの養殖の餌に使用するほか、畑の肥料としても販売している。代表の竹下千代太さんの家族は1947年から雲仙市南串山町で漁業を営み、現在、正社員やパートを合わせて57人が働いている。
![]() |
![]() |
同社では、網エコたわしを開発する前から、カタクチイワシを使った郷土料理を商品化し、地域の魚食文化の継承に取り組んできた。カタクチイワシ(同地ではエタリ)を塩漬けにして樽(たる)に入れ、稲わらをかぶせて発酵させた「エタリの塩辛」や、自転車飯(煮干しと人参、椎茸、ごぼうにしょうゆを合わせて炊いたご飯)を簡単に作れる「じてんしゃめしの素」を作って販売してきた。
2019年に誕生した網エコたわしは、東京や福岡など都市部の小売店から引き合いがあり、2021年には約1万5000個を売り上げた。しかし、積極的に営業してきたわけではなく、持続可能な社会に寄与する取り組みへの注目が高まるなか、自然に声がかかり売れ始めたという。テレビや新聞などでも取り上げられてきた。
![]() |
さまざまな商品開発のアイデアを出してきたのは竹下代表だ。
「カタクチイワシのまき網漁の船団にはおよそ20人、7〜8隻の船が必要です。その人数を確保するには漁のシーズン以外にも仕事をつくらなければならず、まき網漁以外の事業を始めました。また、この地域の漁業者は年々減っていて、その方たちの事業も引き継いできました。事業や漁業を存続させていくためにいろいろな工夫をし、ストーリーをつけ、ときには社会問題に切り込んだ商品にしようと販売戦略を立ててきたことが、結果として今につながっています」
![]() |
天洋丸では水産業や漁師、魚に興味を持ってもらうためにさまざまな取り組みをしている。漁師の仕事に興味がありながらも続けられるか不安に思っている人たちなどに向けては、1年間限定で漁師として働ける雇用制度「1年漁師」を設けた。ある女性は1年漁師を経て正社員の漁師となった。また、子どもや大人が参加できる1日漁師体験も行う。
竹下代表は、日々変化する海や魚と向きあう漁業の仕事に誇りを持っていると話す。
「商品を手にするとき、少しでも漁師の仕事にこころを寄せてくれたらありがたいです」
天洋丸
https://www.tenyo-maru.com/
本記事は、以下の英語原文を日本人読者向けに加筆・修正したものです。
原文:環境省『LIBRARY』
Reinventing Used Fishing Nets as “Scouring Pads”
https://lla-nbs.com/reinventing-used-fishing-nets-as-scouring-pads/
Facebook Group 『LIBRARY』
https://www.facebook.com/groups/361264510101371/
日本には多様な自然環境があり、地域に土着している営みがとても多彩です。伝統技術や自然資源の活用、循環産業、地域振興などの活動をしている方や興味のある方々をつなげて、活動の魅力を発信し発展を促しています。催しの告知や意見交換などを行っていますので、ぜひご参加ください。

環境省『LIBRARY』
気候変動に脆弱(ぜいじゃく)な国や地域では、地域主導適応策 (LLA)や自然を基盤とした解決策 (NbS)、伝統的知識を活用し、地域の産業振興や雇用機会の創出など、さまざまな社会課題を解く具体的なソリューションが求められています。『LIBRARY』は、そのヒントとなるよう、多様な自然環境がある日本の地域に土着している伝統技術や自然資源の活用、循環産業、地域振興などの事例を紹介しています。