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  • 公開日:2022.10.13
  • 最終更新日: 2025.03.02
私たちが「自分は美しくない」と思わせる固定概念を無くそうーー資生堂の SEE,SAY, DO. プロジェクトが投げかける意味合い

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

性別や年齢、国籍や障がいの有無などによって、人が人をこうだと思い込み、知らず知らずに傷つけてしまう、「Unconscious Bias、アンコンシャス・バイアス=無意識の思い込みや偏見」が、社会の多様性を阻む大きな要因と指摘されている。そのなかでも、中心に「美」の概念を置き、「自分らしい美しさを制限する無意識の思い込みや偏見」と定義した「Unconscious Beauty Bias(以下UBB)」をなくすことで、全ての人が個々の美しさに共鳴し合える世界の実現を目指そうと、資生堂が動き始めた。同社が世界88カ国で展開するブランド「SHISEIDO」が先月からグローバルにスタートさせた、その名も「知り(SEE)、議論し(SAY)、アクションを起こす(DO)」プロジェクトの意味合いを紹介する。(廣末智子)

SEE UBB!世界10カ国の定性調査の結果をもとに、知り、気づくことから

まず、UBBとはSHISEIDOの造語である。造語ではあるものの、同ブランドによると、それは「私たちの身近なところに存在」し、かつ、「その言動が誰かの自分らしさの実現を阻害している偏見である、ということが認識されていない」、全世界共通の普遍的な偏見を指す。

そのような認識に立った上で同ブランドは昨年11月に世界10カ国(オーストラリア、ブラジル、中国、フランス、ドイツ、イタリア、日本、タイ、アラブ首長国連邦、米国)でオンライン定性調査を行い、5000個の体験談を収集した。これがプロジェクトの始まりだ。

特設サイトを開けば、その結果は目に飛び込んでくる。プロジェクトの最初の一歩となる、SEE(知る、UBBについて理解を深める)のフェーズだ。サイトは見る人に質問を投げかける形で、身近に潜むUBBを、あれも、これもそうだったのか‥と気づかせていく。

質問は全部で182あり、その一つ一つをクリックすると、その中に潜む#外見バイアスや#人種バイアス、#ジェンダーバイアスや#健康バイアス、#年齢バイアスといったさまざまなバイアスが、体験談とともに紹介される。例えば、以下のような具合にだ。

「もう私を見ないで」。他人の視線を暴力のように感じたことがありますか?

# 健康バイアス
 私は障がい者なので、軽蔑されたり、他の人とは違った扱いを受けたりします。結婚式に参列した際、手を貸してもらって階段を上がっていると、じっと見られていました。私を見つめている様子から、その人たちが何を考えているのかが分かりました(男性/60歳/オーストラリア)

アピールできるスキルや経歴があるのに、履歴書さえ手にとってもらえない。そんな採用面接を受けたことがありますか?

#外見バイアス
八百屋の店員やバーテンダーの仕事を探していたときの出来事です。私とは異なる外見の人を探しているとはっきり言われ、履歴書に目を通すことも、過去の経験を聞かれることもなく、面接が終了しました。太っているため、必要とされる身体的基準を満たしておらず、新しい仕事に応募しても断られることはよくありました。(女性/25歳/イタリア)

正直に話すと拒絶され、嘘をつくと受け入れられる。あなたなら、真実を隠して生きられますか?

#ジェンダーバイアス
私が同性愛者だと家族に伝えたとき、両親は怒りました。母は泣き、父はその後何年も口を聞いてくれませんでした。兄妹とは連絡を取り合っていましたが、今は私と距離を置いています。職場では、同僚に拒絶されるのが怖くて話していません。プライベートについて質問されたら、そのことには触れないという形で嘘を着くか、意図的に嘘をつきます。(トランス女性/22歳/フランス)

同僚が言えば「意見」なのに、私が言うと「文句」と取られる。そんな「どうして?」の毎日を過ごしたことありますか?

#人種バイアス
勤務中のことです。私は別の部署に異動になり、作業を行うことになっていたのですが、きちんと仕事をするのに必要な設備が揃っていなかったので、上司に伝えると、いろんなことに文句をつけるのは、有色人種の特徴だと言われました。(男性/49歳/ブラジル)

・シングルマザーとその子どもは、誰もが「かわいそう」で「苦労している」のでしょうか?

#家族バイアス
3人の子を育てるシングルマザーです。子どもたちの父親はそれぞれ違います。夫がいないことで、いつも批判の目を向けられます。家族や友達からもそうですし、知らない人からもです。シングルマザーは子どもに割く時間がないという固定観念にも迷惑しています。(女性/37歳/米国)

SEEの次は、SAY、DO!議論し、アクションを起こすフェーズへ

次にフェーズは、SAY(UBBを議論しよう)へと続く。ここでは、「SEE」で気づいたこと、学んだこと、自らの体験や思いを共有し、議論する基盤を築く。具体的には資生堂社員がUBBへの向き合い方を語った動画を公開しているほか、「世の中の声を聞くためのツール」として、Instagram上で自分の経験やUBBについて感じることを発信するためのフィルターを配布中だ。

そして最後、3つ目が、DO(アクションを起こそう)のフェーズ。同ブランドによると、「SEE」と「SAY」で明らかになった「私たちを取り巻くUBB」をより多くの人と共有し、共に挑戦していくための具体的なアクションを順次展開する予定で、第一弾として、企業や団体を対象にしたUBBを考える「SEE,SAY,DO.プログラム」を提供している。プログラムでは、グループや全体でのディスカッションなどを通じてUBBに気付き、それに対してどう配慮できるかを考えるのがポイントだ。

プロジェクトに際して、世界10カ国の調査を監修したリサ・ジェンキンス博士は、「これまで世界中の人々を悩ませてきたUBBに対して、資生堂のプロジェクトが一歩を踏み出したことを嬉しく思う。私たちは、『自分は美しくない』と思わせてしまうような固定概念や文化を変えていかねばならない。資生堂のミッションである〝BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでより良い世界を)〟が示すように、美の定義を進化させ、UBBに立ち向かうことで、人々が差別やいじめ、嫌がらせ、暴力から解放され、本来の美しい人生を送ることができる世界になると信じている」とコメント。

同社の広報担当者は、「UBBによる決めつけは周囲からだけでなく、店員や広告といった企業活動によっても助長される懸念がある。さらにUBBを意識できていないと、知らず知らずに、心地よく働ける環境を阻害してしまうことにもつながる。多くの人にとって働きやすい職場環境づくりの一助として、プログラムが活用されることを期待したい」と話している。

同社は2020年10月、同社版のSDGsとしても位置付けられる、サステナブルな活動や製品開発を通して社会価値を創造するプロジェクト「Sustainable Beauty Actions(サステナブル・ビューティー・アクションズ、SBAS)」を始動。日本ならではの精神でリサイクルやリユースに取り組む「MOTTAINAI」と、人や社会、自然との調和に基づいた活動を行う「HARMONY(調和)」、そしてダイバーシティ、インクルージョンを目指す「EMPATHY(共鳴)」を3つの柱に掲げている。

written by

廣末 智子(ひろすえ ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。

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