• ニュース
  • 公開日:2024.10.29
  • 最終更新日: 2025.03.28
群馬・浅間山のふもとで、自然資源を生かした循環型「地域未来創造事業」を営む

環境省『LIBRARY』

群馬県と長野県の県境に位置する活火山・浅間山(あさまやま)の北麓をフィールドに、自然に従い、事業を手掛ける「きたもっく」という企業がある。1994年、代表の福嶋誠氏は火山の麓の土砂や火山灰が堆積する荒涼とした土地に植林をし、5棟のキャビンを建て、キャンプ事業を始めた。30年の時を経て、現在はまきストーブ事業、まきの製造販売事業、自伐型林業、養蜂事業、木材加工業など多角的に事業を展開。1〜3次産業をすべて自社内のリソースで賄っている。

フィンランド語の「LUOMU(自然に従う生き方)」という理念のもと、事業を展開する同社の思いの背景には、地域の絶対的な支配者・浅間山の存在がある。浅間山は、約700年間に一度の頻度で噴火する活火山。きたもっくは、築き上げた事業がいつか噴火により消滅する可能性を理解しながらも、自社、そして社会に対して「人と自然との関係性」を問い続け事業を行う。

事業がもたらした効果

・事業は1次・2次産業の地域資源活用事業と3次産業のフィールド(キャンプ場などの場づくり)事業に分かれる。年間売上は約7億円で、フィールド事業が5億円の売り上げを占める。
・社員数は60人。アルバイトを含めると年間100人以上の雇用を創出。
・地域に根ざした循環型の事業が高く評価され、2021年に日本のグッドデザイン賞の金賞を受賞。
・年間2000立方メートルの木材を流通。そのなかで約2000トンをまきとして製造。1000トンは自社運営のキャンプ場や企業研修施設での使用に充て、残りの1000トンは軽井沢などの地域住民への直販やピザ店や宿泊施設への直卸で販売する。
・キャンプ場「北軽井沢スウィートグラス」の年間宿泊者数は10万人に上る。
・キャンプ場の開発では、合計26種類、52棟のコテージを自社で設計・設置しており、1棟あたりのコストは約1500万円。1~2年の稼働でそのコストを回収する。
・養蜂事業では、転地養蜂を行い、2023年には4トンの蜂蜜収穫を達成。

未来は、自然にある

自然に従って生きる企業が描く、人と自然の活動が循環する未来の地域産業のあり方

土屋氏

「人と自然のあるべき関係性とはどのようなものか」と自問するのは、きたもっく事業部長の土屋慶一郎氏だ。現代の経済社会は多くの場合、「自然は人間がコントロールできる」という前提に基づいているが、土屋氏はこの考えに疑問を呈し、「LUOMU」という企業理念をひも解いて説明する。

同社の事業は、キャンプ場運営、まきストーブとまきの施工販売、自伐型林業など、地域資源を活用する事業から構成されている。これらの事業を統合し「地域未来創造事業」として展開。しかし30年にわたり確立されたこのビジネスモデルに至るまでには、多くの困難があった。

山に従って働くことは60〜100年の時間軸を必要とする。しかし、60人の社員とその家族の生計を支え、地域を豊かにするためには、単年度でも収益を上げられるような自律的で持続可能な産業を構築する必要があった。

まずは通年雇用に踏み切るために、当初夏季限定であったキャンプ場の運営を通年営業に切り替え、全宿泊施設にまきストーブを設置した。この経験を生かし、まきストーブや高品質なまきの販売事業を拡大。また、山の価値を木材だけでなく草花にも見出し、養蜂業に着手し「百蜜」という生蜂蜜の販売を始めた。

しかし、これだけでは地域は豊かにならない。土屋氏は、コミュニティの再生が重要であると指摘する。これまで行ってきたキャンプ事業の価値を「家族の絆が再生される場」として再定義し、新たに、同じ目的を持つ集団の活力を再生するための場づくりにも取り組んだ。2020年、企業研修施設「takiviva(タキビバ)」を開設し、たき火を囲むことで、仲間と同じ方向を向き、本音で話せる環境を提供した。

きたもっくは自然の声を聞きながら、環境の再生とコミュニティの再生を同時に行っている。いつか噴火により事業が消滅する可能性があっても、浅間山の麓で培われているきたもっくの哲学は、ここを訪れた人々やそのコミュニティを通じて各地域に広がり、未来の地域創造の糧となるであろう。

きたもっく
https://kitamoc.com/

本記事は、以下の英語原文を日本人読者向けに加筆・修正したものです。
原文:環境省『LIBRARY』
Operating a Recycling-oriented, Regional, Creative & Future-focused Business at the Foot of an Active Volcano
https://lla-nbs.com/operating-a-recycling-oriented-regional-creative-future-focused-business-at-the-foot-of-an-active-volcano/

Facebook Group 『LIBRARY』
https://www.facebook.com/groups/361264510101371/
日本には多様な自然環境があり、地域に土着している営みがとても多彩です。伝統技術や自然資源の活用、循環産業、地域振興などの活動をしている方や興味のある方々をつなげて、活動の魅力を発信し発展を促しています。催しの告知や意見交換などを行っていますので、ぜひご参加ください。

written by

環境省『LIBRARY』

気候変動に脆弱(ぜいじゃく)な国や地域では、地域主導適応策 (LLA)や自然を基盤とした解決策 (NbS)、伝統的知識を活用し、地域の産業振興や雇用機会の創出など、さまざまな社会課題を解く具体的なソリューションが求められています。『LIBRARY』は、そのヒントとなるよう、多様な自然環境がある日本の地域に土着している伝統技術や自然資源の活用、循環産業、地域振興などの事例を紹介しています。

Related
この記事に関連するニュース

【アーヤ藍 コラム】第7回 4月22日はアースデー:地上と海中から「地球の声」を聴く実践者たちに学びたい
2024.04.18
  • コラム
  • #エコシステム
  • #生物多様性
ヒトを含む生態系への影響が明らか NPOらネオニコ系農薬に警鐘
2022.07.11
  • ニュース
  • #エコシステム
  • #生物多様性
山を食べつくすシカを減らし、食用として消費拡大へ――伊豆市に見るシカ被害と対策
2022.04.07
  • ニュース
  • #エコシステム
  • #生物多様性
軽視されがちな海洋生態系保全 水産加工品メーカー「バンブル・ビー」の挑戦とは
2021.07.01
  • ワールドニュース
  • #エコシステム
  • #生物多様性

News
SB JAPAN 新着記事

米国の現状から何を学ぶべきか、「リジェネレーション」の可能性とは――米SBの創設者とCEOが語る
2025.04.01
  • ニュース
  • #リジェネレーション
SB-Jの発行元がSincに移行――サイトリニューアルでコンテンツを一層充実へ
2025.04.01
  • ニュース
    本格的に動き始めたエネルギーの「アグリゲーションビジネス」とは何か
    2025.03.31
    • ニュース
    • #再生可能エネルギー
    新たな局面を迎えたESG 投資家がいま求めているものとは
    2025.03.27
    • ワールドニュース
    • #情報開示
    • #ESG投資

    Ranking
    アクセスランキング

    • TOP
    • ニュース
    • 群馬・浅間山のふもとで、自然資源を生かした循環型「地域未来創造事業」を営む