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  • 公開日:2024.10.16
  • 最終更新日: 2025.03.12
脱炭素対策が企業にもたらす年間純利益は約2億ドル BCG調査

Image credit: Joe Plenio

気候危機が深刻化し、2023年の世界の平均気温が観測史上最も高かったにも関わらず、企業の脱炭素化の進捗は世界的に遅れている。ボストン コンサルティング グループ(BCG)CO2 AIの新たな調査によると、過去1年間に気候変動問題に関する大きな進展はなかったものの、一部の先進的企業は脱炭素化に取り組むことで大きな利益を上げていることが明らかになった。(翻訳・編集=小松はるか)

4年目を迎えた企業のCO2排出量調査「Boosting Your Bottom Line Through Decarbonization (脱炭素化によって利益を増大する)」では、排出量の測定や報告、削減の取り組みを監督する1864人の経営幹部に聞き取り調査を行った。回答企業は26カ国の16の主要産業を代表しており、世界の温室効果ガス排出量の約45%を占めている。各社の従業員数は少なくとも1000人、年間収益は1億ドル(約142億円)から200億ドル(約2兆8400億円)に上る。

気候変動対策の失速

Image credit: BCG

今回の調査は、BCGとCO2 AIが2021年、2022年、2023年に行った、企業のCO2排出量の管理・削減の進捗、気候変動を減速させるための取り組みに関する調査に基づき行われた。2024年の調査の対象はおよそ2000社。スコープ1、2、3の排出量について包括的に報告している企業はわずか9%、3つのスコープ全てについて目標を定めている企業はわずか16%、自社の目標に沿って排出量削減を達成している企業はわずか11%だった。これらの数字はすべて2023年の調査よりも下がっている。

脱炭素化がもたらす多大な経済的利益

しかし、明るい報告もある。ブラジルや中国、インドの企業は総排出量の報告、目標設定、目標に沿った排出量削減の達成を先導している。

さらに、全体の進捗がゆっくりのように見えていても、調査した企業の25%は脱炭素化によって年間収益の7%以上に相当する利益を得ており、年間で平均2億ドル(約284億円)の純利益を得ていることが報告されている。主要メリットの一つは事業の運営コスト削減で、効率性の向上、廃棄物の削減、素材や排出量の合理化、または再生可能エネルギーの利用などによってもたらされることが多い。

Image credit: BCG
脱炭素化により得られる価値は、コスト削減を含むさまざまな要因から生まれる。

コストニュートラルな脱炭素化

調査した企業の半数以上が、正味コストを削減して排出量を10〜40%削減できると考えていると回答。実際に、消費財大手のレキットは製品イノベーションによってこれを実現した。ある取り組みでは、輸送や製造、香料に使われる原料に関するCO2排出量を削減することで、同社のブランド「エアウィック」のスコープ3の排出量を削減した。報告書で、レキットグループのサステナビリティの責任者であるデイビッド・クロフト氏は「持続可能な製品イノベーションは、大幅な脱炭素化を可能にし、CO2排出量に最大の影響がある分野に取り組むチャンスをもたらす」とコメントしている。

BCGの気候・サステナビリティ部門グローバルリーダーで、今回の報告書の共著者であるフーベルトゥス・マイネッケ氏は「調査では、一部の企業が脱炭素化によって財務利益や評判の高まり、経営効率の改善といった十分な利益を得ていることを取り上げている」と説明している。

事業の運営コストを削減する脱炭素化の取り組みは、別の調査で、積極的にCO2排出量の削減に取り組み、環境の戦略やデータを、透明性を持って共有する企業は、投資家の信頼が高まることで、より少ない資本コストで利益を得られると報告されていたように、ウィンウィンな(どちらにも利益をもたらす)ものだ。

企業価値を高めるためのステップ

報告書は、企業の脱炭素化の取り組みの最初のステップとして3つの基本的な取り組みを挙げている。これらに最大限に取り組むことにより、企業は脱炭素対策において優位に立ち、重大な価値の獲得につながりやすくなる。

■測定
3つすべてのスコープを包括的に測定している企業は、脱炭素化によって大きな利益を得られる可能性が1.6倍高い。
■報告
各スコープの排出量を十分に報告している企業は、脱炭素化によって大きな利益を得られる可能性が1.5倍高い。
■目標設定
各スコープについて有効な目標を設定している企業は、脱炭素化によって大きな利益を得られる可能性が1.9倍高い。

こうした基本的な取り組みにとどまらず、企業は先進的な取り組みによってCO2排出量の削減量や潜在的な利益を増大させることができる。報告書は、正確性やインパクト、価値の獲得を促進する、テクノロジーを活用した取り組みも提案している。

■AIの利用
AIがもたらす環境負荷を考慮しながら、CO2排出量を削減するためにAIを活用する企業は、脱炭素化によって大きな利益を得られる可能性が4.5倍高い。
■製品の排出量
製品の排出量を計算している企業は、脱炭素化によって大きな利益を得られる可能性が4倍高い。
■トランジション計画
ネットゼロ実現のためのトランジション(移行)計画を取り入れる企業は、脱炭素化によって大きな利益を得られる可能性が2.9倍、平均気温の上昇を1.5度に抑える目標に沿って排出量を削減できる可能性が3.3倍高い。

報告書の全文はこちら

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