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  • 公開日:2024.11.07
  • 最終更新日: 2025.03.27
未来につながる経済に必要なのはパラダイムシフト:複雑系理論や先住民の知恵、リジェネレーションの活用が鍵

SB国際会議2024サンディエゴ

Image: Te Tini a Maui Kapa Haka(Sustainable Brands)

米サステナブル・ブランドは10月14〜17日、サステナブル・ブランド国際会議をカリフォルニア州サンディエゴで開催した。今回のプログラムは、持続可能でリジェネラティブなビジネスモデルへとより賢く、健全に、速く移行するための「画期的イノベーションのチャンス」に焦点を当てて構成されていた。ここでは初日の基調講演の内容を紹介する。(翻訳・編集=小松はるか)

基調講演の主要テーマは、持続可能性やビジネス、テクノロジー、先住民族の知恵における相互接続性(相互の結びつき)。例えば、レジリエント(回復力のあるしなやか)な未来を実現するためには、先住民族の知恵に敬意を払うことや、複雑系理論を活用してビジネスやテクノロジーにてこ入れすることなど、相互の結びつきに基づく取り組みが必要となる。登壇者らは、ポリクライシス(危機の連鎖)によって複雑化した時代には、レジリエントな未来に向けてパラダイムシフト(考え方の大転換)を起こし、リジェネラティブな手法を取り入れることが急務だと強調した。

ロバート・J・(シタ)ウェルチ・ジュニア氏

この日(10月14日)は米国の「先住民の日」。基調講演のオープニングを飾ったのは、ニュージーランドの先住民マオリ族のパワフルな舞「ハカ」だった。地球や地球上の生命を守るために、先住民族コミュニティが果たしてきた重要な役割に光を当てる演出だ。パフォーマンスはカナダ・バンクーバに拠点をおくグループ「Te Tini a Maui Kapa Haka」によるもので、サステナブル・ブランド(以下、SB)の新しい国際パートナーであるSB アオテアロア(マオリ語でニュージーランド)の加入を記念して行われた。

さらに、会場のサンディエゴ地区の先住民クミアイ族の長老ロバート・J・(シタ)ウェルチ・ジュニア氏によって、「土地の承認」(先住民族の土地を使用する際、土地が先住民族のものであることを認識し、彼ら彼女らに敬意を払う儀式)が行われた。ウェルチ氏は「先住民族は世界人口のわずか5%にすぎないが、世界の生物多様性の80%を守っている」と指摘。先住民族が引き継いできた伝統的な知恵は、数世代にわたって生態系を維持し、環境保全やサステナビリティの取り組みにおいて最も重要な役割を果たしてきた。

先住民族の知恵を再統合する

エスタキオ・ベルトラン氏

司会を務めたアマン・シン氏(ウォルマートのグローバル・サステナビリティ・コミュニケーション部長)が、基調講演のスピーカーである、米内務省戦略パートナーシップ局・インディアン事務局のパートナーシップアドバイザーであるエスタキオ・ベルトラン氏を紹介した。

ベルトラン氏は生物多様性や生態系を保全するために、企業や行政が先住民族主導のイニシアチブと連携していくことの重要性を強調した。こうした取り組みは、保全事業のために連邦政府の補助金を活用することも含み、先住民の知恵が、より広範な環境や経済の取り組みにどう役立つのかを示している。

また、このことは2030年までに国土の30%を保全するイニシアティブ「アメリカ・ザ・ビューティフル(America the Beautiful)」にも見られる。同イニシアティブでは、戦略パートナーシップ局やインディアン事務局がパートナーシップを助長し、資金を確保し、土地や水を保護する取り組みに先住民族の優先事項を統合することで、各先住民族をつなぐ役割を果たしている。

複雑系理論とシステム思考

ニール・シース氏

続いて登壇したのは、ニューヨーク大学グロスマン医科大学院教授で病理学が専門のニール・シース氏。著書『「複雑系」が世界の見方を変える──関係、意識、存在の科学理論 (Notes on Complexity: A Scientific Theory of Connection, Consciousness, and Being)』が日本でも8月に発売されているシース氏は、“複雑系理論”を深掘りした。同理論はサステナビリティを理解するのに非常に重要で、個人の行動がより規模の大きな相互接続したシステムにどのように影響を与えるのかを明らかにしたものだ。

シース氏は、都市開発から企業構造、SB国際会議のようなカンファレンスに至るまで、あらゆるものがいかに複雑系の原則に則っているかを解説した。システムは局所的に反応するものの地球規模では相互依存しており、バランスや適応性、創造性によって発展する。複雑系の予測不能性は長期的な効果の予測を不可能にするが、行動やデザインの小さな転換が大規模な影響をもたらす可能性もある。

サステナビリティからリジェネレーションへ

左から、ダニエル・ランヤード氏とジェシカ・グループマン氏

次に、リジェネラティブ・テクノロジー・プロジェクト(Regenerative Technology Project)の共同創業者であるジェシカ・グループマン氏とダニエル・ランヤード氏が登壇し、既存のシステムを持続させることから再生する方向へと移行することが必要だと語った。デジタル革命は大きな進歩をもたらしたものの、多くの技術が環境や人を搾取し続けている。

両氏は、自然から奪う以上に自然を回復させる、自然の叡智に根差した技術イノベーションについて、新たなパラダイムが必要だとした。グループマン氏とランヤード氏は、テクノロジーを活用した構築・設計・関わり方を再考することによって、健全な生態系と公平性があり、地球と地域社会に配慮したリジェネラティブな在り方を提案している。

公平かつ公正でリジェネラティブな経済を支援する

デイヴィッド・レヴィーン氏

デイヴィッド・レヴィーン氏はアメリカン・サステナブル・ビジネス・ネットワーク(American Sustainable Business Network)の共同創設者だ。ビジネスリーダーや投資家を集め、すべての人に恩恵をもたらす、公平かつリジェネラティブで公正な経済を支える、政策的解決策を生み出そうと取り組んでいる。参加する企業は、気候変動対策のための補助金や先住民族との連携を含む取り組みを通して、ビジネスチャンスと気候変動対策の両方を前進させている。

同ネットワークから誕生したのが、イニシアティブ「グローイング・グラス(Growing GRASS)」。生産者が気候変動に対応した農業を実践・継続するのに必要な資金援助や、市場機会を得られるようにすることで、リジェネラティブ(環境再生型)農業によって育てられた牛やバッファローの副産物(皮・内臓)の販売を促進する取り組みだ。企業が持続可能な取り組みによる長期的なメリットを認識するなか、利益だけではなくシステムの健全性を重視する株主価値から、ステークホルダー価値へのシフトは勢いを増している。

サステナブルな行動へのシフトを魅力的なものにする

フランツ・ベズニック氏

プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)でサステナブル・イノベーションR&D部門の責任者を務めるフランツ・ベズニック氏は、消費者の水の使用習慣に関する社内調査を共有した。消費者は切迫した経済的な懸念から、サステナビリティを優先しない可能性がある一方で、有効な課題解決型製品を強く求めていると指摘した。

同氏は、P&GやIKEA、Kohlerなどが連携して立ち上げた、水の安全保障と有効活用を促進する国際プラットフォーム「50リットル・ホーム(50L HOME)」との協働により得た知見も公表し、サステナビリティが単に必要なものであるだけでなく、消費者にとって魅力的な選択肢となるようなパラダイムシフトを呼びかけた。

コミットメントから行動へと変化し続ける潮流のなか、コラボレーションやイノベーションは今後も、公平でレジリエントかつ公正な、将来においても有効な経済に不可欠であり続けるだろう。

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