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社会課題への関心をより深く長く“サステナブル”なものにする鍵は「自ら出会い、心が動くこと」。そんな「出会える機会」や「心のひだに触れるもの」になるような映画や本などを紹介する本コラム。今回はすべての人の暮らしに関わる「買い物」に焦点を当てます。
ブラックフライデー、冬のボーナス、クリスマス、年末セール、初売りなどなど、“買い物スイッチ”が入りやすい季節がやってきます。1年間頑張った自分へのご褒美や、大切な家族や恋人への贈り物など、想いがこもった買い物も多いでしょう。そうであれば地球環境や人をハッピーにする買い物をしたくありませんか?
とはいえ、今回はサステナブルやエシカルな商品を紹介するわけではありません。「そもそも買う必要があるのか?」という視点から考えたいのです。
突然ですが、みなさんの家には何個の「モノ」がありますか。家具家電など大きいモノだけでなく、こまごましたものまで含めてです。数えることを想像しただけで途方にくれそうになるかもしれませんね。
2001年から2005年にかけてUCLAの考古学者チームがロサンゼルスの中産階級の共働き世帯32家族を調査したところ、平均30万個のモノがあるという結果が出たそうです*1。日本はアメリカと比較して家のサイズが小さいのでここまでの数はなかなか無いかもしれませんが、それでも数千、数万個はありそうです。
ではその中であなたが日常的に使っているモノはどれぐらいあるでしょう?
あなたを「幸せ」にしてくれるモノはどれぐらいありますか?
今回紹介する映画の主人公の一人、アメリカ人のジョシュアは、父親のDVが原因で母子家庭で育ちました。母親はアルコール依存症になり、学校から帰るとソファーで倒れているのが日常だったと言います。生きる目的を失ってしまった母親に生きがいを与えるために、ジョシュアはお金持ちになることを目指します。
がむしゃらに働き、その夢を実現したジョシュア。高級車、ブランドの服、最新の電子機器、住人よりトイレの数が多いほど広い家……。しかし母親の死と、妻との離婚に立て続けに直面した彼は気づくのです。「アメリカンドリームは僕の夢ではなかった」と。
![]() Netflix映画『今求められるミニマリズム』独占配信中
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1950年代の10年間の総計で50億ドルだったアメリカにおける宣伝費は、現在年間で2400億ドルになっていると言います*2。それほど「宣伝」が溢れる現代社会。「まだ足りない、不十分だ」と負の感情を駆り立てられ、「これを手にすれば幸せになれる」と興味や好み、欲望を操作されやすい社会。ソーシャルメディアの誕生は、それまで遠い世界だった人をも身近な比較対象に変え、以前にも増して他者との比較による不満を抱かせやすくしています。
ジョシュアは人生の暗闇に落ちた時、そうした外からの成功イメージや幸福像に縛られている自分に気づき、家にあるモノを1日に1つずつ減らすミッションを1カ月間行うことに。一つ一つのモノを手にして「僕にとって価値がある?」と自問し、不要なものは手放していく。するとどんどん楽しくなり、自由で幸せな気分が高まっていったのです。
そんなジョシュアの幸福オーラを感じ取った幼馴染のライアンも、彼に倣ってモノを手放していき、二人はその後、ミニマリズム・ムーブメントの火付け役となります。そんな二人を軸に、消費を煽る現代社会の問題点を見つめ、自分にとって必要なモノを見つけ出すことの大切さを伝えるのが、ドキュメンタリー映画『今求められるミニマリズム』です。
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私も約6年間、シェアハウスを引っ越し歩いていましたが(本記事冒頭の画像は直近まで暮らしていたゲストハウス・オプンティアの部屋)、引っ越しを重ねるごとに、自分の所有物を減らしていくことで感じられる自由さは増していきました。
とはいえ「ミニマリスト」になることを薦めたいわけではありません。私自身、「ミニマリスト」というとすごくストイックそうで抵抗感をもっていました。SNS上でよく見かける「ミニマリストの暮らし」が、白と黒のものしかないような画一的なイメージで、その人らしさが見えないからかもしれません。
ただ、映画の中の彼らの暮らしはそのイメージとは少し異なります。ジョシュアの家には、パートナーが料理好きなことから料理に関わるモノがたくさんありますし*3、「ミニマリスト的生活のために自分を変えたくない」とライアンも言います。買い物や所有を全否定するわけではなく、本当に自分に価値のあるモノを研ぎ澄ますプロセスなのです。
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一方で、くだんの「ときめかないモノは捨てる」ムーブメントとも彼らの視点は異なります。決して単に「家を片付けよう!」という話ではありません。「消費にとらわれなければ、稼ぎを増やそうというプレッシャーも減り、安らぎを得られる」ことであったり、「モノを手放すプロセスでコミュニティとつながることができる」ことなど、人生の価値観の転換を伝えているからです。むしろ、こうした根本的な変化がなければ、いくらモノを処分しても、しばらくしたらまた新しいモノでクローゼットが溢れるだろうとジョシュアは話しています。
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こうした「買い物を手放すことで生まれる人生の喜び」について映画を観てもっと考えたいと思った方にオススメなのが『ギフトエコノミー 買わない暮らしのつくり方』(青土社)です。映画と同じくモノに縛られないあり方の意義を丁寧にひも解くとともに、「リユース」や「シェア(貸す・借りる)」、「自分でつくる」といった「買う代わりにできること」の可能性について、かなり具体的な例も交えながら紹介しています。
そして、「とはいえ、本当に価値のあるものってどうやって見極めればいいんだろう?」と思い悩む方がいらっしゃれば、『ふやすミニマリスト 1日1つだけモノを増やす生活を100日間してわかった100のこと』(かんき出版)を手にとってみてください。
書名のとおり、空っぽの部屋からスタートして、1日1つずつ自分の所持品から選んで「所有」するものを増やしていった著者の記録です。どんな気持ちやどんな思いでそのモノを選んだのかや、当たり前に所有していたものを「自分で再び選びとる」ことで気づく、そのモノの価値やありがたみについてつづられています。
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「靴がないと世界が家だけになる」「冷蔵庫はタイムマシンだった」「おたまがあればスープと会話できる」などユニークで愛溢れる著者の言葉から、モノの価値を考える視点をたくさん得られるはずです。
買い物をするときは、地球環境に配慮したものや、生産プロセスに携わる人たちが搾取されていないものをなるべく選ぼうという視点をお持ちの方は、きっとみなさんの中にも多くいらっしゃるのではないかと思います。(生産プロセスにおける問題について知りたい・考えたい方は映画『ザ・トゥルー・コスト』『グリーン・ライ』『ゴースト・フリート』などがオススメです)。
ただ、どんなに地球や人に優しいモノであっても、すぐに廃棄して新しいモノに替えたり、使いきれないほどの量を所有するのならば、そのモノにかけられた資源や労力、想いの“無駄遣い”です。ご自身の手元にあるモノを丁寧に見つめ直し、本当に新たな買い物が必要かどうかという視点もぜひ、心に留めてみてはいかがでしょう。
*1 『ギフトエコノミー 買わない暮らしのつくり方』p.28 Jeanne E. Arnold, Life at Home in the Twenty-First Century: 32 Families Open Their Doors , (Los Angeles: Cotsen Institute of Archaeology Press, 2017)
*2 映画『今求められるミニマリズム』本編中より
*3 ジョシュアのパートナーのブログページより https://minimalwellness.com/kitchen/

アーヤ 藍(あーや あい)
1990年生。慶応義塾大学総合政策学部卒業。
在学中、農業、討論型世論調査、アラブイスラーム圏の地域研究など、計5つのゼミに所属しながら学ぶ。在学中に訪れたシリアが帰国直後に内戦状態になったことをきっかけに、社会問題をテーマにした映画の配給宣伝を手がけるユナイテッドピープル会社に入社。約3年間、環境問題や人権問題など、社会的イシューをテーマとした映画の配給・宣伝に携わる。同社取締役副社長も務める。2018年より独立し、社会問題に関わる映画イベントの企画運営や記事執筆等で活動中。2020年より大丸有SDGs映画祭アンバサダーも務める。