• コラム
  • 佐々木 恭子
  • 公開日:2023.12.25
  • 最終更新日: 2025.03.28
パーパスとサステナビリティの方程式
【佐々木恭子コラム】 第1回:パーパスは企業理念と同じ?

佐々木 恭子(ささき きょうこ)

深刻化する環境・社会課題を背景に、企業のパーパス(Purpose)が問い直されています。パーパスとは、直訳すると、「目的」ですが、一般的に、企業のパーパスとは、企業が「何のために存在するのか?」という存在意義を問うものとして捉えられています。

この世界的なパーパスブームの火付け役の一人は、世界最大の機関投資家、米国に本社を置くブラックロック社のCEOラリー・フィンク氏です。

フィンク氏は、2018年に世界の大企業のCEO宛に「A Sense of Purpose」と題した書簡を送りました。この書簡で「企業が継続的に発展していくためには、すべての企業は、優れた業績のみならず、社会にいかに貢献していくかを示さなければなりません」と訴えかけたのです。

その翌年、もう一つの大きな出来事がありました。米国の主要企業181社の経営者をメンバーとするビジネスラウンドテーブル(Business Roundtable:BRT)が「Statement on the Purpose of a Corporation(企業の目的に関する声明)」を発信し、この声明の中で、「企業はすべてのステークホルダーに対するコミットメントを行うこと」が明言されたのです。BRTは1997年に発行した声明で「企業のパーパスは株主利益の最大化である」としていたことから、2019年の声明は「株主至上主義」から「ステークホルダー資本主義」に潮目が変わったと、米国内のみならず日本を含む世界各国で大きく報道されました。

これらの出来事がニュースになったのを覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。この一連の動きについて、皆さまはどのように感じられましたか?
中には、「日本企業にとって、従業員や地域社会に貢献することは『当たり前』のことじゃないの?何を今さら」と考えられた方もいるのではないでしょうか?

日本企業にとって、パーパスはどんな意味をもつのか

それもそのはず、 日本には、古くは近江商人の「三方良し」の考え方がありますし、パナソニックの創業者である松下幸之助氏も「企業は社会の公器」という言葉を遺(のこ)しています。社是や企業理念で社会への貢献を謳(うた)っている企業は枚挙にいとまがありません。「パーパス」は、これまでの日本企業がやってきたことと一体何が違うのでしょうか?日本企業は今までの行動から何も変えなくて良いのでしょうか?

このような疑問は、実は20年前に欧州から「CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)」の概念が輸入されたとき、そして昨今のSDGs(Sustainable Development Goals:国連 持続可能な開発目標)ブームに対する反応とも似ています。共通しているのは、CSRやSDGs、そして今回の「パーパス」に関しても、「(株主至上主義を掲げてきた英米とは違って)日本企業は昔から社会に貢献してきたし、そのことは社是や企業理念に書かれている。だから何も新しいことはない、今までやってきたことをそのまま胸を張って続ければ良いのだ、むしろ足りていないのは発信力だ」、という主張です。

こうした主張に対して、私は若干の違和感を持ちました。ご紹介したラリー・フィンク氏のレターやBRTの声明の背景には、世界規模での社会・環境課題の深刻化と顕在化、そしてグローバル化による企業の影響力の拡大(政府の影響力の相対的な弱化)があります。私たちが住むこの地球上には、気候変動や格差などの課題がますます目に見える形で表れてきています。

日本企業が社会的な企業理念を何十年も、場合によっては100年以上も持ち続け、その理念に基づいた事業活動を行っているなら、最近「パーパス」に気づき始めた欧米よりも、環境や社会の面でずっと優れた結果を残していないと話が通じません。しかし、実際にはどうでしょう?例えばSDGsの達成度ランキング(2023年版)で日本は21位、上位20位には欧州各国がランクインしています。2023年のジェンダーギャップ指数では146ヵ国中125位、下から数えた方が早いです。高度経済成長期には日本各地で企業による環境汚染、公害が大きな社会問題になり、今でも完全に解決されてはいません。

日本企業が昔から社会的な企業理念を持ち続けているという理由だけで、現在の「パーパス」の議論を気にしないようにも見えるのは、一種の思考停止状態に陥っている可能性もあります。それでは一体、企業理念とパーパスは同じなのでしょうか?企業自身はパーパスをどう捉えているのでしょう?それは企業の社会・環境活動を変えるものなのでしょうか?日本企業が掲げている企業理念は、現在の社会課題の解決に対してどんな意味を持つのでしょうか?

筆者が通った豪モナシュ大学大学院研究棟

2018年から2019年当時にパーパスの議論が注目されたとき、私は、東京に本社を置き150ヵ国以上で事業展開する 企業のサステナビリティ部門のマネージャーを務めており、 企業理念をベースとしたグローバルCSR体系の社内浸透に奮闘していました。社会的なミッションを言語化した企業理念は、世界各国で働く10万人以上の従業員にすでに十分認知されていました。私は会社が半世紀以上前から掲げる企業理念の時間軸を未来まで延ばし、世界各国で働く10万人以上の従業員一人ひとりの仕事に反映することで、巨大な組織体を持続可能な社会の実現に向けて動かしていけるのではないか、と考えていたのです。これを進めていく上で、上記のような疑問を解き明かしたいと強く思うようになりました。

そして2020年1月〜2023年3月まで、会社を休職して、豪州メルボルンにあるモナシュ大学の社会科学研究科の博士課程でパーパスとサステナビリティの関係について研究しました。
この連載では、次回から、日本企業がサステナビリティ経営を推進する上で、パーパスはどんな役割を果たすのか、豪州の大学で学んだことを中心にお伝えしていきます。

written by

佐々木 恭子(ささき きょうこ)

修士課程(環境学)を修了後、環境関連のベンチャー企業にて大手企業向けにコンサルティング、省庁・自治体向けに環境関連調査などを担当。2007年より事業会社の環境、CSR、サステナビリティの部署にて、グローバルCSR体系の立ち上げと国内外事業所への社内浸透、サステナビリティ関連の情報開示等に従事。2020年~豪モナシュ大学社会科学研究科在籍。パーパスとサステナビリティ(SDGs)の取り組みの関係について、日豪2ヵ国の大企業を対象に研究。2023年11月博士号(社会学)取得。

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