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  • 公開日:2022.12.08
  • 最終更新日: 2025.03.02
IUU(違法・無報告・無規制)漁業由来の水産物の流通防止へ新法施行 対象魚種少なく抜け穴のリスクも

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

気候危機の問題を国際間で討議したCOP27に続いて、生物多様性の新たな枠組みを決めるCOP15がカナダ・モントリオールで始まり、2030年までに気候危機と生物多様性の危機を同時に解決する道筋をつけようという機運が高まっている。そんななか今月1日、日本の水産物の持続可能性を加速する契機となる法律が施行された。世界有数の水産物輸入大国である日本の水産物市場に、国内外で違法に獲られた魚が流通することを防ぐ「水産流通適正化法」だ。新法は対象水産物の取り扱い業者に対し、取引情報の伝達や記録の作成、輸出入に際して、法に適った方法によって獲られた水産物であることを証明する書類の添付などを義務づけるが、対象となるのは国内水産物が3種、輸入規制対象は4種のみと少なく、関係者からは「抜け穴が多い」ことも指摘されている。(廣末智子)

新法の正式名は「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」。いわゆるIUU漁業と呼ばれ、国内外の規則を遵守せずに行われる違法な漁業に由来する水産物の流通を防止するため、国内水産物ではアワビとナマコ、全長13センチメートル以下のウナギの稚魚を対象に(ウナギの稚魚については2025年から施行)、採捕、販売、加工または輸出等を行う事業者に対し、農林水産大臣または都道府県知事への届出等を義務付ける。
一方、輸入水産物について、サバとサンマ、マイワシ、イカの4つを対象に、「適法で採捕されたことを示す外国の政府機関等発行の証明書等がなければ輸入してはならない」とする規制をかけた。

IUU漁業とはIllegal(違法)・Unreported(無報告)・Unregulated(無規制)の頭文字をとったもので、これを防止、抑止、排除するための国際行動計画によると、違法は「国家や漁業管理機関の許可なく、または国内法や国際法に違反して操業している」、無報告は「法令や規則に反して、操業時の活動や漁獲量などを報告しない、あるいは虚偽の報告をしたり、誤った報告をする」、無規制は「無国籍またはその海域の漁業管理機関に加盟していない船舶が、規制または海洋資源保全の国際法に従わずに操業している」と定義される。

このように決められた漁場や漁具、漁期を守らず、決められた量以上に漁獲したり、絶滅危惧種までも混獲してしまうIUU漁業が由来の水産物は世界中で安価に販売され、正規の漁業者の利益を大きく損なう原因になっている。

この問題について日本政府の検討会(漁獲証明制度検討会)に参加し、海洋環境保全の観点から新たな制度づくりの議論を牽引してきたWWF(世界自然保護基金)ジャパンによると、日本では2015年に輸入した天然水産物215万トンのうち24〜36%、金額にして1800〜2700億円が違法、または無報告漁業によるものと推定される。また、世界的なIUU漁業による被害額は推定で1兆1000億円〜2兆5845億円に上り、米国の研究ではIUU漁業を排除できれば漁業者の収益は20%上昇すると算定されているという。

IUU漁業は海の生態系のバランスを崩す大きな要因にもなっている。
国連食糧農業機関(FAO)の調査によると、世界の海の水産資源量は1974年には90%が持続可能な状態にあったのが2017年には65.8%にまで減少。その内訳も59.2%が持続可能な量ぎりぎりまで漁獲している状態で、「漁獲量の余裕があるのは6.2%にしか過ぎない」という結果が出るなど、IUU漁業が水産資源の枯渇に追い打ちをかけている。さらにIUU漁業を巡っては、労働者の人権侵害などの犯罪行為が多発していることなども問題視されている。

WWFによると、家畜の餌としての利用なども含めた世界人口1人当たりの水産物の消費量は同じく近年の50年間で約5倍に増えており、この需要を満たす手段として行われている乱獲やIUU漁業が、34.2%の魚類に影響を及ぼしている。また、日本市場にIUU漁業由来の水産物が流入しているリスクは、中〜高程度とされ、中でもウナギ類、ヒラメ・カレイ類、サケ・マス類はIUUによる漁獲によってもたらされたリスクが高いことが判明している。

また、これとは別に、マイワシやイカ、サバ類、サンマは、北太平洋漁業委員会(NPFC)によって、「IUU漁船リスト」の対象魚種に採択されており、イカ、サンマについては日本の漁船による漁獲量は低迷する一方、日本海で操業している他国からの輸入量は増加傾向にある。

こうしたなか、金額ベースで世界最大の水産物輸入市場であるEUや、第2位の米国ではすでに同様の法律が施行されており、EUでは全魚種対象、米国でも全魚種対象に拡大するべく議会で議論が進んでいる。日本でも法制化がなされたのは大きな進展だが、関係団体らは対象種が国内3種、輸入水産物4種に限られていることを懸念。WWFジャパンは、「このままでは世界のIUU水産物が日本に流れ込み、世界全体で進めていくべき規制の抜け穴となりかねない」と危惧する。

一方、水産庁の関係者は10月に水産業にまつわるさまざまなステークホルダーが参画して開かれたフォーラムで、新法について、「漁業者、流通業者、輸出入業者等に各種規制をかける、我が国における新たな制度であり、『旗国政府』を含め、多種多様な関係者の協力と理解が不可欠。周知が極めて重要だ」とする認識を述べ、IUU漁業撲滅に向けて2年ごとに制度の検証を行うことを改めて明言した。

WWFジャパンではIUU漁業の日本における問題について、沖縄から発信する時事ネタ動画が人気の芸人「せやろがいおじさん」の協力で動画を制作・公開するなど、認知度を高め、理解を促進するための活動を推進。また2年後に予定される対象魚種の見直しのタイミングで規制の対象を全魚種とするよう求める署名活動を展開するなど、法改正に向けた取り組みを強化している。

written by

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。

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