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  • 公開日:2024.10.02
  • 最終更新日: 2025.03.12
サステナビリティ認証はEUのサプライチェーン関連規則を守るのに十分か

大手ブランドがEUで製品を売ることはかなり難しくなりつつある。約4.5億人が暮らし、6億人以上の消費者が存在する世界最大の経済圏であるEUは、ほぼ全ての製品の環境デザインに関する要件を定めた「持続可能な製品のためのエコデザイン規則」を7月に施行した。それに加え、森林破壊や人権、労働に関するデューデリジェンスの基準を間もなく引き上げるだろう、いくつかの規則を可決した。(翻訳・編集=小松はるか)

2023年に発効した欧州森林破壊防止規則(EUDR)は、カカオや牛肉、コーヒー、パーム油、紙パルプ、ゴム、大豆など、森林破壊のリスクが高い熱帯産の一次産品を輸入する企業に対して、森林破壊に加担していないことを保証するよう求めている。この規則に続き、サプライチェーン上で人権侵害に関わる輸入品が欧州に入らないようにする、人権デューデリジェンスに関する規則が可決された。また、強制労働に関する最新の規則では、強制労働によって生産されたと疑われるあらゆる製品の輸入を禁止する。

重要なのは、コンプライアンスの立証責任は、いまや政府ではなく企業に降りかかるということだ。これは既存の法律からの大きな転換といえる。また、『森林政策・経済ジャーナル』に掲載された非営利組織アースサイト(Earthsight)の最新の報告書によると、調査した第三者認証のほとんどは、EUDRの必須要件を満たすのには不十分だということが分かった。

同報告書は、EUDRの定義や必須要件に沿って、いくつかの有名な認証制度の性能を分析。評価した認証制度の活用では、森林破壊に関わらない製品を提供するのに「限界がある」と結論付けている。その理由は、調査した認証制度は、関連する法律に照らし合わせてみると製品を保証するには「不十分」で、トレーサビリティ制度もEUDRの必須要件を完全には満たしていないからだ。したがって、これらの制度はデューデリジェンスを支援するものではあるもののEUDRの順守にはならない。

最悪の事例では、いくつかの認証はサプライチェーン上での森林破壊や人権侵害に関わっている企業が認証を保持することを許していたり、企業が説明責任を果たす仕組みに欠点を抱えていた。

アースサイトはホームページでこう説明している。

「調べた全ての認証制度が、法令の不順守に対して甘い態度を示しています。企業が法律に違反しているにも関わらず、認証を保持することが許されており、法令不順守のリスクが高まります。政策立案者は、EUDRの実装にあたってこれらの認証制度に頼らないようにし続けなければなりません」

これまでなら、不正行為が起きた際、ブランドは責任を認証主体に転嫁することができた。しかし、いまやEUの新しい法律が企業に責任を負わせるだろう。これにより、企業は初めてサプライチェーンへの実際的、財政的、法律的な影響に直面するかもしれない。企業やブランドはこの数年間、森林破壊や強制労働をゼロにするという誓約などの自主的な規則を推進してきた。しかし残念なことに、自主的な規則は簡単に破ることができ、強制するのが難しいことが証明されてきた。一方で、EUの新たな法律では、企業のEUでの売上高の最大4%の罰金、もしくは財産没収や公的な資金・契約からの除外が含まれることもありうる。

欧州議会のララ・ウォルターズ議員は「企業は法律を順守しないのなら、制裁を受けるべきです。また、避けられた被害が起きたら、被害者は裁判所で正義を勝ち取ることができるべきです」と話している。

欧州議会が、人権・環境のデューデリジェンスを義務付ける、企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)などを採択するまでに数年を要した。この期間というのは、先進的企業がサプライチェーンから森林破壊や人権侵害、強制労働がないことを保証する仕組みを構築するのに十分な時間だった。一方、そうでない企業は取り組む時間が不足している。そして、欧州が先導するなか、他の市場もそれに追随しようとしている。

米国にはすでにウイグル強制労働防止法があり、広範囲に広がる強制労働キャンプや文化的ジェノサイドについて根拠が確かで裏付けのある陳述が揃っている、中国が支配する新疆ウイグル自治区からの輸入を制限している。さらに、世界第3位の経済大国である日本でも、サプライチェーンの人権デューデリジェンスの義務化について議論が行われている。

ビジネスと人権リソースセンターの上級研究員ヨハネス・ブランケンバッハ氏は、「新たな指令案はEU全域で域内の企業にデューデリジェンスを義務化する画期的なもの。私たちは、より公正なバリューチェーンと公平な競争環境を促進するとともに、権利者に対して状況を明白に改善できる可能性を保証する必要があります」と述べている。

時間が不足している。欧州森林破壊防止規則は今年12月30日から適用され、人権と強制労働に関する規則もそれに続く。もし企業・ブランドが健全なサプライチェーンを形成するのに積極的な役割を担うなら、サプライチェーンが全体にわたり透明かつ倫理的で、利益をもたらすものになる未来は実現できるのだ(そして、いま必要不可欠なものだ)。

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