• 細田 悦弘
  • コラム
  • 公開日:2021.10.28
  • 最終更新日: 2025.03.02
第29回 空港グランドスタッフに学ぶ!サービスブランディング

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

NHK「プロフェッショナル」で、接客技術NO.1に輝いた空港グランドスタッフが登場しました。すてきな空の旅・・・。想起するのはやはり機体やパイロット・CA(客室乗務員)ですが、エアラインのブランディングはすべてのタッチポイントで実現するものです。

接客サービスのプロ

NHK総合のドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」で、接客技術NO.1に輝いた空港グランドスタッフの女性が登場しました。主人公は、「空港カスタマーサービス・スキルコンテスト」でグランプリを受賞した接客サービスに定評のある羽田空港で勤務するスタッフです。番組では、羽田空港内を走り回り、熱意と信念で旅客対応に当たっている様子などが紹介されました。コロナ禍で未曽有の危機においても、ささいなことにまで心を配り、お客様を飛行機へ安全・定刻通りに搭乗させるプロです。日々磨き上げている『おもてなしの心』に、エアラインのブランディングの担い手としての真骨頂があります。

エアラインは、サービス産業

エアラインという商品は究極的には、ある地点からある地点まで「移動時間」を売っているビジネスであり、サービス産業といえます。「サービス」の基本的な特徴として、次の4点を確認してみましょう。(近藤隆雄著『サービス・マネジメント入門』より)

① 無形性
サービスの核となる定義は「効用をもたらす活動そのもの」というのが、世界のサービス研究の定説となっています。活動は、物理的な「形」をとることができません。物質ではないので、流通させることも、作り置きをして在庫としておくこともできません。

② 生産と消費の同時性
活動対象が人である場合、サービスは生産と同時に消費されます。航空機を利用して目的地に移動中の乗客は、空間移動という内容のサービスを、エアラインの機体やスタッフから提供されています。会社からすればサービスの生産であり、乗客からすればサービスの消費となります。歯の治療や美容院・エステ等も同様です。

この生産と消費の同時性の特徴的なところは、時間と場所の重要性です。モノの場合は、在庫と流通によって制約は軽減されますが、サービスにおいては、顧客が生産されている場所に出向かわなければなりません。この点がエアラインにとって、「空港」という場が決定的なポイントとなります。

③ 顧客との共同生産~お客様がサービス活動に参加する
サービスは、生産者と顧客が共同して作り出します(コ・プロダクション)。サービスは、提供者にとっては活動、顧客にとっては体験であり、顧客もその生産活動の一役を引き受けます。飛行機に乗って移動するためには、空港に行って、チェックインして、所定のゲートから搭乗し、機内では客室乗務員の指示に従うといった具合です。この特徴は、医療サービス、理美容サービス、教育サービス等にも当てはまります。より能動的・協力的に参加すれば、一層恩恵が受けられるというわけです。

④ 結果と過程の両方が重要
サービスを購入する際には、なんらかの結果(望ましい状態)を求めます。鉄道やタクシー等での移動、歯の治療、教育機関での能力開発等です。こうした望んでいる成果はサービス活動の結果として生まれますが、働きかけの対象となる顧客は、結果が出るまでのプロセスも否応なく体験することになります。そこで、その活動過程ができるだけ快適であるに越したことはありません。顧客にとっては、結果と過程の両方を体験し、その両方が大事なのです。テーマパーク、映画館、レストランなどでは、むしろ結果よりもそのサービスの過程の方が大切となります。行った、観た、食べたという結果もさることながら、そこで楽しく豊かな経験をしたことが価値を生みます。空港グランドスタッフは、エアラインの価値提供プロセスにおいて大きな役割を担っています。

一瞬に、心を込めて

本番組のタイトルは、「一瞬に、心を込めて〜空港グランドスタッフ」でした。「移動時間」という無形の商品を提供するエアラインとして、サービス産業としてのブランディングが競争優位の源泉となります。ブランドは、マス広告だけでなく、あらゆる顧客接点(タッチポイント)で出来上がります。その接点を担うのは、すべての従業員です。サービスのクオリティは、顧客と接する現場スタッフに大きく依存します。

スカンジナビア航空の社長として、サービス改革を実現したヤン・カールソンは、著書の中で、顧客と直接接する従業員の最初の秒の接客態度こそが航空会社の印象を決めると指摘しました。まさに、書名はズバリ『真実の瞬間(MOT / Moment of Truth)』です。「真実の瞬間」とは、もともと、闘牛士と闘牛のどちらが勝つか負けるかが決まる、両者が向き合う瞬間のことを指すと言われます。まさに「真実の瞬間」とは、顧客の脳裏にそのブランドの印象を刻みつける、ブランドと顧客の関係の成否を分かつ接点を意味します。サービスブランドにとって、最も重要な「真実の瞬間」は、最前線の従業員による一瞬の接客シーンといえましょう。

ブランディングとは、企業が「自社らしさ」への顧客の期待に応え続けることにより、信頼と愛着をもたらす揺るぎない関係(絆)づくりです。この顧客からの期待に応え続けるという「約束」を守り、すべてのタッチポイントで体現するのが従業員です。そのためには、「インターナルブランディング(社内へのブランド意識醸成のための働きかけ)」が必須です。

サービス業におけるインターナルブランディングとは、自社がどのような理念やビジョンを持ち、どのような価値あるサービスをお客さまに提供しようとしているのか、それらを明確にし、従業員に理解・共感してもらうことです。「自社らしさ」の共有のもと、誇りと自覚の醸成を図ります。

そのゴールイメージは、従業員一人ひとりが、自社のブランドのあるべき姿、日々変化するステークホルダーの要請や期待をしっかりと認識し、『一人ひとりが自社ブランド』として、ブランドを体現していくという意識を持って業務に携わることです。

これにより、従業員に仕事に対する誇りが育まれ、その誇りがサービス品質の向上につながります。インターナルブランディングは、サービス業の成長エンジンとなります。

快適な空の旅は、地上から始まる

番組主人公の空港グランドスタッフは、こうつぶやきました。

「何事もなく、気持ちよく乗っていただけることが本当に重要」
「何もないから、すばらしい」
「おもてなしもなければいけない」

……快適な空の旅は、離陸する前から始まっています。

written by

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師 一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。 Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。 ◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史 ◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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