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「新たな世界を生み出すRegenerative戦略――世界・地域・スタートアップから変化を学ぶ」をテーマに開催してきた2024年度SB-Japanフォーラムは、2月18日に第5回を迎え、プロデューサー4人が勢ぞろいし、1年間の総まとめを行った。また、内閣府をはじめ大企業のPR・広報に長年従事してきた広報コンサルタントの佐賀晶子氏が、サステナビリティ経営におけるPR活用を提案。ワークショップでは、佐賀氏が提示した「新しいあたりまえ」を共創するための仕組みを考え、さまざまな意見が飛び交っていた。(松島香織)
フォーラムではまず、第1回から第4回まで、各回を企画したプロデューサーから簡単な内容の振り返りがあり、その後、参加者から感想が共有されるなど、双方向で議論が進んだ。ある参加者は、第4回の「好きな仲間と楽しく働きみんなで豊かになる! ~ダイヤの原石たちと創り上げる会社創り~」と題して講演した、中央シャッター・横引シャッターの市川慎次郎社長の話がいちばん印象的だったという。
「市川さんは熱い思いを持ち、ご自身がすごく魅力的な方だった」と参加者が感想を述べると、この回を企画したサステナブル・ブランド国際会議 D&Iプロデューサーの山岡仁美氏は、「市川社長は何事に対しても真摯(しんし)な方。だが、市川さんだから、中小企業だから人を大切にした経営ができるわけではない。全てのイシューで共通する重要な考え方であり、それこそがリジェネラティブに取り組む最初の一歩」だとコメントした。
また別の参加者は、第2回のネイチャーポジティブの取り組みから新たなビジネスを創出している、北三陸ファクトリーの代表取締役副社長の眞下(まっか)美紀子氏の講演が印象に残ったという。「ウニ養殖をうまくブランディングして事業として成り立っている。ネイチャーポジティブの取り組みだけでなく、ビジネスとして実現していることに感銘を受けた」と話し、ウォッシュにならずにきちんと商品価値を伝えながら、利益を出している好事例だと評価した。
第2回を企画したサステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサーの足立直樹氏は、「サステナビリティやネイチャーポジティブに取り組む時、普段の業務よりワンステップ、ツーステップの手間がかかる。だが、サステナビリティを価値として、お客さまに伝えたりして認められれば、大きな競争力になる」とコメントし、「サステナビリティという付加価値をつくること」「それをコミュニケーションで伝えること」が大事だと強調した。
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またある参加者は、自分が参加できなかった第3回で、デンマーク出身でソーシャル・メディア・マーケティングが専門の、Karoline M. Madsen氏が講演したSNSの活用について触れた。参加した同僚から内容を共有され「企業としてサステナビリティの情報を発信する上でSNSは大事。自分もその場で聞きたかった」と話した。
この回を企画したサステナブル・ブランド国際会議 アカデミック・プロデューサーの青木茂樹氏は、「その回で私は、P&Gが、商品が環境に与える影響について測定するプログラムを、他社と共創して作ったという事例を紹介した。間接的に自分たちの商品を使っているお客さまの生活を、どのようにサステナビリティに仕向けていくかといった視点が素晴らしいと思う」とコメントした。
最後に、サステナブル・ブランド国際会議 ESGプロデューサーの田中信康氏は、サステナビリティ推進のカギとして、「共通認識を築くことが不可欠であること」「組織内外の関係者との対話を深めること」「具体的な活動や成果を積極的に発信し、多様なステークホルダーとの協力関係を強化すること」を挙げた。そしてフォーラムが目指すこととして、「この場から生まれてくるものを(皆さまと)共創して、社会実装につなげていきたい」と力を込めて話した。
新しい「あたりまえ」を考え、サステナビリティにPRを生かす
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続いて、広報コンサルタントの佐賀晶子氏が登壇し、「サステナビリティ経営にPRを活用する」と題して講演した。佐賀氏はまず、日本広報学会の定義から広報とは「目的達成や課題解決のために、組織や個人が多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能」だと説明。つまり、「対話を通じてファンをつくり、支持・応援される存在になること」だという。
また、広報の視点を捉え直す上でとても感銘を受けた書籍として、『「あたりまえ」のつくり方 ビジネスパーソンのための新しいPRの教科書』(嶋浩一郎著、ニューズピックス刊)を紹介した。佐賀氏によると、社会や経済がテクノロジーの進化によって変わり、人々の価値観(=あたりまえ)が大きく変わろうとしている今、書籍では「リフレーミングが必要」としているという。そうした中、PRとは「新しいあたりまえを世の中に定着させるために、あらゆるステークホルダーと関係を築いて継続的に対話し、合意形成する仕事」であり、佐賀氏は「社会を巻き込んでいくサステナビリティの取り組みに、PRという技術がとても生きると考えている」という。そして「新しいあたりまえ」の例として、男性の育休やリモートワークなどを挙げ、「企業の役割とは、新しいあたりまえを作る旗振り役になっていくこと」だと述べた。
書籍では、新しい当たり前を作るための合意形成を加速する、5つの原則を設定。佐賀氏はそれらを紹介し、「自社だけでなく必ず仲間を作って取り組んでいくことや、いろんな立場の人を巻き込んでいくことが大事。そして対話を続けることや、社会が求める視点で何が提供できるか考えること、ファクトベース思考で取り組むことも必要」だと説明した。
最後に佐賀氏は、「人々は、新しいあたりまえを潜在的に求め続けている。特に昭和の価値観から脱却したいという思いは、いろんな立場の方々が思っているのではないか。PRという新しいあたりまえを作る合意形成という技術を、ぜひサステナビリティ経営に生かしてほしい」とまとめた。
課題認識などを共有してファンづくりを
ワークショップのテーマは「新しいあたりまえを共創するための仕組みを考える」こと。あるチームでは、「新しいあたりまえ」とする項目しか出せなかったと前置きがあり、「ジェンダーギャップ」「サステナビリティ意識」「脱炭素」の3つを挙げた。「ジェンダーギャップ指数は国際標準までしっかり向上させるべき。サステナビリティの意識はまだまだ低いので、これも向上させること。地球温暖化に向けた取り組みとして脱炭素が重要だ」と課題感を共有した。
またいくつかのチームが共通して考えたのが「多様性」だ。あるチームでは、「多様な働き方」を挙げて、子育て支援は充実してきているが、介護支援への取り組みが遅れていることや、リモートワークから出社に戻す会社があるなどと話し、「個々人の悩みはそれぞれ違うので、それに合わせた働き方を考えなくてはいけない」と提案した。
別のチームでは、人材や労働力を考えた時に、これまでの「あたりまえ」だった定年制を見直した「高齢者労働力との共創」や「人工知能との共創」を考えることが必要だとした。ある発表者は、自身が地方の温泉に行った時、外国籍の従業員が多く驚いたという。「人材を受け入れるためのマニュアルが、しっかりしているのだと思った。地方の方が多様な働き方が進んでいる。これからの社会は、そうした多様な人材からサービスを受けるため、自分たち自身がその需要を高めていかなくてはいけない」と話した。
もう一つ、発表で挙がったのが「PRのあたりまえ」だ。あるチームからは、「広報担当者が考えるのは、自社の成功体験を伝えること。だが、サステナビリティ推進では途中経過が多く、課題認識などを生活者に発信すれば共感を得ることができるのではないか」と、これまでの視点からの脱却を訴えた。
参加者の発表を受けて佐賀氏は、「得てして大企業などは人の顔が見えない場合が多い。発表していただいたように、そのプロセスと、かつ、この課題は取り組み途中だが自社にとって大事なテーマだという発信は、ファンづくりにとても有効」だと述べた。
「サステナブル・ブランド国際会議 2025 東京・丸の内」の見どころを紹介するプロデューサー陣
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フォーラムの最後には、「サステナブル・ブランド国際会議 2025 東京・丸の内」の開催に合わせて、「SB-J Forum GALA」開催の告知があった。3月18日にSB国際会議の特別会場で、SB-Japanフォーラム会員限定のNetworking Lunchを行う。SB国際会議のグローバルゲストはもちろん、これまでのフォーラムのゲスト講師や基調講演の登壇者などが来場する予定だ。