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独立行政法人国際協力機構(JICA)が、同機構にとって“古くて新しい”サステナビリティに本格的に取り組み始めている。この1年間で、サステナビリティ委員会や推進室などを設置してガバナンス体制を整え、10月末には「JICAサステナビリティ方針」を公表した。同方針では、「気候変動対策として、全新規事業をパリ協定に整合する」と明示。これは、今年6月に改定が閣議決定された「開発協力大綱」を反映したもので、11月30日から開催されるCOP28に向けて、パリ協定に貢献するとした日本政府のコミットメントを後押しする狙いがある。(松島香織)
日本の政府開発援助(ODA)を担う実施機関として、開発途上国への国際協力を行うJICA。SDGsに沿った開発途上国支援などに積極的に取り組み、サステナビリティレポートを2021年から発行していたが、組織としてサステナビリティ推進に取り組み始めたのは昨年からだ。
JICA初となる「JICAサステナビリティ方針」の公表には、2つの大きな背景があると、サステナビリティ推進担当特命審議役 企画部 サステナビリティ推進室長の見宮美早氏は話す。「ひとつは世界的な『情報開示』という潮流があること。2つ目にはJICA自身が自らの組織運営を見直し持続可能な世界を目指す組織として、CO2排出量の削減や多様性に取り組まなければならないこと」だ。
もともと持続可能な開発はJICAのミッションでもある。見宮氏は「開発と環境はトレードオフというところがあるが、相乗効果をわれわれなりに高められるのではないかと考えている。環境に対するネガティブな影響を抑え、事業の付加価値を高めるためにサステナビリティの潮流をしっかり掴み、場合によってはリードしていきたい」と話す。また、こうしたJICAの方針や視点を事業に反映し、開発途上国に伝えていくことも重要であり、「そのためには自らが健全であることが必要だと、改めて取り組んでいるところ」だという。
同方針は、A4用紙1枚に収まるシンプルな内容であり、サステナビリティ委員会の委員長を務める田中明彦理事長の強い思いが込められたという。見宮氏は「サステナビリティ委員会では活発な議論がされ、推進力が大きいと感じる」と話し、続けて「方針がシンプルなのは、例えるなら“木の幹”と考えているから。そこから枝や葉を伸ばしていくようなイメージ。こうした方針を出したことがなかったので、まず『方針を出す』ということにトップの強い意志があった」と明かした。
一方で、開発支援は環境との整合性が難しい。パリ協定の1.5度を目指すことは決まっているが、その目標に向けたトランジション(移行)の過程をどうするのかは、相手国が決めることだ。「日本のODA支援としてどういう形で参画するのがいいかは、非常に難しい。一事業という枠を超えてその国のトランジションを考えたうえで事業を進めなくてはならない。これはJICAにとっても相手国にとっても挑戦になる」と見宮氏は話す。
その国や地域にとっての“最適”を考える
気候変動による「損失と損害(ロス&ダメージ)」に対する新基金設立については、前回のCOP27で決定され、COP28では基金の組織的アレンジメントや資金源などが議論される見込みだ。だが、国連環境計画(UNEP)によると、現在の開発途上国への気候変動対策に必要な公的支援資金には、10~18倍のギャップがあるという。
さらに、「資金があればうまくいくかというと、そうではない」と地球環境部 気候変動対策室 副室長の三戸森宏治氏は懸念を示す。「例えば、海面上昇が危機的な海洋国の政府規模は小さく、競争的な資金へアクセスできる人材がいない。基金ができただけでは不平等は生じてしまう」という。
三戸森氏は「その国や地域にとっての“最適”を考えること、そして何より現地での人材育成が重要になる。きちんと資金が活用され取り組みが定着するよう、こうした機運も必要になる」とCOP28の議論に期待を寄せている。
松島 香織 (まつしま・かおり)
サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。
アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。