![]() Image credit:jonathan borba
|
ファッション業界における気候変動対策を推進する国連の気候行動憲章はこのほど、2本のレポートを新たに一般公開した。ファッション関連企業が素材の調達を見直し、CO2排出を削減するための手がかりとなる情報を提供する。2021年に発表された綿とポリエステルについてのレポートに続き、今回は人工セルロース繊維と動物繊維に関する情報がまとめられた。業界の気候変動要因の根幹に迫ろうとするもので、脱炭素化への道筋を示すことが期待される。(翻訳・編集=茂木澄花)
今回のレポートは、2018年に「国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)」によって発足された「ファッション業界気候行動憲章」の依頼で作成された。業界が原材料の採取・製造・加工で排出する温室効果ガスを削減する道筋を示すためだ。原材料の採取・製造・加工は、ファッション業界のバリューチェーンの中でも特にCO2を多く排出する工程だと言える。今回のレポートは、100を超える憲章の署名企業・団体が2050年までにネットゼロを達成するという約束を果たすのに役立つだろう。
2本のレポートをまとめたのは、第三者認証企業のSCS Global Services(本社:米国カリフォルニア)。環境とサステナビリティに関する認証、監査、ライフサイクルアセスメント(LCA)の世界的大手だ。
今回のレポートは、同憲章が2021年に公表したレポート「綿およびポリエステル繊維の低炭素調達を探る」の延長線上にある。生地メーカーやアパレルメーカーに対し、素材調達におけるカーボンフットプリントを削減するための道筋を示すものだ。前回同様、あらゆるところで使われる2つの素材分類が調査対象となった。1つ目は人工セルロース繊維(レーヨンやビスコースなど。通称MMCF)、2つ目は動物由来の繊維(ここでは、羊毛、その他の毛、アルパカ繊維、絹繊維)だ。
これらのレポートの作成を主導したのは、同憲章の原材料ワーキンググループのリーダーを務める米国のNGO、テキスタイルエクスチェンジだ。また、憲章の署名企業・団体から多くの情報提供を受けている。情報提供元の企業・団体は、キャノピー(Canopy)、ファブリコロジー(Fabrikology)、レンチング(Lenzing)、ニューエンザイム(NewEnzymes)、プライマーク(Primark)、リフォーメーション(Reformation)、サテリ(Sateri)、シュナイダーグループ(The Schneider Group)、VFコーポレーション(VF Corporation)など。
「今回のレポートは、ファッション・アパレル業界におけるインパクトのデータを理解し、現状を改善したいと考えるすべての企業や団体にとって重要な情報源です」。
こう話すのは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)でセクター・エンゲージメント責任者を務めるリンディタ・ザフェリ・サリフ氏だ。「この重要なレポートの作成にあたり、ファッション業界気候行動憲章の署名企業・団体から情報提供とご支援を頂いたことに感謝いたします」
レポート「人工セルロース繊維(MMCF)の低炭素調達を探る」
MMCFは、綿の次に多く使われているセルロース系繊維だ。衣料品から車のシートカバー、ウェットティッシュまで、さまざまなものに使われる。責任ある形でMMCFを製造することは生態系の再生につながり、重要なCO2の吸収源を育て、コミュニティを強靭で豊かなものにする。循環型ファッションの実現に大きく貢献し得る素材だ。
MMCFに関するレポートは、14件のLCA調査を基に考察したものだ。「MMCFの製造に伴う温室効果ガス排出量は、原料の種類と産地に大きく影響される」と結論づけている。またレポート内では、現時点で特にCO2排出量が少ないMMCFの素材がまとめられている。温室効果ガス排出量が少ない素材は、順に、「リヨセル」「ビスコース」「モダール」(ただし、いずれもCO2排出量の少ない木材パルプまたは適切に生産された再生パルプを原料とするもの)だ。
レポート「羊毛、その他の毛、アルパカ繊維、絹繊維の低炭素調達を探る」
動物繊維に関するレポートでは、各繊維の調達について、気候へのインパクトが特に大きい要因が示された。羊毛やその他の毛については、家畜の腸内発酵で発生するメタンだという。絹の生産では、蚕に食べさせる葉の生産だ。再生ウールに関しては、原料調達元、輸送要件、粉砕・繊維生産に必要なエネルギーと資材などの要因によって、影響のレベルに大きな違いが出た。
今回の動物繊維に関するレポートで、皮革については検討されていない。だが、ファッション業界はすでに皮革によるインパクトを軽減するために取り組んでいる。特に皮革生産が世界中で引き起こしている急激な森林破壊については、具体的な取り組みが進んでおり、今年6月には、テキスタイルエクスチェンジとレザーワーキンググループによってイニシアティブが設立された。16社の世界的ブランドや高級ブランドが連携し、ファッション業界と小売企業に対して、2030年までにすべての牛革のサプライチェーンから森林破壊をなくすことを求めたのだ。
「今回、ファッション業界気候行動憲章とテキスタイルエクスチェンジによって、重要な成果がもたらされました。ファッション業界のサプライチェーンを脱炭素化するという目標達成に必要な、透明性のある明確な情報です」。
SCSの環境クレーム部門のテクニカル・ディレクターで、プロジェクトを主導したキース・キルパック氏はこう語る。「レポートでは、現在の繊維調達の主な問題点を取り上げたうえで、生地のLCAを続けることを推奨しています。そして、現状データの不足があり、今後も継続して調査に取り組むべき内容も明らかになりました」
今回の2本のレポートで、ファッション業界の脱炭素化に向けた重要な情報が示された。MMCFについては原料の種類と産地の選定、動物繊維については各素材の主な環境インパクトへのアプローチが特に有効だ。各企業が自社のインパクトを減らす取り組みを行うとともに、引き続き業界が連携してサプライチェーン全体のインパクトを明らかにしていくことも求められている。