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  • 公開日:2024.10.15
  • 最終更新日: 2025.03.12
食料システムの変革には国別戦略が必須 WWFがツールを発表

Image credit:The Great Food Puzzle

WWFはこのほど、世界の食料システムの問題を解決するために必要な国別の対策を示した新ツール「Great Food Puzzle(グレート・フード・パズル)」を公表した。併せて公開した報告書は、食料システム(生産や加工、輸送、消費を含む複合的な活動)が自然や気候変動に大きな影響をもたらすなか、各国の実情に合わせた国別の対策によってのみ食料システムは持続可能になると強調している。(翻訳・編集=小松はるか)

世界の食料システムは、生物多様性の損失の最大8割、さらに温室効果ガス排出量の約3分の1の要因と指摘されている。食料システムが広範な影響を自然に及ぼし、自然界の機能に全面的に依存していることを考えると、食料システムを分類する際に環境的要素を含めることは非常に重要な判断で、WWFの分類は他の食料システムの分類とは大きく異なっている。

WWFのブレント・ローケン氏は、「食料システムは非常に複雑です。文化的な遺産や価値、地域ならではの事情といった多くの要因によって形成されています。これはつまり、どの国でも機能し、現在の食料システムが自然や人間の健康にもたらす壊滅的な影響を逆転させる“特効薬”はないということです。Great Food Puzzleが示す対策は、最短で人や地球に最大の恩恵をもたらす、地域の背景に沿った、科学的根拠に基づく対策や地域に根ざした解決策を、あらゆるステークホルダーが認識するのに役立ちます」と話す。

全世界に共通して適用されるべき政治的介入策は存在しない。しかし報告書は、すべての国で一貫して必要なこととして、土地利用の最適化、生物多様性の回復、健康的で持続可能な食に関する教育の向上、助成金や財政的インセンティブの再設計を挙げている。

Image credit:Erwan Hesry on Unsplash

こうした取り組みは、WWFが今回仕分けた6つの分類すべてにおいて大きな影響と可能性を持つが、すべての国に推奨される取り組みのトップ3というわけでは必ずしもない。なお、6分類は、偏見や先入観を排除するために単純に1〜6の数字を振っている。6つの食料システム分類に類似性はあるが、各分類の優先行動には明白な違いがある。

・例えば、中国やメキシコ、南アフリカ、スペイン、アラブ首長国連邦が入っている分類4の国々では、先端技術を使ったハイテクな解決策を導入することで既存の食料システムを転換できる可能性がより高くなる。こうした国々では食料システムの工業化がすでにかなり進んでいるが、予想される気候変動を考慮すると、当該の国々は最高レベルの水リスクに直面している。食料生産のために管理された環境を使用することや、灌漑(かんがい)のために塩水を脱塩することなど、清潔かつ安全な水へのアクセスを確保できる先端技術が極めて重要になるだろう。

・ドイツ、日本、オランダ、英国、米国などが入る分類5の国々では、すでにある公約や計画を推進することで食料システムが転換できる可能性がより高くなる。こうした国々は、環境が整っており、規制や協定があることが多いが、実行が不十分だ。新しい解決策を生み出すよりも、既存の公約を実行することが最も効果的だろう。

・一方、エチオピアやフィリピン、ベトナムなどが入る分類2や分類4の国々では、ナッツ類や豆類、栄養価の高い穀物などの伝統食品の推進が食料システムを転換する大きな可能性を秘めている。当該の国々の多くでは超加工食品や動物由来の食品の消費が増加しており、健康的で持続可能な食文化からの転換が進んでいる。

食料システムの6分類と戦略例

【分類1 事例:エクアドル】
ネイチャーポジティブなサプライチェーンを展開する。
カカオの伝統的な生産方法を実践するためにエクアドルの先住民コミュニティと協働し、森林破壊をなくすためのサプライチェーン追跡システムを取り入れ、農家がカカオ豆や製品を適正価格で売れるようにするためにドイツ企業との長期的なサプライチェーンを確立する。

【分類2 事例:フィリピン】
サプライチェーンのインフラを整備する。
マニラの企業や住民が食品廃棄物を簡単に、早く、安全にコンポスト(堆肥化)できるようにするモバイルアプリSoilmateを開発することで、食品廃棄物を埋め立てることなく、地元農家に有機肥料を供給する。

【分類3 事例:ケニア】
小規模農家を支援する。
ナイバシャ流域の地元農家が所有・運営する新しい市場を立ち上げ、仲介業者への依存から抜け出し、食品を都市に輸送しながらも、食品ロスを最小限にし、農村が手に入れられる健康的で持続可能な食品の供給量を増やす。

【分類4 事例:南アフリカ】
ハイテクな(先端技術を用いた)手法を取り入れる。
ウエスト・コースト国立公園近くのイガイの養殖に使われているロープにクジラが絡まるのを防ぐ、AIを使った早期警戒システムを実装する。

【分類5 事例:米国】
国民の意識を高める。
食堂を教室とみなし、生徒が食品廃棄物を測定・削減できるよう教育プログラムを確立する。さらに、学校の食品廃棄物を削減するための仕組みづくりに投じる資金を増やす法案を提出する。

【分類6 事例:アルゼンチン】
土地利用を最適化する。
ラス・パンパスの牧場主と協力し、土壌や水の健全性を向上させ、生物多様性を高め、十分な経済的利益をもたらす持続可能な家畜管理を実践する。

ローケン氏は「Great Food Puzzleが示す手法は、先行する優れた食料システムの変革を加速するのに役立つでしょう。すでに大きな影響力のある取り組みを採用している国の事例は多くあります。その土地に根差した解決策を見つけ、さらに互いに学び合い、解決策や成功事例を共有できる協調体制を築くことで、世界の人々が健康で持続可能な食料システムを生み出す機会を手に入れられるのです」と話す。

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