• コラム
  • 佐々木 恭子
  • 公開日:2024.05.29
  • 最終更新日: 2025.03.28
パーパスとサステナビリティの方程式
【佐々木恭子コラム】第6回:パーパスでサステナビリティ経営を次のステージに

佐々木 恭子(ささき きょうこ)

パーパスとサステナビリティについて解説してきたコラムシリーズも今回が最終回となります。これまでの振り返りをするとともに、日本企業が今後、パーパスを通じてサステナビリティ経営をどのように進化させていけるかのヒントについて、一緒に考えていきたいと思います。

パーパスの2つの側面と日本企業の特徴

日本企業の中には新たにパーパスを策定したという企業もある一方、インタビュー調査を通じて、「企業理念」をパーパスとして捉えている日本企業も多いということが浮かび上がりました。そして、企業理念も含め、パーパスとサステナビリティの関係は、欧米の学者が理論化した「義務型パーパス(Duty-base purpose)」と「目標型パーパス(Goal-based purpose)」というパーパスの2つの側面の違いで説明できることが分かりました。

欧米を中心にパーパスの議論が注目されている背景には、気候変動や、その影響による格差などのサステナビリティに関する課題の顕在化・深刻化があります。そこから、社会における企業の役割とは何か、経済発展の主体というだけでなく、社会や人々の暮らしを良くするという役割も担っているのではないか、という議論が注目を浴びています。一方、日本では「株主資本主義」が導入されるよりもはるか前、時には100年以上前の創業時から「社会」への貢献を謳(うた)い、事業を発展させてきた企業が多くあります。

筆者の留学先、豪モナシュ大学の博士課程卒業式の様子。博士号取得者は式典の間、学長らとともに壇上に着席するのが特徴だ

これらの企業にとっては、事業を通じて社会に貢献することは「当たり前」であり、多くの従業員が自社のパーパスを既に認識している状態です。これは「義務型パーパス」が実行化されている状態といえます。しかし、それが必ずしも企業のサステナビリティ経営を推し進める要因になり得ていないのはなぜなのか?

その理由の一つに、自社を取り巻く社会環境の変化に対する「危機感」が弱く、SDGsなどで定義されている社会的課題が自社の事業戦略に必ずしも織り込まれていない場合があることが、インタビュー調査を通じて浮かび上がってきました。つまり「目標型パーパス」が実行化されていないのです。

私の研究では、日本とオーストラリアの大企業に対する調査を実施しましたが、両国に通じて、「義務型パーパス」「目標型パーパス」の両方を実行化している企業が、どちらか片方を実行化している企業よりも、包括的にサステナビリティを経営に統合しているということが分かりました。

対象とする「社会」の範囲のアップデートが必要

研究を通じて得られたもう一つの重要な示唆が、日本企業が企業理念やパーパスで謳っている「社会」とは、一体何を指しているのか? ということです。今回のコラムシリーズでは深掘りしませんでしたが、私の研究ではFortune Global 500社のパーパスの文言自体の分析も行い、日本企業の特徴として「社会」という言葉がよく使われていることがわかりました。「社会」とは一体何を指すのでしょうか?

日本では企業は国家の関心事に沿って事業を行い、国と企業は近しい存在として発展してきた歴史があります。そこでの「社会」とは、主に国家と国民を指し、企業は自社に直接影響を与える従業員と顧客への利益を重要視してきました。事業がグローバル化する中で、サプライチェーンを通じて影響を与える人やコミュニティも拡大している一方、これらの対象者は企業理念に書かれている「社会」に含まれているのかどうか、というのが、パーパスとサステナビリティの関係を考えるポイントの一つとなります。

もう一つのポイントは、現在広く使われている「サステナビリティ」のもととなった概念、Sustainable Development(持続可能な開発)の意味に含まれています。これは「環境と開発に関する世界委員会」が1987年に公表した報告書「Our Common Future」(別名:ブルントラントレポート)の中で、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義されました。つまり、今生きている子どもたちやこれから生まれる将来世代もサステナビリティが指す「社会」の対象に含まれているのです。

日本企業が貢献すると謳っている「社会」の中には、一体誰が含まれているのか、いるべきなのか、という点を100年前ではなく、今の状況に照らしてアップデートしてみると、「企業理念」に書かれている自社のパーパスが、実はとても柔軟性が高いことに気が付くかもしれません。今の私たちを取り巻く社会環境に目を向けたとき、パーパスが未来の事業の方向性を指し示し、時には「変革」を促す北極星になりうるのではないでしょうか。

※ニューヨークに拠点を置くメディア会社、Fortune Media Group Holdingsが発行するビジネス雑誌、フォーチューンが年に1回発表する、全世界における総収入の多い企業、上位500社のリスト

written by

佐々木 恭子(ささき きょうこ)

修士課程(環境学)を修了後、環境関連のベンチャー企業にて大手企業向けにコンサルティング、省庁・自治体向けに環境関連調査などを担当。2007年より事業会社の環境、CSR、サステナビリティの部署にて、グローバルCSR体系の立ち上げと国内外事業所への社内浸透、サステナビリティ関連の情報開示等に従事。2020年~豪モナシュ大学社会科学研究科在籍。パーパスとサステナビリティ(SDGs)の取り組みの関係について、日豪2ヵ国の大企業を対象に研究。2023年11月博士号(社会学)取得。

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